景観生態学
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神奈川県におけるミツバツツジ節植木の流通の実態と自生地における遺伝的多様性に配慮した緑化方針
森本 淳子勝野 武彦吉田 博宣
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2007 年 11 巻 2 号 p. 63-71

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抄録

ミツバツツジ節自生地における遺伝的多様性に配慮した緑化一針を導くことを目的として, 神奈川県におけるミツバツツジ節の植木の流通の実態を調査した.卸売り市場における調査から, 植木の種名の表示は義務付けられていないこと, 生産地における調査からは, 種苗生産に用いる母樹の生育環境が, 雑種植木の作出を招く可能性があることが明らかになった.また, 自生地, 生産地, 販売地の地理的位置関係の分析から, 研究対象地では自生地から生産地への花粉移入の可能性は低いことが分かったが, 生産地がポリネーターの採餌行動圏内にある場合や, 複数の生産地の配置関係によっては, 自生地と生産地の間で花粉の交換が生じ自生地での遺伝的変異性が変容する恐れがあること, が明らかになった.これらの現状と分析をふまえると, (1) 市場において植木の種が正しく認識されること, (2) 生産地で雑種の植木を生産しないよう配慮すること, (3) 自生地に近接する生産地では栽培する種を制限すること, が課題である.これらの課題を解決するために, 以下のような指針が導かれる. (1) の課題に対しては, (1) 生産地で植木の正確な種同定を行うこと, (2) 生産者が提示した種名を, 卸売市場で公開すること, (2) の課題に対しては, (3) 生産地では母樹の多種混植を避けること, (4) 種苗生産に用いる種子は, 純系の母樹から採取すること, (3) の課題に対しては, (5) 主要なポリネーターであるマルハナバチ類の採餌行動圏を把握すること, (6) 自生地からポリネーターの採餌行動圏を特別な配慮を要する区域とし, その標高帯に自然に分布する種のみを栽培すること, (7) (6) で設定した区域外については他の生産地との配置関係に応じて栽培する種を制限すること, が求められる.

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