医学検査
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検査科看護部ワーキングから病棟検査技師活動への試み
山田 幸司塩谷 里実古井 清舟橋 こずえ北川 訓子山口 悦子河合 浩樹
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2017 年 66 巻 4 号 p. 428-434

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Abstract

へき地医療拠点病院の当院は医師,看護師不足に加え,高齢かつ認知症を患う介護度の高い患者が多い。これはまさしく日本医療が抱える最大の問題に直面しているともいえよう。限られた資源,財源の中でセクショナリズムの壁を取り払い,チームとして医師,看護師を支援し患者に最善の医療が提供できる環境を構築するために「検査科看護部ワーキング」を立ち上げ,病棟検査技師として新たな診療支援(業務拡大)に取り組んだ。

I  はじめに

当院は愛知県中山間地域におけるへき地医療拠点病院であり病床数190床,検査技師数8名(パート1名)で検査室を稼働している(検体:生化学,免疫,血液,一般,細菌(遺伝子),生理:心電図,超音波,肺機能,筋電図,ABI,In Body,その他)。チーム医療への関わりとしては採血管予約発行,SMBG指導,糖尿病教室への参画,ICTラウンド,地元情報誌作成などの活動を行っている。平成28年4月に更なる診療支援(業務拡大)を模索するなかで,病棟検査技師活動(ward medical technologist; WMT)の実現に向けて「検査科看護部ワーキング」を発足し,平成28年10月より病棟出向を開始した。

II  検査科看護部ワーキング

基本理念:患者にベネフィットが存在し,その過程で医師や看護師をはじめとしたチーム医療スタッフの診療支援に寄与することを前提とした上で業務内容を協議し,患者満足度の向上,看護業務の効率化,医療安全の確保等を目指す。

1. 第1回検査科看護部ワーキング(2016年4月20日)(Figure 1
Figure 1 

検査科看護部ワーキングの様子

1) 参加メンバー

検査科からは病棟検査担当技師,技師長,病棟からは現場の意見や思いを十分に取り入れながら協議できる環境が必要と考え,中堅看護師である4西病棟係長,4東病棟主任級看護師が選任された。

2) 趣旨説明

ワーキングの基本理念について検査科,病棟看護部双方において同意を得た。例えば病棟検査技師による採血によって,病棟スタッフから「楽になった,助かる」などの意見しかないようであれば,本来の目的に到達していないこととなる。病棟スタッフが採血に費やしていた時間を患者ケアに還元させるという意識を持って共にチーム医療を実践していく必要がある。病棟検査技師は病棟において「ただの便利屋」に収まってはならない。それにより,病棟検査技師活動のモチベーション低下や検査室内への不理解に繋がりかねない。

また高齢患者が多いことから,寝たきり,認知症,神経損傷,骨粗鬆症,骨折など,様々な背景を持つ患者のケアには多くの人手と時間を要する。ストレッチャーからの移動,床ずれを防ぐための体位変換,生理検査室への患者搬送など検査技師でなくてもできることが,間接的にも患者ケアに繋がるのであれば,可能な限り取り組んで行くこととした。

2. 第2回検査科看護部ワーキング(2016年7月21日)

1)他施設における病棟検査技師活動の実績・効果について紹介した1),2)

2)各病棟看護師から病棟における検査関連業務の種類や業務量について説明を受けた。それにより,朝食後採血,昼食前血糖測定,検査説明などが病棟検査技師業務として実践可能と推察した。

3)病棟スタッフを対象に「病棟検査技師に求めるもの」についてアンケート調査することとした。

3. 第3回検査科看護部ワーキング(2016年8月24日)

1)アンケート調査「病棟検査技師に求めるもの」から以下の提案を病棟スタッフよりいただいた。

採血(血培含む),出血時間検査,昼食前血糖測定,検査結果説明(医師とのコンセンサスのもと),特殊項目の採血管準備(外注等)や手技の対応,検査実施場所への患者搬送,輸血時の製剤搬送と確認,自己血採取サポート(時間や量の計測),緊急穿刺・生検時の補助,ポータブルエコー装置貸出対応,検査関連物品の管理,蓄尿および随時尿検査の説明と検体採取,検査関連業務の問い合わせ,検査関連の勉強会,病棟と検査室間のクッション役,その他。

これら事項の実施タイミングおよび頻度,それに関わる看護師の人数などを参考にワーキングで協議を重ね,採血,咽頭や鼻腔からの検体採取,随時血糖測定,各種検査説明,自己血採取補助,輸血製剤搬送,患者搬送,各種問い合わせ,病棟会議への参加,病棟スタッフへの卒後教育などを病棟検査技師業務とした。

4. 第4回検査科看護部ワーキング(2016年9月16日)(Figure 2
Figure 2 

病棟検査技師業務内容と対応時間

1)病棟検査関連業務に関わる電子カルテ使用方法について病棟スタッフから説明を受け,電子カルテ使用における検査技師権限の変更の有無について確認した(代行入力権限,ワークシート閲覧および作製権限等)。

2)派遣開始日:2016年10月1日(土)

3)派遣病棟:2病棟(4西病棟,4東病棟:全病棟の50%)に1名の検査技師を兼任で派遣する。

4)病棟出向時間:10時~11時40分,14時~病棟検査関連業務終了まで

病棟業務遂行後は検査室に戻り検体検査業務を行うが,必要に応じて再度病棟に出向するなど柔軟な対応をはかり,患者や病棟のニーズに合わせた業務形態の構築に努める。

5)病院幹部および各委員会にて病棟検査技師活動の趣旨説明。組織横断的取り組みという観点から病棟出向に先駆けて,医局会,看護課長会,病院運営会議などで活動支持を受けるとともに,他部署との連携・協力体制の構築に取り組んだ。

5. 第5回検査科看護部ワーキング(2016年10月20日)(Figure 3
Figure 3 

病棟業務運用変更に伴う調整会議(検査室)

1) 病棟検査技師活動施行1ヶ月の振り返り

(1)病棟によって異なる運用方法が存在し,病棟のルール習得に時間を要している。

(2)点滴側からの血液採取は避けなくてはならないことであるが,実際に現場で採血することで誤刺のリスクを経験した。点滴の穿刺部位が見えていればその腕から採血することは無いが,認知症患者による点滴の自己抜去を防ぐため,点滴を患者自身の手の届きにくい場所を選択することがある。そのために穿刺部位や点滴ルートの殆どが寝巻で隠れる形になっており,採血者の点滴への注意が怠りやすくなる可能性がある。

2) 患者や病棟スタッフからの評価

病棟検査技師活動について患者およびご家族,病棟スタッフからはトラブルなく好評とのご意見をいただいた。また,技師1名で2つの病棟を兼任しているため,不在時に依頼を取りこぼすこともあったが,病棟検査技師用PHSに連絡をいただき可能な限り依頼を受けることとした。

3) 新規提案

(1)昼食前血糖測定を病棟検査技師の一元管理下で運用することとした。

(2)看護部門から『10分で構わないので8時30分から病棟に来て欲しい』との強い要望をいただいた。それを受け検査科内で協議・調整を行い,翌月11月1日より8時30分~9時00分までの30分間,病棟採血のため更に追加出向することとした。

6. 第6回検査科看護部ワーキング(2016年11月17日)

1) 病棟検査技師活動施行2ヶ月の振り返り

(1)病棟検査技師に委託された業務が,両病棟を合わせると規定時間内に対応しきれないほど需要が増えたため,一部業務制限することとした。

(2)採血や血糖測定時に患者搬送の依頼が重なった場合は,専門分野である検査業務を優先することとした。

(3)病棟におけるPOCT機器の一元管理(機器動作チェック,精度管理,清掃,時刻チェック)を病棟検査技師が受け持つこととした。

2) 患者や病棟看護部からの評価

順調に活動を進める中で看護部からは,「病棟で何か困っていること,心配なことはありませんか」「どうすれば,病棟で検査技師さんがもっと仕事をしやくすなりますか」などのとても嬉しいご意見をいただき,チームとしての連携感や検査科への歩み寄りを実感している。

III  実績

1.採血に関しては,1日あたり8~20件実施している。当院の特徴である高齢かつ寝たきりの易感染性患者は採血困難者が多い。点滴や骨折時のギプス使用で両腕が塞がっている患者への血液培養検査用2セット採血などが度々あるため,高度な採血スキルが要求される。また,検査技師としての立場から血液培養検査用採血の手技について看護師にレクチャーし,コンタミネーション防止に努めている。従来,病棟看護師は検査業務(手技)について先輩看護師から教育を受け,それが繰り返されてきた。その中で手技が基本から逸脱することもあるが,検査技師が病棟にいることで手技の修正は可能となり,インシデント予防,更には検体採取から測定,結果報告まで一貫して精度の高い検査の実施が可能となる(Figure 4)。

Figure 4 

採血・昼食前血糖測定実績

2.昼食前血糖測定では,1日あたり10~15件測定している。測定結果を記録し担当看護師に報告している。この業務が病棟検査技師に一任されたことにより,個々の患者の日常的な血糖値を把握することができるようになった。そのため血糖値の急激な変動に敏感に気づき,病態変化や服薬忘れなどについてチーム医療スタッフ間で確認し迅速な対応がはかれている(Figure 4)。

3.患者への検査説明では1日あたり10~20件説明している。主に翌日の検査説明を行っている。検査説明時に患者から検査について質問を受けることがあるが,検査の専門職として患者の理解力に合わせた分かり易い表現で説明することにより,患者には安心して検査を受けていただくことができる。さらに,正確な検査結果を得るために患者の協力(努力)が必要なケースや,検査に伴う痛みの程度などについて事前に患者の理解を深めておくことで当日の検査がスムーズに行うことができる。また,検査以外のことで患者から悩みや質問などを受けた場合には,担当看護師や医師に報告して情報共有に努めている(Figure 5)。

Figure 5 

検査説明・患者搬送実績

4.患者搬送については,1 日あたり1~4 件搬送している。これは主たる業務ではないが,可能な限り時間を調整し積極的に協力するよう努めている。これも看護師不足による病棟スタッフの業務負担軽減に大いに貢献することができるだけでなく,患者搬送時に患者とのコミュニケーションがはかれ,貴重な情報を得ることもある。患者搬送からは他にも多くのことを学んでいる。例として患者容態の観察や搬送時の確認事項(酸素ボンベの酸素残量,流入酸素設定,転落防止柵の取り付け位置,点滴チューブ・電源コード類の折り曲げや引っ張り,タイヤへの巻き込み,ベッド周辺の転落・徘徊防止用センサー類の電源管理)などがある。スタッフの不注意により医療事故に繋がりかねない事項でもあり,これまで「検査の教科書」では学んで来なかったことへの知識,技術が要求され検査技師にとっても貴重な臨床現場を知る機会となっている(Figure 5)。

5.病棟検査技師活動開始当初,依頼がほとんどなく病棟にはニーズがないのではと錯覚しそうになる状況もあったが,電子カルテや検査システムからできそうなことを一つ一つ探し出し,こちらから積極的に病棟スタッフに声を掛け依頼数を増やしていき,今では逆に業務制限するほどに至っている。病棟には病棟スタッフ,検査技師がいまだ気づいていないニーズが隠れていることが多い。だからこそ,我々検査技師が現場に行って認識を与えることも重要であると考える。

IV  効果

1.病棟における検査関連業務を病棟検査技師が担うことにより,それに費やされていた時間を他の看護業務に当てることができ,看護師による患者ケア時間の増加に繋がっている。

2.特異的な検査データが得られた際は,臨床症状を現場にいる病棟検査技師に確認することが可能であり,病棟検査技師はその情報を医師だけでなく担当看護師や病棟薬剤師にも迅速に情報共有し,患者への適切な対応が可能となっている。

3.検査説明において,生理検査時の痛みや苦しさ,大変さなどを自身の体験を交えながら説明することにより,患者の不安を軽減することができている。

4.緊急採血時に,採血管の準備,検査オーダー内容の確認,検査項目内容から最低必要採血量を計算し,採血困難な患者にも可能な限りストレスをかけることなく検査を行うことができている。

5.病棟薬剤師と連携し,血中薬物濃度検査採血の適正化に努め採血時間の間違い防止および検査データの有効活用に貢献している。

6.検査に関わる「問い合わせ」への対応や病棟スタッフへの卒後教育により,検査知識・技術の向上,検査関連インシデントの低減,病棟と検査室間のトラブル減少に寄与している。

また,検査関連のインシデントが発生した際は,病棟検査技師が検査室と病棟とのクッション役として最善な改善策を提案し,速やかな問題解決と再発防止に努めている。(検査室と病棟の事情を把握した上での提案・対応)

7.病棟検査技師活動が病院内に新たな息吹をもたらした。これによって検査科以外の他部門もチーム医療参画(協働)への意識が高まり,院内のチーム医療活動の活性化が進んでいる。

V  反省

複数の病棟を兼任しているため,依頼が重なりマ‍ンパワー不足状態になることがある。可能な限り調整し依頼を取り零さないように努めているが更なる改善を検討する。

VI  考察

1.技師8名の中から1名を病棟に派遣させることは容易なことではないが,当検査室ではスタッフがほぼ全ての業務を実施できる土台が存在していたことから,病棟出向による検査室内業務の調整は全員で協力してバックアップすることが可能であった。病棟検査技師自身も一分野に偏ることなく広い知識と技術を備えた上で,病棟に出向できている。

2.病棟に常駐しているからこそ生まれてくる効果がある。「検査に関する問い合わせへの対応」では,病棟スタッフから「病棟に検査技師がいれば検査科に電話してまで聞くことではないと感じたことでも気兼ねなく聞ける。些細なことから専門的な内容まで質問・相談ができる」といった意見をいただくことがある。病棟検査技師にいつでも何でも聞ける環境が存在するだけでも病棟スタッフの精神的負担軽減に寄与すると共に,医療事故防止やチーム連携向上にも繋がる。

VII  結語

当院においても医師・看護師不足の声を耳にするが,従来看護師が行っていた検査関連業務を病棟検査技師が担うことにより診療及び看護の充実とリスクマネージメント,患者QOLの向上に役立てたものと確信している。2025年問題を見据え医療改革が進む中,病棟には専門性を持つ多職種の協働(チーム医療)が必要である。また,チーム医療への参画は患者,医師,看護師を支援する為だけではなく,我々検査技師自身の為にもなることを忘れてはならない。臨床の現場を直に体験することにより,医療人としての感性に多大な影響を与えてくれるはずであり,その経験を活かし更に地域に根ざした検査室,開かれた検査室創りに挑戦していきたい。

 

本研究は個人情報に触れていないため倫理委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  山田 幸司:「病院検査部のチャレンジ2004 WMTで入院医療の質向上へ」,THE MEDICAL&TEST JOURNAL,第877号(16).
  • 2)  日本臨床衛生検査技師会:臨床検査技師のためのチーム医療教本,じほう,東京,2015.
 
© 2017 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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