抄録
本稿では映画『クレイマー、クレイマー』の時間・空間の記号論的分析を行う。映画はマルチモーダル・テクストであり、それぞれのモードがいかに統合されているかを明らかにするのが本稿の研究目的である。Kress and van Leeuwen (2021)は時間と空間の構成に関わる三つの構成原理(情報価値、フレーミング、卓越性)によってテクストが統合されると言う。また、ハリデー(2001)は主題構造もテクストの統合性を生み出しているという。私たちは分析によって、主題構造と構成原理が映画テクストの統合性をいかに生み出しているかを明らかにした。前者は映画の中の各章の始めに提示され、それに沿った具体的出来事が次々に発生し、テクストの統合性が図られる。時間的情報価値によって、各章の始めと終わりに、それぞれ主題構造と要約を設定でき、空間的情報価値は、「上=理想」、「下=現実」のように空間を価値づけ、構造化している。フレーミングに関しては、各章の終わりに、空間的記号を置き、各章の終わりを示し、章の統合性を高めている。卓越性には、ストーリー展開をある方向に導く力があり、その力によって統合性が構築される。