抄録
西南日本内帯には,白亜紀大規模酸性火成岩が分布している。この成因には,海嶺の沈み込みが考えられている。西南日本内帯白亜紀の花崗岩質岩体を,構成岩石・岩石形成時の海嶺(スラブ・ウィンドウ)との関係をみた。その結果,火成活動を以下のようにまとめることができる。スラブ・ウィンドウ前方の熱いスラブのメルトに起因するHMAとアダカイト質花崗岩質岩の活動があり,続いてスラブ・ウィンドウに起因するアダメロ岩・花崗岩の主活動(一部に石英閃緑岩・トーナル岩を伴う)があり,その後沈み込んだスラブ・ウィンドウ後方の熱いスラブのメルトに起因するHMAとアダカイト質花崗岩質岩・石英閃緑岩・トーナル岩の小規模活動である(村田ら,2002)。スラブ・ウィンドウ内の火成活動に注目すると,火成活動の西から東への移動は明確である。
西南日本内帯の白亜紀アダカイト質花崗岩質岩は,山陽帯と領家帯に小岩体として点在している。それらのうち,山陽帯の丹波花崗岩質岩(京都市北方の丹波帯中央部に分布する小規模岩体の総称)および仰木花崗岩質岩体,領家帯の大峰花崗岩質岩体および御林山花崗岩質岩体が詳しく調べられている(貴治ら,2000)。これらの岩体は化学組成に特徴があるだけではない。御林山花崗岩質岩の年代は不明であるが,アダカイト質花崗岩質岩は100 Maよりも古い活動時期を示している。つまり,丹波花崗岩質岩のK-Ar年代は101-107 Ma(貴治ら,1995),U-Th-Pb年代は107-111 Ma(未公表),仰木花崗岩質岩のU-Th-Pb年代は106 Ma(未公表),大峰花崗岩質岩のRb-Sr年代は130 Ma(Ishizaka, 1966)である。一方,近畿地方の山陽帯・領家帯の花崗岩質岩の多くのK-Ar黒雲母年代は70-80 Ma(松浦ら,1995)であり,アダカイト質花崗岩質岩より新しい。HMAも山陽帯と領家帯の小岩体として分布している。丹波帯中央部では,K-Ar黒雲母・角閃石年代が101-107 Maのアダカイト質花崗岩質岩(貴治ら,1995)と108 MaのHMA(木村・貴治,1993)が,時間・空間的に密接に活動している。
近畿地方中部の山陽帯・領家帯には,磁鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩(生畑岩体・花脊別所岩体)とチタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩が,同一地域に同時に活動している。これらは,磁鉄鉱系花崗岩質岩体の周辺部がチタン鉄鉱系に漸移するものもある。そこで,1つの岩体が全てチタン鉄鉱系のものをチタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩1(百井谷・旧花脊峠南方・畑山林道・仰木の各岩体),磁鉄鉱系岩体の周辺部で漸移したチタン鉄鉱系をチタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩2(花脊別所岩体・旧花脊峠北方岩体)として区別した。これら8試料のイオウ同位体比分析を三菱マテリアルに依頼した。Sasaki and Ishihara(1979)によれば,大陸地殻の生物起源物質の影響を受け,低酸素分圧条件になったと思われるチタン鉄鉱系のイオウ同位体比は-10.9から+2.5パーミル,磁鉄鉱系のそれは+0.5から+9.1パーミルと区分されている。しかしながら,本地域に密接に分布する磁鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩は-1.0から+3.3パーミル,チタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩1で-2.8から+0.4パーミル,チタン鉄鉱系アダカイト質花崗岩質岩2で0.0から+2.3パーミルであり,3者間に有意の差はなかった。このことは,スラブメルト起源と考えられるアダカイト質花崗岩質岩が地殻内を上昇する際に,大陸地殻との相互作用がそれほど顕著で無かったこと,磁鉄鉱の形成が酸素分圧とイオウ分圧に規制(Murata et al., 1983)されていることを意味している。アダカイト質花崗岩質岩の成因をさらに詳しく検討するために,今後は,有色鉱物の化学組成およびホウ素の含有率と同位体比を明らかにしたい。