医学検査
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技術論文
偏性嫌気性菌Bacteroides spp.とClostridium spp.における全自動迅速感受性検査法RAISUS ANYの有用性
濱野 京子長尾 美紀松村 康史山本 正樹柚木 知之樋口 武史一山 智
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2019 年 68 巻 1 号 p. 40-48

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Abstract

近年,嫌気性菌の薬剤耐性化が問題となってきており,ルーチン検査における感受性試験の重要性が増している。そこで,目視判定を行う栄研ドライプレート(従来法)と全自動迅速同定感受性測定システムRAISUS ANY(ライサス法)を用いてBacteroides spp. 68株,Clostridium spp. 43株の計111株の薬剤感受性検査を行い,検査法や菌種による差が認められるかを確認した。その結果,従来法とライサス法に共通の9薬剤での±1管差内一致率はBacteroides spp.: 87%~100%,Clostridium spp.: 63%~100%,CLSIカテゴリー一致率はBacteroides spp.: 78%~100%,Clostridium spp.: 51%~100%であった。Bacteroides spp.におけるCTXおよびMFLX,Clostridium spp.におけるCLDMにおいて判定誤差があった。これは従来法において耐性菌のMIC値判定によるヒューマンエラーが関与しているものと考えられた。一方で,ライサス法は,客観性に富む検査法であり,機器による判定により個人差がなくなることから,ルーチン検査において有用であると考えられた。

序文

近年,微生物検査の同定・感受性試験の自動化が進み,業務の効率化や精度の高い測定が可能となっている。偏性嫌気性菌(以下,嫌気性菌)の薬剤感受性試験は手技が複雑1)で,検査日数が長く,患者の早期治療に適しておらず2),3)検査そのものが行われていない施設がある。当院では用手法・目視判定を用いて検査を行ってきたが,そのような場合さらに判定における個人差が生じる4)という課題がある。しかしその一方で,嫌気性菌における薬剤耐性菌の検出が問題となっており5)~8),抗菌薬の適正使用という観点からもルーチン検査における嫌気性菌の薬剤感受性試験を適切に行うことが臨床側から求められている。

今回われわれは全自動迅速同定感受性測定システムRAISUS ANY(日水製薬)の嫌気性菌感受性プレートを用いて,特に重症感染症である菌血症の主要分離菌種であるグラム陰性菌のBacteroides spp.とグラム陽性菌のClostridium spp.を対象に,用手法による従来法を対照として感受性比較検討を行い,RAISUS ANYの有用性について若干の見解を得たので報告する。

I  対象と方法

1. 対象

2014年6月から12月に京都府・滋賀県の急性期病院11施設で臨床検体から分離された嫌気性菌のうち,16SrRNA gene sequencingによる遺伝子検査で同定を行ったBacteroides spp. 68株,Clostridium spp. 43株の計111株を解析対象とした(Table 1)。

Table 1  検討に使用した菌種の内訳
Bacteroides spp. Clostridium spp.
菌種 株数 菌種 株数
Bacteroides fragilis 36 Clostridium perfringens 30
Bacteroides thetaiotaomicron 15 Clostridium innocuum 6
Bacteroides dorei 7 Clostridium paraputrificum 3
Bacteroides ovatus 3 Clostridium sulfidigenes 1
Bacteroides faecis 2 Clostridium butyricum 1
Bacteroides caccae 1 Clostridium sp. 2
Bacteroides stercoris 1
Bacteroides xylanisolvens 1
Bacteroides cellulosilyticus 1
Bacteroides sp. 1
68 43

精度管理株は,B. fragilis ATCC25285,B. thetaiotaomicron ATCC29741,Eggerthella lenta ATCC43055の計3株を使用した。

2. 方法

対象菌株をABHK寒天培地(日水製薬)に塗布し,35℃,48時間嫌気培養して検査に使用した。ドライプレート‘栄研’:KY33(栄研化学,薬剤の配列は当院でカスタマイズして作成,以下従来法)は,嫌気性菌用ABCMブロスにMcFarland 2.0の菌液を作製し,感受性ブルセラブロス‘栄研’に25 μL加え各ウェルに100 μLずつ用手的に分注した。ライサス嫌気性菌感受性プレート:RSMA1(日水製薬,以下ライサス法)は,ニッスイチューブ滅菌水にMcFarland 1.0の菌液を作製し,ニッスイチューブブルセラブイヨン12 mLにサプリメントRSを200 μL添加した後,機器にセットし自動分注した。機器内で菌液60 μLをブルセラブイヨンへ自動で加えられ,各ウェルに100 μLずつ分注される。各プレートの薬剤の配列をFigure 1に示した。菌を接種した各プレートは,アネロパック・ケンキ(三菱ガス化学)を用いて嫌気ジャーに入れ,35℃,48時間嫌気培養を行った。判定は,従来法はドライプレート‘栄研’の添付文書に従い,目視で混濁または直径1 mm以上の沈殿が認められた場合,あるいは沈殿の直径が1 mm未満であっても沈殿塊が2個以上認められた場合を発育したと判定した。ライサス法はRAISUS ANYにより自動判定された結果を用いた。両プレートに共通である9薬剤cefmetazole(CMZ),flomoxef(FMOX),cefotaxime(CTX),imipenem/cilastatin(IPM),meropenem(MEPM),ampicillin/sulbactam(ABPC/SBT),piperacillin/tazobactam(PIPC/TAZ),moxifloxacin(MFLX),clindamycin(CLDM)の最小発育阻止濃度(MIC)値の±1管差内一致率と,Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)M100-S259)の判定区分を用いたカテゴリー一致率の割合を求めた。FMOXはCMZの判定区分を使用した。CTXは嫌気性菌の治療で通常は用いることはないが,今回は機器の有用性を確認することと,両プレートに共通の薬剤であることから検討に含めた。MIC値はプレートによって濃度範囲が異なるため,両プレートに共通する薬剤濃度を使用した(Table 2)。従来法が耐性でライサス法が感性をVery Major Error(VME),従来法が感性でライサス法が耐性をMajor Error(ME),一方が中間,他法が感性または耐性をMinor Error(mE)とした。また,精度管理としてCLSI M100-S25に基づきATCC株を用いて15重測定(3重測定×5日間)を行い10),再現性を確認した。さらに,従来法とライサス法を比較し,MICの結果が±3管差以上異なった株,もしくはVME,MEが認められた株については,両法再検を行い,結果の再現性を確認した。スキップが発生した株についても再検を行った。

Figure 1 

従来法とライサス法の薬剤配列

Table 2  各薬剤におけるレンジ幅およびCLSIカテゴリー一覧
薬剤 レンジ幅 CLSIカテゴリー
S I R
CMZ 2–16 ≤ 16 32 ≥ 64
FMOX 1–16 ≤ 16 32 ≥ 64
CTX 4–16 ≤ 16 32 ≥ 64
IPM 1–8 ≤ 4 8 ≥ 16
MEPM 1–8 ≤ 4 8 ≥ 16
ABPC/SBT 2/1–16/8 ≤ 8/4 16/8 ≥ 32/16
PIPC/TAZ 2/4–64/4 ≤ 32/4 64/4 ≥ 128/4
MFLX 1–4 ≤ 2 4 ≥ 8
CLDM 0.5–4 ≤ 2 4 ≥ 8

レンジ幅:KY33とRSMA1の両プレートで共通のMIC値

S: susceptible, I: intermediate, R: resistant

II  成績・結果

1. 精度管理の結果

精度管理については,従来法・ライサス法ともにすべての薬剤についてCLSIの基準範囲内11)であり,良好な結果であった(Table 3)。レンジが認められ‍たものはライサス法のMFLX,CLDM,IPM,MEPM‍で,B. thetaiotaomicron ATCC29741のMFLX(4 ‍μg/mL:13件,8 μg/mL:2件)とCLDM(4 μg/mL:2件,8 μg/mL:13件),E. lenta ATCC43055のIPM(≤ 0.25 μg/mL:14件,0.5 μg/mL:1件)とMEPM(≤ 0.25 μg/mL:8件,0.5 μg/mL:7件)であった。それ以外はすべて同一結果が得られた。MFLX,CLDMにおいては,従来法の方がライサス法より低めにMIC値が判定された。

Table 3  標準菌株による精度管理結果
標準菌株 薬剤 Broth microdilution(μg/mL)
Reference range MIC MIC
従来法 ライサス法
B. fragilis ATCC25285 IPM 0.03–0.25 ≤ 1 ≤ 0.25
MEPM 0.03–0.25 ≤ 1 ≤ 0.25
ABPC/SBT 0.5/0.25–2/1 ≤ 2/1 ≤ 0.5/0.25
PIPC/TAZ 0.03/4–0.25/4 ≤ 2/4 ≤ 2/4
MFLX 0.12–0.5 0.25 ≤ 1
CLDM 0.5–2 1 2
B. thetaiotaomicron ATCC29741 IPM 0.25–1 ≤ 1 ≤ 0.25
MEPM 0.06–0.5 ≤ 1 ≤ 0.25
ABPC/SBT 0.5/0.25–2/1 ≤ 2/1 ≤ 0.5/0.25
PIPC/TAZ 2/4–16/4 ≤ 2/4 ≤ 2/4
MFLX 1–8 2 4–8
CLDM 2–8 4 4–8
E. lenta ATCC43055 IPM 0.25–2 ≤ 1 ≤ 0.25–0.5
MEPM 0.125–1 ≤ 1 ≤ 0.25–0.5
ABPC/SBT 0.5/0.25–2/1 ≤ 2/1 ≤ 0.5/0.25
PIPC/TAZ 8/4–32/4 8/4 8/4
MFLX 0.12–0.5 0.25 ≤ 1
CLDM 0.06–0.25 ≤ 0.5 ≤ 0.5

各ATCC株の15重測定(3重測定×5日間)の結果

2. 臨床分離株の結果

1) 結果の再現性

従来法とライサス法の再現性の結果を確認した。従来法とライサス法を比較し,MICの結果が±3管差以上異なった株,もしくはVME,MEが認められた株は,Bacteroides spp.では5株あり,薬剤別ではMFLX 3件,CLDM 1件,FMOX 1件であり,Clostlidium spp.では12株で,薬剤別ではCLDM 11件,MFLX 1件であった(Table 4)。また,従来法では,1回目と2回目測定によってCLSIカテゴリーの結果が感性から耐性,または耐性から感性となったものは0株であったが,ライサス法では4株あった。それらの株に関しては,3回目測定の結果を相関データとして採用した。

Table 4  従来法とライサス法の再現性の結果
菌種 菌株 測定数 薬剤名 従来法 ライサス法
MIC カテゴリー MIC カテゴリー
Bacteroides spp. 1 2 MFLX > 4 R 2 S
> 4 R 2 S
2 2 MFLX 1 S > 16 R
1 S > 16 R
3 2 MFLX 2 S 16 R
2 S 16 R
4 3 CLDM ≤ 0.5 S > 8 R
≤ 0.5 S ≤ 0.5 S
≤ 0.5 S ≤ 0.5 S
5 3 FMOX > 32 R 16 S
> 32 R > 16 I or R
> 32 R > 16 I or R
Clostridium spp. 1 2 MFLX 2 S 8 R
2 S 8 R
2 2 CLDM 1 S 8 R
1 S 8 R
3 2 CLDM 1 S 8 R
1 S 8 R
4 2 CLDM 1 S 8 R
1 S 8 R
5 2 CLDM 1 S 8 R
1 S 8 R
6 2 CLDM 1 S 8 R
1 S > 8 R
7 2 CLDM 2 S 8 R
2 S 8 R
8 2 CLDM 2 S 8 R
2 S 8 R
9 2 CLDM 2 S 8 R
2 S 8 R
10 2 CLDM 2 S > 8 R
2 S > 8 R
11 3 CLDM > 4 R ≤ 0.5 S
> 4 R > 8 R
> 4 R > 8 R
12 3 CLDM > 4 R 1 S
> 4 R 8 R
> 4 R 8 R

各菌株の最下段の結果を相関データとして採用した。

2) スキップが発生した株

スキップが発生した株および薬剤の一覧をTable 5に示した。従来法でスキップが発生した株は0株であったが,ライサス法では9株あり,Bacteroides spp.が7株(FMOX,CLDM:各3株,ABPC/SBT:2株,CTX,IPM:各1株),Clostridium spp.は2株(MFLX,ABPC/SBT:各1株)であった。再検後,すべての株においてスキップは解消された。

Table 5  ライサス法でスキップが発生した株のリスト
菌種 株数 薬剤名 1回目 2回目
MIC カテゴリー MIC カテゴリー
Bacteroides spp. 1 CLDM > 8 * 1 S
2 FMOX > 16 * 16 S
3 FMOX > 16 * 4 S
4 ABPC/SBT 2/1 * 16/8 I
CTX 32 * > 64 R
5 CLDM > 8 * ≤ 0.5 S
ABPC/SBT 2/1 * ≤ 0.5/0.25 S
IPM 4 * ≤ 0.25 S
6 FMOX 16 * 4 S
7 CLDM > 8 * 1 S
Clostridium spp. 1 MFLX 8 * ≤ 1 S
2 ABPC/SBT 8/4 * ≤ 0.5/0.25 S

*:スキップ

3) Bacteroides spp.における従来法とライサス法の比較

Bacteroides spp.における従来法とライサス法の比較をTable 6aに示した。Bacteroides spp.において±1管差内一致率:87%~100%,CLSIカテゴリー一致率:78%~100%であった。CTX,MFLX以外の薬剤は±1管差内一致率が90%以上であった。PIPC/TAZは従来法がライサス法よりMICが高めに判定される傾向を示したが,CLSIカテゴリーに影響はなかった。mEが多数の薬剤でみられたが,VME,MEについては,ともに3%以下であった。

Table 6 

従来法とライサス法の薬剤ごとの比較

(a)Bacteroides spp.(n = 68)
MIC(μg/mL) ±1管差内一致率 CLSIカテゴリー一致率 VME ME mE
≤ 0.25 0.5 1 2 4 8 16 32 64 > 64
CMZ 従来法 5 20 11 1 31 96%(65/68) 87%(59/68) 0%(0) 0%(0) 13%(9)
ライサス法 5 13 16 8 26
FMOX 従来法 18 9 8 8 10 15 90%(61/68) 85%(58/68) 0%(0) 0%(0) 15%(10)
ライサス法 26 5 9 5 6 17
CTX 従来法 8 6 2 52 87%(59/68) 78%(53/68) 0%(0) 0%(0) 22%(15)
ライサス法 11 9 9 39
IPM 従来法 57 8 1 0 2 100%(68/68) 100%(68/68) 0%(0) 0%(0) 0%(0)
ライサス法 62 4 0 0 2
MEPM 従来法 58 4 3 0 3 100%(68/68) 99%(67/68) 0%(0) 0%(0) 1%(1)
ライサス法 60 3 1 1 3
ABPC/SBT 従来法 40 13 11 1 3 96%(65/68) 88%(60/68) 0%(0) 0%(0) 12%(8)
ライサス法 38 8 10 9 3
PIPC/TAZ 従来法 40 16 6 3 1 0 2 93%(63/68) 100%(68/68) 0%(0) 0%(0) 0%(0)
ライサス法 56 6 3 1 0 0 2
MFLX 従来法 49 8 0 11 88%(60/68) 82%(56/68) 1%(1) 3%(2) 13%(9)
ライサス法 29 18 9 12
CLDM 従来法 25 14 2 2 25 93%(63/68) 87%(59/68) 0%(0) 0%(0) 13%(9)
ライサス法 20 9 8 9 22
(b)Clostridium spp.(n = 43)
MIC(μg/mL) ±1管差内一致率 CLSIカテゴリー一致率 VME ME mE
≤ 0.25 0.5 1 2 4 8 16 32 64 > 64
CMZ 従来法 37 0 4 1 1 98%(42/43) 95%(41/43) 0%(0) 0%(0) 5%(2)
ライサス法 37 0 0 5 1
FMOX 従来法 36 5 2 0 0 0 100%(43/43) 100%(43/43) 0%(0) 0%(0) 0%(0)
ライサス法 37 0 6 0 0 0
CTX 従来法 41 1 0 1 100%(43/43) 98%(42/43) 0%(0) 0%(0) 2%(1)
ライサス法 41 1 0 1
IPM 従来法 33 9 1 0 0 100%(43/43) 100%(43/43) 0%(0) 0%(0) 0%(0)
ライサス法 38 5 0 0 0
MEPM 従来法 41 2 0 0 0 100%(43/43) 100%(43/43) 0%(0) 0%(0) 0%(0)
ライサス法 41 2 0 0 0
ABPC/SBT 従来法 43 0 0 0 0 100%(43/43) 100%(43/43) 0%(0) 0%(0) 0%(0)
ライサス法 43 0 0 0 0
PIPC/TAZ 従来法 43 0 0 0 0 0 0 100%(43/43) 100%(43/43) 0%(0) 0%(0) 0%(0)
ライサス法 43 0 0 0 0 0 0
MFLX 従来法 38 1 1 3 95%(41/43) 95%(41/43) 0%(0) 2%(1) 2%(1)
ライサス法 33 4 2 4
CLDM 従来法 10 11 11 1 10 63%(27/43) 51%(22/43) 0%(0) 21%(9) 28%(12)
ライサス法 8 1 3 13 18

MIC(μg/mL):従来法とライサス法に共通する薬剤濃度範囲での分布

ABPC/SBT:ABPCの数値

PIPC/TAZ:PIPCの数値

4) Clostridium spp.における従来法とライサス法の比較

Clostridium spp.における従来法とライサス法の比較をTable 6bに示した。Clostridium spp.において±1管差内一致率:63%~100%,CLSIカテゴリー一致率:51%~100%であった。CLDMは従来法がライサス法よりMIC値が低めに判定される傾向を示し,CLDM以外のCMZ,FMOX,CTX,IPM,MEPM,ABPC/SBT,PIPC/TAZ,MFLXの薬剤については±1管差内一致率およびCLSIカテゴリー一致率が95%以上であり,FMOX,IPM,MEPM,ABPC/SBT,PIPC/TAZはともに100%であった。CLDMはME,mEの割合が20%以上であった。

5) 薬剤ごとのBacteroides spp.とClostridium spp.の比較

薬剤ごとのBacteroides spp.とClostridium spp.の比較をTable 6に示した。CMZ,FMOX,IPM,MEPM,ABPC/SBT,PIPC/TAZの±1管差内一致率はBacteroides spp.,Clostridium spp.ともに90%以上であった。CLDMの±1管差内一致率はBacteroides spp.で93%,Clostridium spp.で63%と,Clostridium spp.の方がBacteroides spp.に比べて測定誤差が見られ,さらにBacteroides spp.でMEが0株に対し,Clostridium spp.では9株あった。VME,MEは,Clostridium spp.のCLDM以外は3%以下であった。MFLXでは,Bacteroides spp.の方がVME,ME,mEが多く認められた。

III  考察

機器の検討で感受性結果を評価する際に,MIC ± 1管差内一致率90%以上,VMEおよびMEは3%以下が良いとされている12),13)Bacteroides spp.はCTXおよびMFLX以外,Clostridium spp.はCLDM以外の薬剤の±1管差内一致率は90%以上,VMEおよびMEは,Bacteroides spp.ではすべての薬剤,Clostridium spp.はCLDM以外の薬剤が3%以下であり,総じて良好な結果であった。しかし,Bacteroides spp.ではCTXおよびMFLX,Clostridium spp.ではCLDMに判定誤差が認められたことから,根本的な原因として考えられる目視判定による影響に加え,細菌や薬剤の種類および機器の特性による影響もあることを念頭におく必要があると考えられた。これは,薬剤耐性化が問題となっているBacteroides spp.5)~8)と,もともと薬剤耐性菌の報告が少ないClostridium spp.5),6),8)の違いにも起因しているものと考えられた。感受性菌の場合は各ウェルを細かく見る必要がなく,菌の発育が認められないため判定が容易であるが,耐性菌の場合は薬剤ごとに菌の発育の有無があり,各ウェルを細かく読むため個人によりエンドポイントの読み取り間違いが発生する可能性がある。従来法では馬溶血液が含まれている感受性ブルセラブロス‘栄研’を用いており,ブロスが濃い赤色を呈している。その結果,混濁または直径1 mm以上の沈殿が認められたものや,沈殿の直径が1 mm未満であっても沈殿塊が2個以上認められたものを見逃す危険性があり,読み取り間違いの一因となると推測された。今回の検討では,Clostridium spp.でCLDMにME,mEが複数発生していた。Clostridium spp.でCLDMは治療で用いられることが多いため,CLDMの耐性菌が増加していること8),14),15)や,殺菌的に作用する他の薬剤に比べ,静菌的に作用するCLDMでは薬剤希釈系列の途中での菌塊形成が弱いこと16),さらに標準菌株でみられたCLDMでは従来法がライサス法より低い傾向があったため測定法の差が要因となっていることが従来法とライサス法の判定差に影響している可能性が示唆された。Bacteroides spp.は,薬剤耐性化が問題となっているため,CLDMにも耐性を示すものがある。そのため,従来法とライサス法で1,2管差判定がずれていても,VME,MEが認められるほどの誤差とならなかったと考えられた。また,目視で発育が認められるためには108 CFU/mL以上の菌量が必要4)であり,107 CFU/mL以下では発育していないと判定される。一方で,RAISUS ANYは濁度を光学的に読み取ることで,濁りが発生したウェルをより正確に発育したと判定するため,Clostridium spp.のCLDMにME,mEが発生したのではないかと推測された。

薬剤耐性菌はブレイクポイント付近のMIC値を示す株も存在し,薬剤感受性判定が適切な薬剤選択のために非常に重要である。実際に,栄研化学のメーカーサーベイでは,ドライプレート‘栄研’の実物大による判定画像でのフォトサーベイが行われている。2014年の報告書によると,薬剤によっては発育最終ウェルの微小な発育像を発育しているとするか発育していないとするかで判定が分かれるという報告がされていた。

前述のとおり,薬剤感受性試験は,目視による判定において,個人差や目視判定の限界といったヒューマンエラーが発生する可能性があるため,個人差をなくす努力として,結果のダブルチェック,自施設での目合わせ,また各種サーベイに積極的に参加し,感受性検査の精度を保つ必要が考えられた。一方で,機器による判定はシステム管理されており,目視判定の限界に伴うヒューマンエラーが発生する可能性は極めて低い。ライサス法を用いることで,従来法で行われてきた嫌気性菌感受性検査が自動で結果の読み取りが行えるようになり,個人差や目視判定の限界といった影響を受けず,より客観的に検査結果が得られ,精度向上に貢献できるものと期待される。しかし,従来法では起きなかったスキップがライサス法では発生し,再検が必要となることがある。RAISUS ANYでは嫌気性菌の発育を,濁度形成の強弱を吸光度に置き換え判定している。ウェルに気泡があると光の反射が起き,透過光量が変動して吸光度が高くなるため,薬剤希釈系列の途中で気泡があると,スキップ様と捉え,機器が誤判定したと考えられた。そのため,機器で自動判定をする前には,気泡がないかチェックをする努力が必要である。気泡が発生する原因は特定できていないが,機器分注時で発生した際の残存,溶存気体などの影響が推察される。また,ABPC/SBT,FMOX,CLDMにおいてスキップの発生する割合が他の薬剤に比べ,多い傾向がみられた。再検後すべてのスキップが解消されたため,気泡発生については,再現性は低いものと考えられた。しかし,スキップは結果誤報告につながるため,これらの原因の解明は今後の課題とされる。

本検討ではBacteroides spp.とClostridium spp.の2菌種以外の嫌気性菌での試験を行っておらず,今後さらにデータの蓄積が必要である。しかしながら,発育速度が異なる17),18)血流感染症の上位2菌種を用いた本検討では従来法,ライサス法ともに35℃,48時間の嫌気培養下で発育不良になることなく判定が可能であった。

IV  結語

RAISUS ANYを用いた検査法は,自動判定により客観性に富む検査法であり,機器による判定によりヒューマンエラーがなくなり同時再現性もよいことから,検査における自動化機器の使用は有用であり,臨床に貢献できると考えられた。嫌気性菌の薬剤感受性試験を行う際は,自施設で行っている測定法および試薬が精度管理株および臨床分離株で,他法と比較してどのような傾向があるかを確認し,測定法の特性を理解した上で実施することが望ましい。

 

本検討は,京都大学医学部の倫理委員会の承認(承認番号:E2382)を得て行った。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
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  • 9)  Clinical and Laboratory Standards Institute: “Anaerobes,” Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing, M100-S25, 102–105, CLSI, USA, 2015.
  • 10)  Clinical and Laboratory Standards Institute: “Table 5F. MIC: Reference guide to quality control,” Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing, M100-S25, 172–175, CLSI, USA, 2015.
  • 11)  Clinical and Laboratory Standards Institute: “Table 5E. MIC: Quality control ranges for anaerobes (broth microdilution method),” Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing, M100-S25, 170–171, CLSI, USA, 2015.
  • 12)  Clinical and Laboratory Standards Institute: Development of In Vitro Susceptibility Testing Criteria and Quality Control Parameters, M23-Ed4, CLSI, USA, 2016.
  • 13)  International Organization for Standardization: Clinical laboratory testing and in vitro diagnostic test systems—Susceptibility testing of infectious agents and evaluation of performance of antimicrobial susceptibility test devices—Part 2: Evaluation of performance of antimicrobial susceptibility test devices, ISO 20776-2: 2007, ISO, EU, 2007.
  • 14)  Clinical and Laboratory Standards Institute: “Appendix E. Cumulative antimicrobial susceptibility report for anaerobic organisms other than Bacteroides fragilis group,” Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing, M100-S22, 170–171, CLSI, USA, 2012.
  • 15)   品川  長夫,他:「外科感染症分離のClostridium spp.とその薬剤感受性」,The Japanese Journal of Antibiotics, 2007; 60: 171–180.
  • 16)  Clinical and Laboratory Standards Institute: “3.11 Determining broth macro-or microdilution end points,” Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard, M07-A10, 30–31, CLSI, USA, 2015.
  • 17)   加藤  高明,他:「Bacteroides spp.の増殖抑制発現に関する実験的研究」,日本化学療法学会雑誌,1999; 47: 287–295.
  • 18)   大谷  郁:「ウェルシュ菌病原性発現メカニズムの解明」,金沢十全医学学会雑誌,2009; 118: 149–153.
 
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