日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G7-06
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G7:火山及び火山岩
蔵王火山の最近約3万年間の噴出物について
*伴 雅雄田中 勇三佐川 日和
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抄録
 蔵王火山の中央部には直径約1.7kmの東に開く馬蹄形をした馬ノ背カルデラが見られる。その中に体積約2.2km3の五色岳があり、その西麓に火口湖である御釜が位置している。御釜のすぐ南東方向には旧火口跡(先御釜火口)が存在する。この地域には最近約3万年間の噴出物が分布しているが、それらは主に馬ノ背カルデラのカルデラ壁の外側に沿って分布する駒草平アグルチネートと主に五色岳を構成する五色岳火砕岩に分けられる。駒草平アグルチネートは10枚以上の主にアグルチネートからなる層によって構成され、厚いところで30mに達する。五色岳火砕岩は傾斜不整合によってさらにunit1-5に分けられる。層序からunit3は先御釜火口からの最終噴出物と考えられ、unit4,5は御釜から噴出したものと推定される。unit5の主体は西暦1895年の噴火によってもたらされたものと考えられる。unit1,2の噴出口は明らかでない。五色岳火砕岩の多くには、デューン構造、スランプ構造を伴う平行葉理、サグ構造、U字型のチャネル、側方方向での激しい層厚変化などの特徴が頻繁に見られ、火砕サージ堆積物と考えられる。但し、unit1の下部にはブルカノ式噴火によってもたらされた降下火砕岩が見られ、unit5は主に水蒸気爆発によってもたらされた灰白色凝灰角礫岩からなる。
 蔵王火山における最近約3万年間のテフラはZa-To1-10の10枚に分けられており、Za-To1-4は約2-3万年前、休止期をはさみZa-To5以降は数千年前より若く特に6以降は歴史時代のものと考えられている。層序関係などから、駒草平アグルチネートはZa-To2に、五色岳火砕岩はZa-To6以降に対比される。
 本質岩片の斑晶組み合わせは駒草平アグルチネートでは、斜長石、斜方輝石、単斜輝石、磁鉄鉱で、五色岳火砕岩はこれにカンラン石が加わる場合があり、斜長石中の塵状包有物、斜方輝石の逆累帯、カンラン石と輝石のMg-vに関する非平衡関係などマグマ混合を示唆する特徴が多く見られる。一方全岩化学組成は、SiO2量にして駒草平アグルチネートでは55-56%、五色岳火砕岩では56-58%と明瞭に異なる。さらに五色岳火砕岩のunit4はunit1-3よりK2Oなどが僅かであるが明瞭に高い傾向を示す。
 ところで、五色岳火砕岩の僅か前に噴出したと考えられるZa-To5は馬ノ背カルデラ近傍では火山礫サイズの降下スコリアからなり、含まれる斑晶は3つのグループすなわち高Mgカンラン石+高An斜長石、高Mg斜方輝石+高Mg単斜輝石+中間An斜長石、低Mg斜方輝石+低Mg単斜輝石+低Mgカンラン石+低An斜長石に分類され、それぞれ別のマグマに由来したものと考えられる。またZa-To5の全岩化学組成はSiO2量にして55-56%と駒草平アグルチネートと同じであるが、MgO,Cr,Ni量が駒草平アグルチネートより明瞭に高い。
 以上から最近約3万年間のマグマ供給系の変遷をまとめると以下のようになる。駒草平アグルチネート形成時期には、SiO2=55-56%の混合マグマが安定して供給される状況にあった。休止期をはさみ、Za-To5の形成時期にはより未分化なマグマが関与し、その後の五色岳火砕岩の活動のきっかけとなった。五色岳火砕岩の噴出時期にはSiO2=56-58%の混合マグマが形成され噴出し続けているが、御釜へ火口が移動した以降は混合マグマの組成がそれ以前より僅かに高K2Oに変化している。
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© 2003 日本鉱物科学会
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