抄録
岩手県松川地熱地域北方の火山岩について約0.9-0.6Maの年代値が得られた。その年代値の意義について報告する。
本研究試料のうち、二試料は下倉・中倉山火山の北側斜面で採取されたものである。層序的に下位と上位の試料を選んだ。それぞれの年代値は0.85±0.04, 0.58±0.10Maである。NEDO(1991)により報告された下倉山下部の溶岩の年代は約1.0Maであり、両結果を合わせると、本火山の火山活動年代は1.0∼0.6Maと考えられる。
下倉山・中倉山は山体中央部が崩壊した成層火山と考えられており(角他、1988)、その崩壊凹地内にはパイロフィライト、みょうばんなどを産する強粘土化変質帯が発達している。この変質帯の年代値は高塚・高島(1992)、大関他(1998)により報告されており、そのうち古い年代を示すものは本火山の活動年代と一致している。これは成層火山活動期の山体中心における熱水変質作用を示すと考えられる。
松川地熱地域を含む仙岩地域では、1980年代より多くのK-Ar年代測定値が得られているが、松川地熱地域と八幡平火山との間の火山岩については年代値が乏しく、空白域となっていた。本研究によりこの空白域が埋められ、仙岩地域全体の火山活動年代が明らかになった。そこで仙岩地域の火山配列の時間変遷を調べたところ、火山配列は0.6Ma頃を境に南北方向から東西方向へ変化している。これは、広域応力場の変化によるものではなく、火山活動域が隆起帯内部から外側へ拡がったために生じた変化である。隆起帯内部では逆断層の影響を受けた局所応力場に火山配列が支配されるが、隆起帯から外れると広域応力方向に火山配列が卓越するようである。