2017 年 66 巻 4 号 p. 435-438
臨床検査技師による様々なチーム医療への参画が試みられ,当院においてもICT・NSTなどに臨床検査技師が参画している。輸血・細胞治療センターでは輸血専任技師(以下,専任技師)が2011年7月より中央手術部検査室への常駐を開始し,手術時使用予定の輸血製剤の管理,血漿分画製剤の管理,血液専用保冷庫の管理,大量輸血時の介入をしている。2013年8月より臨床的意義のある不規則抗体検出患者への説明を開始し,主治医が専任技師による患者への説明を希望した場合,専任技師が直接患者へ説明を行い,『輸血時の注意カード』を手渡している。2015年4月より,医師・看護師の業務負担軽減および臨床検査技師の業務拡大をさらなる目標とし,血液内科病棟への常駐支援を開始した。
近年,臨床検査技師による様々なチーム医療への参画が試みられ,当院においてもICT・NSTなどに臨床検査技師が参画している。2011年11月からは外科病棟への臨床検査技師の常駐を開始し,2013年4月からは救急災害棟への24時間体制での支援を開始している。輸血・細胞治療センターでは輸血専任技師(以下,専任技師)が2011年7月より中央手術部検査室に常駐し,2013年8月より臨床的意義のある不規則抗体検出患者への説明を開始した。医師・看護師の業務負担軽減および臨床検査技師の業務拡大をさらなる目標として,2015年4月より血液内科病棟への常駐による支援を開始した。今回,専任技師として実施してきた病棟・臨床支援の内容を紹介する。
中央手術部(手術室16室,ハイブリッド手術室1室)内検査室に専任技師が,月曜日~金曜日の朝9時から17時の間に1名が常駐している。従来,中央臨床検査部の技師が常駐し,血液ガス測定,血中マグネシウムイオン測定,総蛋白測定および検査機器メンテナンスを実施していたが,輸血・細胞治療センターに業務が移管されたことで専任技師が担当することになり,輸血関連の業務である手術時使用予定の輸血製剤の管理,血漿分画製剤の管理,血液専用保冷庫の管理,大量輸血時の介入業務を追加した。
2. 手術部の輸血製剤運用の変化従来の手術部への血液製剤の搬出は輸血部門から病棟に払い出し,患者と共に手術部へ搬送されるという運用であったが,輸血部門から直接手術部へ血液の搬送を行うよう運用の変更を行った。それにより,手術部に搬送された血液はそのまま専任技師が検査室内の血液専用保冷庫で保管管理を行い,輸血必要時に各手術室内への搬送とした。また,新鮮凍結血漿(FFP)は随時解凍を行い同様に搬送している。
3. 大量輸血時の介入大量出血時には検査室担当の専任技師が手術室担当の麻酔科医や看護師と直接的に情報を交換し,その情報を輸血部門と共有し円滑かつ迅速な血液提供ができる体制を構築した。
4. 不規則抗体検出患者への説明従来,新規に不規則抗体が検出された場合,専任技師から主治医に連絡して説明を行い『輸血時の注意カード』を発行後,主治医より患者に対し説明を行っていた。しかし,主治医より説明を受けた患者から「よく理解できなかった」,「説明が不十分であった」との相談が輸血・細胞治療センターに寄せられた。主治医による不規則抗体に関する説明が十分でないことが判り,専任技師が直接患者へ説明して抗体保有を記載したカードを患者へ手渡す運用に変更した(Figure 1)。

不規則抗体検出時の運用
血液内科病棟には専任技師5名が担当しており,月曜日~金曜日の朝9時から17時の間に1名が常駐している。採血業務は9時以降に採取依頼のある採血及び入院時採血,検査室への検体搬送,病棟への輸血製剤搬送(定時・緊急),血漿分画製剤の搬送,血液培養採取の介助,翌朝の採血管準備と患者への説明,血液保冷庫の温度管理を実施した(Figure 2)。

病棟での一日のスケジュール
説明実施率は2011年8月~2016年12月までに新規に検出された不規則抗体132例のうち122例(92%)を対象とし,専任技師が患者へ説明を行った(Figure 3)。患者からの質問には,「どのくらいの頻度で抗体を作るのか」,「なぜ抗体が作られたのか」など医学的な質問もあるが,「献血カードを持っていると優先的に輸血を受けられるのか」,「食べ物で気をつけることはあるのか」など想定外の質問もあった(Figure 4)。

2013年8月から2016年12月における説明実施率

説明時の患者からの質問
1日の作業量は,採血は平均3.3件,製剤搬送は平均7.3件,血培採取介助は平均0.4件(2015年4月~2016年12月集計)であった。
3. 血液内科病棟へのアンケート結果支援開始4か月後の2015年7月に病棟に対しアンケートを実施した。回答者は35名(看護師29名,診療補助員4名,事務員2名,回収率78%)であった。「輸血部技師が病棟に出向するようになり病棟業務の負担は軽減したか」に対し,「軽減した」37%,「少し軽減した」49%,合わせて86%が軽減を実感していた。また,軽減したと回答された方に,「軽減した分,新たに取り組めた事柄がありましたか」の問いに対しては,「入院時,採血以外の事で関わる時間が増えた」,「患者対応や保清に入ることができるようになった」,「全体的に業務がスムーズになった」,「検査結果が早くなったように感じる」などの回答を得た。業務支援内容について業務軽減の視点から「非常に役に立っている・効果的←5・4・3・2・1→無効・変わらない」とする5段階の回答において,すべての項目で3点以上の評価であった(Table 1)。
| 質問項目 | 平均 |
|---|---|
| 早朝採血以外の採血 | 3.8 |
| 血培採取介助 | 3.2 |
| 輸血製剤搬送 | 3.7 |
| 採血管準備および患者への説明 | 4.0 |
| 検体搬送 | 3.7 |
支援業務として挙げている検査相談・説明,臨床検査・輸血勉強会(看護師対象),臨床検査・輸血説明(患者対象),動脈ガス採取時の介助,骨髄採取時の介助,鼻腔・咽頭粘液の採取,土曜・日曜日の支援拡大の7項目に対して,専任技師に今後実施してもらいたい内容を尋ねたところ,土曜日・日曜日の支援拡大を望む声が多かった(Table 2)。
| 支援内容 | 回答数 |
|---|---|
| 土曜・日曜日の支援拡大 | 31 |
| 骨髄採取時の介助 | 19 |
| 臨床検査・輸血勉強会(看護師対象) | 17 |
| 鼻腔・咽頭粘液の採取 | 14 |
| 動脈ガス採取時の介助 | 12 |
| 臨床検査・輸血説明(患者対象) | 9 |
| 検査相談・説明 | 8 |
採血時や翌朝の検査説明実施時に,患者より検査や輸血に関する質問を受けることがあるが,最も多いのが検査結果や検査項目に関する質問である。その他には,血液培養採取時の清潔操作の必要性や,安静時採血の理由の説明などがある。輸血に関する質問はそれほど多くはないが,造血幹細胞移植後の異型輸血に関する説明希望や,「人間の血液型は変わるのか」などがあった。
手術部検査室の常駐に関しては,手術部内に専任技師が常駐することにより,輸血製剤の管理体制が充実し輸血療法の安全性が向上したと思われる。また,大量出血時などは,直接医師や看護師との情報共有が迅速に行え,円滑な血液準備に繋げることができた。手術部検査室での業務を導入するに当たっては,当院の臨床検査技師は検査室の外で活動することが少なかったことから臨床現場で業務をするという環境の変化への対応が必要であった。また,輸血や検査のことを検査室ではなく直接常駐している技師に問い合わせることで円滑な業務が可能になると考え,専任技師が手術部に常駐していることの認知度を向上させる必要があった。今後は,手術部での輸血療法の安全性を向上させるため新たな支援の必要性を検討している。
不規則抗体検出患者に対しての説明業務は,患者からの「よく理解できなかった」という問い合わせが契機になっている。その背景には,必ずしも主治医が輸血療法に対し専門的な知識を有しておらず,主治医は専門家である専任技師に説明を託したほうが良いと判断したことにある。専任技師が患者と直接会話することで「患者の生の声」を聴くことができるようになったが,説明時には想定外の質問をされることもあり,説明を行う難しさを実感した。一方,患者は医師よりも技師のほうが気軽に質問しやすいと感じているようであり,その環境は提供できていると考えている。新規の不規則抗体検出時には随時説明が実施できるように,患者に対して説明する力量のある専任技師を育成することが必須であるが,総合的に見て専任技師の能力が発揮できる業務であると考える。
血液内科病棟での支援業務は医師・看護師の業務負担軽減および臨床検査技師の業務拡大をさらなる目標として開始したが,看護師の業務負担軽減の部分ではアンケート結果より看護師を含む病棟職員の86%が負担軽減を実感しており,軽減されたことで発生した時間は他の業務に取り組むことができているとの回答を得た。専任技師の業務拡大部分は,輸血関連の業務だけでは制限があるため常駐することは難しく,検査全般に関する業務対応が必要であった。今後は,病棟業務を進めていく中で医師,看護師とのコミュニケーション不足により,些細な食い違いやインシデント(主にヒューマンエラーに起因するもの)が発生していることも事実であり,発生した事象を解析し改善していかなければならないと考えている。今後の病棟支援業務の拡大については専任技師としての力量を活かし,輸血に関する医師,看護師への勉強会の開催や病棟カンファレンスに参加予定であり,患者への輸血療法の効果や副作用説明については,メリット・デメリットを含めて説明を開始していきたいと考えている。
我々の試みは病棟・臨床現場での看護師・医師の業務負担軽減や患者サービスの向上に寄与できると考える。また,臨床検査技師の貴重な医療体験の場,様々な医療の形を学ぶ場でもあり,輸血の専門知識のみならず検査全般の幅広い知識と経験をもった人材の育成が必要と考える。
本研究は,日常臨床検査範囲内の内容のため,倫理委員会の承認を得ていない。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。