抄録
黒鉱鉱床は火山性塊状硫化物鉱床であり、本邦では、新第三紀中新世の深海底における珪長質火山活動に密接に関連して形成されている。これらの珪長質火山活動を、東北本州弧のテクトニクスの変遷とそれに起因する火山活動史の中に正確に位置付けるため、鉱床や火山岩層序などの情報が豊富な秋田県北部の北鹿地域を対象として、既存の火山岩年代値や主要成分化学分析値を火山層序的な観点から再検討した。この結果、黒鉱鉱床の形成やその前後の火山活動の変遷は、時期的にも、組成的にも東北本州弧のマグマサイクルと調和的であることが予想された。そこで、火山岩の性質からそれらをもたらしたテクトニクス場を検証するため、鉱山坑内や探鉱ボーリングにより層序の判明している岩体から相対的に変質の進んでいない試料を採取し、かつ、この地域の黒鉱や鉱脈に伴う中性変質作用では比較的動きにくい元素を対象として、黒鉱形成以前、黒鉱とほぼ同時期および黒鉱形成以降のデイサイト類の相違を検討した。その結果、記載岩石学的には、黒鉱形成以前の無斑晶デイサイト(少量の斜長石斑晶存在)で特徴付けられる活動、黒鉱直後の斜長石斑晶の顕著なデイサイト(少量・小粒の石英斑晶随伴)の活動、そして黒鉱形成以降の斜長石?石英斑状デイサイトや花崗斑岩・石英斑岩を随伴する活動という時系列的に異なる3つの火山活動ステージが識別された。各々の活動期に対応して、主成分ではSi-Alの比や, Ti, Caの含有量に有意の差が認められ、また変質により動きにくい微量元素(HFS元素)では、Nb, Yの割合やその変化傾向に相違が認められた。即ち、各々の活動期内の分化程度に係わる変化トレンドの他に、各々の活動期の間には、分化では説明できない明瞭な系統的変化が認められた。これら3回の珪長質火山活動の転換時期や活動場のテクトニクスの変遷は、これまで東北本州弧の玄武岩の研究から得られた結論(吉田ほか,1995、八木ほか2001)と整合的であり、黒鉱鉱床が、本州弧全体のテクトニクスの変遷に関連してある特定の時期、環境下で形成された可能性が高いことが推定される。
八木正彦・長谷中利昭・大口健志・馬場 敬・佐藤比奈子・石山大三・水田敏夫・吉田武義(2001) リフト活動の変遷に伴うマグマ組成の変化-東北本州、前-中期中新世の秋田-山形堆積盆地における例-、岩石鉱物科学, 30, 265-287.
吉田武義・大口健志・阿部智彦(1995) 新生代東北本州弧の地殻・マントル構造とマグマ起源物質の変遷、地質学論集, 44, 263-308.