沙漠研究
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小特集 : 沙漠工学分科会第31回講演会
植物の環境適応の過程で「水を取るか,病害菌から身を守るか」決め手となった仕組みを解明
太治 輝昭
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2018 年 28 巻 2 号 p. 61-65

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抄録

干害・塩害・冷害は,植物が水を吸えなくなるストレス(浸透圧ストレス)により引き起こされる,農業上最も被害の大きな害である.近年の研究により植物の耐性メカニズムの一端が明らかになりつつあるが,往々にして植物の成長や他の働きが悪くなるなどの弊害を伴う.自然界には極めて高い耐性を示す植物が存在する一方,同じ種であってもそのような耐性が失われている例がある.しかしながら,植物が同じ種内でも耐性を持つ植物と持たない植物に分かれてきた進化的要因やその背景でどんな遺伝子が働いているのかに関しては不明である.モデル植物として広く利用されているシロイヌナズナは,世界中の様々な地域に生息し,そのaccession(エコタイプ)数は2,000を超える.これらは様々な環境条件に適応した結果,同じ種でありながら,浸透圧耐性に違いがあることが分かった.我々は,そのような数百グループのシロイヌナズナを比較することで,ACQOSと名付けた遺伝子が浸透圧耐性の有無を決定することを明らかにした.驚くことにACQOSは植物の免疫応答に重要な遺伝子だった.①ACQOSを有するシロイヌナズナは病害抵抗性に優れる一方で浸透圧耐性が損なわれること,逆に②ACQOSを失ったシロイヌナズナは高い浸透圧耐性を獲得するものの,病害抵抗性が低下することが分かった.すなわち,ACQOS遺伝子の有無が病害抵抗性を取るか浸透圧耐性を取るかの決め手となることが明らかになった.

今後,植物工場のような乾燥にさらされない環境ではACQOSを有することで病害抵抗性を向上させ,乾燥が頻繁に起こる圃場ではACQOSを無くすことで著しい浸透圧耐性を向上させる等,環境条件に応じて植物のストレス耐性を最適な方向にデザインすることが可能になると期待される.

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© 2018 日本沙漠学会
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