ホルター心電図検査において患者が取り外しを希望したが,記録を延長したことにより発作性房室ブロックを検出し,自覚症状の解明に有用であった一例を経験した。症例は78歳。女性。約2週間前と今回に意識が遠くなったためERを受診した。頭部CTは問題なく,血液検査にて肝胆道系酵素上昇を認めた。意識消失発作の精査のためホルター心電図を装着後,翌日消化器内科へ紹介受診となった。翌朝来院されて消化器内科受診前にホルター心電図の取り外しを希望された。自覚症状が無く16時間の記録であったため,消化器内科受診後,取り外すことにした。診察を待っている時に突然,意識消失発作が出現した。解析を行ったところ,意識消失発作時には発作性房室ブロックが出現していた。取り外し前までは2秒以上の心室停止を認めておらず記録を延長したことにより診断できた。自覚症状の解明が必要な患者は自覚症状出現時までできる限り長時間の記録を行うことが必要であると考えられた。
ホルター心電図は24時間記録が基本であるが,患者の都合などによって予定より早く取り外す場合がある。今回,患者が取り外しを希望したが,記録を延長したことにより発作性房室ブロックを検出し,診断・治療に至った一例を経験したので報告する。
症例:78歳,女性。
主訴:意識消失発作。
既往歴:膀胱癌手術後,緑内障。
現病歴:受診2週間前に新聞を取りに外に出たら意識が遠くなって座り込んだ。本日(2015年11月18日)14時頃肩をマッサージしていたら意識が7~8秒ほどなくなった。
身体所見:意識清明,血圧:213/71 mmHg,体温:36.3℃,SPO2:100%。
検査所見:〈血液検査〉炎症反応の上昇なし,肝胆道系酵素の上昇を認めた(Table 1)。〈胸部レントゲン〉心胸郭比:47%,CP angle sharp(Figure 1)。〈標準12誘導心電図〉心拍数:42 bpm,2:1房室ブロック,完全右脚ブロック(Figure 2)。〈心エコー〉左室求心性肥大(LVDd/Ds 48/25 mm, IVS/PWT 9/10 mm, LVMI 98 g/m2, RWT 0.42)。左房拡大(LAVI 40 mL/m2)。軽度肺高血圧症(TRPG 33 mmHg)。軽度MR。EFは79%と左室過収縮であった(Figure 3)。〈頭部CT〉明らかな頭蓋内病変なし(Figure 4)。
白血球(WBC) | 6,800/μL | 総蛋白 | 8.0 g/dL | 血糖 | 106 mg/dL |
赤血球(RBC) | 476万/μL | アルブミン | 4.1 g/dL | アミラーゼ | 50 IU/L |
ヘモグロビン(Hb) | 13.9 g/dL | A/G | 1.05 | リパーゼ | 5> U/L |
ヘマトクリット(Ht) | 42.50% | Na | 140 mEq/L | CK | 100 U/L |
血小板(Plt) | 23.1万/μL | Cl | 105 mEq/L | CRP | 0.26 mg/dL |
Neutrophil | 66.70% | K | 4.3 mEq/L | IgG | 1,582 mg/dL |
Eosinophil | 3.70% | カルシウム | 10.1 mg/dL | IgA | 231 mg/dL |
Basophil | 0.70% | 尿素窒素 | 16 mg/dL | IgM | 60 mg/dL |
Lymphocyte | 24.20% | クレアチニン | 0.79 mg/dL | TSH | 3.86 μU/mL |
Monocyte | 4.70% | 総ビリルビン | 0.9 mg/dL | FT3 | 2.9 pg/mL |
PT | 103% | 直接ビリルビン | 0.2 mg/dL | FT4 | 1.04 ng/dL |
PT-INR | 1.0 | AST(GOT) | 130 U/L | AFP | 2.7 ng/mL |
APTT | 32.6秒 | ALT(GPT) | 288 U/L | CEA | 1.7 ng/mL |
フィブリノーゲン | 483 mg/dL | γ-GTP | 265 U/L | CA19-9 | 6 U/mL |
FDP | 4.1 μg/mL | ALP | 398 U/L | ||
LDH | 354 U/L |
It showed an increase in hepatobiliary enzyme.
Chest X-ray
CTR 47%,CP angle sharp
Standard 12 lead electrocardiogram
HR: 42 bpm, 2:1 AV block, CRBBB
Transthoracic echocardiography
a: End-diastolic parasternal long-axis view
b: End-systolic parasternal long-axis view
c: Mitral valve regurgitation by apical four-chamber view
d: Estimation of right ventricular pressure from tricuspid regurgitation maximum velocity by continuous wave doppler method
Left ventricular hypertrophy (LVDd/Ds 48/25 mm, IVS/PWT 9/10 mm, LVMI 98 g/m2, RWT 0.42). LA dilatation (LAVI 40 mL/m2). Mild PH (TRPG 33 mmHg). Mild MR. EF was 79% and LV hyperkinesis.
Head CT
No obvious intracranial lesion
経過(Figure 5):肝胆道系酵素上昇を認めたため翌日消化器内科に紹介受診となった。意識消失発作,徐脈の精査のためホルター心電図を装着後,帰宅となった。ホルター心電図装置はフクダ電子社製FM-180を使用した。翌朝来院されて消化器内科受診前にホルター心電図の取り外しを希望された。16時間の記録であり自覚症状が無かったため装着を延長し,消化器内科受診後,取り外すことにした。診察を待っている時に突然,意識消失発作が出現し,飲もうとしていたお茶をこぼした。すぐにホルター心電図機器を取り外し緊急で解析を行った。
Progress
Background of Holter ECG installation to removal
〈ホルター心電図解析結果〉記録時間16時間41分27秒。平均心拍数63 bpm。最大心拍数109 bpm(7:36:07),最少心拍数36 bpm(21:10:33)(Figure 6)。基本調律は正常洞調律であるが,徐脈時には2:1房室ブロックが出現していた。意識消失発作時にはST変化は認めなかったが,心拍数は約86 bpmから突然,徐脈になった(Figure 7)。徐脈時にはP波は認めるもQRSが出現せず12秒の心室停止後,接合部補充調律,5秒の心室停止後,心室補充調律が出現し,完全房室ブロックに移行していた(Figure 8, 9)。
Waveform of minimum heart rate, maximum heart rate
The minimum heart rate was 36 bpm at 21:10:33. 2:1 AV block. The maximum heart rate was 109 bpm at 7:36:07. I° AV block.
Heart rate, ST trend
The arrow ① was at bedtime and the heart rate increased from 42–47 bpm to 65–67 bpm. Next the arrow ② increased to 80–90 bpm at the time of getting up. At the ③ arrow suddenly the heart rate dropped to 38–40 bpm.
Expanded waveform when continuous recording during syncope
Continuous recording at paper feed speed 12.5 mm/s
Enlarged waveform
Figure 8 is displayed at a paper feed speed of 25 mm/s. After the waveform ①, the P wave can be recognized but the cardiac arrest for 12 seconds.After that, the AV junctional rthythm of waveform ②. After 5 seconds, the ventricular escaped beat of the waveform ③ appeared, and it shifted to a complete atrioventricular block.
意識消失発作の原因は徐脈,心室停止に伴う心拍出量の低下により脳虚血症状を来したアダムス・ストークス症候群と診断された。同日,緊急ペーシング目的で入院となった。体外式ペースメーカーで経過観察し,1週間後,恒久型ペースメーカー植え込みが行われた(Figure 10)。
Standard 12 lead electrocardiogram
DDD Pacemaker rhythm
患者から「あの時取り外さなくて本当に良かった」とお礼の手紙をいただいた。また,ペースメーカーチェックなどの定期的な検査の際は常に患者より感謝の言葉をいただいている。その後現在まで意識消失発作は出現していない。
高度房室ブロック(高度AVB)は房室伝導比が3:1以下と定義される1)。また,発作性房室ブロックは突然にあるいは予測されることなく高度房室ブロックを呈するものと定義されている2)~4)。いずれも危険な徐脈性不整脈の代表であり,速やかな診断・治療が必要である。高度AVBを認めた場合には基礎疾患において心サルコイドーシスの精査が必要である5)が本例においては心エコー検査を含め各種検査で否定された。
第II度房室ブロックはMobitz I型(Wenckebach型)とMobitz II型に分けられMobitz II型はしばしば完全房室ブロックへ移行する。繰り返す失神発作の原因がWenckebach型房室ブロックから完全房室ブロックへ移行したという報告もある6)。本例においてはホルター心電図の解析においてそれらは認めなかったが,2:1房室ブロックの出現はMobitz I型やMobitz II型から移行した可能性が考えられる4)。
発作性房室ブロックの誘発には心房性あるいは心室性期外収縮がきっかけになることが多いと考えられている7),8)。しかし,本例において発作性房室ブロックの直前には心房性,心室性期外収縮は出現していなかった。ホルター心電図において発作性房室ブロックが出現するまでを詳細に解析すると心拍数の変動が大きく(Figure 7),2:1房室ブロックや正常洞調律が混在していた。行動記録を確認すると自覚症状の記載はなかった。安静時標準12誘導心電図では完全右脚ブロックと2:1房室ブロックを認めていた(Figure 2)。これらから意識消失発作の原因として,一時的に3枝ブロックに移行し,伝導障害が起こり,発作性に高度房室ブロックが起こった可能性が示唆された。
発作性房室ブロックの診断は発作時の心電図が記録できない場合は診断困難な場合が多い9)。その場合にはホルター心電図を繰り返し記録する必要がある。それでも自覚症状が捉えられず確定診断に至らない場合は電気生理学的検査が必要である10)。
近年では原因不明の失神の診断に植え込み型ループ心電計の有用性が報告されている11)。しかし,観血的検査であることや施設基準12)があり一般病院では導入されていないのが現状である。また,長期間記録でき症状出現時のみ記録の行えるイベントレコーダも有用であるという報告13)もあるが操作やノイズの問題もあり導入されている施設が限られているのが現状である。患者自身で記録を行う携帯型心電計も発売されているが判読する医師の能力や専門性,記録状態,医師の労力に対する報酬などの問題がある14)。その点,ホルター心電図は1970年に国内で有用性が報告され15)現在も多施設で比較的容易に行われている。
ホルター心電図の記録時間における時間短縮で異常波形の出現率に有意差を認めない16)という報告もあるが,徐脈性不整脈の重症度判定およびペースメーカー適応は最長R-R間隔と24時間総心拍数で検討する必要がある。そのためホルター心電図の記録時間は24時間が基本となっている17)。
本例においては8時間以上の記録を行っており,予定より早く取り外しを行っても保険請求上は問題なかった。しかし,患者の希望通り予定より早く取り外していた場合は意識消失発作の出現時が捉えられず診断困難になった可能性がある。
ホルター心電図記録において取り外し希望を延長し,偶然にも自覚症状が出現し診断に至った一例を経験した。自覚症状の解明が必要な患者はできる限り自覚症状出現時まで記録することが必要であると考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。