抄録
市街地の孤立林では, 数々の侵入植物の逸出・繁茂が報告されている.兵庫県西宮市の西宮神社においても, 社叢林内におけるシュロ (Trachycarpus fortunei Wendl.) の異常繁茂が確認され, 林冠木の更新を妨げている可能性が示唆された.本研究では, 西宮神社の社叢林においてシュロを全て伐倒除去する作業を行い, 繁茂量の定量化と除去前後での林床の光環境の変化を調査した.また刈り取ったシュロの搬出を造園業者に依頼し, 要した費用と繁茂量の関係を調べた.社叢林内のシュロの本数密度は649本ha-1で, 樹高1.3m以上の樹木個体数の23%を占めた.シュロの胸高断面積は1.7m2ha-1で全体の3.4%に過ぎなかったが, 葉面積指数は繁茂の著しい箇所では2.49-4.60に達していた.シュロの繁茂は道路に面した社叢の北側の林縁および駐車場に面した南西の林縁で著しく, 繁殖個体も林縁に多く見られた.特に繁茂の著しかった箇所では林床の開空度が6-11%と暗くなっていたが, 除去後には開空度が平均2.2%, 最大5.5%増加し林床が明るくなった.今後クズノキをはじめとする林冠木の更新が可能となることが期待される.伐倒除去にかかった総費用は139万円で, そのうち人件費が72.0%と最も高かった.シュロの除去に必要な費用は作業量で変化するため, 繁茂が進行するほど除去に要する費用も増加する.よって費用面からも早めの対策が重要であると言える.これまで社叢林では人の手を入れないことが一般的であったが, 自然林に近いかたちで森林を維持することを目的とする場合, 侵入種を制御する積極的な植生管理が必要であると考えられる.社叢林を含め市街地の孤立林においては, 手付かずに置いておくことが自然林に近い状態という考え方ではなく, 持ち主の管理方針に沿って適切に人手を加えていくことが必要なケースもあると考えられる.