抄録
鹿児島県薩摩半島南西部の野間岬には 花崗斑岩が広く分布する。その中に,蛇紋岩,結晶片岩∼片麻岩が小岩体として産することが知られている(石川ほか,1974:地質雑)。
この地域は九州南西部における,四万十帯,秩父帯の配列方向の屈曲部に位置し,そこに産する変成岩類の帰属や黒瀬川帯との関係を明らかにするためにも野間岬の変成岩記載は重要である。
この地域の変成岩類の産状を記載する過程において,泥質片岩と互層する塩基性岩から斜方輝石を含む鉱物組み合わせを見い出した。本研究では,特に斜方輝石を含む塩基性岩を詳しく記載した。
泥質・砂質片岩
岩体ごとに産状が大きく2つに分けられる。1つは,源岩の堆積構造を保存しており,砕屑性粒子を認識することができる片岩である。細粒の黒雲母が定向配列せずに産する。一部,石英が波動消光したり,カタクラサイト化している部分も見られる。もう1つは,1mm を越える粗粒なザクロ石,黒雲母を含む片麻岩である。黒雲母は定向配列している。
いずれのタイプも電気石を特徴的に含む。自形から半自形を呈し,放射状の集合体を形成していることが多い。
蛇紋岩
しばしば,トレモラ閃石が様々な方向を向いて産する。単斜輝石やかんらん石は確認されていない。
塩基性岩
泥質・砂質片岩と互層する厚さ20cm ほどの薄層として産する。細粒の黒雲母と斜方輝石を多量に含む。これらの鉱物は片理を構成せずに,様々な方向に向いている。斜方輝石は短柱状の丸みを帯びた外形を呈し,しばしば,その周囲にカミングトン閃石を伴っている。石英,斜長石(An = 50∼60)と共存する。
議論とまとめ
カリ長石を含まず,カミングトン閃石を伴うことから,斜長石は
Cummingtonite = orthopyroxene + quartz + H2O-fluid
の反応で形成された可能性がある。このことは,野間岬の変成岩類の少なくとも一部がグラニュライト相の条件で形成されたことを意味する。