日本の国民医療費は対GDP比ではそれほど高くない.日本の国民医療費が安かった原因には,広義の市場取引と考えられる日本の医師・患者間の取引費用が少なかった可能性が大きいと考えられる.取引費用とは市場機能を維持するのに必要な費用である.しかしながらインターネットなどの新しい技術が医師・患者間の取引に影響を与えていくであろう.
市場取引が正常に機能するには,その機能を補完する機能の発展が必要である.インターネット利用の医療費に与える効果を検証するには,医療保険料と患者自己負担分の和で表される国民医療費統計に含まれる医師・患者間の取引のみならず,国民医療費統計に含まれない医療市場の補完費用となる医療関連費を考慮にいれなければならない.日本では旧来この費用が少なかったためにこの部分は無視され得たと思われる.しかし今後は,この費用を支払い得ない人に医療デジタルデバイドが発生する可能性もある.