沙漠研究
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原著論文
エチオピア北部中高地のアファール牧畜民の食料摂取
平田 昌弘鬼木 俊次加賀 爪優Berhe Melaku
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2017 年 27 巻 2 号 p. 75-89

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抄録

本稿の目的は,エチオピア北部中高地のアファール牧畜民を対象に,1)アファール牧畜民の現在の食糧摂取のあり方とその特徴を把握し,2)食料摂取の視座から牧畜の生業戦略を考察し,3)社会・経済の変化が食料摂取や牧畜の生業戦略にどのような影響を及ぼしているかについて考察することにある.食糧摂取パターンの特徴は,1)朝にラクダの生乳を摂取する傾向にあること,2)コムギ粉を用いた料理が多用され,3)コムギ,生乳,酸乳,バターオイルが重要な食材となっており,4)肉と野菜は日常では全く,もしくは,ほとんど利用しておらず,5)近年では食事内容が多様化し,6)食事は親戚や友人と共食することが常であることである.栄養摂取量の特徴は,1)エネルギー摂取量的に約70 %が外部から供給されたコムギ粉などの食料であり,2)自給した食料のほとんどは生乳・乳製品によっており,特に脂肪とタンパク質の半分ほどが生乳とバターオイルから供給され,3)コムギ粉と生乳・乳製品に大きく依存した食体系ではあるが,必要なエネルギー量,タンパク質と脂肪は充足しているとまとめることができる.アファールの農牧民や遊牧民の事例は,家畜を飼養する目的が,家畜を殺して,肉を食べることにではなく,家畜を生かし留めて乳を得て,生乳・乳製品を摂取することにあることを示している.牧畜という生業の本質がここにある.以前は,乳・乳製品への食料依存度は80%ほどであった.今日,流通が盛んになり,近郊の市場で大量の食料品が販売されるようになって,外部からの購入食料に大きく依存するように変化してしまった.流通整備と経済の自由化という社会・経済の変化が,家畜を屠殺せず,生かし留めながら,その乳を利用し,必要最小限を外部社会に依存する牧畜から,家畜は交換材としての傾向を強め,多品目の外部購入食料へと大きく依存する生業構造へと変化させてきている.

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© 2017 日本沙漠学会
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