日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G6-09
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G6:深成岩及び変成岩
ベトナム・コンツム地塊にみられるトリアス紀初期の高圧変成作用 -南中国・インドシナクラトン衝突域における超高圧変成作用の可能性-
*中野 伸彦小山内 康人大和田 正明豊島 剛志角替 敏昭Tran Ngoc NamPham Binh
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抄録
 近年,レーザーラマン分光分析法により,変成岩類のジルコン中からコース石やダイヤモンドの存在が明らかとなってきている.コース石やダイヤモンドはジルコン中でSiに富む単斜輝石と共生する.一方,基質部の単斜輝石は,後退変成作用の過程で石英の離溶ラメラを形成することが多い.従って,それらの離溶ラメラは,超高圧変成岩を特徴づける組織と考えられている(Liou et al., 1998).このような単斜輝石を含むザクロ石-斜方輝石-単斜輝石グラニュライトがベトナム・コンツム地塊から見いだされた.
 コンツム地塊は,剪断帯を境界として,高温変成岩ユニットおよび低温変成岩ユニットに区分される(小山内ほか,2002).同グラニュライトはこの剪断帯部に分布し,マイロナイト化した石英長石質片麻岩中にブロック状もしくはレンズ状に産する.主成分構成鉱物としてザクロ石,単斜輝石および石英の斑状変晶と,それらの粒間を埋めるシンプレクタイトを含む.石英や単斜輝石側に形成されたシンプレクタイトは,Alに乏しい斜方輝石とNaに富む斜長石から構成され,ザクロ石の周囲のものはAlに富む斜方輝石とNaに乏しい斜長石およびスピネルから構成される.ザクロ石は石英,ホルンブレンド,藍晶石,クリノゾイサイト,ルチルを包有する.単斜輝石は,基質部に粗粒結晶(1から3mm)集合体として産することもある.単独で存在する単斜輝石や単斜輝石集合体の周縁部の単斜輝石粒には斜方輝石,ホルンブレンドおよび斜長石からなる離溶ラメラが存在する.単斜輝石集合体内部の単斜輝石粒は斜長石の離溶ラメラを持つ.ザクロ石と共生する単斜輝石は内部に石英の離溶ラメラを形成し,高いJdモル(Jd13-15)を含む.斜長石,石英の離溶ラメラを復元すると,単斜輝石は高いSi含有量をしめす(CaEs10-13).
 顕微鏡下での観察と鉱物化学組成から次のような変成過程が明らかとなった.(1) ピーク条件下でザクロ石+Si,Naに富む単斜輝石(Cpx1)+石英が安定に存在する.(2) 減圧過程で,Alに乏しい斜方輝石(Opx1)+Naに富む斜長石(Pl1)が形成される.また,単斜輝石はNa,Siが乏しくなる(Cpx2).(3) 減圧が進み,ザクロ石の分解により,Alに富む斜方輝石(Opx2)+Naに乏しい斜長石(Pl2)+スピネルが形成される.冷却・減圧過程では,(4) ザクロ石と共生する単斜輝石(Cpx1)から石英の離溶ラメラが形成され,単斜輝石の組成はSiに乏しくNaに富む(Cpx3).(5) 単斜輝石集合体内部の単斜輝石粒(Cpx1)からNaに富む斜長石(Pl3)の離溶ラメラが形成される.単斜輝石の組成はSiおよびNaに乏しくなる(Cpx4).(6) Cpx2からAlに乏しい斜方輝石(Opx3),ホルンブレンドおよびややCaに富む斜長石(Pl4)から構成される離溶ラメラが形成され,単斜輝石は著しくNaに乏しくなる(Cpx5).これらの変成過程は,以下の反応式によって表すことができる.
(1) Grt+ Cpx1+ Qtz (超高温・超高圧条件),(2) Grt+Cpx1+ Qtz= Opx1+ Pl1+ Cpx2(超高温・高圧条件),(3) Grt= Opx2+ Pl2+Spl(高温・中圧条件),(4) Cpx1= Qtz+ Cpx3,(5) Cpx1= Pl3+ Cpx4,(6) Cpx2+ H2O= Opx3+ Hbl+ Pl4+ Cpx5
 Jdモルから見積もった最低圧力条件は1.6GPaと低いが,Siに富む単斜輝石の存在よりコース石が存在する圧力条件に達していた可能性も示唆され,ザクロ石の分解反応の解析および様々な地質温度計による変成条件の見積もりから,コンツム地塊の変成岩類は,1000℃・3GPaの超高温・超高圧条件から等温・減圧する温度・圧力履歴が推定される.
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© 2003 日本鉱物科学会
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