2014 年 4 巻 1 号 p. 115-128
本稿では、逐次通訳におけるノートテーキングを手掛かりに、人間はなぜ通訳を介して異⽂化間のコミュニケーションをはかることができるのかを、トマセロの協⼒モデルの枠組みを参照に考察し、ノートテーキング付きの逐次通訳は何に動機づけられて成⽴するのかに迫る。これまで通訳者個人の直感と実務経験から得られた略字や記号を用いると述べられてきたノートテーキングの表記内容・表記⽅法は、通訳者が聴取した原発言の一般的な概念表⽰に動機づけられた意味論レベルの処理段階であり、その表記内容は最小命題の主要素を構成する概念表⽰の断片を構造化して表記していることがわかった。また、訳出局面では、ノートテーキングの表記をもとに通訳者が語用論操作を⾏って訳出していることが分かった。この語用論的操作を可能にさせるのは、協⼒モデルでいうコミュニケーション参与者間の共有志向性が⼤きな役割を果たしていることを主張した。