2017 年 7 巻 1 号 p. 85-103
本研究では、社会的実践の 1 つとしてのテクストである日本の2大学の英文大学案内を対象に、質的な分析手法と量的な分析手法により、テクストの価値体系を明らかにするとともに、背景化される事象を検証した。具体的には、批判的ディスコース分析の手法を参照した質的分析 と、コーパスを活用した量的分析を試みることで、留学生勧誘の戦略や背景にある価値体系を顕 在化させている。1つ目の分析対象テクストでは、「国際的」で「先導的」であることをロールモデルとし、「学生主体」・「体験重視」・「実用志向」の 3 つの要素を持つ学びを肯定的にとらえる価値観が形成されている。その一方で、「アジア」や「アカデミックな学び」が背景化されていることを指摘する。さらに、2つ目の分析対象テクストでは、地域社会で体験できるアクティビティーの充実を謳っている点を取り上げ、教育機関としての情報伝達ジャンルと観光案内ジャンルの混合についても論じている。日本文化をインフォーマルなスタイルでアピールするなどの留学生 誘致の戦略を浮き彫りにした。具体的には、潜在的留学生が学位取得目的か、または短期留学目的であるかによって、アカデミックな情報伝達と観光案内といった異なるジャンルが使い分けら れている事実も指摘している。