医学検査
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原著
血液培養におけるBDバクテックTM溶血タイプ嫌気用ボトルの有用性
藤原 智子田村 万里子田中 史子中村 友里野口 悦伸末永 詩織室谷 里見高橋 徹
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2018 年 67 巻 2 号 p. 153-157

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Abstract

当院では,バクテックTM FXシステムを用いて,好気用レズンボトル(好気レズン)と溶血タイプ嫌気用ボトル(嫌気lytic)と嫌気用レズンボトル(嫌気レズン)の3本を1セットとして血液培養検査を実施している。今回我々は,嫌気lyticと嫌気レズンの性能を評価するために,菌検出率や分離菌頻度,菌検出平均時間を比較検討した。対象は2012年4月から2年間に血液培養検査に提出された3,217検体中,2セット以上採取の2,435検体。菌陽性となった440検体のうち抗菌薬が投与されていなかった306検体においては,嫌気lyticが258検体(84.3%),嫌気レズンが236検体(77.1%)で陽性であり,嫌気lyticの菌検出率が有意に高かった。一方,抗菌薬投与のあった134検体においては,両ボトル間に菌検出率の差はなかった。嫌気lyticと嫌気レズンとの菌検出平均時間は,抗菌薬非投与のボトルから分離されたEscherichia coliではそれぞれ7.9時間,15.8時間(p < 0.0001),E. coli を除く腸内細菌では9.9時間,22.6時間(p < 0.0001)と嫌気lyticで有意に短かった。抗菌薬投与のある場合には差はなかった。今回の検討結果から,とくに抗菌薬投与がない症例の血液培養検査において,嫌気lyticを用いることは,菌検出率の向上や検出時間の短縮に有用であると考えられた。

I  はじめに

血液培養検査は,感染症を診断する上で重要な検査であり,より迅速で正確な検査結果が求められる。好気ボトルと嫌気ボトルを1セットとした培養検査法が標準的で,近年は2セット以上の検体採取を繰り返すことが励行されるようになってきており,総検査件数が増している。

当院では,BDバクテックTM FXシステム(以下,バクテックFX)を用いて,BDバクテックTM 92F好気用レズンボトル(好気レズン),BDバクテックTM溶血タイプ嫌気用ボトル(嫌気lytic),BDバクテックTM 93F嫌気用レズンボトル(嫌気レズン)(日本ベクトン・ディッキンソン)の3本を1セットとして血液培養検査を実施している。嫌気lyticは,培地に含まれるサポニンによって血球を溶血させることで白血球に貪食された菌を培地中に放出させ,検出率の向上や短時間での菌検出が可能であるとされているが1),国内では使用している施設が少ないのが現状である。

今回,我々は,嫌気lyticと嫌気レズンの性能を評価するために,培養ボトル毎の菌検出率や分離菌頻度,菌検出平均時間について,抗菌薬投与の有無による違いを比較検討した。

II  対象と方法

1. 対象

2012年4月1日から2014年3月31日までの2年間に,好気レズン+嫌気lytic+嫌気レズンを1セットとして提出された3,217検体のうち,2セット以上採取された2,435検体(2セット採取1,210件,3セット採取5件)を対象とした。汚染菌の影響を排除するために,coagulase-negative staphylococci(CNS),Propionibacterium acnesMicrococcus属,緑色連鎖球菌,Corynebacterium属,Bacillus属が1セットのみから検出された場合は汚染菌として判断し,84症例168検体を除外した2)

2. 方法

血液培養は,バクテックTM FXにて35℃,7日間のプロトコルを用いて行った。菌検出時間はバクテックTM FXにボトルを装填した時点から陽性シグナルを検知するまでの時間とした。検出された細菌の同定には,ポアメディア(栄研化学)を用いた従来法や,簡易同定キットのアピシリーズ(ビオメリュー),IDテスト(日水製薬),RapIDシリーズ(アムコ)やクロモアガー(関東化学)を使用した。

各ボトルの菌検出能を評価するために,全陽性検体における陽性ボトル数の割合を菌検出率と定義し,ボトル間および好気レズン+嫌気lyticと好気レズン+嫌気レズンの組合せ間の菌検出率を抗菌薬の有無に分けて比較した。抗菌薬の先行投与があり,投与中断1~3日後に採血されたものは抗菌薬投与群として解析した。また,嫌気lyticと嫌気レズンにおいても,同様に菌検出率を比較した。さらにボトル間における分離菌の検出頻度や,菌検出平均時間についても比較を行った。

3. 統計学的解析

ボトル間の菌検出率の比較にはマクネマー検定を用いた。なお,多重性を考慮して,嫌気lyticと嫌気レズンの比較,および好気レズン+嫌気lyticの組合せと好気レズン+嫌気レズンの組合せの比較については,ライアン法に従って有意水準を0.033とした。

III  結果

1. 培養ボトルの菌検出率の比較

2セット以上が採取された2,435検体のうち汚染菌と判断した84症例168検体を除外した2,267検体が解析対象で,陽性は440検体(19.4%)であった。各ボトルの陽性は,好気レズンが361検体(15.9%),嫌気lyticが344検体(15.2%),嫌気レズンが333検体(14.7%)で差は認めなかった(p = 0.6769)。ボトルの組合せにおいても,好気レズン+嫌気lyticの組合せが423検体(18.7%),好気レズン+嫌気レズンの組合せが401検体(17.7%)で差はなかった(p = 0.4187)。

陽性440検体について,抗菌薬投与の有無に分けて菌検出率を比較した(Table 1)。検体採取時に抗菌薬が投与されていなかった306検体では,嫌気lytic,嫌気レズン両ボトルの菌検出率は,それぞれ84.3%,77.1%で,好気レズンと組合せた場合の菌検出率は,好気レズン+嫌気lyticで96.7%,好気レズン+嫌気レズンで90.2%であった。これらは,いずれも嫌気lyticの方が嫌気レズンよりも検出率が有意に高かった。一方,血培施行時に抗菌薬が投与されていた134検体(抗菌薬の投与中断1~3日後に採血された21検体を含む)では,嫌気lyticと嫌気レズンの菌検出率はそれぞれ64.2%と77.1%で,嫌気レズンで良好な傾向はあったものの統計学的な差はなく,好気レズンと組合せた場合の検出率にも,好気レズン+嫌気lyticと好気レズン+嫌気レズンとの間に差はなかった。

Table 1  陽性440検体における抗菌薬投与の有無による菌検出率の比較
抗菌薬非投与群(306検体) p 抗菌薬投与群(134検体) p
嫌気lytic 84.3%(258) 0.0311 64.2%(86) 0.1892
嫌気レズン 77.1%(236) 72.4%(97)
好気レズン+嫌気lytic 96.7%(296) 0.0016 94.8%(127) 0.7975
好気レズン+嫌気レズン 90.2%(276) 93.3%(125)

2. 分離菌の検出頻度

陽性440検体から485株が分離され,検出頻度の高い順にStaphylococcus aureus 20.6%(100株),Escherichia coli 19.0%(92株),E. coliを除く腸内細菌15.7%(76株),CNS 12.0%(58株),Enterococcus spp. 9.9%(48株),Streptococcus spp. 8.0%(39株),ブドウ糖非発酵菌3.9%(19株),嫌気性菌3.5%(17株),Candida spp. 3.3%(16株),グラム陽性桿菌2.5%(12株),その他のグラム陰性桿菌1.6%(8株)であった。

次に,両ボトル間の性能をより厳密に比較するために陽性440検体のうち1菌種のみが発育した401検体の嫌気ボトルからの分離菌頻度について,抗菌薬投与の有無別に比較した(Table 2)。抗菌薬投与がなかった場合の分離菌頻度は,E. coliS. aureusE. coliを除く腸内細菌で5割以上を占めていた(Table 2A)。一方,抗菌薬投与があった場合の分離菌頻度は,S. aureus,CNS,Enterococcus spp.で5割以上を占めていた(Table 2B)。嫌気lyticと嫌気レズンの分離菌頻度は,抗菌薬投与の有無にかかわらず両ボトル間で差はなかった。

Table 2 

401検体の抗菌薬投与別の分離菌頻度の比較

A:抗菌薬非投与群
菌名 株数 (%) 嫌気ボトルから分離された株数 好気ボトルのみから分離された株数 嫌気lyticのみから分離された株数 嫌気レズンのみから分離された株数 p
E. coli7326.45021560.0784
S. aureus4616.7372431.0000
E. coliを除く腸内細菌4415.9321920.0654
CNS3512.7264231.0000
Streptococcus spp.3412.3261610.1250
Enterococcus spp.103.641321.0000
ブドウ糖非発酵菌103.601000
嫌気性菌93.320520.4531
グラム陽性桿菌82.970011.0000
その他のグラム陰性桿菌62.200240.6875
Candida spp.10.40100
合計276100.0184224624
B:抗菌薬投与群
菌名 株数 (%) 嫌気ボトルから分離された株数 好気ボトルのみから分離された株数 嫌気lyticのみから分離された株数 嫌気レズンのみから分離された株数 p
S. aureus4636.82943100.0923
CNS2016.0130160.1250
Enterococcus spp.1814.4102331.0000
Candida spp.97.205310.6250
ブドウ糖非発酵菌86.40800
E. coli75.631300.2500
E. coliを除く腸内細菌75.640121.0000
Streptococcus spp.54.040011.0000
グラム陽性桿菌43.220020.5000
嫌気性菌10.80010
その他のグラム陰性桿菌00.00000
合計125100.065201525

3. 菌検出平均時間

両方の嫌気ボトルにともに発育した主要な菌種について,菌検出平均時間を比較した(Table 3)。嫌気lyticと嫌気レズンとの菌検出平均時間を比較すると,抗菌薬が投与されていなかったボトルから分離された173株では,E. coli(49株)でそれぞれ7.9時間,15.8時間(p < 0.0001),E. coliを除く腸内細菌(29株)で,9.9時間,22.6時間(p < 0.0001),S. aureus(34株)で13.8時間,15.5時間(p = 0.0006)と嫌気lyticで有意に短かった。抗菌薬が投与されていた場合には差はなかった。

Table 3  抗菌薬投与の有無による菌検出平均時間の比較
菌名 抗菌薬投与なし 抗菌薬投与あり
両ボトルに
分離された
株数
平均時間(時間) p 両ボトルに
分離された
株数
平均時間(時間) p
嫌気lytic 嫌気レズン 嫌気lytic 嫌気レズン
E. coli 49 7.9 15.8 < 0.0001 3 8.3 10.2 0.2500
S. aureus 34 13.8 15.5 0.0006 29 15.8 16.3 0.0767
E. coliを除く腸内細菌 29 9.9 22.6 < 0.0001 4 43.0 14.9 0.6250
CNS 26 26.1 23.8 0.5278 12 46.1 30.3 0.3804
Streptococcus spp. 24 10.6 10.9 0.9228 4 9.4 9.5 0.7500
グラム陽性桿菌 5 27.6 13.7 0.6250 2 9.0 9.2 1.0000
Enterococcus spp. 4 28.7 19.2 0.8750 10 21.2 15.6 0.7813
嫌気性菌 2 22.3 34.1 0.5000
合計 173

IV  考察

血液培養ボトルには菌の検出率を向上するための工夫がなされており,例えば,嫌気レズンには抗菌薬を吸着するレズン粒子が,嫌気lyticには溶血剤としてサポニンが添加されている1)。嫌気lyticは検出率の向上や検出時間の短縮化において有用とされ,欧米では広く評価されている培養ボトルであるが‍3)‍~6),我が国においては血液培養時にすでに抗菌薬が投与されていることが多いという臨床的背景からレズン粒子入りのボトルが広く普及し,嫌気lyticの認知度が低い現状がある。

今回の検討においても,陽性440検体中134検体(30.5%)で血液培養時に抗菌薬が投与されていた。しかし,この134検体における嫌気ボトルの菌検出率は嫌気lyticよりも嫌気レズンで良好な傾向はあったものの,有意な差はなかった。さらに,好気レズンと組合せた場合の菌検出率は,好気レズン+嫌気lyticと好気レズン+嫌気レズンでほぼ同等であった。日常診療では,嫌気ボトルのみを用いて血液培養が行われることはない。抗菌薬投与下では嫌気レズンが好んで用いられる傾向があるが,今回の検討からは,嫌気lyticと嫌気レズンのいずれを使用しても菌検出率に差はないと考えられた。

一方で,抗菌薬が投与されていない場合においては,菌検出率は嫌気lyticの方が嫌気レズンよりも高く,好気レズンとの組合せについても,好気レズン+嫌気lyticの組合せの方が菌検出率が高かった。

これまでにも,嫌気lyticの検出感度における優位性から好気レズン+嫌気lyticを最適な血液培養ボトルの組合せとして推奨する報告7),8)がある。本検討で示された嫌気lyticの明らかな優位性は,抗菌薬非投与下においてのみであったが,抗菌薬投与下でも嫌気レズンに劣ってはおらず,総合的にみれば上記報告を支持するものであった。

さらに,今回の検討で,抗菌薬投与の有無と各嫌気ボトルの分離菌頻度の関係に着目すると,抗菌薬が投与されていない場合では,E. coli を含む腸内細菌が42.3%と最も高頻度に分離されていた。Table 2Aに示すように,E. coliとその他の腸内細菌は,嫌気lyticからのみ検出された株数が嫌気レズンからのみ検出された株数より多く(E. coliでは,15株と6株,その他の腸内細菌では,9株と2株),有意な差はなかったがE. coliとその他の腸内細菌の検出においては嫌気lyticの方が有利な傾向があった。

加えて,両嫌気ボトルにおける菌検出平均時間の検討では,抗菌薬が投与されてない場合に嫌気lyticでE. coliを含めた腸内細菌とS. aureusの検出平均時間が短縮された。これは,溶血させることで白血球に貪食された菌を培地中に放出させて早期に増菌させる嫌気lyticの特性を示していると考えられた。

今回の検討から,嫌気lyticを好気ボトルと組合せて血液培養を行うことは,抗菌薬投与下でも菌検出率を低下させることはなく,特に抗菌薬非投与下での菌検出率向上や検出時間の短縮化に役立つと考えられた。

当院では,現在は1セット3本(好気レズン+嫌気lytic+嫌気レズン)の組合せで血液培養を実施しているが,今後コスト面からセットボトル数を2本に減ずることを考えている。本研究結果をふまえて,とくに抗菌薬が投与されていない場合には,積極的に嫌気lyticを好気レズンと組合せて用いる方法を臨床現場に提案したい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2018 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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