景観生態学
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27 巻, 1-2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
特集「生態系の回復と地域づくり」
  • 飯田 義彦
    原稿種別: 巻頭言
    2022 年 27 巻 1-2 号 p. 1-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/21
    ジャーナル フリー
  • 河合 仁美, 森本 淳子, 中根 貴雄, 河村 和洋, 酒井 裕司, 中村 太士
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 27 巻 1-2 号 p. 3-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/21
    ジャーナル フリー

    石炭を採掘する鉱山“炭鉱”の歴史は古く,世界各地で産業を支えてきた.炭鉱跡地に存在するずり山は,石炭又は亜炭に係る捨石が集積されてできた山であり,斜面の安定性に欠け,容易に崩壊する.したがって,炭鉱跡地の管理,安全性の向上のためには,ずり山斜面の安定化はきわめて重要な課題である.植生回復は土壌の表面侵食を防ぐという点から,斜面の安定化に対して一定の効果があると考えられる.本研究の目的は,ずり山における植生回復に影響を及ぼす要因の相対的な影響度を明らかにし,植生回復とその管理のための指針を得ることにある.対象地は北海道空知振興局内のずり山15か所とした.ずり山の植生回復に影響する要因を検討するため,ずり山全体の植被率と平均樹高に対する各要因(周辺森林率,TWI(topographic wetness index),斜度,地形改変割合,植林の有無,閉山してからの経過年数)の影響を調べた.本解析の結果,ずり山の植生回復(植被率,平均樹高)は,閉山からの経過年数と斜度に規定されることが明らかになった.閉山からの年数の経過に伴い,やがて木本中心の植生へ遷移可能であると示唆された.また,平均斜度が大きいずり山では植被率と平均樹高が低く,特に斜度25°以上では植被率への平均斜度の負の影響が顕著であった.平均斜度の増大に伴い表面侵食が増大し,種子の消失,植物の定着阻害が生じていると考えられる.平均斜度25°以下のずり山では,42年で75%の植被率まで回復するため,遷移に任せた回復が見込める一方,25°以上のずり山では緑化基礎工や緑化資材導入等を用いた植生回復が必要なことが示唆された.本研究を通して得られた基準は,炭鉱地での地域づくりに向けて重要な指針となることが期待される.

  • 小川 大介, 髙木 康平, 日笠 佑甫, 日置 佳之
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 27 巻 1-2 号 p. 15-35
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/21
    ジャーナル フリー

    西南日本には人為の影響で成立・維持されてきたと見られる小規模な湿原が各地に散在し,生物多様性のホットスポットとなっている.しかし,その多くは里山利用の停止に伴う遷移の進行で劣化や消滅の危機に瀕している.筆者らは,岡山県北部の中国山地に位置する津黒高原湿原を事例研究地として小規模湿原の再生を試行し,①施工前後で環境と植生のデータを比較し,再生事業の効果を検証すること,②調査,評価,目標設定,計画設計,施工,モニタリングという一連の流れを手順化し,一定の一般化を図ること,③小規模湿原の再生に関連した生態系サービスの享受を地域づくりに結び付けることを企図し,その評価を行うこと,の3つを目的とした.まず,2013年に,測量,植生調査,水質・水文調査,日射量調査を行い,現存植生図,地下水位図,日射量分布図などを作成した.その結果,①湿原の一部での地下水位の低下,②湿原とその近接地での高木林による日射阻害,③水質などの富栄養化による高茎草本の繁茂,が明らかとなり,これらが湿原劣化の主要因と考えられた.そこで,流水のかけ流しによる地下水位の上昇,高木伐採による光環境の改善,富栄養化した表土の除去による低茎・中茎の湿生草本群落の成立促進,および環境の多様化を図るための止水域の造成,を主な内容とする湿原再生計画を立案した.この計画は2014年に実施に移された.再生事業で伐採された樹木は近隣の温泉施設で加温用熱源として利用され,また,自然再生士研修会を兼ねた作業により事業が推進された.2015年には,2013年と同内容の調査を行い,施工前後のデータが比較された.その結果,光環境の劇的な改善と,地下水位と水質の一定の改善が認められた.また,湿生草本植物の種数が増加し,目標とするヨシ群落クサレダマ下位単位などが拡大した.一連の事業実践にもとづいて,小規模湿原の再生手順を記述した.また,湿原再生の過程で生じた森林バイオマスの有効利用と,都市部からの参加者を巻き込んだ湿原の再生作業を通じた地域づくりへの貢献について評価した.

  • 本部 星, 瑞山 飛鳥, 末次 優花, 高木 康平, 日置 佳之
    原稿種別: 調査研究報告
    2022 年 27 巻 1-2 号 p. 37-43
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/21
    ジャーナル フリー

    鳥取県立大山オオタカの森では,猛禽類の営巣環境と林業の長期的な両立のために,小面積皆伐によるアカマツ林の天然下種更新が2014年から試行されている.本報告では,更新施業地においてアカマツ実生・幼木の毎木調査と植生調査を行い,天然下種更新の初期段階における評価を行った.その結果,施業地では,天然下種更新に十分な数の実生が発芽していた.また,5年間の下刈りで下草が抑制され,アカマツの幼木が十分な密度で生育していた.

  • 渋江 桂子, 竹内 大悟, 平塚 基志
    原稿種別: 技術情報
    2022 年 27 巻 1-2 号 p. 45-50
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/21
    ジャーナル フリー

    谷戸湿地におけるヘイケボタルの明滅飛翔を高感度デジタルカメラで記録して発光位置までの距離をその最大発光強度から算出し,明滅飛翔行動における飛翔軌跡を3次元座標として解析した.ヘイケボタルが明滅飛翔時に利用する2つの異なる微生息環境について,湿地の上部を水辺植生の樹冠が覆う空間と,樹冠が湿地上部にかからない空間とで比較した結果,ヘイケボタルは谷戸湿地の水辺植生が形成する微生息環境に応じて飛翔行動を変えており飛翔高度や飛翔範囲に相違が見られた.ヘイケボタル飛翔行動の3次元解析により微生息環境の相違を把握する本手法は,里山水系に残されている多様な微生息環境を評価することに繋がることが検証された.微生息環境とヘイケボタル生態との関連性把握がホタル保全活動の新たな評価指標となり,ホタル明滅の華やかさに捉われない保全活動や環境教育への有効なフィードバックとなり生物多様性を保全した地域づくりに繋がることが期待される.

  • 中山 晶子, 中田 妙子, 柴田 鹿吉, 服部 充
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 27 巻 1-2 号 p. 51-55
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/21
    ジャーナル フリー
原著論文
  • 田中 捺貴, 阿部 伶奈, 土本 俊和, 井田 秀行
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 27 巻 1-2 号 p. 57-64
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/05/02
    ジャーナル フリー

    昭和前期以前に建てられた木造民家をめぐる自然資源利用の技術や知識の理解と応用は持続可能な社会・生態システムの発展を支える上で重要である.本研究では,広島県福山市郊外(松永町)で昭和前期(1939年)に建てられた木造民家1棟を対象に,使用木材の樹種組成を明らかにし,その利用形態について当時の社会的背景から考察した.全316部材(床下部材の大部分は除く)の総材積は70.4 m3であり,このうち239部材について顕微鏡による木材組織の観察をもとに樹種を判定した結果,マツ属(二葉松類;アカマツないしクロマツ)とスギが確認された.マツ属は横架材(梁や桁等)および造作材(室内の仕上げ材や取り付け材)に,スギは縦架材(柱等)にそれぞれ多く用いられており,使用部位に応じた樹種の使い分けが認められた.当民家の建材の流通・入手経路は不明だが,建設当時の周辺の山林の植生は製塩用の木質燃料を供給する「塩木山」としての利用後に成立したアカマツ林が広がっていたことや,既にスギ植林が当地域でも普及していたことから,それらを由来とする木材が当民家に利用されたと推察される.構造的には,強度を保ちつつ屋根全体を軽量化した様式を採用することで木材の節約が図られていた.このことは当時,日中戦争勃発に伴う木材統制や輸送難の影響により一般民家用の建築資材の入手が困難であったことを反映している.一方で,そうした状況下にあっても必要最小限の意匠性を求めるなど,入手可能な木材を最大限に活かした工夫がなされていた.当民家は,築後80年に及ぶ耐用やそれによる炭素貯留期間を持つうえ,都市郊外の立地ながら近隣の自然資源を用いた可能性がうかがえたこと,また,様々な由来を持つ当時の木造建築技術を駆使して資源制約と強度確保を両立していたことから,省資源的な自然資材利用事例として重要な価値を有するものと言える.

  • 津田 美子, 西廣 美穂, 津田 智
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 27 巻 1-2 号 p. 65-75
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/01/21
    ジャーナル フリー

    関東地方に残存するハンノキ林の発達過程と動態を明らかにするため,神奈川県箱根町の仙石原において,1991年から2019年までの28年間におよび5回の毎木調査と林床植生調査を行った.1991年に幅5 m長さ50 mの永久帯状区を設置し,樹高2 m以上の全個体について位置と種名を記録し,胸高周囲長,樹高を測定し,樹冠投影図を作成した.また,この帯状区を始点から5 mずつの小区画に分け,高さ2 m未満の維管束植物について種名と被度階級を記録した.1994,1997,2000,2019年にも同様の調査を行い,個々のハンノキの生長,林分構造の変化,植生の変化について検討し,ハンノキ林の動態について考察した.ハンノキの個体数は次第に減少したが,生残個体が樹冠を拡大することによって28年間で林冠がほぼ閉鎖した.低木の侵入によって階層構造が発達したが,新たに高木層に達した種やハンノキの新規高木層参入個体はなかった.ハンノキの後継木が欠如していること,林床に他種の低木や稚樹が増加していることから,現存のハンノキが寿命に達して枯死し始めると,他の樹種に置き換わっていくことが予想された.

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