2016 年 23 巻 p. 31-54
本稿は,地方財政健全化法施行前後の2006年度から2012年度までの市町村パネルデータを用いて,地方財政健全化法による地方自治体の効率性の改善効果を,確率フロンティア費用関数と非効率要因を推定する確率フロンティア分析によって検証した.地方公共サービス供給の非効率性の計測には,投入データと対応づけられた産出量データが必要となるが,時系列で入手することが困難であったために,地方政府の効率性に関する研究の発展が妨げられていた.そこで,本稿ではBorge et al. (2008) に基づき,投入データと対応づけられた地方公共サービス水準データを独自に時系列で構築した.本稿の主な結論は以下の通りである.第1に,地方財政健全化法によって地方公共サービス供給の効率性が有意に改善されなかったことが確認された.第2に,財政状況の悪化した市町村の効率性の改善が期待されたが,こうした自治体においても効率性が有意に改善されていないことが明らかになった.健全化判断比率が著しく改善したのに対して,地方財政健全化法によって市町村の効率性が改善されなかった要因には,各健全化判断比率の早期健全化基準が適切に設定されていないこと,実質公債費比率等の健全化判断比率が交付税措置率の高い地方債発行を有利に扱うため,効率性以外の観点から地方公共サービスが供給されていること等の可能性が指摘できる.