医学検査
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Turn around Time(TAT)を考慮した全自動血液凝固測定装置の検討
勢井 伸幸志水 美沙志水 俊夫多田 遥香渡辺 光穂速水 淳
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2019 年 68 巻 1 号 p. 138-143

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Abstract

凝固検査は,重症外傷患者や血栓溶解療法が必要な患者において,輸血の適応や生命予後推測に関係するため迅速な検査結果が求められる。一方,検体分析までの時間は「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」が出され,結果が算出されるまでの時間が長くなる動きがあり,検体測定時間の短縮が求められている。今回,Turn around Time(TAT)を考慮して,積水メディカル社のCP3000を導入し,シスメックス社のCS-2000iとの比較検討を行った。ボランティア15名の採血を行い,ある曜日と同じ検査項目を測定した。結果として,検体測定開始から最終結果が算出されるまでの時間は,CP3000が21分20秒,CS-2000iが53分52秒であった。この結果より,「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」の遠心条件である2,000 g,10分の遠心条件に変更しても,検体が到着してから測定結果が算出されるまでの時間が短縮されることが分かった。また,今後コンセンサスを凝固検査に導入しても,検体検査が集中する時間は以前の検査方法より迅速に検査結果を算出できるようになった。

I  はじめに

凝固検査は,重症外傷患者や血栓溶解療法適応疑い患者(組織型プラスミノゲンアクチベータ(tissue type plasminogen activator; t-PA,以下t-PA患者))において,輸血の適応や生命予後推測に関係するため,迅速な検査結果が求められる。また,当院における凝固検査の件数は年々増加してきている(Figure 1A)。曜日別にみても検体数の多い木曜日の午前中で結果報告までに約1時間かかることもあり,診察時間に影響することも増えてきていた(Figure 1B)。さらに日本検査血液学会標準化委員会凝固検査標準化ワーキンググループより『凝固検査検体取り扱いに関するコンセンサス』1)が2016年に出され,コンセンサスを導入すると現行の装置では,検体数の増加も相まって結果報告までの時間が長くなることが予想される。そのため新規導入装置(CP3000)と現行の装置(CS2000i)の測定処理時間を比較検討した。コンセンサスの推奨は1,500 g,15分または2,000 g,10分。当検査部では3,500 rpm,5分で遠心をしており,検体測定時間の短縮が求められる。今回我々は,Turn around Time(TAT)を考慮して,積水メディカル社の全自動血液凝固測定装置CP3000を導入し,今まで使用していたSysmex株式会社のCS-2000iとの比較検討を行っ‍た。

Figure 1 

当院における凝固検査件数

A:年度別凝固検査件数:過去4年間の凝固検査件数の推移

B:2017年9月の1ヶ月分の曜日別平均検体数

II  対象および方法

1. 対象

重症患者1例及び当院検査部において,許可の得られた技師15名から2 mL用3.2%クエン酸ナトリウム採血管で採血後,遠心温度を20~25℃に保持し,遠心条件2,000 g,10分で得られた血漿を用いた。

2. 測定機器,測定項目および試薬

《新規導入機器》

全自動血液凝固測定装置 CP3000(積水メディカル株式会社,以下SMD),以下CP

《対照装置》

全自動血液凝固測定装置 CS-2000i(シスメックス株式会社,以下Sys),以下CS

測定項目及び測定キットはTable 1に示す。

Table 1  測定機器,測定項目及びキット名
項目 機器
CP3000 CS2000i
プロトロンビン時間(PT) コアグピアPT-N トロンボレル S
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT) コアグピアAPTT-N トロンボチェックAPTT-SLA
フィブリノゲン(Fib) コアグピアFbg トロンボチェックFIB(L)
トロンボテスト(TT) 複合因子T 同左
ヘパプラスチンテスト(HPT) 複合因子H 同左
アンチトロンビン(AT) テストチームS AT III エルシステムAT III
血漿FDP(FDP) ナノピアP-FDP 同左
Dダイマー ナノピアDダイマー 同左

《遠心機と遠心条件》

遠心機:KUBOTA 2810 KUBOTA 2800

遠心温度:20℃~25℃を保持

遠心力及び時間:2,000 g 10分

3. 測定原理

《CP3000について》2)

・凝固時間法項目(PT, APTT, Fib, TT, HPT):LEDを光源とする90度散乱光を検出

・吸光度測定法項目(AT,FDP,Dダイマー):ハロゲンランプを光源とする吸光度を検出

・検体サンプリング:各項目の測定に必要な検体量を逐次吸引し,使用。吸引間隔9秒(1時間に400回)又は18秒

・反応ポート数:20箇所(加温及び凝固:14ポート,比色6ポート)

・動作過程:検体分注→45秒加温→試薬①分注→測光又は171秒加温→試薬②分注→測光(測光時間は項目により異なる,Table 2

Table 2  CP3000の測定原理,動作過程など
項目名 検体量(μL) 加温時間(秒) 試薬①量(μL) 測光又は加温時間(秒) 試薬②量(μL) 加温,測光(秒) 全測定時間(秒)
PT 50 45 100 20~30 65~75
APTT 50 45 50 171 50 40~50 256~266
Fib 10 + B90 45 50 20~30 65~75
TT 20 + B30 45 125 50~60 95~105
HPT 10 + B40 45 125 40~50 85~95
AT 2.5 45 270 171 40 54 270
FDP 6 45 100 171 100 207 423
Dダイマー 20 45 100 171 100 108 324

APTTの試薬①はAPTT試薬,試薬②は塩化カルシウム液。

Fib,TT,HPTの検体量のBは検体希釈液の量を示す。

4. 方法

1.重症外傷患者1検体の処理時間の比較:

CPとCSにおいて重症外傷患者の検査依頼項目であったPT,APTT,Fib,FDP,Dダイマーの5項目を測定し,測定結果が出力されるまでの処理時間の計測を行った。

2.検査検体集中時の処理時間の比較:

CPとCSにおいて,実際に検査依頼があった連続15検体と同じ検査内容を(検体によって測定項目は異なる。計46テスト),対象検体を用いて測定開始から測定結果が出力されるまでの処理時間の計測を行った(Table 3)。

Table 3  凝固検査15検体の依頼項目
依頼No. PT APTT Fib FDP Dダイマー TT AT
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15

3.頻度の多い測定項目での処理時間の比較:

CPとCSにおいてPT,APTT,Fibの3項目に関して対象検体のうち5検体を連続測定して,測定開始から測定結果が出力されるまでの処理時間の計測を行った。

4.CPの2台運用と1台運用の比較:

2.の方法と同じ検査内容を,CPを2台使用して,測定開始から測定結果が出力されるまでの処理時間の計測を行い,CP1台の場合と比較した。依頼No. 1からNo. 7までの検体を1台目,No. 8からNo. 15までの検体を2台目に設置して測定した。

III  結果

1.重症外傷患者1検体の測定時間の比較:

重症外傷患者1検体での測定においては,CPが9分34秒(574秒),CSでは13分5秒(785秒)であった。

2.検査検体集中時の測定時間の比較:

実際に検査依頼があった連続15検体と同じ検査内容を,対象検体を用いて測定開始から測定結果が出力されるまでの処理時間の計測においては,CPが21分20秒(1,280秒),CSでは53分52秒(3,232秒)であった。また,CSでは測定した検体順に結果が出力されるのに対し,CPでは測定項目によって結果出力を追い越すものもあった。

3.頻度の多い測定項目での処理時間の比較:

測定項目でよくあるPT,APTT,Fibに関して5検体を連続測定して同様に時間を計測した場合ではCPが8分13秒(493秒),CSでは19分36秒(1,176秒)であった(Figure 2)。

Figure 2 

PT,APTT,Fibを5検体連続測定した時の1検体毎の結果出力時間の比較

検体間の時間差はほぼ同じで,CP3000では約30秒,CS-2000iでは約140秒であり,検体数が増えれば機種間の時間差も広がる。

4.CPの2台運用と1台運用の比較:

実際に検査依頼のあった連続15検体と同じ検査内容をCPを2台使用した時の測定開始から最終検体の測定結果が出力されるまでの処理時間は,12分55秒(775秒)であった。

IV  考察

重傷外傷患者1検体の測定では,3分31秒の短縮となり,機器の処理能力の相違があらわれた。これは,CPでは5項目の検体分注が54秒で済むのに対して,CS3)では依頼項目数に応じた必要検体量を検体ピペットが試験管から検体取り込みテーブル上のサンプルチューブヘ分取したのち,別の検体ピペットが取り込んだ検体を加温ポート上のサンプルチューブヘ排出する2段階の分注のため,時間を要すこと(2段階目の分注だけでも80秒掛かる)。項目毎の処理時間が異なること。測定開始指示(スタートボタンを押す)を出した後のイニシャライズ動作の時間の差などからと推察される。

連続15検体の測定では,最後の検体の結果出力時間がCSより30分も短縮され,検査結果を早く報告できることが分かった。何故このような差になったかであるが,CPは加温ポートが14ポートあり,14番目までの分注(検体,試薬①,試薬②(APTT,AT,FDP,Dダイマーのみ))が進むと,凝固時間法項目はそのまま測光し,吸光度測定法項目は比色ポートへキュベットを移動し測光する。空いた加温ポートへ15番目以降の項目も続いて分注されていく。PTやFibは2分弱で測定が終わるため,さらに空いた加温ポートへの利用が進む。加温(凝固)ポート,比色ポートが制御プログラムにより無駄なく利用されることにより,20分そこそこの処理時間となったと推察される。一方,CSでは加温ポートと測光ポートが10ずつであり,10テストずつ処理が行われていく。10テスト分のポートへの分注で,その後3分の加温の後,測光が行われる。10テスト分注に200秒要し,合わせて10テスト目がFDPであれば580秒(200 + 330)を要すことになる。46テストであれば,5回の繰り返しになり,2,900秒(580秒×5回)となる。このような仕様の違いが結果にあらわれたと思われる。また,CSでは測定した検体順に結果が出力されるのに対し,CPでは依頼順に拘わらず結果が揃った検体から結果を送信されており,項目数によっては報告の先後が入れ替わり,全体としての短縮の寄与に繋がっていると考えられた(Figure 3)。

Figure 3 

CP3000における連続15検体の測定フロー

横棒は検体毎の測定時間。項目と項目数によって変わる。開始が後でも(依頼が後でも)早く終わり,先に処理される。0分でスタートし,イニシャライズ動作,検体分注と続く。

また,頻度の多い測定項目(PT, APTT, Fib)の5検体連続測定では,CPが8分13秒(493秒),CSでは19分36秒(1,176秒)となった。これはCPでは,凝固項目15テストの測定であり,14テスト分注ののち測定後,空いたポートへ1テストの分注測定で終了する。実際,各検体間の測定時間差は約30秒であり,これは凝固項目間の分注間隔が9秒であり,3項目で27秒となるのとほぼ一致し,1検体目と5検体目の処理時間の差は約120秒となっていて,5検体(15テスト)が待ちなく処理されていると推察される。一方,CSにおいては10テストの分注後,加温,測光で,2サイクルとなり,時間を要したと推察される。実際,各検体間の測定時間差は約140秒であり,1検体目と5検体目の処理時間の差は約560秒となっていた。1検体目では,イニシャライズ動作や項目毎の処理時間の差などから,CPが6分20秒(380秒)に対して,CSでは10分25秒(625秒)となっていた。この差は検体数が増加するとさらに広がっていく結果となった。この方法で使用した検体のAPTTは正常域内(40秒以下)であったが,仮に70秒程度の場合には,約40秒程度の時間が増加する計算になる。CSにおいても同程度増加すると思われる。この結果から検体集中時においても余裕を持った処理が可能になると考えられた。

また,連続15検体を2台に割り振って測定を行った場合には,1台で21分20秒のところ,12分55秒となり,さらに早く結果を出力できることが分かった。単純に2分の1とならないのは,イニシャライズ動作の時間を2分の1と出来ないからと推察され‍る。

さらに,Fibのみ測定では3分5秒と迅速な結果報告が可能であり,心臓血管手術時のクリオプレシピテート使用の有無を決める際の迅速判断に貢献できると考えられた。

今回の結果から,機器や試薬の違いで結果出力までにこれだけの時間差ができることが体感でき,狙い通りの機器更新が出来たと考えられた。

V  結語

CS導入当初は,この機器の検体処理能力があれば十分であったが,検体数が年々増加し,それに見合った機器を採用することで検体数が多い時間帯でも診療を待たせることなく結果を返すことができるようになった。

また,遠心機を2台,CPを2台導入したことにより1台が故障した場合でも,2台構えることによって故障時に対応出来ると共に,2台使用で検査結果出力時間がさらに短縮でき,凝固検査検体取り扱いに関するコンセンサスの遠心分離条件を守りつつ診療に貢献できるようになった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  日本検査血液学会標準化委員会凝固検査標準化ワーキンググループ:「凝固検査検体取り扱いに関するコンセンサス」,日本検査血液学会雑誌,2016; 17: 149–168.
  • 2)  積水メディカル株式会社:附録,CP3000取扱説明書,第5b版,184–195.
  • 3)  シスメックス株式会社:第9章技術資料,CS-2000i/CS-2100i取扱説明書,1–20.
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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