医学検査
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68 巻, 1 号
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原著
  • 北尾 孝司, 石丸 美架, 武田 志穂, 高田 智世
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻1 号 p. 1-6
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    愛媛県立中央病院において分離したextended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生Escherichia coli 268株を対象として,薬剤感受性検査成績の調査を行った。I期(2003–05年),II期(2009–10年),III期(2014–16年)にかけてESBL産生E. coliのceftazidime(CAZ),aztreonam(AZT)に対する非感性率の上昇を認めた。DNAシークエンスによりblaCTX-M-typingを実施したところ,I期,II期ではblaCTX-M-14が優位であったが,III期ではblaCTX-M-14に加えてblaCTX-M-27blaCTX-M-15も優位であった。blaCTX-M-27陽性株とblaCTX-M-15陽性株は,blaCTX-M-14に比べてCAZとAZTに対する非感性率が高かった。したがって,ESBL産生E. coliのCAZとAZTに対する非感性率の上昇は,blaCTX-M-27陽性株とblaCTX-M-15陽性株の増加によることが明らかになった。さらに,blaCTX-M-27陽性株とblaCTX-M-15陽性株においてD240Gのアミノ酸置換変異が検出されたことからCAZに対する非感性率の上昇につながったと考えられた。

  • 有吉 彩, 牧 俊哉, 二村 亜子, 加藤 敦美, 加藤 秀樹, 湯浅 典博
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻1 号 p. 7-12
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    正確で質の高い検査データを提供するため,検査室においてインシデント対策をはじめとするリスクマネジメントを行うことは重要である。インシデントが発生した際,同様のインシデントの再発を防ぐため対策が立てられるが,この対策が機能せず,同様のインシデントが再発することがある。本検討は,検査室において複数回発生した同様のインシデント(再発インシデント)の特徴や対策の問題点を明らかにすることを目的とした。2016年4月までの85ヶ月間に当院検査部で発生したインシデント212件のうち,再発インシデントは83件(39%)であり,その要因は「確認不足」が68%を占めた。単発インシデントの対策(99件)は「やめる」,「できないようにする」,「わかりやすくする,やりやすくする」といった検査環境への対策が多かったが,再発インシデントの対策(54件)は「認知・予測させる」,「できる能力をもたせる」,「自分で気づかせる」などの技師自身に行動を促す対策が多かった。再発インシデントを減らすため,「確認不足」が要因のインシデントに対する検査環境への対策を模索することが今後の課題である。

  • 保谷 岳彦, 山下 洋介, 大野 静香, 菅野 みずき, 内野 利菜, 志水 正史
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻1 号 p. 13-18
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    可溶性フィブリン(soluble fibrin; SF)は,血栓症及び,血栓化傾向を推測する線溶系分子マーカーとしての有用性が認められている。我々は,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)のスクリーニングにSFとDダイマーの測定を行い,測定結果をもとに,確定診断のために造影CT検査を追加している。その結果,当院では,SF,Dダイマーが共に高値患者においてDVTの陽性的中率は30%程度であり,その有用性が示唆される一方で,SF,Dダイマーが高値であっても,DVTや動脈血栓,出血などの所見を認めないケースが存在する。そこで,下肢静脈超音波検査にて血栓を認めた場合や,事前検査にて,悪性腫瘍,肺炎,糖尿病などの他の疾患を認めた患者は除外した患者群でSF,Dダイマーが高値であった要因を検証した。今回,下肢静脈瘤に注目しSF,Dダイマーの測定を行った。その結果,明らかな新鮮血栓を認めていない下肢静脈瘤患者において,下肢静脈レーザー治療(EVLA)を予定した患者のうち,大伏在静脈の血管径が8 mm以上に拡大している患者群(拡張群)において,大伏在静脈の血管径が8 mm未満の患者群(非拡張群)よりSFの有意な高値傾向を認めた(p < 0.01)。このことから,血栓の存在がなくても,SFが高値となることがあり,血管径と逆流に関連していることが示唆された。これらより,SFの高値は,血栓の有無だけではなく,静脈血の鬱帯も考慮するべきであると考えた。

  • 梅澤 敬, 落合 和彦, 山田 恭介, 落合 和徳, 岡本 愛光, 九十九 葉子, 坂本 穆彦, 沢辺 元司
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻1 号 p. 19-25
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    人間ドックにおけるBD SurePathTM法による液状化細胞診法と従来法の,SIL検出率と検体不適正率の分析を目的とした。Cervex-Brush®で採取し直接塗抹後,ブラシ先端を専用のバイアルに回収しSplit-sampleによる従来法とBD SurePathTM法でのSIL検出率,及び検体不適正率を比較した(χ2検定,p < 0.05)。対象はSplit-sample 2,025例であった。SIL検出数および検出率は,Split-sampleによる従来法63例(3.1%)のうちLSIL 33例(1.6%),HSIL 30例(1.5%),BD SurePathTM法SIL 69例(3.4%)のうちLSIL 37例(1.8%),HSIL 32例(1.6%),であった。BD SurePathTM法でSILであった69例中39例(HSIL:16例,LSIL:23例)は受診歴があり,そのうちNILMであった31例中24例(61.5%)で前回細胞診では綿棒採取による従来法であった。31例の標本の再評価では検体不適正(16例),NILM(8例),ASC-US(5例),ASC-H(2例)であった。BD SurePathTM法では検体不適正が0%であった。BD SurePathTM法は,HSIL検出率が向上し,検体不適正が改善された液状化細胞診法であり,子宮頸がん健診での有用性が高い。

  • 面 すみれ, 秋葉 容子, 梶原 裕貴, 佐藤 正一
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻1 号 p. 26-32
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    2015年に当院救急外来において血液培養が実施された患者557例を対象に,検出菌状況,患者背景および臨床検査所見について調査し,血液培養陽性結果について後方視的検討を行った。血液培養陽性は75例(13.5%)で,陽性例の感染巣別内訳は腎尿路系34.7%,胆道系16.0%,呼吸器系10.7%の順に高く,検出菌株は78株で腸内細菌の分離頻度が高かった。血液培養陽性結果には全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome; SIRS),拡張期血圧(diastolic blood pressure; DBP),総ビリルビン(total billirubin; T-Bil),クレアチニン(creatinine; Cr)が有意に関与しており,これらを総合した予測値に対するreceiver operating characteristic(ROC)曲線下面積は0.79(95%信頼区間:0.74–0.84)であった。血液培養陽性群は予後が不良であり,予後に影響を与える因子としてアルブミン(albumin; Alb)およびラクテート(lactate; Lac)が示唆された。本検討により当院救急外来における血液培養陽性例の特徴が明らかとなり,早期診断および適切な治療の一助となる結果が得られた。

  • 柴田 真明, 佐々木 真弓, 下垣 里河, 村本 良三, 種村 正
    原稿種別: 原著
    2019 年68 巻1 号 p. 33-39
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    血清中無機リン(inorganic phosphorus; IP)の全血保存中の変動および溶血の影響について改めて検討した。まず,全血室温保存では有機リンの加水分解による上昇が知られているが,10名の健常成人の検体を使用し検討したところ,上昇が始まる以前に全例において一旦低下する現象が見られた。赤血球内解糖系のATP合成に起因した低下と考えられるが,IP値の低下は有意であり,低下率の最大は4~22%と個体差は大きかった。全血室温保存中のIP値の低下は既報にない結果であり,詳細について洗浄赤血球を用いて検討した。その結果,IP値の低下は約1時間後から,有機リンの加水分解による上昇は約2時間後から始まると考えられた。IP値の変動には全血の保存温度やグルコース濃度が関与しているが,全血保存中に早期に変動するため採血後はすみやかに血清分離する必要がある。次に溶血の影響については,測定原理が異なる3試薬を用いて検討した。溶血液添加直後の影響は3試薬間で若干異なったが,3試薬共に室温保存中にIP値は徐々に上昇した。有機リンの加水分解に起因した上昇と考えられるが,溶血血清の測定はすみやかに行う必要がある。

技術論文
  • 濱野 京子, 長尾 美紀, 松村 康史, 山本 正樹, 柚木 知之, 樋口 武史, 一山 智
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 40-48
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    近年,嫌気性菌の薬剤耐性化が問題となってきており,ルーチン検査における感受性試験の重要性が増している。そこで,目視判定を行う栄研ドライプレート(従来法)と全自動迅速同定感受性測定システムRAISUS ANY(ライサス法)を用いてBacteroides spp. 68株,Clostridium spp. 43株の計111株の薬剤感受性検査を行い,検査法や菌種による差が認められるかを確認した。その結果,従来法とライサス法に共通の9薬剤での±1管差内一致率はBacteroides spp.: 87%~100%,Clostridium spp.: 63%~100%,CLSIカテゴリー一致率はBacteroides spp.: 78%~100%,Clostridium spp.: 51%~100%であった。Bacteroides spp.におけるCTXおよびMFLX,Clostridium spp.におけるCLDMにおいて判定誤差があった。これは従来法において耐性菌のMIC値判定によるヒューマンエラーが関与しているものと考えられた。一方で,ライサス法は,客観性に富む検査法であり,機器による判定により個人差がなくなることから,ルーチン検査において有用であると考えられた。

  • 保坂 好恵, 中村 文子, 佐野 麻衣, 長南 正佳, 土屋 浩二, 三澤 成毅, 堀井 隆, 大坂 顯通
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 49-55
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    Streptococcus agalactiaeの選択分離培地であるVi GBS寒天培地による妊婦の腟および肛門部からの検出性能を評価した。S. agalactiae臨床分離株98株中97株は,Vi GBS上に良好に発育し,培養24時間以内に特徴的な赤紫色の集落を形成した。腟または肛門内の常在菌はほとんどVi GBSに発育しなかった。Enterococcus spp.,Streptococcus mitisPseudomonas aeruginosa,およびCandida spp.はVi GBSに発育したが,集落が着色しない,または極めて小さな集落であり,S. agalactiaeと容易に区別できた。綿棒で採取された腟分泌物287検体は従来法であるヒツジ血液寒天/BTB乳糖寒天分画培地,Vi GBSの順に塗布し,35℃,24時間,好気培養した。これらのうち,従来法との一致率は98.6%(283/287)であった。不一致は4検体認められ,2検体は検体中の菌量が極めて少ない検体であった。残る2検体はVi GBSで検出されたが,BA/BTBでは検出されなかった。糞便検体にS. agalactiaeを人工的に混合した模擬検体は,Enterococcus spp.による発育抑制は認められず,全6検体からS. agalactiaeを回収できた。Vi GBS寒天培地を用いた直接平板培養は,高い選択性能を有し,妊婦からのS. agalactiaeの分離に有用と考えられた。

  • 古谷 桃子, 山田 浩司, 菅原 清美, 淺沼 康一, 田中 信悟, 永原 大五, 柳原 希美, 髙橋 聡
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 56-60
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    PIVKA-IIは,ビタミンK欠乏,ビタミンK拮抗薬投与,肝実質障害などで産生され,特に,肝細胞癌を有する患者血清中に高率に出現することから,腫瘍マーカーとして使用されている。今回,MU-3抗体(1次抗体)を用いた測定試薬で,新たに2次抗体をポリクローナル抗体からモノクローナル抗体に変更し,さらに,血漿測定も可能として発売された「ルミパルスプレストPIVKA II-Nエ-ザイ」が発売されたので,その基本的性能について検討した。その結果,同時再現性はCV値で1.8~6.3%,日差再現性はCV値で2.9~5.4%,希釈直線性についても概ね良好であった。現行試薬との相関性はy = 0.95x + 117.2,r = 0.99と良好であり,本試薬における血清検体と血漿検体の相関性はy = 0.78x + 231.4,r = 1.00と傾きがやや低い傾向だったが,測定上限を10,000 mAU/mLに設定して解析すると傾き1.04と良好な結果が得られた。以上の結果から本試薬は日常検査に有用と考えられた。

  • 登尾 一平, 吉田 剛士, 末田 英志郎
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 61-67
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    不規則抗体スクリーニングは臨床的意義のある抗体を検出し,同時に臨床的意義のない抗体を可能な限り検出しない検査法が理想とされる。今回我々は,ポリエチレングリコールを用いた間接抗グロブリン試験(poly-ethylene glycol indirect antiglobulin test; PEG-IAT)を指標とし,0.8%セルスクリーンJ -Alba-を赤血球試薬とした間接抗グロブリン試験(以下,0.8%RCD法)と,従来試薬であるバイオビュースクリーンJを赤血球試薬とし,低イオン強度溶液(low-ionic-strength solution; LISS)を用いた間接抗グロブリン試験(以下,LISS-IAT)+ Ficin二段法(以下,Ficin法)の2法について比較検討した。対象は臨床検査科に提出された1,254検体とした。LISS-IAT + Ficin法および0.8%RCD法の抗体陽性率はそれぞれ10.8%と3.4%であった。方法別のPEG-IATとの一致度はLISS-IAT + Ficin法が完全一致率33.2%,κ係数0.086であり,0.8%RCD法が完全一致率82.1%,κ係数0.705であった。また,感度・特異度・尤度比はLISS-IAT + Ficin法が感度82.6%,特異度90.5%,尤度比8.69であり,0.8%RCD法では感度82.6%,特異度98.1%,尤度比42.37であった。このことからLISS-IAT + Ficin法と比較し0.8%RCD法において,一致度,特異度および尤度比が良好であった。さらに,0.8%RCD法の検出感度はPEG-IATと同等の検出感度であり,1検体あたりのコストは0.8%RCD法が717円,LISS-IAT + Ficin法では1,234円であった。以上のことから,0.8%RCD法はPEG-IATとの一致度が高く,PEG-IATと同等の検出感度を持ち,臨床的意義のある抗体を検出する一方,臨床的意義のない抗体を検出しない方法であることから,スクリーニング試薬として有用であると考えられた。

  • 松下 裕, 新垣 直樹, 井田 良幸, 田淵 圭佑, 森井 眞治, 瀧口 良重, 大石 博晃, 玉井 秀幸
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 68-75
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    C型肝炎において肝線維化の進行度を診断することは臨床上極めて重要である。近年,肝線維化の程度は,剪断弾性波速度(shear wave velocity; Vs)の測定を用いた肝硬度の定量化により,非侵襲的に評価可能となってきている。肥満は,超音波検査における描出能を低下させる要因であるが,Vs値の測定に与える影響は未だ十分に明らかにされていない。本研究の目的は,Vs値測定に及ぼす肥満の影響を明らかにすることである。慢性C型肝炎患者を対象とし,BMIにより肥満群(BMI 25以上)と非肥満群(BMI 25未満)に分け,Vs値,血小板,IV型コラーゲン7s,ヒアルロン酸,APRI,FIB4 indexをF0からF4までの肝線維化進行度別に比較した。その結果,Vs値は肥満群ですべてのステージにおいて高値を示す傾向であったが,血清線維化マーカーでは有意差を認めなかった。C型肝炎肥満例におけるVs値を用いた肝線維化評価は,他の線維化マーカーも合わせ慎重に行う必要があると考えられた。

  • 黒川 貴史, 中島 博行, 西條 芳文, 田中 元直, 高橋 伸一郎
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 76-84
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    目的:心臓ポンプ機能の評価には局所心筋の伸縮性を非侵襲的に計測することが重要である。本研究の目的は,高フレームレート超音波イメージングに位相差トラッキング法を適用し,超音波ビーム軸上の左室心筋ストレインレート(axial strain rate; aSR)を算出し,左室心筋の局所的な伸縮特性を解明することである。対象・方法:対象は,健常例20例および心疾患例2例(前壁中隔梗塞および拡張型心筋症)である。心室中隔および左室後壁からサンプリングレート500~600 Hzで超音波RF信号を取得し,ビーム軸上のaSRを算出しMモード像上にカラー表示することでaSRの空間分布を表示した。結果:健常例において,心筋の収縮・弛緩は心室中隔では右室側から左室側へ,左室後壁では心外膜側から心内膜側へと遷移していく様子が確認された。また,左室後壁においては心尖部が心基部に先行して収縮および弛緩する様子が確認された。伸縮の空間分布は不均一で,その分布様式は斑状分布,多層分布,濃淡分布,層状分布,反復分布の5種類に分類可能であった。一方,心疾患例ではaSRの絶対値が小さく,また分布の多様性も乏しかった。結語:本手法は高分解能に心筋伸縮特性を描出することで,心臓ポンプ機能評価に重要な情報をもたらしうる。

  • 下仮屋 雄二, 渡邊 真希, 坂口 茜, 西川 美有, 秋月 基伸, 桜井 錠治, 森本 誠, 中谷 中
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 85-91
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    我々は,これまでの試薬とは異なる抗原エピトープを認識する新規D-dimer試薬であるLPIAジェネシスDダイマー(LPIA-GENESIS D-dimer; LG-DD)の基本性能と試薬特性を検討したので報告する。連続10回測定した同時再現性はCV値が0.21~2.67%,10日間測定した日差再現性は1.86~2.80%であった。希釈直線性は56.3 μg/mLまでの直線性が確認できた.最小検出感度は0.34 μg/mLであった.エルピアエースD-DダイマーII(LPIA-ACE-D-DimerII; ACE-DD)との相関性はy = 0.964x + 0.092,r = 0.952であった。フィブリノゲンを線溶させて経時的に測定した結果,LG-DDは経過時間に伴う測定値の上昇は認めなかった。フィブリンを線溶させて経時的に測定した結果,経過時間に伴う測定値の上昇を認めACE-DDより高値で推移した。凝固第XIII因子欠乏血漿を凝固させた後に線溶させた結果,経過時間に伴う測定値の上昇を認めるがACE-DDより低値であった。採血管内で凝固した検体では測定値に影響を受けにくいことが示唆された。本検討結果からLG-DDは高性能であり,採血管内凝固の影響を受けにくく生体内で産生されたD-dimerに特異性が高い特徴を有していることが考えられた。

  • 西森 美香, 大原 有理, 塩田 祐也, 山﨑 美香, 弘内 岳
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 92-98
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    救急搬送された患者に急性期脳梗塞が疑われる場合,心原性脳塞栓症(cardio-embolic stroke; CE)と非心原性脳梗塞(non-cardio-embolic stroke; non-CE)の鑑別は,治療計画決定のため重要である。今回我々は2016年7月~2018年2月に当院救命救急センターに搬送され急性期脳梗塞が疑われた101例(CE群33例,non-CE群68例)を対象とし,可溶性フィブリン(soluble fibrin monomer-fibrinogen complex; SF),D-dimer測定がCEとnon-CEとの鑑別に有用かどうかについて検討した。発症から入院時までの時間(ΔT(Hr))によって,この急性期群患者を次の2群,超急性期群(ΔT ≤ 4.5)および準急性期群(ΔT > 4.5)に分けて解析した。超急性期CE群において,搬送時SF,D-dimer値はNIHSSまたは退院時のmRSとの間に相関は認められず,SF,D-dimer値は搬入時重症度や予後をあらわす因子とは言えなかった。SF,D-dimer測定値はΔTによる群別に拘わらずCE群がnon-CE群に比べて有意に高かった。CE群とnon-CE群を鑑別するためROC解析を行った結果,超急性期群においてSFを測定項目とすることにより,AUCの最大値が得られた(カットオフ値11.8 μg/mL,特異度97%,感度87%)。このことよりSFの測定が超急性期脳梗塞患者のCEとnon-CEの鑑別の補助診断マーカーとなり得ると考えた。

  • 宇佐美 陽子, 石嶺 南生, 柴 彩夏, 山浦 洵, 川崎 健治, 菅野 光俊, 上原 剛, 本田 孝行
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 99-104
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    【背景】オートタキシンはリゾホスファチジルコリンをリゾホスファチジン酸とコリンに分解するリゾホスホリパーゼD活性を持った酵素である。肝線維化の進展によって血中濃度が上昇するため,新たな肝線維化マーカーとなることが期待されている。今回我々はEテスト「TOSOH」II(オートタキシン)の基礎的性能評価と健常人のオートタキシンの濃度分布について検討を行った。【対象と方法】オートタキシンはAIA-2000(東ソー株式会社)で測定した。性能評価は再現性,直線性,定量限界,共存物質の影響,検体の保存安定性について行った。健常人の濃度分布については,肝機能が正常な健常人160名(男性80名,女性80名)を対象として,性別・年齢グループ別にオートタキシン濃度に差があるか検討した。【結果】同時再現性は変動係数(coefficient of variation; CV)1.74~2.52%,日差再現性はCV 3.55~4.09%であった。希釈直線性は8.51 mg/Lまで確認され,定量限界は0.03 mg/Lであった。共存物質の影響は認められなかった。保存条件は,室温で5日間,冷蔵で6日間,冷凍で30日間,凍結融解は5回まで,オートタキシンの測定値に影響がなかった。健常人のオートタキシン濃度の中央値は男性で0.70 mg/L,女性で0.82 mg/Lで有意な差を認めたが,年齢差は認められなかった。【まとめ】オートタキシン測定の基礎的性能は良好であった。オートタキシンは男性に比べて女性で高値となるので,男女別の基準値や臨床判断値の設定が必要である。

  • 中島 あつ子, 杉田 好, 工藤 沙也果, 石川 貴徳, 本田 なつ絵, 党 雅子, 春木 宏介, 樋口 敬和
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 105-109
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    現在,輸血検査の24時間体制は必須であり,また,標準化および精度の向上や業務の効率化などから,自動輸血検査装置や輸血管理システムの開発が進んでいる。自動機器の導入には,機器の処理能力や費用など施設の適応性を検討する必要性がある。当院では,1984年の開院当初から臨床検査技師が輸血業務を24時間体制で行い,その後,輸血管理システムとオートビューを導入し宿日直も自動化とし,電子カルテを導入した。今回,2016年に機器更新に伴い,オートビューイノーバからオーソビジョンに更新した。ビジョンを2台導入することによりバックアップ体制が可能となり,アンケート結果から輸血業務が軽減されたことが確認された。また,イノーバとの統計的比較からIgGカセットおよび血球試薬が8~10%節減となった。これらの結果から,ビジョンの性能は当院に適した性能と評価した。

  • 藤原 麻有, 中村 竜也
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 110-116
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)スクリーニング寒天培地であるクロモアガーmSuper CARBA生培地(関東化学)を用いて発育支持能の検討を行った。当施設保存株のうちPCR法により耐性機序が判明している腸内細菌科細菌各種薬剤耐性50株を対象とした。カルバペネマーゼ産生遺伝子の内訳は,IMP型16株,GES型2株,NDM型3株,KPC型2株,SMB型1株,VIM型2株,OXA型2株と,その他耐性菌としてAmpC産生8株,ESBL単独産生9株,その他5株を使用した。発育支持能試験は,Miles & Misra法に準拠して行い,35℃で24時間培養後に発育したコロニー数を確認した。CPE検出感度は100%,特異度86.4%と良好であり,CPE28株中25株が1.0 × 102 CFU/mLまで発育を認めた。一方,IMP型3株においては1.0 × 105 CFU/mLで発育を認めず,いずれもカルバペネム系抗菌薬のMIC値が低値であった。感度,特異度ともに良好であり,CPEスクリーニング検査の一つとして有用であることが示唆された。一方で,発育はカルバペネム系抗菌薬のMIC値と相関するため,培地の特性を把握したうえで,適切に使用することが重要であると考えられた。

  • 池亀 央嗣, 高橋 加奈絵, 川口 裕貴恵, 横山 千明, 諸橋 恵子, 磯崎 勝, 須貝 美佳, 梅津 哉
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 117-123
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    3価鉄イオンを検出するベルリン青染色は,フェロシアン化カリウムに3価鉄イオンが結合しフェロシアン化鉄(ベルリン青)形成反応を利用した染色で,染色試薬の用時調製を要する。我々は,染色試薬の使用可能期間を明らかにするため,染色試薬の600 nmでの吸光度と染色性の変化を,保存条件を変え1年間まで経時的に検討した。保存条件は,室温,4℃,両者の遮光,及び−80℃(一部−20℃)凍結とした。吸光度は,凍結保存では一定値を保っていたが,それ以外では増加した。凍結保存では染色の色調,及び強度は1年後でも変化せず,共染色もなかった。それ以外では,青色から緑色調へと変化し,染色強度は減弱,共染色は増強した。凍結速度や凍結保存の温度は,染色性に影響しなかった。吸光度変化から,凍結保存以外の染色試薬では,経時的に液中に3価の第二鉄塩を生じ,フェロシアン化カリウムと反応して遊離フェロシアン化鉄を形成するため,組織中の鉄イオンと結合するフェロシアン化カリウムが減少して染色強度が低下すると考えられた。また,青色から緑色への色調変化は,ベルリン青色素の分子量が変化するためと考えられた。遮光保存の結果から,これらの反応に光が関与することが示唆された。染色試薬の凍結により反応が停止し吸光度と染色性の変化がみられなくなると考えられた。以上から,染色試薬を凍結保存することで,用時調製が不要となることが示された。

  • 村田 和也, 河原 明彦, 貞嶋 栄司, 高瀬 頼妃呼, 安倍 秀幸, 山口 知彦, 内藤 嘉紀, 秋葉 純
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 124-131
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    液状化細胞診(liquid based cytology; LBC)の1つであるSurePath用手法は,直接塗抹法に比べ,標本作製工程が煩雑化しているため,標本作製の簡略化が求められている。今回我々は,SurePath用手法において自動細胞洗浄遠心機MC480LBCは,LBC標本作製工程において沈査細胞数に影響を与えるか否かについて検討した。一定細胞数に調節した肺癌培養細胞を用いて,次のような5つの検討を行った:A)液状検体量(1 mL–3 mL)の違いにおける細胞数の比較 B)遠心加速度と時間の違い(600 gおよび800 gで5分間と10分間遠心)における細胞数の比較 C)液状化検体の細胞濃度の違いにおける細胞数の比較 D)コンタミネーション試験 E)洗浄回数増加と細胞数の比較。これらのすべての検体においてパパニコロウ染色を施行し,標本中の沈査細胞数を測定した。その結果,液状検体容量の違いは細胞数に明らかな影響を与えなかった(p = 0.779)。遠心加速度と時間の違いにおいて,細胞数に明らかな有意差はみられず(p = 0.863),細胞の形態変化はなかった。少量および多量細胞数の検体の比較において,標本中の細胞数に有意差はみられなかった(少量:p = 0.826,多量p = 0.779)。また,隣り合う検体にコンタミネーションはみられなかった。洗浄回数増加と細胞数の比較では,3回以上の洗浄を行うと1回洗浄の沈査細胞数に比べ,その数は有意に減少した(p = 0.001)。これらの結果より,MC480LBCは1回洗浄を行うSurePath用手法のプロトコールを遵守することにより,用手法の洗浄工程を代用することが可能である。

  • 中本 有美, 飯田 詩穂, 村井 翔太郎, 橋本 憂奈, 西田 栄子, 山崎 桂子, 宮川 直子, 飯沼 由嗣
    原稿種別: 技術論文
    2019 年68 巻1 号 p. 132-137
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    皮膚灌流圧検査(skin perfusion pressure measurement;SPP検査)は,重症虚血肢(critical limb ischemia; CLI)の治療法選択並びに治療効果判定に頻用される。体動などによる測定不良に対して,再測定を行うことがあるが,連続測定による測定値への影響が報告されている。今回SPP検査において,連続測定が検査評価に及ぼす影響について23~67歳の健常者(平均40.8 ± 13.5歳,男性11名,女性13名)を対象に検討した。前脛骨動脈及び内側足底動脈を支配領域とする足背部及び足底部を測定部位に選定し,連続法並びに間隔法にてSPP検査を5回行った。連続法の足背部・足底部,間隔法の足背部・足底部の一元配置分散分析のp値はそれぞれ0.951・0.960・0.838・0.938であり,有意差は認めなかった。変動係数(coefficient of variation; CV)値は足背部群7.4%,足底部群8.5%であり,一部15%を超えるCV高値例も認めたが,CV高値例と各測定法との間に関連性は見いだせなかった。以上により,SPP値の再測定による結果判定への影響は少ないと考えられたが,SPP値の変動要因について更なる検討が必要と考えられる。

資料
  • 勢井 伸幸, 志水 美沙, 志水 俊夫, 多田 遥香, 渡辺 光穂, 速水 淳
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻1 号 p. 138-143
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    凝固検査は,重症外傷患者や血栓溶解療法が必要な患者において,輸血の適応や生命予後推測に関係するため迅速な検査結果が求められる。一方,検体分析までの時間は「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」が出され,結果が算出されるまでの時間が長くなる動きがあり,検体測定時間の短縮が求められている。今回,Turn around Time(TAT)を考慮して,積水メディカル社のCP3000を導入し,シスメックス社のCS-2000iとの比較検討を行った。ボランティア15名の採血を行い,ある曜日と同じ検査項目を測定した。結果として,検体測定開始から最終結果が算出されるまでの時間は,CP3000が21分20秒,CS-2000iが53分52秒であった。この結果より,「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」の遠心条件である2,000 g,10分の遠心条件に変更しても,検体が到着してから測定結果が算出されるまでの時間が短縮されることが分かった。また,今後コンセンサスを凝固検査に導入しても,検体検査が集中する時間は以前の検査方法より迅速に検査結果を算出できるようになった。

  • 永井 友和, 磯部 和正, 飯田 育子, 柳沢 康裕, 屋城 俊夫, 山本 隆之, 鈴木 悦, 川上 康
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻1 号 p. 144-149
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    患者から採血した血液検体は,速やかに検査室へ搬入し,適切な前処理の後検査を実施すべきである。しかし病棟採血検体は全血で長時間保存され検査部へ提出されることがある。我々は検査室で受付されてから報告までのturn around time(TAT)より,採血から結果報告までのTATが精度保証に重要であると考え,病棟検体の採血から検査室への到着までの時間を調査した。その結果,平均時間は91 ± 51分であり,想定よりも長時間であった。そこで,全血検体の保存時間による測定値への影響について室温24℃と冷蔵4℃にて検討を行った。対象は血糖測定値・hANP測定値・生化学測定値とした。血糖測定の検体は,室温で採血2時間後には5.6~15.4%低下し,その後も徐々に低下した。hANP測定の検体は,6時間後に冷蔵で8.4~24.4%,室温で18.9~41.3%低下した。生化学項目で大きな変化を確認したのは,K,LD,IPであり,Kは冷蔵で6時間後に26.8~28.2%上昇した。LDは,室温・冷蔵共に上昇傾向を認め,最大19.9%の上昇を確認した。IPは,室温6時間後に9.1~16.7%低下した。今回の検討により,病棟採血は検体が検査室に到着するまで長時間,時間を要することがあり,検査値へ影響することが懸念された。検査の精度保証のためには検体採取からの時間管理が必要と考えられる。

  • 藤原 里紗, 大塚 喜人, 芝 直哉, 大塩 稔
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻1 号 p. 150-155
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    血液疾患では正常血球の減少や抗がん剤を中心とした化学療法などから免疫機能が低下し易感染宿主となりうる。その他の科における分離菌では,59.6%がグラム陰性桿菌であった。血液内科における分離菌では,46.0%がグラム陽性球菌であり,中でも皮膚常在菌であるStaphylococcus属やCoryneform bacteria,口腔内常在菌であるStreptococcus mitis groupが多い結果となった。薬剤感受性による比較では,Escherichia coliにおけるLevofloxacin(LVFX)やPseudomonas aeruginosaにおけるCefepime(CFPM),Meropenem(MEPM),LVFXの非感受性カテゴリに位置するminimum inhibitory concentration(MIC)値は血液内科のほうが20.8%~33.3%高い結果であった。また,E. coliKlebsiella pneumoniaeにおけるextended spectrum β lactamase(ESBL)産生菌の割合は血液内科で15%~20%高い値を示していた。今回の調査結果を考慮すると今後の血液内科からの検出菌の薬剤感受性はより注視すべきであり,耐性菌の動向を知る上でも血液培養の調査を継続していく必要があると結論付けた。

  • 中島 康仁
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻1 号 p. 156-163
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    私は独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency; JICA)シニアボランティア(senior volunteers; SV)として2年間,サモア独立国の国立病院の臨床検査室に機能向上を目的として派遣された。この派遣は私にとって開発途上国の実情を学ぶのに有用であっただけでなく,日本では知りえることのない様々な経験をすることにつながった。この経験をもとにして日本の臨床検査技師が開発途上国の臨床検査室の発展のために,どのような貢献が出来るのかを考えた。一人でも多くの臨床検査技師が開発途上国の臨床検査状況を知り,その経験を基に日本だけでなく世界の臨床検査の発展に寄与していくことを望む。また(一社)日本臨床衛生検査技師会としても国際的に活動を希望する臨床検査技師の育成・支援を期待する。

  • 川嶋 大輔, 上原 俊貴, 金谷 直哉, 井上 佳奈子, 木場 華子, 磯野 奈々, 桑岡 勲
    原稿種別: 資料
    2019 年68 巻1 号 p. 164-172
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    【背景】近年,肺癌に対する分子標的治療薬の発展はめざましく,癌細胞から検出された遺伝子変異に合わせて治療薬が選択される。このため治療に際しては,癌細胞が確実かつ適切に採取され,病理診断および遺伝子変異の有無まで正確に評価されなければならない。このような背景より臨床から病理検査室へ迅速細胞診(rapid on-site cytologic evaluation; ROSE)の依頼があったが,病理検査室側の要因(時間確保困難)により実施できていなかった。【目的】総合的品質管理(total quality management; TQM)活動を活用し,気管支鏡検査を施行する肺癌疑い症例について,細胞検査士によるROSEを実施するための環境を整える。【方法】TQM活動の課題達成型ストーリーに沿い,病理検査室の業務改善により捻出した「ルーチン業務削減時間」と「ROSE拘束時間」を比較した。【結果】「ルーチン業務削減時間」が「ROSE拘束時間」を上回った。【結語】TQM活動を業務改善のツールとして活用し,「肺癌疑い患者に対する気管支鏡検査時の細胞検査士によるROSE施行率100%」を達成した。

症例報告
  • 岩田 祐紀, 錦織 昌明, 糸原 智生, 見山 晋一, 内田 靖, 竹内 薫, 伊藤 和行, 北尾 政光
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻1 号 p. 173-179
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
    ジャーナル フリー HTML

    症例は74歳,男性。健診で癌胎児性抗原(CEA)の高値を指摘され当院へ紹介受診となり,陽電子放射断層撮影・コンピュータ断層撮影(PET-CT)で下咽頭と甲状腺右葉に集積が認められたため耳鼻咽喉・頭頸部外科へ紹介された。組織診により下咽頭がんと診断されたが甲状腺の腫瘍は確定診断困難であった。その後,下咽頭がん治療中に発熱(第1病日とする)があり,翌日の血液検査にてC反応性蛋白(CRP):19.17 mg/dL,白血球数:8,800/μL,プロカルシトニン:47.90 ng/dLと高値を認めた。第5病日に血液培養に発育がみられず陰性と判定された。第13病日にはCRP,白血球数ともに低下し患者の容体は良好であったが,プロカルシトニンのみが高値を示し続けたことから甲状腺髄様がんが疑われた。血液検査にてカルシトニンが高値,123I-メタヨードベンジルグアニジンを用いたシンチグラムでは甲状腺右葉の集積がわずかに亢進しており,甲状腺髄様がんに矛盾しない所見が得られた。以上の検査結果より甲状腺髄様がんの疑いが強かったため,甲状腺全摘および右頸部郭清術が施行された。甲状腺全摘出後プロカルシトニンは速やかに低下し,手術2日後に基準値以下となった。摘出された甲状腺は病理検査所見により甲状腺髄様がんと診断された。本症例では甲状腺髄様がん細胞によってプロカルシトニンが産生され血中へ流出していたと推測された。

  • 平尾 麻美子, 河内 佳子, 高原 里枝, 高橋 司, 田坂 文重
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻1 号 p. 180-185
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    乳がん治療後に急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia; APL)として発症した治療関連骨髄性腫瘍(therapy-related myeloid neoplasms; t-MN)の症例を経験した。本症例は染色体検査で15;17転座は検出されなかったが,FISH法およびPCR法にてPML/RARA融合遺伝子が確認されたmasked型15;17転座であり,診断における遺伝子検査の重要性を示した。また,乳がん治療中にアルキル化剤を使用しており,本剤を使用した際に出現する特徴的な染色体異常である7番染色体長腕欠失が検出された。一般的に15;17転座をもつt-MNは予後良好であるが,本症例は予後不良とされる7番染色体長腕欠失も併せてもっており,t-MNの予後と染色体異常との関係を示唆する上で貴重な症例であると考えられた。

  • 中村 友紀, 天野 ともみ, 松井 奈津子, 蔵前 仁, 中村 清忠, 伊藤 誠
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻1 号 p. 186-191
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    血液培養よりAerococcus urinaeを分離した重症感染性心内膜炎の1症例を経験した。患者は大動脈弁閉鎖不全症による大動脈弁置換術,慢性膀胱炎の既往のある70歳代の男性。来院時の血液培養よりCluster状のグラム陽性球菌を認めた。分離培養を行ったところ血液寒天培地に小型のα溶血性レンサ球菌様のコロニーが発育し,質量分析装置による同定を実施したところA. urinaeと同定された。心エコー検査によって感染性心内膜炎と診断され,VCMやSBT/ABPC,カルバペネム系抗菌薬などによる加療を行ったが,心原性脳梗塞を合併し第26病日に死亡した。A. urinaeはGram染色ではブドウ球菌様の形態を示すのに対し,血液寒天培地上ではα溶血を呈するレンサ球菌様のコロニーとして発育するため,Staphylococcus属やStreptococcus属と誤同定されやすい。高齢者の尿路感染症の原因となりうるほか,稀に敗血症や感染性心内膜炎を引き起こす。本菌による感染性心内膜炎は臨床経過の急激な悪化をたどり,重症化しやすいとの報告がある。血液培養にて本菌を疑う所見を得た際は迅速に同定し,早期に適切な治療を開始することが重要である。その点で質量分析装置による同定は非常に有用であると思われた。

  • 佐藤 千絵, 石田 和之, 村上 美月, 菅原 遼, 高橋 有香, 芳賀 久美, 下川 真希枝, 菅井 有
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻1 号 p. 192-198
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
    ジャーナル フリー HTML

    悪性胸膜中皮腫は稀であり,さらに両側発生は少ない。また,胸水細胞診でその診断を確定することはしばしば困難である。今回我々は両側性に発生し,胸水に特徴的な細胞集塊を認めた悪性胸膜中皮腫を経験したので報告する。症例は52歳男性で,両肺の気胸の精査にて左肺尖部に約25 mmの腫瘤影が認められた。肺癌が疑われ,胸腔鏡下左肺部分切除術が行われた。左胸腔に播種を疑うプラークが多発しており術中迅速胸水細胞診が行われた。細胞診では炎症を背景に孤在性,シート状に出現した中皮細胞と,球状,乳頭状に重積した中皮細胞の大型集塊とが混在していた。個々の細胞は小型で単核細胞が主体であったが,球状,乳頭状の大型集塊の存在から胸膜中皮腫が示唆された。左肺部分切除検体では組織学的に臓側胸膜から肺実質にかけて腺管状,乳頭腺管状に浸潤する腫瘍を認め,免疫組織化学的にcalretinin,D2-40,WT-1が陽性で悪性胸膜中皮腫と診断した。後日施行された対側の右肺部分切除時の術中胸水細胞診でも球状,乳頭状の中皮細胞集塊が出現しており,悪性胸膜中皮腫と診断した。悪性胸膜中皮腫を診断する上で胸水細胞診に出現する球状,乳頭状の大型中皮細胞集塊は重要な所見である。今回我々は,特徴的な細胞集塊が左右の胸水に出現していた両側性悪性胸膜中皮腫の一例を経験した。

  • 菊地 雅寛, 久保 陽子, 田村 幸穂, 角張 純, 石澤 春美, 田中 敏典, 羽角 安夫
    原稿種別: 症例報告
    2019 年68 巻1 号 p. 199-206
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/25
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    症例は40歳代,男性。201X年に左前胸部痛を自覚し健診異常で紹介受診となり,骨髄検査の結果多発性骨髄腫と診断された。入院時の尿検査で尿蛋白定性検査と尿蛋白定量検査の乖離を認めなかった。また,尿中に大型で多核化した大食細胞が円柱と共に認められた場合,多発性骨髄腫による骨髄腫腎を合併している可能性を示唆しており検出することは重要であると考える。

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