医学検査
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67 巻, 1 号
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原著
  • 岡村 優樹, 橋本 剛志, 波野 真伍, 山本 理絵, 吉田 一葉, 梅橋 功征, 富園 正朋, 本山 眞弥
    原稿種別: 原著
    2018 年 67 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    【背景】Stanford A型急性大動脈解離(acute aortic dissection; AAD)は大動脈解離の中でも上行大動脈に解離が及ぶ予後不良な疾患である。AADにおけるD-dimerは他疾患との鑑別に用いられている。Stanford A型AADの予後予測として報告は少ない。本研究はD-dimerによるStanford A型AADの予後予測評価としての有用性を研究した。【方法,結果】対象はStanford A型AAD患者103名(平均年齢69.8 ± 13.0歳,男性41名,女性62名),平均D-dimerは34.3 ± 56.3 μg/mLであった。死亡群は生存群と比較してD-dimerが上昇していた(36.8 μg/mL vs 8.5 μg/mL , p < 0.001)。ROC解析を用いたStanford A型AADにおける生存群と死亡群のD-dimerの最適カットオフ値は9.71 μg/mLであった。Kaplan-Meier解析にて観察期間での死亡率は,9.71 μg/mL以上の患者は9.71 μg/mL未満の患者より有意に高かった(p < 0.001)。【結論】D-dimerの上昇はStanford A型AADの予後予測評価に有用である。

技術論文
  • 永田 和寛, 新井 慎平, 向井 早紀, 竹澤 由夏, 菅野 光俊, 本田 孝行, 奥村 伸生
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    フィブリノーゲン濃度は,凝固スクリーニング検査においてトロンビン時間法を用いた活性量として報告されているが,抗体を用いた免疫測定法によりフィブリノーゲン蛋白量(抗原量)の測定が可能である。先天性フィブリノーゲン異常症は,活性量および抗原量の両方が欠損する無フィブリノーゲン血症,活性量および抗原量の両方が低下するフィブリノーゲン低下症,抗原量は存在するものの活性量のみが低下するフィブリノーゲン機能異常症,低下症と機能異常症の合併の4種類に分類され,フィブリノーゲン活性量,抗原量および活性量/抗原量比それぞれを算出することにより,これらの異常症の推定が可能となる。今回,キューメイ研究所より販売されているフィブリノーゲン抗原量測定試薬ファクターオートフィブリノーゲンの基礎性能評価を行った結果,再現性,直線性,検出感度は良好であった。また,正常血漿50例におけるフィブリノーゲン活性量とファクターオートフィブリノーゲンの回帰式はy = 0.926x + 35.1,相関係数は0.974となり,フィブリノーゲン異常症19例における従来のフィブリノーゲン抗原量測定法とファクターオートフィブリノーゲンの回帰式はy = 0.968x + 34.5,相関係数は0.972となり,相関は良好であった。このことより,本試薬はフィブリノーゲン遺伝子異常症の診断・分類のためのフィブリノーゲン抗原量測定に有用な試薬であり,臨床へ有益な情報を迅速に提供できると考えられる。

  • 大金 亜弥, 永友 利津子, 久米 幸夫, 常名 政弘, 曽根 伸治, 蔵野 信, 矢冨 裕
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    Epstein-Barr virus(EBV)は伝染性単核症(infectious mononucleosis;以下IM)の病原ウイルスであるが,抗EBV抗体検査が診断に必要不可欠である。その特異抗体には,VCA(virus capsid antigen)抗体,EA(early antigen)抗体,EBNA(EBV nuclear antigen)抗体の3種類があり,初感染ではVCAに対するIgMが,その後IgG抗体が増加し,それらの組合せで病態や病期を判断する。BioPlex2200システム(バイオ・ラッド社)は,マルチプレックス法を原理とした免疫蛍光分析装置であり,抗EBV抗体試薬ではIgGが3種,IgMが2種の抗体の同時測定が可能である。測定結果は,独自の抗体価指標,Antibody-index(A.I.)によって示され,陽性・陰性を判定する。今回,BioPlex2200を用いた抗EBV抗体試薬の基礎的性能評価,および他法との比較を行った。同時再現性は概ね良好であったが,日差再現性は一部の項目にばらつきを認めた。また,干渉物質の影響を受けやすいため,試薬の改善が望まれる。EIA法との一致率は概ね良好であった。本法は,より少量の検体量で迅速に測定結果を報告することができるため,EBV関連疾患の診断に有用であると考えられた。

  • 楠木 啓史, 川上 舞, 高橋 圭司, 宮澤 法子, 藤本 洋平, 小林 豊子, 片山 孝文
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    本邦では重炭酸(HCO3)濃度は血液ガス分析にて,Henderson-Hasselbalchの式から計算して求めているのが現状であり,生化学分析装置によって,直接測定している施設は少ない。当院では20年以上前から,静脈血を採血し,血清重炭酸塩(総CO2)測定を酵素法で測定している施設である。今回,我々は血清総CO2測定について,当院の依頼状況,生化学分析(酵素法)による測定値と血液ガス分析による演算値との差および採血量,採血管開栓状態の総CO2値への影響から正しく測定するための注意点を報告する。酵素法による測定値と血液ガス分析による演算値を比較したところ,良好な一致性を示した。しかし,規定量の1/3の少量採血や採血管開栓後に測定値の低下を示したことから,採血管の規定量採血や開栓後は速やかに測定することで血液ガス分析と遜色ない値を得ることが可能である。

  • 鈴木 美穂, 菊田 まりな, 小笠原 知恵, 杉山 大輔, 蜂須賀 靖宏, 濱口 幸司, 岡田 元, 大澤 幸雄
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    ゲル分離剤の代わりに新たな技術であるメカニカルセパレータを用いたヘパリン血漿分離用採血管BDバキュティナ®バリコアTM採血管の検討を行った。バリコアの特長は遠心分離時間が最短で4,000 G・3分間であること,血球と血漿の分離能に優れており,従来のゲル入り血漿分離用採血管に比べて保存安定性が改善されていることである。高速凝固管にて採血した血清を基準とし,従来品のゲル分離剤入りヘパリン採血管ならびにバリコアを比較した。血清と血漿2種の測定値の差は診断・治療に支障のない程度であった。保存安定性において血清よりも血漿が劣る項目はALP,中性脂肪であった。カリウム,LDは従来のヘパリン血漿採血管は不安定であったが,バリコアでは血清と同等の安定性であった。日常業務において,フィブリン析出は報告遅延やサンプリング不良に繋がるリスク要因の一つである。遠心時間の短縮とフィブリン析出問題を解消できるバリコアはTAT短縮や業務軽減に繋がる製品であると考える。

  • 渡邉 勇気, 佐藤 伊都子, 林 伸英, 三枝 淳
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    マトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP-3)の測定には主にラテックス凝集比濁法(LTIA法)が用いられているが,健常小児においては大半が測定感度以下となるなど,評価困難な場合がある。今回,LTIA法より高感度である化学発光酵素免疫法(CLEIA法)を原理とした試薬(本試薬)について基礎的検討を行い,非特異反応の頻度を2種類のLTIA法試薬と比較して有用性を評価した。基礎的検討では,併行精度はCV 1.1–1.6%,再現精度はCV 1.1–1.3%と良好な結果であった。検出限界は0.041 ng/mL,定量限界(10%CV)は0.092 ng/mLと,LTIA法と比べ,約100倍の感度が得られた。測定範囲は2,575 ng/mLまでの直線性が得られた。添加回収試験では,99–107%の回収率が得られ,共存物質の影響は特に認められなかった。2種類のLTIA法試薬との相関は,それぞれr = 0.995(n = 305),r = 0.989(n = 305)と良好な相関を示した。非特異反応を起こしやすいと考えられる検査値異常パネル(336件)を3試薬で測定すると,測定値が乖離した検体が10例認められたが,本試薬では希釈直線性不良のものは認められなかった。本試薬の基礎的検討は良好で,LTIA法試薬との相関も良好であり,非特異反応も軽減されていたことから,本試薬はMMP-3測定試薬として有用である。

  • 古川 聡子, 河口 勝憲, 岡崎 希美恵, 森永 睦子, 大久保 学, 辻岡 貴之, 通山 薫
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 1 号 p. 44-51
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    マイクロピペットは検体の分注・希釈,凍結乾燥タイプのキャリブレーターやコントロールの溶解・調整を行う際に使用されている。マイクロピペットは操作が簡単で,素早く指定量を採取できるが,分注精度を保つには基本的な操作方法に準じて使用する必要がある。今回,マイクロピペットの操作方法が分注精度に及ぼす影響の検証および各施設における操作方法の現状把握のためのアンケート調査を行った。マイクロピペット容量規格の選択については,採取する液量がマイクロピペットの全容量に近いマイクロピペットを選択した方が,正確性・再現性ともに良好であった。また,プレウェッティングを行うことで,分注精度が高まることが確認された。分注方法による正確性についてはフォワードピペッティングの方が良好であり,理論値に対してフォワードピペッティングは低め,リバースピペッティングは高めの傾向であった。また,再現性については水ではフォワードピペッティング,血清ではリバースピペッティングの方が良好な結果となった。したがって,基本的にはフォワードピペッティングとし,粘性のある試料で精密度を保ちたい場合はリバースピペッティングとするのが望ましいと考えられる。試料の温度が室温よりも極端に低い場合,分注精度に影響が出ることも確認された。アンケート調査では各施設で操作方法に違いがあることが明らかとなり,今後,各施設における基本的操作方法の順守が望まれる。

  • 井川 加奈子, 大平 知弘, 山地 瑞穂, 藤村 一成, 守屋 雅美, 高橋 宗孝
    原稿種別: 技術論文
    2018 年 67 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    インスリン測定は糖代謝異常を示す疾患の診断や病態把握などを目的に広く実施されている。今回我々は,汎用自動分析装置で測定可能な「ノルディア®インスリン」の性能評価および有用性について調査を行った。併行精度のC.V.は1.25~3.08%,日差再現性のC.V.は3.69~8.07%と良好な結果が得られた。検出限界は1.0 μU/mL,直線性上限は144.2 μU/mLであり,202.5 μU/mL以上でプロゾーン現象が認められた。共存物質の影響はヘモグロビンのみ影響が認められた。「アーキテクト・インスリン」との相関性はインスリンアナログ製剤使用検体を除くとr = 0.992,回帰式y = 0.96x + 1.0と良好であった。さらにインスリン製剤の添加回収試験の結果から,本試薬はインスリンアナログ製剤と反応しないことが確認できた。当院の医師を対象としたアンケート調査から,内因性のインスリンのみを測定できる本試薬は臨床上の要望が強く,また測定時間の短縮,コスト削減等の利点も考えられるため,臨床支援への貢献が期待できる。

資料
  • 木原 実香, 富田 元久, 吉田 志緒美
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    真菌症の診断には,臨床症状や画像所見に加えて,顕微鏡検査(鏡検)での菌の形態の確認が求められるが,グラム染色に難染な糸状菌の場合には,特殊染色で確認する必要がある。今回われわれは,真菌蛍光染色用“KBM”GPフルオファンギー染色液キットに含まれる真菌蛍光染色液のみを用いた方法(フルオファンギー蛍光法)での糸状菌の菌糸確認の有用性について報告する。対象は2014年7月から11月に当院に提出された喀痰材料1,385検体中,真菌検査依頼のあった1,138検体を基に,膿性な性状に分類された370検体の塗抹標本とした。370検体のうち,真菌培養陽性となった57検体では29標本(50.9%)において,形態学的に糸状菌の菌糸もしくは不充分な形態ながらも蛍光を発する菌糸の存在が確認できた。培養陰性となった313検体の標本からは22標本(7.0%)で菌糸が認められた。フルオファンギー蛍光法は,グラム染色塗抹標本に直接染色できることから同じ標本で染色性を比較することができた。したがって,フルオファンギー蛍光法は簡便且つ迅速に真菌の存在確認ができるため真菌症診断に有益な情報を提供できると思われる。しかしながら,糸状菌は空気中や院内環境に多数存在することから,塗抹・培養検査と共に他の検査を実施することで,糸状菌の起因性の有無を総合的に判断する必要があると考えられる。

  • 畑山 祐輝, 松本 智子, 小島 奈央, 浜田 映子, 原 文子, 本倉 徹
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 1 号 p. 65-69
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
    ジャーナル フリー HTML

    自己血輸血は同種血輸血に比べ副作用のリスクが低く,術中の出血に備えて貯血を行うことが望ましいとされているが,近年,自己血輸血が減少傾向であると報告されている。そこで,2007年から2015年の当院での輸血の実施状況を調査したので報告する。また,2012–2014年の自己血採血を行った患者を抽出し,患者背景,廃棄率,同種血使用の有無,採血前後の処置,血管迷走神経反応(VVR)の頻度の調査を行った。また自己血輸血を実施している主な診療科の動向について調査を行った。対象患者は367名671バッグであり,年齢中央値は39歳(8–91歳)であった。同種血の使用を回避できた割合は96.7%であったが,236バッグ(35.2%)が無駄になった。泌尿器科と心臓血管外科が自己血輸血を実施しなくなっており,2015年の自己血輸血は2007年と比較すると46.7%減少している。前立腺癌全摘手術患者においてロボット支援手術群で従来の開放手術に比べて出血量が有意に抑制されていた(150 mL vs 1,050 mL, p < 0.001)ため,泌尿器科では出血量の少ない手術法の導入が寄与していると考えられた。心臓血管外科では赤十字血液センターでの自己血MAP作製の中止が要因と考えられた。一方,整形外科では自己血輸血を積極的に採用し増加傾向にあるため,自己血輸血が今後減少から増加に転ずることが示唆された。

  • 遠藤 美紀子, 村上 和代, 楢本 和美, 古賀 江利加, 恒川 浩二郎, 小澤 幸泰, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 1 号 p. 70-77
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
    ジャーナル フリー HTML

    血液製剤の廃棄量を減少させることはその有効利用のために重要である。1998年から2015年までの当院における血液製剤廃棄量を減少させるための取り組みと,廃棄率,廃棄要因を検討し,最近の廃棄要因の特徴を明らかにした。廃棄率は18年間で0.24%から0.04%に減少した。職種別では,医師と検査技師が要因による廃棄量が減少していた。手順別では,近年,運搬と取扱い要因の廃棄量が増加していた。血液製剤廃棄量を減少させるために,輸血療法に関する正しい知識を輸血療法に携わる医療スタッフ全体で共有することが重要である。

  • 扇田 裕允, 平岩 理雅, 奥洞 智太, 大関 ゆか, 瀧北 彰一, 成田 努, 玉井 浩
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 1 号 p. 78-83
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    細菌性腸炎の診断には,糞便検体の培養検査による原因細菌の検出が必須であるが,培養結果確定までには3~5日の時間を要することが多い。今回,我々は小児科と連携し,小児における代表的な細菌性腸炎である腸管出血性大腸炎,サルモネラ腸炎,カンピロバクター腸炎について糞便からの直接PCR法による早期迅速診断を行うこととした。2015年3月から2016年11月までに当院の小児科において細菌性腸炎が疑われ入院管理となった症例8例(迅速法群)について糞便検体から直接PCR法と培養検査を行った。2011年から2015年までのPCRを行わず培養検査のみで診断した症例9例(従来法群)を対象とした。迅速法群,従来法群の培養による診断時間はそれぞれ平均3.68日と平均4.22日であった。これに対してPCRによる診断時間はすべての症例で3~5時間以内(平均0.20日)であった。迅速法群と従来法群の培養による診断時間には有意差は認められなかったが,PCRの診断時間と培養の診断時間には有意な差を認めた(p < 0.001)。さらに迅速法群と従来法群の入院期間の比較を行ったところ有意差が認められた(p < 0.005)。このことにより結果に数日を要する培養法に加えて数時間で結果の出る糞便からの直接PCR法を用いることにより診断時間と入院期間の短縮に貢献することができたといえる。

  • 増田 史恵, 古谷 由希, 板倉 佳奈美, 芦田 圭奈美, 水口 真由己, 金井 雅史, 松本 繁巳, 武藤 学
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 1 号 p. 84-89
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    バイオバンクとは医学研究に活用する目的で患者の生体試料(組織の一部,血液や尿など)とそれに関連する臨床情報を合わせて収集・保管する組織である。近年,国内外で様々なバイオバンクが設立され,各機関の運用目的に合わせて生体試料収集が行われている。京都大学医学部附属病院では2013年9月からキャンサーバイオバンク(Cancer Biobank,以下CBB)事業を立ち上げ,がんセンターを受診する患者のうち,同意の得られた患者の生体試料の収集を開始した。病院併設の利点を生かし,患者の経時的な臨床情報については電子カルテと連動する独自のデータベースで一元管理している。CBB開設当初は2診療科でスタートしたが,現在は計10の診療科が生体試料の採取,保管にCBBを利用している。2015年4月からはCBBのインフラを活用し,がん細胞の遺伝子を網羅的に解析するクリニカルシークエンス検査(OncoPrimeTM)も導入している。現在CBBは,①患者に対するバイオバンクの同意説明補助やバイオバンク用採血オーダー入力を担当するコーディネーター1名 ②生体試料採取後の処理から保管,DNA抽出作業,匿名化処理等を担当する生体試料管理担当者2名 ③臨床情報入力作業担当者1名 ④クリニカルシーケンス担当者2名の合計6名のスタッフが担当している。本稿では,CBB事業の立ち上げから現在の運営体制状況について紹介する。

  • 岡﨑 希美恵, 河口 勝憲, 渡邊 悦子, 辻岡 貴之, 通山 薫
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 1 号 p. 90-98
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    臨床検査データ判読の指標である基準範囲について,現在,日本臨床検査標準協議会(JCCLS)により「共用基準範囲」の導入が進められている。このような基準範囲の共用化は多施設間のデータ連携においても不可欠である。岡山県では現在複数の基幹病院等で導入が進められており,当院でも院内のコンセンサスを得たのちに導入準備を進め,2016年7月から運用を開始した。また,併せて血算の単位表記を変更したことから,様々な部門システムや関連文書への影響が想定され,多くの確認・変更作業を要した。実際の変更作業では,検体検査システムおよび電子カルテシステムのマスタ変更,関連部門システムの変更,関連文書の変更,分析装置の設定変更,臨床ならびに患者への周知,WEB関連の変更など,その作業範囲は多岐にわたったが,事前の準備と関連部門の協力,また変更内容の周知徹底により,大きな混乱なく運用を開始した。現在,検査データは院内院外を問わず様々なシステムと連携しており,その整合性を確保しつつシステムの運用管理を行うことは検査部の責務であり,課題であると考えられた。今後,全国的に共用基準範囲の導入が進み,どのような場面でも同じ指標で検査データの判読が可能となることを期待する。

症例報告
  • 永野 夏海, 中矢 秀雄, 夏目 聖子, 永田 めぐみ, 本荘 秀康, 河原 隆二, 高田 厚照
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 1 号 p. 99-104
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    発育にへミンを要求するPseudomonas aeruginosaのsmall-colony variant(SCV)が両側肺炎患者の血液培養から分離された。血液培養の培養液のGram染色では形態的にHaemophilus属を推定する多型性のグラム陰性桿菌を認めた。本菌は発育が遅く,ヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地には小型コロニーを形成するが,血液成分を含まないMacConkey寒天培地には発育を認めなかった。またTSI培地にも発育を認めず,オキシダーゼ試験陽性,アシルアミダーゼ試験陰性であった。さらにX因子(へミン)・V因子(NAD)要求性試験では,X因子(へミン)要求性を示した。自動同定検査装置バイテック2では正確な同定に至らず,質量分析法および16S rRNAシークエンス解析で,P. aeruginosaと確定した。P. aeruginosaのへミン要求性SCVを検出した症例は,調べた限り本症例が初報告である。本菌株は典型的なP. aeruginosaの性状とは乖離を認め,同定に苦慮した。SCVsは持続性・再発性の感染症を引き起こすが,非典型的な性状ゆえに誤同定される可能性がある。適切な治療を選択する上で,SCVsの正確な同定が重要であり,同定方法については質量分析や遺伝子検査が有用であると考える。

  • 萬雲 正清, 谷 香里, 久島 梓, 森 真規子, 谷川 信美, 谷口 直行
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 1 号 p. 105-112
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    ホルター心電図検査において患者が取り外しを希望したが,記録を延長したことにより発作性房室ブロックを検出し,自覚症状の解明に有用であった一例を経験した。症例は78歳。女性。約2週間前と今回に意識が遠くなったためERを受診した。頭部CTは問題なく,血液検査にて肝胆道系酵素上昇を認めた。意識消失発作の精査のためホルター心電図を装着後,翌日消化器内科へ紹介受診となった。翌朝来院されて消化器内科受診前にホルター心電図の取り外しを希望された。自覚症状が無く16時間の記録であったため,消化器内科受診後,取り外すことにした。診察を待っている時に突然,意識消失発作が出現した。解析を行ったところ,意識消失発作時には発作性房室ブロックが出現していた。取り外し前までは2秒以上の心室停止を認めておらず記録を延長したことにより診断できた。自覚症状の解明が必要な患者は自覚症状出現時までできる限り長時間の記録を行うことが必要であると考えられた。

  • 森永 睦子, 古川 聡子, 岡本 操, 河口 勝憲, 辻岡 貴之, 通山 薫
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 1 号 p. 113-118
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    リチウム(以下,Li)は躁うつ病の治療薬として広く利用されており,治療濃度域と中毒濃度域が接近していることから治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring; TDM)の対象薬物である。またLiは腎臓から排泄されるため腎機能が低下すると中毒症状を出現しやすい。今回,当院高度救命救急センターへ意識障害で搬送され,腎機能低下を伴う高Li血症がみられた2症例について報告する。症例1は30歳代,女性で医療に対する精神的不安感から多剤大量服用した患者で,Li推定服用量は12,800 mg/1回である。来院時の血中Li濃度は13.2 mEq/Lと極高値かつ腎機能低下を認めた。持続的血液透析(continuous hemodialysis; CHD)約30時間後の血中Li濃度は1.2 mEq/Lまで低下し,CHD離脱後21時間後の血中Li濃度は0.8 mEq/Lであり,リバウンドを認めることなく第3病日に退院となった。症例2は80歳代,女性でLiの服用に伴い定期的に血中Li濃度を測定し治療域を推移していた患者で,Li服用量は400 mg/dayである。来院時の血中Li濃度は1.8 mEq/Lと高値かつ腎機能低下を認めた。輸液により意識レベルは改善し同日帰宅となった。以降,Liの服用は中止された。当院に意識障害で搬送され,毒劇物解析室に分析依頼があった患者の集計を行った結果,約17年間でLi服用患者は47例でそのうち19例(40.4%)が高値側の中毒域であった。意識障害で搬送された患者にLiの服用歴がある場合,Li中毒,腎機能低下を疑い,さらにLi濃度測定を行うことで診療に貢献できると思われる。

  • 中澤 美帆, 徳竹 孝好, 倉島 祥子, 大塚 翔平, 小林 光
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 1 号 p. 119-123
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    血液腫瘍性の高γグロブリン血症では,抗原抗体反応を原理とする検査項目においてしばしば非特異反応を示すことが報告されている。今回我々は,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)の患者において,FDPとD-Dが偽高値を示した症例を経験したので報告する。患者は60歳代女性。多発性のリンパ節腫大,皮疹,肝肺浸潤の症状で発症し,AITLと診断された。入院後9病日目に,D-Dが「プロゾン」というエラーメッセージと共に高値を示した。レンジオーバーを考え希釈測定を行ったところ,D-Dは予想値よりも著明に低値を示したため,非特異反応を疑い精査を行った。FDPとD-Dが偽高値となった時期に免疫グロブリン値が上昇していたことや,DTT処理によって測定値の低下が見られたことから,偽高値の原因はIgMが関与しているものと推測された。また,Western blotting像からも,希釈測定値が真値に近いと考えられた。本症例のように,臨床的な出血症状や血栓症状がなく,FDPやD-Dが偽高値を示す場合,非特異反応かどうかを判別するための確認法として,希釈測定が簡便でかつ有用な方法の一つであることが示唆された。

  • 永原 麻友美, 大楠 清文, 福島 啓, 大米 美穂, 槌井 嘉樹
    原稿種別: 症例報告
    2018 年 67 巻 1 号 p. 124-130
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    我々はAnaerobiospirillum succiniciproducensによる血流感染症の1例を経験した。症例は80歳男性。イヌを屋内で飼い始めた頃より咳と咽頭痛が見られ,その後に発熱と食欲低下も出現したため当院を受診した。胸部レントゲン,胸部CTで右下葉に浸潤影が認められ肺炎の診断で入院した。入院時に採取された血液培養検査で嫌気性らせん状グラム陰性桿菌を検出し,16S rRNA遺伝子解析の結果A. succiniciproducensと同定された。症例患者は入院時に細菌性肺炎としてSulbactam/Ampicillin(SBT/ABPC)の投与で治療を開始し,血液培養検査の塗抹検査結果報告後は血流感染症に対する治療として抗菌薬を変更せず投与期間を延長した。抗菌剤投与期間を終え,全身状態が改善したため退院した。本邦における本菌による血流感染症例は少なく稀とされるが,今後も同定に至るまでの検査方法や感染症治療成績を蓄積していくことが重要と考える。

技術講座
  • 柳田 絵美衣, 松岡 亮介, 林 秀幸, 西原 広史
    原稿種別: 技術講座
    2018 年 67 巻 1 号 p. 131-141
    発行日: 2018/01/25
    公開日: 2018/01/27
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    北海道大学病院では2016年4月に「がん遺伝子診断部」を設置し,業務を開始した。がん遺伝子外来,診療,患者採血,核酸抽出,ライブラリー構築,シークエンス,遺伝子解析,チームカンファレンス(cancer board),遺伝カウンセリング,結果報告をすべてインハウスで行っている,院内完結型網羅的がん遺伝子解析(Clinical Sequence System in Hokkaido University Hospital for Cancer Individualized Medicine:CLHURC検査)を目的とするクリニカルシーケンスを実施する専門部署としては,国内初となった。次世代シーケンサー(next generation sequencer; NGS)を用いて独自でパネル化したがんドライバー遺伝子変異のうち最大160種類を網羅的に解析している。CLHURC検査では,患者の血液と病理組織検体から核酸を抽出し,NGSで遺伝子解析を行っている。検体は検者血液からの正常DNAと腫瘍細胞を含むホルマリン固定パラフィン包埋切片から腫瘍細胞DNAを対象としているため,検体の取扱いが重要ポイントの一つである。従来,ホルマリン固定検体からの核酸抽出は,ホルマリンの影響によりDNAの断片化が進むため,良質なDNA抽出は困難であるとされてきた。また,遺伝子解析の解釈や,遺伝子情報の取り扱いなど,様々な管理や体制が必要となる。今後,クリニカルシーケンスが導入されていく中で起こり得る課題を見据えながら,現在,運用しているクリニカルシーケンス「CLHURC検査」の取り組みを報告する。

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