医学検査
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原著
採血室における患者アメニティ改善の取り組み―採血室リニューアルおよび業務改善の前後に実施したアンケート調査結果からわかったこと―
盛田 和治金子 誠曽根 伸治矢冨 裕
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2017 年 66 巻 1 号 p. 17-24

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Abstract

ISO15189は,患者診療にとって不可欠である臨床検査室のサービスの重要性を掲げている。そのため,ISO15189認定検査室ではその顧客である患者や臨床医に対して有益で必要不可欠な検査実施機関になるためには,患者サービスによる奉仕も重視すべきであると考えられる。それに加え,昨今,医療に対する患者の要望が多様化しており,臨床検査室でもその要望に的確に応え,その満足度を向上することは容易ではない。そこで,我々の検査部では検査部を利用する患者の満足度を高めるために患者アメニティ(快適さ)に着目し,2006年4月には患者アメニティ改善委員会を設置して,それ以降日々サービスの向上に努めることとした。その一環として,2014年10月,採血室を利用している全ての患者に対して,「採血・採尿検査待合所および採血室に関するアンケート」を実施し,その意見を参考にスタッフの接遇向上,施設や設備などの快適さについて,さらなる改善を目指した。2006年にも同様なアンケート調査を実施したが,本報告では今回のデータと比較検討して検証したものを述べる。また,2013年に実施した検査室のリニューアルによる採血台の増設や採血システム・機器の更新,および患者混雑状況に合わせた人員配置の工夫の効果も併せて報告する。アンケート調査は,これまでの業務評価,かつフィードバックできる有用な方法である。今後もアンケート調査を実施し,サービスの良い検査部運営を心掛けたい。

I  はじめに

国際規格である「ISO 15189(臨床検査室―品質と能力に関する特定要求事項)」は,臨床検査室の技術能力を示す基準である。平成28年の厚生労働省の診療報酬改定において,ISO 15189を認定された検査室に対して「国際標準検査管理加算」が新設された。これは,国際規格に基づく技術能力を持つために,これまで日々努力してきた検査室に対する評価であると考えている。東大病院検査部は,2007年1月に日本では17番目(大学病院検査部としては4番目)のISO15189認定を取得した1),2)。このISO規格の序文に「臨床検査室のサービスは患者診療にとって不可欠であり,すべての患者とその診療に責任をもつ臨床医のニーズを満たすために利用できなければならない」とある。つまり,検査を依頼する臨床医はもちろんのこと,検体検査の持ち主である患者,また生理検査室に訪れる患者は臨床検査室の顧客であり,ISO15189認証を取得した検査室ではその顧客に対して有益で必要不可欠な存在になるだけでなく,サービス重視の姿勢を明確にすることが求められている。外来採血室(以下,採血室)や生理検査室では検査部スタッフが直接的に患者と接するためにその接遇力が問われるが,患者の検体を扱っている検体検査室のスタッフについては無頓着にならないよう,患者に対する顧客サービスに注意を払う必要がある。特に昨今,医療に対する患者の要望が多様化しており,臨床検査室でもその要望に的確に応え,その満足度を向上しなければならない。

当院の2014年の外来患者数は1日平均約3,000人で,外来採血患者数は980人である。診察開始時刻は午前9時で診察前検査のために,採血開始の午前8時10分からの1時間で約250名近い患者が,採血室を訪れている。2000年以降,診察前検査が一般化したことと外来患者数の増加によりいつも採血・採尿検査待合所(以下,外待合所)が混雑しており,立って待つほどの患者が外待合所にいた。この状態を解決するため苦労の連続であったが,採血所要時間および採血待ち時間の短縮を目指して採血システムを更新し,各検査室からの採血室への応援体制を整備した3)。これにより,患者毎の手袋交換や手袋交換時の手指消毒を実施しているにもかかわらず,現在では10分以上の採血待ち時間患者の割合は10%以下に抑えることに成功している。その一方で,患者サービスの質を落とすことのないように心がけてきた。そこで,我々の検査部では患者アメニティ(快適さ)に着目し,検査部を利用する患者の満足度を高めるために,2006年 4月より患者アメニティ改善委員会を設置した。検査部の臨床検査技師6名(技師長含む),医師1名の7名で構成され,隔月で委員会を開催し,患者アメニティ改善に関する提案,協力要請,広報活動(患者向けポスター掲示による情報提供,院内職員向けホームページでの情報提供)を行い,日々サービスの向上に努めている4)。病院でのご意見箱の設置などは一般的であるが,患者アメニティ改善委員会での主な活動の1つとして,外待合所や生理機能検査受付に検査部のサービスに特化した採血室や生理検査室を利用する患者から意見を直接集めるためのご意見箱の設置を行った5)。実際に投書がきっかけとなり,採尿室のトイレ改修が実現した例がある。このように,個々の利用者の声に対して真摯に向き合い,対応することにより,患者アメニティの改善を図っている。その一環として,採血室や生理検査室を利用している全ての患者に対して,スタッフの接遇向上,施設や設備などの快適さの改善を推進することを目的として,「採血・採尿検査待合所および採血室に関するアンケート」,「生理検査待合いおよび生理検査室に関するアンケート」を実施した。前回2006年にも同様なアンケート調査を実施しており4),今回は採血室に関するアンケートデータを比較検討した。また,2006年から2度目となる2013年5月の検体検査室リニューアルにより,採血室が拡張され,採血台は18台となり,すべての採血台に対し採血管が自動供給されるようになった。しかも,採血室内に案内モニターを新設し,採血番号の表示と同時に自動放送による患者誘導を開始した。このように,採血台の増設や採血システム・機器の更新および患者混雑状況に合わせた人員配置の工夫の効果も検証したので,併せて報告する。

なお,本研究(報告)は東京大学医学部倫理委員会の承認を得て実施している(審査番号3683)。

II  対象と方法

対象は2014年10月1,2日の2日間に採血・採尿のため検査部を訪れた外来患者(回答者)とし,アンケート用紙は採血・採尿受付時に患者に配布して無記名式にて実施した。配布したアンケート用紙は受付および外待合所に設置した回収ボックスにて回収した。アンケートの内容は,採血の待ち時間,快適さ,採血や検査を担当するスタッフの接遇などについて,A4用紙4ページに枝質問を含め全32問とした。これまでの検査部で行ってきた活動に対する評価が的確にできるように質問文の語句に十分配慮し,前回2006年と比較するための項目,また,新たな質問項目も追加して調査した(Table 1)。

Table 1  質問について
I.採血についての質問 2006年 2014年
1. 採血待ち時間について(選択式および記述式)
2. 採血室について(選択式および記述式)
3. 採血スタッフについて(選択式)
4. 採血・採尿待合所(以下,外待合所)に設置されているTVおよび案内モニターについて(選択式および記述式)
5. 採血・採尿受付で配布している「基準値表」について(選択式および記述式)
6. 外待合所および採血室にあった方が良いと思われるもの(記述式)
II.採尿室についての質問(選択式および記述式)
III.その他のご意見・ご要望について(記述式)
患者さんのことについて(性別・年齢,各選択式)

◯:共通 ◎:◯ + α

また,採血システムから算出したアンケート調査期間の実際の採血待ち時間を,アンケート調査で得られた回答者の体感する待ち時間と比較検討した。

III  結果

1. アンケート用紙配布数および回収率

アンケートは採血開始から受付終了まで行い,配布数,回収率など実施結果をTable 2に示した。

Table 2  Summary of questionnaire survey
Survey Number of outpatients department visits Number of outpatients undergoing blood collection Number of surveys distributed Number of surveys collected (collection rate)
Day 1 3,220 846 596 489 (82.0%)
Day 2 3,768 1,027 825 765 (92.7%)
Total 6,988 1,873 1,421 1,254 (88.2%)

2. アンケート回答者(採血患者)の概要

2006年と2014年にアンケート調査で回答した採血患者の概要をTable 3に示した。当院での採血が2回目以降は2006年が95%,2014年が96%,2014年の診察前採血の割合は2006年より4%上昇して88%であった。前回のアンケート調査は午前中のみに実施したが,今回は2日間の午前・午後に実施したために,診察時間,採血受付時間は異なる。2014年には1日を通してアンケートを実施したが,やはり午前中の割合が多かった。回答者の年齢層をFigure 1に示すが,60代以上が6割を超え50代を加えると約8割を占めていた。また,診察予約時刻と採血受付時刻の差をFigure 2に示したが,診察前1時間以内に採血された方が46%であった。

Table 3  Outline of questionnaire respondents
2006
(1st survey)
2014
(2nd survey)
Gender ratio Male 53% 48.5%
Female 47% 51.5%
Experience of having a blood test For the first time 5% 4%
More than
2 times
95% 96%
Timing for blood sampling Before consultation 84% 88%
After consultation 16% 12%
Reservation time of consultation a.m. 90% 61%
p.m. 10% 39%
Blood/Urine collection time a.m. 100% 71%
p.m. 0% 29%
Figure 1 

Age of survey respondents (response rate: 76.2%)

Figure 2 

Residual time until reservation for consultation at the time of blood sampling reception

3. 回答者が感じた採血までの待ち時間(穴埋め式,回答率:約84%)(Figure 3
Figure 3 

How long did you wait for blood collection? (response rate: 84.4%)

回答者に採血までの待ち時間を質問したところ,5分以内が約50%,5–10分が27%で,10分以上と感じた回答者の割合は23%であった。

4. アンケート調査した期間の採血待ち時間

Figure 3に示した感覚的な待ち時間に比較して,採血システムの記録から算出したアンケート実施日の実際の採血待ち時間は,約91%が10分以内であった(Figure 4)。また,年間集計でも採血待ち時間が10分未満の患者の割合について,2013年は85.3%,2014年は91.9%で,2013年の機器更新以降概ね9割弱となっていた(Figure 5)。

Figure 4 

Actual waiting time for blood sampling calculated using the blood collection system on days the questionnaire was administered

Figure 5 

Average waiting time for blood collection throughout the year (2013–2014)

5. 採血を待つ間どのように感じていたか(選択式,回答率:約76%)(Figure 6
Figure 6 

What do you feel when you are waiting for blood collection? (response rate: 75.7%)

回答者の22%が「快適だった」,70%が「ふつう」と回答した。2006年と比較すると,「快適だった」と答えた回答者が15ポイント増加していた。その理由を複数回答可能な選択形式で質問したところ,回答者の多く(387名)が「待ち時間が短くて良かった」と回答した。

6. 採血スタッフ

採血スタッフの対応,言葉遣い,採血の説明,採血の手際についてどのように感じたかなど,接遇面に関しても調査した。スタッフの対応(選択式,回答率:77%)(Figure 7)は,2006年と比較すると,「非常に丁寧だった」の比率が19ポイント増加し,接遇面での改善も認められた。その理由を複数回答可能な選択形式で質問したところ,「礼儀正しかった」,「技術が優れていた」,「その他」の順に多く,2位に圧倒的大差をつけて「礼儀正しかった」が多かった。

Figure 7 

Survey of blood collection staff’s attitude (response rate: 77.3%)

言葉遣い(選択式,回答率:80%,Figure 8a)は,69%が「丁寧だった」,30%が「ふつう」,1%が「悪かった」と回答した。

Figure 8 

Capability assessment of staff

a: Staff’s honorific word (response rate: 79.6%)

b: Staff’s explanation for blood collection (response rate: 77.0%)

c: Staff’s skills of blood collection (response rate: 78.7%)

採血などの説明(選択式,回答率:77%,Figure 8b)は,51%が「分かりやすかった」,48%が「ふつう」,1%が「分からなかった・分かりにくかった」と回答した。

採血手際(選択式,回答率:79%,Figure 8c)は,69%が「手際がよかった」,29%が「ふつう」,1%が「もたもたしていた」,1%が「採血されることに不安があった」と回答した。

7. 手袋交換や採血台の衛生面6)(選択式,回答率:約79%,Figure 9
Figure 9 

Sanitation and hygiene (response rate: 79.1%)

回答者の73%が「適切である」,26%が「ふつう」,1%が「不安だった・非常に不安だった」と回答した。

8. 採尿室,外待合所および採血室(中待合所)についてお困りのことなど(記述式,I・II・IIIの回答まとめ)

採尿室については,臭いが気になる,個室(女子)の数を増やしてほしい,個室を広くしてほしい,荷物置き(棚)がほしい,という感想や要望があった。また,外待合所および採血室(中待合所)については,いす(ソファ)が少ない,中待合所の案内モニターの文字が小さい,呼出順が前後することがある,採血台が多く,案内モニターで呼出しされても場所が分かりにくい,呼出順番が過ぎてしまったときが困る(どうしたらいいか分からない),採血ブースが狭い(ブース内の荷物置きが狭い,いすに座りにくい)という苦情や意見,感想があった。

IV  考察

採血室での患者アメニティ改善には,施設の拡充や待合室の快適性の確保,採血技術の向上と安全面でのさらなる改善に加え,採血待ち時間の短縮化は必要不可欠であると考え,10分以内の採血待ち時間を目標に取り組んできた7)。このような採血室の取組みや貢献は,最終的には患者満足度や病院評価,病院収益において重要な意味を持つと考える。具体的には,外来採血待ち時間の短縮化や,搬送システムや検査機器の更新時に受付から検体検査結果報告までの時間(turn around time; TAT)を短縮化することにより8),患者アメニティのみならず検査結果報告が診察に間に合うために診療技術の向上に貢献し,外来迅速検体検査加算9)など病院収益へ貢献することも可能となる。待ち時間の短縮化で作業に手抜きが起こらないように注意し,当院では安心かつ安全面でもいち早く2008年から患者毎の手袋交換,2010年から手指衛生の実施を行い,安全面での改善にも取り組んできた6)。2012年,世界保健機関(World Health Organization; WHO)では,採血室においても患者毎の手袋交換や手袋交換時の手指消毒10)~12)について記載されたが,我々は採血待ち時間を延ばすことなく実施している。

このような待ち時間の短縮化,感染症防止策などの努力の成果を確認するために,定期的な患者満足度調査を実施することは有効である。我々は,2006年に採血室でのアンケート調査を実施しており4),この結果と2014年の結果を比較することにより今後改善すべき点や課題を見いだすことができた。

採血待ち時間のシステム上の実際の測定データは改善していたが,アンケートにおける患者の時間感覚とには乖離があり,次の課題が見いだせる。アンケートを回答した患者の感覚的な採血待ち時間は,2014年は2006年に比較して大幅に短縮していた。それに比較した採血システムの記録から算出したアンケート調査期間の採血待ち時間は,10分未満の患者が91%であり,20分以上待った患者はいなかった。ところが,採血待ち時間が10分未満と回答したのは8割弱であり,約5%が20分以上待ったと回答した。したがって,実際の測定データと患者の時間感覚にズレがあり,患者が感覚で感じる採血待ち時間のほうが長い傾向があった。感覚は正確ではなく多少の誤差は当然であるが,この結果から時間を忘れてしまうほど採血室が快適でもなく,採血待ち時間をさらに短縮することが望まれている結果であると示唆された。しかし,少し穿った見方をすると患者にとっては採血待ち時間が短いことが常識になりつつあるのではないかと感じられる。それは2013年5月の採血システム・機器更新により,採血待ち時間が短縮してから本アンケート調査を実施するまでに1年半経過しており,その間に患者のほとんどは採血を経験されていると考えるからである。

この患者の感覚的な待ち時間を適正にするには,広報活動が重要である。例を挙げると,当院の採血室や外来入口再来機横の掲示,外待合所案内モニターで,採血室の待ち時間の状況,採血から受診までのTATの情報を開示し,あらかじめ必要な時間を示すことが重要であると考えている。ただし,TATで最も長い生化学的検査は60~70分と表示しているが,アンケート調査では当院での採血は2回目以上の患者が95%以上にもかかわらず,採血後診察を受けるまでの時間が1時間以内の患者が50%程度と多く,その情報が周知されていないこともアンケートから明らかとなった。検査部では院内職員向けホームページなどにも採血室の混雑状況や待ち時間,各検査のTATを掲示しているが,十分に活用されているとは考え難かった。したがって,検査部から外来担当医師への情報やTATが周知されれば,担当医から患者への説明がなされ,診察までに検査結果が報告されないとの検査待ち時間でのトラブルも無くなると考えられる。

また,アンケートにより採血スタッフの接遇面についても課題が見いだせた。スタッフの対応に関して2006年と比較すると,患者の評価は高く,接遇面での改善も認められた。しかし,2014年に新たに追加した「言葉遣い」や「採血などの説明」についての質問では,まだ改善の余地があることがわかり,採血スタッフに対するさらなる教育の必要性が感じられた。

最後に,アンケート調査でしか拾いあげることができない課題もある。回答者の年齢層は50代以上が約8割を占めており,採尿室,外待合所および採血室への要望は,50代以上の患者が施設を利用する際に感じている不具合であると解釈できる。施設の場所や面積,部屋の形状の制約からすぐに改善することが難しいものが多いが,案内モニター表示や患者の誘導方法については次の採血システムおよび機器の更新では改善を検討したい。これらも病院を訪れる患者の特性により,患者の立場でないと施設の不具合を感じ取れないことがアンケート調査からわかった。

今後も患者混雑状況に合わせた人員配置の工夫,毎月開催する採血業務に携わる部門合同採血ミーティングにおける注意喚起や情報共有,その議事録の周知徹底により採血室の業務改善を図り,患者アメニティをより良い状態で維持できるよう努力していくことが求められる。また,ISO15189が求める検査利用者のフィードバック機構は,アンケート調査を実施することで採血室の運営に活かされ,採血スタッフのモチベーションの向上にも良いものであると考えられる。ただし,アンケート調査にもいくつか検討を要することが明らかとなった。50代以上の回答者が全体の約8割を占めていたにもかかわらず,アンケート内容を盛り込み過ぎたため文字が小さく読みづらい,「はい」と回答した方のみの質問に,回答していない方まで回答してしまうなど,アンケートの構成にも問題があった。次回の調査ではこれらの反省点を踏まえ,内容を絞り込み,文字を大きくするなどの改善し,洗練されたアンケート調査を実施することを考えている。

V  結語

アンケート調査の実施は,患者アメニティ改善や採血室の業務改善において有用であり,かつ有効にフィードバックできる方法であると考える。今後も検査部のシステムや機器更新の際は,患者からのアンケート調査を実施,集計し,より良い採血室および検体検査室の運営を心掛けたい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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