景観生態学
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孤立した都市緑地における植物の保全と課題
社寺林と境内の生育地としての特徴
今西 亜友美村上 健太郎今西 純一橋本 啓史森本 幸裕里村 明香
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2007 年 12 巻 1 号 p. 23-34

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抄録
都市において, 神社や寺院に付随する森林や緑地は, 貴重な生物生息地として重要な役割を担っている.しかし, 開発による都市緑地の小面積化, 孤立化は現在でも進行しており, その生態系に様々な悪影響を与えている.本稿では, 社寺林と境内を区別して, 既往の研究成果に基づいて, 植物の生育地としての保全について論じた.生育地の面積は, 社寺林と境内に生育する植物の種数に関係する主要な環境要因であり, 都市において植物を保全するためには, 緑地の面積の縮小を防ぐことがまずは必要である.小面積化にともない欠落する種としては, 湿潤な環境を好むシダ植物種が挙げられ, これらの種の保全には, 下部谷壁斜面や谷底面といった湿潤な環境を確保する必要がある.孤立度の増加は, 社寺林において他家受精をする二倍体のシダ植物種の個体群を縮小させる.森林の形状の複雑化は, 木本のエッジ種数を増加させる.都市域の社寺林および境内における植物種の分布パターンは, 面積順の入れ子構造を成す.しかし, 現実には入れ子構造は完全ではないので, 大面積の1つの緑地よりも, 小面積の緑地を組み合わせて保全する方が, より多くの種数を確保できる場合が多い.社寺林の絶滅危惧種には, 安定した環境を好む森林内部種が多く, 比較的大面積の森林に生育する.一方で, 境内の絶滅危惧種は, 人里性の種であり, 小面積の境内に生育していた.絶滅危惧種の保全の観点からは, 社寺林については大面積林を重点的に保全し, 境内については小面積の境内も保全することが望ましいと考えられた.
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© 日本景観生態学会
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