日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G2-03
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G2:サブダクションファクトリー
スラブメルトとマントルかんらん岩の反応の証拠:高Mg安山岩に含まれる著しくNiに富むかんらん石斑晶の成因
*土谷 信高
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抄録
大陸地殻の成長の場は沈み込み帯であると考えられるが(Taylor and McLennan, 1985など),沈み込み帯で発生するマグマは玄武岩質であるため(Gill, 1981; Grove and Kinzler, 1986),地殻の平均組成が安山岩質であることを説明できない(Ellam and Hawkesworth, 1988など).この問題に対する1つの解答としてスラブメルティング説(Martin, 1986; Defant and Drummond, 1990)があるが,珪長質メルトがマントル中を上昇する機構については不明の点が多い.高Mg安山岩は,マントルを上昇する珪長質メルトとマントルかんらん岩との反応によって形成されると考えられ(Kelemen et al., 1993; Yogodzinski et al., 1995; 上松ほか,1995; Shimoda et al., 1998),スラブメルトの上昇機構について重要な情報を与えるものである.しかしながら,マントルかんらん岩と珪長質メルトとの反応を直接示す証拠は,高Mg安山岩類から見い出されているわけではない.
北上山地から新たに見い出された始新世高Mg安山岩は,著しくNiに富む(最大 0.58 wt%)かんらん石斑晶を有することが特徴である.これらのかんらん石斑晶は,高橋(1986)のolivine mantle arrayよりも上方にプロットされ,マントル中のかんらん石よりもNiに富むが,Fe/Mg分配からは全岩化学組成に相当するメルトと平衡共存可能である.また,全岩化学組成をMELTSプログラム(Ghiorso and Sack, 1995)で検討した結果,かんらん石斑晶の組成はほぼ再現することができる.以上のことから,かんらん石斑晶はメルトから平衡に晶出したものであり,かんらん石中のNi含有量が高いことは,メルト中のNi含有量が一般の未分化なマグマのそれよりも高かったためであることが分かる.これは,高マグネシア安山岩類が,同じ程度のCr量を示すマントル由来の初生玄武岩類や多くのボニナイト類と比較して,よりNiに富む特徴を示すことと調和的である.また同様のNiに富むかんらん石斑晶は,瀬戸内安山岩類のうち,松山地域の未分化な高Mg安山岩からも見い出されたことから,この様な特徴は高Mg安山岩に共通な特徴として一般化できる可能性がある.
北上山地の始新世高Mg安山岩類の岩石化学的性質は,アダカイト質メルトがマントルかんらん岩と反応するモデルによって説明可能である.珪長質なメルトがマントルと反応する場合,メルト中のSiO2とかんらん石が反応して斜方輝石が形成される.この場合,かんらん石–メルト間のNiの分配係数は,斜方輝石–メルト間のそれよりも大きいため,メルトは次第にNiに富むようになると考えられる.以上のように,高Mg安山岩中のかんらん石斑晶がNiに富むこと,すなわちメルト中のNi含有量が通常のマントル由来のマグマよりも高いことは,珪長質メルトとマントルとの反応の証拠を示すものと考えられる.
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© 2003 日本鉱物科学会
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