沙漠研究
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原著論文
GIS-RUSLEモデルを用いた土壌浸食量の空間モデル化および高危険性地点の特定―エチオピア北部キリテ・アウラエロ群アディザボイ流域の事例―
小川 龍之介平田 昌弘Birhane Gebreanenia GEBREMEDHIN内田 諭酒井 徹幸田 和久竹中 浩一
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2021 年 31 巻 1 号 p. 1-14

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抄録

土壌侵食は早急に解決すべき世界的な課題となっている.特にエチオピアは,世界的にも土壌侵食危険性の高い地域である.過去20年以上にわたり土壌侵食防止を目的とした石組みの作成,土地利用を禁止する囲い込み地の制定などの保全活動によって,自然植生は回復傾向にあると報告されている.しかし、今後さらに土壌侵食に対する自然植生の囲い込み活動が進めば,農民生活にとって必要不可欠な自然資源利用が制限されることが予想される.そのため,農民の生活に配慮した持続可能な土地管理が望まれている.本研究では,エチオピアティグライ州キリテ・アウラエロ郡のアディザボイ流域に焦点を当て,RUSLE(Revised Universal Soil Loss Equation)モデルを用いて土壌侵食リスクマップを作成し,土壌侵食リスクに関連する地理的特性を分析し,地域の農民が土壌侵食を低減しながら自然資源を利用し続けることができる土地管理手法を提案することを目的としている.土壌侵食リスクに影響を与える地理的特性を分析するために,土壌侵食リスクマップに無作為に35地点を設定した.また,アディザボイ流域には囲い込み地と農民が家畜飼料確保のため制定した季節的に利用制限を行う土地がある.この2つの土地管理手法の違いによる土壌侵食リスクに及ぼす影響を評価した.その結果,アディザボイ流域全体の年間土壌侵食量は8.3 Mg/ha/yrであることが推定された.土壌侵食量の71%がアディザボイ流域の10%の土地で集中的に発生していることが分かった.そのため,ピンポイントでの保全活動が有効であることが示唆された.保全活動の行われていない急傾斜地(斜度6°以上)は土壌侵食のリスクが高く,早急な対策が必要である.13°以上の急斜面では侵食リスクが高いものの,石組み・植林などの保全活動が困難であるため,急傾斜地に有効な保全活動の導入が求められることが示唆された.囲い込み地の中で土壌侵食リスクの低い場所を特定し,自然植生の利用制限を季節的に開放にするシステムを導入することで,農民の自然資源利用への制限を緩和することが可能であることが示唆された.

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© 2021 日本沙漠学会
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