沙漠研究
Online ISSN : 2189-1761
Print ISSN : 0917-6985
ISSN-L : 0917-6985
小特集
沙漠化の現状について
石川 祐一
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 30 巻 3 号 p. 19-26

詳細
抄録

沙漠学会が設立されて30年の記念すべき令和元年に,改めて沙漠化対処を考える講演会を企画した.その基調講演として1)沙漠化の定義,2)砂漠化対処条約の概要と現状,そして3)沙漠化の現状について総説を行った.1)沙漠化の定義は1992年ブラジル・リオデジャネイロの国連環境開発会議アジェンダ21憲章でまとめられ砂漠化対処条約でもそのまま用いられている.気候的要因と人為的要因を基に生じた沙漠化プロセスの積み重ねによって各生態系の生産性や複雑系が低下した結果,沙漠化が生じるとされている,そのため,侵食などの沙漠化プロセスは直接的な結果であるとともに沙漠化の要因ともいえる.2)1996年に発効した砂漠化対処条約の概要と組織,締結国会議の履歴について紹介した.最近の条約の動きとして国連の持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえて,土地劣化の中立性(LDN)および持続的土地管理(SLM)という二つの大きな概念の導入と世界土地概況の発行が挙げられる.3)沙漠化の現状として,かつて人口に膾炙した6万km2/年という断定的な推定は最近あまり使われていない.2018年に発行された世界砂漠化地図第3版では社会・経済的要因も含めた様々な要因からの沙漠化の評価がなされており沙漠化現象を捉えることの困難さが示唆される.一方で中国・インドを中心に緑化が進んでいるという報告も紹介した.沙漠化は進んでいるのか? 賛否両論を併記したが,沙漠化と沙漠化対処は本学会活動の骨子の一つでもあるので,乾燥地農学分科会としても今後もフォローしていく.沙漠化対処については不断の実施が必要である.日本のプレゼンスを維持するためにも,乾燥地研究・沙漠化対処研究の裾野を維持すること,とくに産学官を含めた沙漠化対処に関する研究の推進や国際協力の進展が今後も求められる.

著者関連情報
© 2020 日本沙漠学会
次の記事
feedback
Top