抄録
2004年の新潟県中越地震以降,避難所における深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)の増加が注目され,その発症とリスク要因について様々な検討がなされている。ヒラメ静脈径拡張はDVTのリスク要因であるとされるが,拡張の関連要因については不明な点が多い。今回我々は東日本大震災被災地の仮設住宅において行ったDVT検診を通じ,ヒラメ静脈径拡張の関連要因について検討を行った。2012年9月と2013年9月に宮城県亘理郡亘理町,山元町の仮設住宅や自宅在住の被災者339名を対象とした。問診により受診者背景を聴取後,携帯型超音波装置を用い,座位にて膝窩静脈以降の末梢静脈内血栓検索と両側のヒラメ静脈最大径測定を行った。その結果,静脈拡張陽性群(≥ 9.0 mm)を41名に認めた。拡張陽性群において心疾患既往者は18名(44%)で拡張陰性群における既往者78名(26%)と比較し有意に高値であった(p < 0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果,心疾患の既往はヒラメ静脈拡張の独立した危険要因であった。また,DVT陽性群での拡張陽性者は6名(30%)でDVT陰性群における拡張陽性者35名(11%)と比較し有意に高値であった(p < 0.05)。被災地におけるヒラメ静脈最大径測定は,心疾患の存在やDVT発生リスクの把握に有用となる可能性がある。