抄録
マグマ溜まり内において結晶分化作用と溶融地殻物質の混入が同時に進行することは、AFC(Assimilation and Fractional Crystallization)過程として広く認識されており、これまでAFC過程を支配する物理や、過程の進行に伴うマグマの地球化学的進化の特徴について重要な研究が多数行われてきた。一方、天然観察を対象としてAFC過程の理解を目指す研究も盛んに行われてきた。しかし、その大部分の研究がDePaolo (1981) のマスバランスモデルをマグマの組成トレンドに適用してr値(assimilated mass/fractionated mass)を推定するに留まっており、天然観察のアプローチからAFC過程の理解に重要な制約が与えられることは少なかった。そこで我々は、これまで岩石学的検討が詳細になされてきた利尻火山、沓形・種富溶岩流を対象としてAFC過程の研究を行ってきた(栗谷 & 中村、2001年合同大会)。本発表では、新たにマグマ溜まり周囲の地殻に相当すると考えられる岩石の採取・分析を行い、その制約を用いて、AFC過程の具体的なメカニズムの考察、及び溶融地殻メルトのマグマ溜まりへのフラックスの推定を試みる。 沓形溶岩流はアルカリ玄武岩であり、全岩のSiO2 量は51.7-53.4 wt.%である、一方、種富溶岩流はトラカイト質安山岩_から_デイサイトであり、SiO2 量は58.8-65.5 wt.%である。沓形溶岩流と種富溶岩流は主要元素・微量元素・同位体比組成において連続的に変化し、約2kbar に存在したマグマ溜まり内において組成進化した一連のマグマであると考えられる(栗谷 & 中村、2001年合同大会)。また、結晶分化作用は、マグマ溜まり主要部のマグマが、マグマ溜まり底部の固液境界層に由来する分化液と混合することによって進行(境界層分化)したことが明らかになっている(Kuritani, 1999, 2001)。 地球化学的な大きな特徴として、鉛の含有量と鉛同位体比の相関図において、溶岩流のデータが明確なトレンドを有している、ということが挙げられる。このことは、マグマの組成進化において、境界層分化を引き起こす分化液と地殻メルトの挙動が完全にカップリングしていた、ということを示唆する。境界層分化における分化液のソースがマグマ溜まり底部の固液境界層であることを考慮すると、AFC過程は、マグマ溜まり下部から供給された地殻メルトが固液境界層内で既存の分化液と完全に混合した後にマグマ溜まり主要部に輸送され、混合することによって進行したと考えられる。 次に、溶融地殻メルトのマグマ溜まりへのフラックスの推定を試みた。まず、AFC過程における地殻メルトのマスと分別結晶のマスの比を推定する必要があるが、利尻火山のマグマ溜まりで推定されたAFCのメカニズムは、従来広く用いられてきた DePaolo (1981) のモデルで想定されたメカニズムとは異なるため、新たにAFCと境界層分化の両方を考慮したマスバランスモデルを構築し、沓形・種富溶岩流に適用した。その結果、R値(DePaolo のr値と区別)は0.02程度(一定)であることが推定された。マグマ溜まり底部における冷却は、ほぼ熱伝導で近似することができる。このことから、マグマ溜まり冷却に伴う結晶化の進行(=フラックス)を得ることができ、R値と乗じることにより地殻メルトのフラックスを算出することができる。その結果、フラックスは時間の-1/2乗に比例して減少していたことが分かり、例えばマグマ溜まり冷却開始から10年後で約0.03 m/year、100年後で約 0.01 m/year 程度であると推定された。