抄録
1.はじめに 太陽風組成の希ガスに富む角礫岩組織を持つ隕石は隕石母天体表層にあったレゴリスブレッチャーと考えられている。このような隕石は小惑星表面の物質進化を考える際に重要である。レゴリスブレッチャーには異質岩片が含まれている場合がある。しかし,普通コンドライトのレゴリスブレッチャーからの異質岩片の報告は非常に少ない。我々はHコンドライトのレゴリスブレッチャーである,つくばとWillard(b)に1ミリ程度より小さな炭素質コンドライトのクラストを見出した。ここではそれらの鉱物学的な特徴について報告し,その意義について論じたい。2.結果と議論 つくば隕石(H5-6)に含まれる炭素質コンドライトクラストの主要造岩鉱物は,サポナイト,蛇紋石,マグネタイト,ピロータイトである。この鉱物組み合わせはCIコンドライトに似ているが,フェリハイドライトはCIコンドライトよりもずっと少ない。TEM観察によると,このクラストはOrgueilやIvuna CIコンドライトの粗粒な層状珪酸塩((001)に垂直な方向に数十nmある)に富む部分に良く似ている。サポナイトと蛇紋石はinterlayerしている場合も独立している場合もある。層状珪酸塩の化学組成はOrgueilの粗粒層状珪酸塩の場合とよく似ている。 Willard(b)(H3.5-3.6)に含まれる炭素質コンドライトクラストの主要造岩鉱物は,サポナイト,蛇紋石,マグネタイト,ピロータイト,ペントランダイト,ドロマイト,Mg-Fe炭酸塩,フェリハイドライトである。特徴的なこととして,蛇紋石の量がクラストごとにかなり変化することがあげられる。そのサポナイトとの量比はCIコンドライトと同様のものから,蛇紋石がわずかしか含まれないものまである。蛇紋石が多いものでは,サポナイトと蛇紋石の産状は,Orgueil,Ivuna,Tagish LakeのCarbonate-poor lithology,つくばのクラストと同様であるが,蛇紋石が少ない場合の層状珪酸塩の産状はTagish LakeのCarbonate-rich lithologyやサポナイトに富む微隕石とよく似ている。また,1μm程度より細粒な炭酸塩鉱物はマグネサイト‐シデライトであり,蛇紋石の量に関わらず存在している。それらの産状や組成はTagish Lakeのマトリックスとよく似ている。これらの鉱物学的特徴は,Willard(b)のクラストがCIコンドライトよりもTagish Lake隕石により近い特徴を持つことを示している。 さらに,これらのクラストにはそれぞれのホストHコンドライトのものとほとんど同じ化学組成を持つ長さ約数百nm以下のオリビンとCaに乏しい輝石を含むことである。また,つくば隕石のクラストの境界部分ではホストの鉱物の破片の隙間に炭素質コンドライトのマトリックス物質が注入されているのが観察された。こうした観察結果は未固結のHコンドライトのレゴリスに軟らかい炭素質コンドライト的な物体が衝突し,その一部がクラストとして保持されたこと,クラストがホストに取り込まれる際にホストのHコンドライトの微細な破片がクラストに刺し込まれたことを示していると考えられる。クラスト内部では層状珪酸塩や炭酸塩はほとんど分解していない。そして,クラストとホストの境界部分でのみ層状珪酸塩は層状の形態を保ってはいるがアモルファスになっている。これらの観察は,岩片の表面数十nmが700℃程度まで加熱されるだけでレゴリスがレゴリスブレッチャーとしてlithificationすることが可能であることを示している。