沙漠研究
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小特集原著論文:沙漠誌分科会
地酒を主食とする民族の農閑期・農繁期における食文化と生活
-エチオピア南部半乾燥地に暮らすデラシャとコンソの事例-
砂野 唯
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キーワード: モロコシ, 食生活, 農業, 風味, 醸造
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2016 年 26 巻 2 号 p. 81-90

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抄録

 エチオピア南部に暮らすデラシャとコンソは,モロコシとトウモロコシから作った穀物酒を主食とするという世界でも極めて珍しい食文化をもつ.デラシャとコンソの居住域は隣接しており,生態環境,歴史,文化,社会などに多数の共通点が見られる.双方ともに半乾燥地で虫害が激しいという厳しい環境下であるうえに,面積の大半を石の転がる斜面地が占める.厳しい環境に暮らす彼らは,穀物を固形食や糖化飲料よりも摂取し易いアルコール飲料として大量に摂取し,生存に必要な栄養を摂取するという,酒食文化を形成して暮らしてきた.

 類似点の多い双方の酒食文化であるが,その詳細は異なっている.デラシャは少ない労働力しか投入せず,わずかな種類の作物しか栽培しない.そのため,食材の種類は少なく,食事内容のうち地酒が占める割合が大きい.しかし,流動食である地酒はすぐに空腹となるため,デラシャは余暇の時間を全て,地酒の摂取に当てている.一方,コンソは多大な労力を投入して,土地を徹底的に利用して多種類の作物を栽培している.そのため,食材の種類が多く,食事内容のうちイモ類やマメ類,野菜類が占める割合は高い.集約的な農業を営んでいるため,余暇の時間は少なく,食事時間は固定されている.また,デラシャの醸造方法には保存性を高めて日々の醸造工程を簡略化する工夫が凝らされているのに対して,コンソでは10世帯以上がグループになって順番に醸造作業を担うことで,醸造にかかる負担を軽減している.さらに,それぞれの地酒の風味は全く異なっており,デラシャもコンソも自分たちが飲み慣れた地酒を好んで飲む.

 このように,双方の酒食文化は栽培作物や農法,生活様式,社会関係,味覚などの多角的な要因に影響されて成り立っている.

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© 2016 日本沙漠学会
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