放射線読影レポートの確認漏れ(以下,確認漏れ)による患者安全上の問題は,原理的にどこの病院でも起こり得ることであり,実際にこれまでに問題の発生原因と対策が全国の多くの病院から報告されている.しかし,せっかくの知見が散在した状態にあるので,それらを体系的に整理できれば,未対策の病院にも対策済みの病院にも有意義である.そこで,著者は先行研究でそれらを体系的に整理して知見を得る方法を提案した.そして,「確認漏れ事象」が議論された62編(48病院)の文献に提案手法を適用して,「(1)原因事例集」と「(2)対策のフレームワーク検討のための汎用モデル」を得た.ここで,後者は6W1Hの視点で粗視化した各病院の対策から同種のものを集約して得られた基本的な要素(以下,「対策の基本要素」)からなる.
上記のモデル(2)は病院ごとの対策立案の支援にとどまらず,そこから調査対象のすべての病院の対策を包含した支援システムを導出できる可能性を有している.そこで,本研究では上記の(1)と(2)から出発して,小規模から大規模な様々な病院の多様な対策を包括する確認漏れ防止支援システム(以下,包括的支援システム)の機能要件を導出する.具体的には次の4つの方針で作業を行った.(a)未読レポートを極力減らすためのシステム系の対策を包括的支援システムの「コア機能」と定義し,前記の(2)からシステム系の「対策の基本要素」を抽出した.(b)コア機能の一部だけを利用して人間系の対策と組み合わせる病院のために,前記の(2)から人間系の「対策の基本要素」を抽出して機能要件に追加した.(c)(a)や(b)の対策後に,最終的に残った未読レポートに人間系で対処するための支援機能の要件を追加した.(d)(a)~(c)で機能要件を検討する際には,複数の基本要素間の関係が「競合・共存・協調」のどれに該当するかに留意して,前記の(1)で抽出された様々なタイプの問題点を包括的に改善できるように機能要件を構成した.
以上の処理の結果,6つのコア機能とそれらを構成するシステム系25項目と,それらに関係する人間系6項目,その他2項目の計33項目からなる包括的支援システムの機能要件が導出された.これらの機能要件は,様々な病院で実施された対策を包含したものであるだけでなく,各病院が「自院の運用状況に応じて対策のパターンを柔軟に変更することを可能にするシステムをどう設計するべきか」という問いに一つの示唆を与え得るものである.