2019 年 26 巻 p. 105-122
本稿の目的は,大阪府内の自治体立図書館サービスを題材に,公共施設の便益スピルオーバー(イン)を量的かつ直接的に推計することである.公共施設の便益スピルオーバー(イン)に関する研究は,①自治体の公的資本形成の水準が他の自治体の公共事業費支出に与える影響を計量的に分析しスピルオーバーの在否を実証するもの,②生産関数を用いて,自治体間のスピルオーバーの量的関係を実証するもの,③地価に対する影響によってスピルオーバーの効果を間接的に推計するヘドニック・アプローチを用いるものがあった.しかし,便益の及ぶ地理的な範囲を直接的・具体的に把握できないことに加え,生産に直接関連のない施設を扱えないなどの限界を有していた.
本稿では,地理情報システム(GIS)を用いて得られた情報を下に,生活関連施設である図書館サービスのスピルオーバー(イン)を,GISによる面積按分法によって量的・具体的に明らかにした.また,公立図書館の利用実態を推計値と比較することで推計手法の蓋然性を確認した.