景観生態学
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原著論文
市町村域スケールにおけるメッシュ法による植物相調査法―調査メッシュの選定と調査手順―
松田 義徳板橋 朋洋蒔田 明史
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2023 年 28 巻 1-2 号 p. 97-106

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抄録

市町村域スケールでの植物相調査において,メッシュ法による効率的な調査手法を提示するため,①調査メッシュ数と確認種数の関係を明らかにし,②調査対象とする地形区分の数が確認種数に与える影響を検証し,その結果を基に,どのような考え方でどれくらいの数のメッシュ選択を行えばいいかを検討した.調査は秋田県由利本荘市域の基準地域メッシュ54カ所において,1メッシュ当たり春と秋の2季節計6時間の植物相調査を行った.その結果,54メッシュでの全確認種数1,030種の約1/3は1-5メッシュで確認された低頻度出現種で,約1/4は半数以上のメッシュで確認された普通種であった.また,調査メッシュ数–確認種数の関係から調査メッシュ率20%では全確認種数の平均73%,50%では89%が確認され,以降調査メッシュ率が10%増えても確認種数は2%しか増加せず,明らかな頭打ち傾向が認められた.一方,単一の地形区分でのみ確認された地形区分種は,すべて低頻度出現種で,頭打ちは見られなかった.確認種数が頭打ちになる理由は,調査メッシュ数の少ない調査初期段階で普通種が多数確認されるために急速に増加するが,その後,新規確認種は地形区分種など低頻度出現種が中心となるためであろうと考えられた.そのため,地域の植物相の概要を把握するためには,種数のみに注目するのでは不十分であり,特に低頻度出現種をどう確認するかが重要となる.選択する地形区分の数が確認種数に与える影響については,調査メッシュ数が多くなると,地形区分に限定を加えずに調査した場合の方が多いか,または,ほとんど差がなかった.また,地形区分に限定を加えた場合には,調査しなかった地形区分にのみ出現する種を把握できないこととなる.これらから考えて,できるだけ多くの地形区分を選定することが望ましいと判断した.以上のことから,市町村域スケールで植物相の概要を把握するには,始めに,普通種を中心にある程度の種数を把握するため,できるだけ多くの地形区分を含むようにメッシュを選定して,全域的な一次調査を実施する.次に,そのデータを解析し,新たな確認種を追加するために,確認種数や低頻度出現種の多い地形区分のメッシュを選定して,的を絞った二次調査を実施することが効率的であると考えられた.その際,湿原,岩角地等の特殊立地,希少種が出現する可能性のある地点では補足調査を行うことで,地域植物相の特徴をより正確に記録することが期待できるであろう.

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© 2023 日本景観生態学会
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