医学検査
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資料
小規模検査室における業務拡大と他部署からの印象が及ぼす影響
佐藤 さなえ
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2017 年 66 巻 4 号 p. 357-363

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Abstract

臨床検査技師を含むチーム医療の推進が行われているなか,臨床検査技師の病棟配置や業務拡大においては様々な課題がある。小規模検査室で業務拡大を進めるためには他部門との連携が重要であると考える。しかしかつての検査室は閉鎖的な空間で,声をかけにくい独特の雰囲気で他部門からの印象は決して良くはなかったと推察される。検査室の業務拡大のためにはまず「検査室は声をかけにくい雰囲気」という良くない印象を変えることが必要であると考えた。その手段として積極的な声掛けによりコミュニケーションを増やし,自主的にできる業務を取り入れ,そして要望は断らない,などの行動を重ねていくことで「なんでも親切に対応してくれる検査室」へと変化していった。細やかな気遣いや創意工夫,日々の小さな努力の積み重ねから決して良くはなかった検査室の印象は改善していき,徐々に看護部からの信頼,Dr.とのパイプ,上層部からの信用を獲得し,検査室の業務拡大につなげることができた。

今日の医療技術の発達,制度の革新が起こる中,医師や看護師の業務負担が課題となり,臨床検査技師を含むチーム医療の推進が行われている。日本臨床衛生検査技師会が行った実証調査では,臨床検査技師を病棟配置し業務を行うことにより検査関連業務における看護師の負担感は大きく解消されたとの報告がある1),2)。臨床検査技師の病棟配置や業務拡大においては様々な課題がある中,他部門にあたえる印象の改善が業務拡大に影響したとみられる当院の取り組みについて報告する。

I  背景

北仁会石橋病院は北海道小樽市にある精神科を主とする384床,7病棟からなる個人病院である。現在,職員数約300名のうち検査室スタッフは臨床検査技師2名のみで,尿一般検査,輸血検査等を除くほとんどの検体検査は外部委託となっている。かつては小樽に隣接する札幌市にある兄弟病院である北仁会旭山病院のほとんどの検体を受け入れ,両病院合わせて800床近くを受け持つ検査室であり,ピーク時には臨床検査技師5名,検査助手1名が在籍し,脳波,心電図などの生理検査のほか,生化学,免疫,血液,一般検査,細菌等多岐にわたる検査を院内で実施しており,当時の精神科単科の病院としては非常に充実した設備を備えていた3)。各担当者はお互いの領域を侵さずに黙々と業務を行っており,朝は清掃や各自担当の機器の準備などを終えると検体が搬送されるまでの間,検査室隣の技師室にて待機していたのであるが,検査室の中は無人となり,外から見ると非常に閉鎖的な空間で,用事があっても声をかけにくい独特の雰囲気で他部門からの印象は決して良くはなかったと推察される。

「この状況はまずい」,「何とかしなくては」と,まずは朝の待機中は検査室入口が見える位置にいるようにし,人が来たら出て行って声をかけるということを実践した。そして問い合わせなどがあった際,特に即答できないような場合には可能な限り資料を持って病棟などの現場へ出向いて説明などを行うようにした。

地元の小樽技師会で行われた「医療チームメイトの臨床検査技師の皆さんへ」という演題の現役看護師の講演では,臨床検査技師とは対等な仲間であると考えているとのことであった4)。全国学会で偶然聴講した,看護師が在籍していない無床の診療所で臨床検査技師が活躍している例5)では,ある分野をとことん突き詰めるエキスパートや検査の専門家として幅広く活躍できるジェネラリストを目指す風潮の中,それとは別の検査という枠を超えての臨床検査技師の可能性を感じた。

その後,退職者が出るたび業務の見直し,効率化や残っているスタッフの努力により増員せずに縮小されていく中,当院でも身の丈に合った検査室をめざし,徐々に他部門とのコミュニケーションが増え「頼まれたことは断らない検査室」という形ができてきた(Table 1)。

Table 1  検討により少人数検査室でも可能と考えられた項目
病棟からの要望で実現した業務
・病棟内診察室での心電図検査実施
・ベッドサイドでの心電図検査の実施
・病棟内研修の実施
検査スタッフが自主的に進め実施に至った業務
・パニック値の報告
・患者の誘導(必要に応じて)
・検査結果のファイリング支援(担当医ごとに分けて提出)
・採血管の病棟内在庫の期限管理
・採血容器一覧,各種マニュアルの刷新・新規作成
・スタッフに対する検査説明(臨床的意義,方法,容器,所要日数など)
・患者に対する検査説明(必要に応じて)
①検体検査:各項目についての一般的な説明など
②各種生理検査:検査目的,検査手順,前回検査時との比較,一般的な説明など
③超音波検査:前回検査時との比較,良性疾患の有無,経過観察,再検査,専門医紹介の可能性,一般的な説明など
・輸血前後の検査コーディネート
・検査依頼書,採血管の作成
・臨床検査技師による超音波検査
・真菌鏡検のための皮膚・爪の検体採取
・電子カルテシステムを利用した他部門との連携
・看護部門へのアンケート実施とフィードバックによる業務改善
現在実施には至っていない業務
・物品管理の一元化
・中材(消毒室)業務の支援
・輸血製剤管理の一元化
・採血業務(時間を限定し,1日に一つの病棟を支援)
・放射線室,心理室との連携(運用方法の統一,建て替え時に受付の一元化など可能なレイアウトを要望)

II  取り組み

1. 過去の失敗例から

院内での物品の払い出しは事務室,中材(消毒室),検査室,施設課など様々な部門が関与し,しばしば混乱も起こっていた。そのため検査室から払い出ししていた採血管,消毒液,手洗い洗剤などは衛生材料と一緒のほうがわかりやすく仕事がしやすいのではないかと「検査室から払い出ししている物品を中材に置かせて欲しい,私たち臨床検査技師なら消毒のお手伝いもできます」という旨伝えたところ,看護部長からは「検査が中材の仕事に手を出すとは何事だ」と強いお叱りを受け,さらには「検査が中材を乗っ取ろうとしている」というこちらの意図とは異なるうわさが広まり,検査室の印象は悪くなってしまった。

その後2009年に検体検査が外部委託となり「検査室はどうあるべきか?何をすべきか?」といったことを再び考えるきっかけとなった。検査室の外へのアピール不足の解消が課題となる中,まずは「患者様と接する機会の多い看護スタッフがミスを起こしにくく,ストレスなく働ける環境を作るためにできることを積極的に行おう」という姿勢を持つことから始めた。

2. 検査依頼書,採血管の作製

臨床検査技師が検査依頼書,採血管の準備をすることにより,容器の不足や間違い,必要な情報の記入漏れや特殊項目のチェックミスなどを防ぐことが期待できるとともに,現場スタッフの業務軽減につながると考えられた。当時,検査依頼書は検査センター指定の手書き用複写のものを使用し,検体ラベルも手書きでラベルの記入は全て看護師が行っていた。はじめに病棟師長と検査係などに,現場レベルの聞き取りを行った。どの部署からも反対の声はなく「業務が軽減されるのなら,ぜひお願いしたい」というものであった。次に,どのような方法なら看護部の負担にならずに業務を移行できるかを検討した。病棟ではそれぞれ独自に各患者が定期的に行っている検査内容の一覧表を持っており,それに患者ID,年齢,担当医師名など必要情報を加えたものを採血予定3日前までに検査室に提出していただくという方法を考えた。そして十分な数の試験管立て,ファイルなどの必要な物品の準備を整えたうえで,看護部長への提案を行った。現場の声,メリット,具体的な方法や,準備が整っている状態であることから,すぐに採用の許可が下りた。

検査室では業務開始にあたり,太字のボールペンを使用し,読みやすい字を心がける,ラベルの貼る位置をそろえる,並べるときのラベルの向きをそろえる,時間指定などの特殊指示がある検体は,分かりやすい位置によけるなど,細やかな配慮を心がけた。その結果,現場からは「検査室に任せるとやりやすいよね」「他にも頼めばやってくれるかな?」という声が聞こえ始め,さらに業務の拡大につながり,新しい仕事も丁寧に行うことで信頼度がさらに上がり,院内での評価にもつながった。

3. 臨床検査技師による超音波検査の実施

超音波検査装置導入時は非常勤の内科Dr.が週1,2日来院時に検査を行っていた。臨床検査技師も積極的にかかわりたいという姿勢であったが「内科の先生にお任せしているので,検査技師は手を出さないでほしい」とのことで,業務の獲得には至らなかった。

その後2006年に常勤の内科Dr.が採用となったが超音波検査は内科Dr.が実施し,検査室では引き続き場所の提供と装置の管理を行うのみで,Dr.とのコミュニケーションをとる機会はほとんどなかった。検査室ではセッティングを行うのみではいつまでも関わることなどできないと考え,まずは,先生が少しでも仕事をしやすくなるように,タオルを使いやすい位置に用意する,採血データや過去の超音波所見を探し出しデスクの上に並べて置くなどしてみた。続けていくうちにDr.から「いつもありがとう」と声をかけてもらえるなど,徐々にコミュニケーションが増えてきた。そのうち内科Dr.自ら「技師さんがエコーを覚えてくれるとありがたいのだけど」と,決して臨床検査技師が超音波検査に携わることに反対していた訳ではないということがわかり,Dr.の要望ということで病院としても動かないわけにはいかなくなり,正式に検査室がエコーに関わることができるようになった。内科Dr.とは良好な関係が続いており,精神科Dr.からも直接技師にエコーの問い合わせや依頼が入ることも増え,検査実績は着実に伸びている。

4. 真菌鏡検のための皮膚・爪の検体採取

2015年度より,臨床検査技師の業務に検体採取が加わった。当院ではその中で比較的件数の少ない皮膚・爪の検体採取に臨床検査技師も携わり,検体採取から検査報告までを一貫して行える形を整えようと考えた。

上層部からはすでに「検査室は少人数ながら他部門に配慮し,期待を超える実績を出すことのできる部署」という評価をされていたのであとは準備を整えるだけであり,まずは当然ながら指定講習の受講,つぎに必要な物品,使用した器具の消毒の手順などを確認した。検体採取等に関する厚生労働省指定講習会の受講により必要最低限の基礎知識を身につけると同時に,ライセンス上の問題もクリアした。検体採取用の備品として皮膚採取用に安価な並ピンセット(Figure 1),AA先曲りピンセット(Figure 2)を各5本購入した。真菌を目的とした検査ではより正常な部分に近い病変部からの検体採取が望ましいとされるため,剥離した皮膚の根元近くを採取する。鑷子では採取が困難な発赤やびらんなどは替刃メスNo. 11(Figure 3)を使用することとした。病変部の正常部分との境界近くをメスの背側でこすることにより表皮が剥離し,採取が可能となる。乾燥した皮膚ではこの方法により鱗屑をそぎ落とし,小水疱の場合は鑷子で水疱を挟んで摘み取るか,メスで水疱蓋を切り取る。爪の採取には患者所有の爪切りまたは病棟備品であるニッパー型の爪切り(Figure 4)を借り,使用することとした。ニッパー型の爪切りを使用することで,肥厚した爪の皮膚により近い深部を採取することができる。表在性の病変では表面をメスで削り取り検査する。

Figure 1 

並ピンセット

Figure 2 

AA先曲りピンセット

Figure 3 

替刃メスNo. 11

Figure 4 

ニッパー型爪切り

使い捨てを除き,使用後の器具は院内の中材にて洗浄・滅菌処理をすることが可能であり,必要時に依頼することとした。そして「これからは,臨床検査技師が検体採取を行います」という提案の仕方ではなく「今後,業務として取り入れることを考えているので,検体採取の際は,可能な限り同席させていただきたい」とお願いする形をとった。特に審議されることもなく採用決定となった。

ほとんどの例で臨床検査技師による検体採取が実施されており,依頼がある旨連絡が入った際は電子カルテにて詳細情報を確認し,病棟スタッフの介入なしに採取から報告まで行うことも少なくない。病棟では「連絡だけすれば全部臨床検査技師がやってくれる」という認識が浸透してきている。

5. 電子カルテシステムを利用した他部門との連携

検査室の中にいてもできる業務を積極的に取り入れることで少人数でも他部門の支援が可能となる。当院では2014年3月より電子カルテシステムが導入され,様々な情報を検査室にいながらにして得ることが可能となり,それに伴い他部門への支援の幅も広がった(Table 2)。

Table 2  電子カルテシステムを利用した他部門との連携
電子カルテを利用した取り組みの例
・病棟,患者に配慮したスケジュール立て
・直近の検査データより最低必要採血量を算出し採血困難者の負担軽減
・処方薬と検査内容の照らし合わせ(ハイリスク薬の適正使用)
・検査依頼の重複,漏れのチェック

検査室が電子カルテシステムを活用し様々な取り組みを行うことにより,病棟スタッフや患者の負担軽減につながっており,検査に関わるインシデントはきわめて少ない。また,検査の重複や漏れを最小限にとどめることにより,経済的な損失を抑えることにも貢献できている。

6. アンケート実施とフィードバック

現在行っている業務のうち13項目について主任以上の看護師を対象としたアンケートを実施した。臨床検査技師が係わる業務・看護部支援について項目ごとに「よい」,「ふさわしくない」,「どちらともいえない」の3つより選択,その他意見や要望を書き込むための自由記載欄を設けた。集計結果と結果から読み取れる問題点に対する業務改善案などを看護師長会で報告し,レポートとしてまとめたものを後日配布している。

全体の87.5%で「よい」との回答が得られ,「ふさわしくない」という回答は0であった(Figure 5)。

Figure 5 

看護部を対象としたアンケート結果

「よい」の割合が50%と最も低かった患者に対する検査説明に関しては自由記載欄に「実際に説明している所を見ていないので判断できない」,「どの程度の説明が行われているのか知りたい」という意見が寄せられ,不透明さの解消と周知が課題となった。その他コメントとして,検査室への感謝の声も多数得られたが「いつも支援していただき助かっている」,「検査室のチェック体制に病棟ではとても助けられている」,「検査の支援のおかげでスムースに業務を行うことができ感謝している」等,種々の取り組みを「支援」であると捉えられている傾向にある。一方病棟・ベッドサイドで行う心電図検査について「どちらともいえない」を選択した方からは「誘導するスタッフの負担が大きいので改善してほしい」,「もっと早く終わらせてほしい」と臨床検査技師の「業務」であるという前提での意見を得ることができた。

アンケートを行うことにより問題点を浮上させ,具体的な業務改善を進めることで現場へのフィードバックへと繋げることができ,繰り返し行うことでニーズの再確認,新たな問題点の抽出が可能となる。

III  問題点と対応

臨床検査技師の病棟配置や業務拡大において,どの規模の施設でも問題になるのは,やはり人員の確保である。現行の業務を維持しながらの関連部署との調整,新たに必要なスキルの習得も含めると一層の負担となると感じられる。小規模検査室でもまた,少人数ゆえに物理的な制約がある。当院の場合は1名が休暇などで不在になると単純に考えてマンパワーは半分になってしまい,通常の仕事量と質を維持することが困難なことも考えられる。他部門との信頼関係が構築できていることで,手薄になることがあらかじめわかっている場合には可能な限り周知し「何ができて,何ができないか」を明確にした上で,できないこともあるということを理解してもらい,必要な場合には力を貸してもらうことで業務に支障は起きていない。

IV  考察

検査室の業務拡大のためにはまず「検査室は声をかけにくい雰囲気」という良くない印象を変えることが必要であると考えた。その手段として①積極的な声掛けによりコミュニケーションを増やす,②自主的にできる業務を取り入れる,③要望は断らない,などを重ねていくことで「なんでも親切に対応してくれる検査室」へと変化していった。

社会心理学的には自己の印象を操作する方法として目標とする印象によって「取り入り」,「自己宣伝」,「示範」,「威嚇」,「哀願」の5つに分類している。「取り入り」は他者から好意的な印象でみてもらうことを目的とし,「自己宣伝」は知識,技術などに関して自分が有能であることを印象づける方略である。「示範」は道徳的に価値が高い人間であるという印象を他者に与えようとする方略である。「威嚇」は相手に否定的な結果がもたらせる危険があることを示し,その人に恐怖感を抱かせ,「哀願」は自分が弱い存在であることを印象づけることによって他者から援助・養育してもらう方略である6)

業務の拡大を目的とし「自己」を「検査室」と置き換えた場合,①の積極的な声掛けによりコミュニケーションを増やす行動は「取り入り」に相当すると考えられる。②の自主的にできる業務を取り入れるというのもまた「取り入り」であり,そして「示範」でもある。さらに行動自体が既に業務の拡大であり,目標の一部を成し遂げていることから自信となり「自己宣伝」といった手段となる。③の要望は断らないという行為も「取り入り」,「示範」であり,それを繰り返すことで「自己宣伝」の要素が加わる。

このように印象を変えるための行動は目的を成し遂げるための手段となり,繰り返すことで影響しあい印象にも変化が起こり,業務拡大への近道となり得ると考えられる。

V  結語

細やかな気遣いや創意工夫,日々の小さな努力の積み重ねから決して良くはなかった検査室の印象は改善していき,徐々に看護部からの信頼,Dr.とのパイプ,上層部からの信用を獲得し,検査室の業務拡大につなげることができた。小規模だからこそ検査室内のコンセンサスを得やすく,フットワークが軽く“隙間”に入り込みやすいため,様々な試みを試すことが可能である。しかし,そこには的確なニーズの把握や出過ぎたことはしないということが重要であると考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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