医学検査
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症例報告
免疫比濁法測定において第一反応で白濁しエラーコードが付かず,偽低値に測定されたIgM-κ型M蛋白の解析―エラーコードが付かなかったIgM偽低値2症例目―
井本 真由美前田 裕弘山口 逸弘中江 健市上硲 俊法山田 俊幸
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2019 年 68 巻 2 号 p. 401-405

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Abstract

免疫比濁法(turbidimetric immunoassay;TIA法)による免疫グロブリン測定においてエラーコードが付かず測定結果が偽低値であったIgM-κ型M蛋白血症例を経験した。血清蛋白分画で明確なMピークがあり,免疫固定法でIgM型M蛋白と同定されたにもかかわらず,IgM定量値が400 mg/dL程度であった。整合性を確認したところ,原倍で420 mg/dLに対し,5倍で1,890 mg/dL,10倍で2,180 mg/dL,20倍で2,660 mg/dLであった。反応曲線を確認すると原倍から10倍希釈まで第一反応において濁りの影響があることが判明した。さらにIgGやIgAも影響を受けて偽低値であった。ネフェロメトリーでは問題なく測定できた。希釈直線性の検討でも,患者検体では全希釈系列でエラーコードが付かなかった。我々は,以前にも発生機序は異なるが同様にエラーコードが付かず誤報告されたIgM-λ型M蛋白の偽低値例を報告しており,今回2例目を経験したことから,TIA法ではIgM型M蛋白の偽低値を頻繁に見逃している可能性が示唆された。検査室側では,とくにIgM型M蛋白の定量では,反応曲線のチェックやA/G比の確認等を行い,検査システム側では,再検ロジックの構築,測定試薬の改良および異常反応検出機構の設置が望まれる。

Translated Abstract

We encountered the case of a patient with IgM type monoclonal gammopathy whose IgM value was measured to be falsely low without notification by an error code using a turbidimetric immunoassay (TIA) system. Although the true IgM value might be about 2,800 mg/dL as indicated by protein fraction electrophoresis, the value was 420 mg/dL in the original assay. Assay by sample dilution was carried out, but the values remained low up to 10-fold dilution. The reaction curve suggested that the generation of abnormal turbidity in the first reaction at a low dilution was responsible for the problem. No error code appeared in any dilution series of the patient’s serum. Measurements of IgG and IgA were also affected and the values were falsely low. Given that we reported the case of another patient with IgM monoclonal gammopathy whose IgM was falsely low as determined by TIA, we strongly recommend to suspect a false result and conduct further tests to collect information, such as the albumin-to-globulin ratio, or protein fraction electrophoresis in IgM monoclonal gammopathy. Regarding the TIA system, the construction of a retest logic, improvement of reagents, and installation of an abnormal reaction detection mechanism are necessary.

I  はじめに

本邦における免疫グロブリン測定は,ネフェロメトリー法から,免疫比濁法(turbidimetric immunoassay; TIA)にほぼ移行し,そのシェアは95%を占めている。我々は,昨年4月に,TIA法によるIgM測定において,エラーコードが付かずに偽低値に打ち出された症例を経験した1)。現在その発生機序について精査を進めている。今回,同様にエラーが付かず,IgMの測定結果が偽低値であったIgM型M蛋白を経験したので報告する。

II  症例

80歳代,男性,前立腺肥大症以外の基礎疾患は特に認めない。国立病院機構大阪南医療センター血液内科を受診し,TP 8.1 g/dLであったため,精査がなされたが,免疫固定法(immunofixationelectrophoresis; IFE)でIgM型M蛋白が確認されていたがIgM値が380 mg/dL程度で高くなく,IgGも低値であることから担当医がIgEのM蛋白を疑い,当施設に解析の依頼があった。血清蛋白分画では,γ位にM蛋白帯(35.3%, 2.86 g/dL)が観察され(Figure 1),当院においてもIgM型M蛋白のL鎖型同定が判定しやすいIFEを実施し,大阪南医療センターと同様に,IgM-κ型M蛋白が検出された(Figure 2)。siaテストは陰性であった。他の関連データでは,ALB:3.0 g/dL,IgG:579(大阪南486)mg/dL,IgA:41(大阪南3以下)mg/dL,IgM:420(大阪南376)mg/dL,IgD:検出感度以下mg/dL(大阪南),IgE:1,189 IU/mL(×10希釈1,266 IU/mL),RF:2以下IU/mLであった。IgM-κ型M蛋白が検出されていたが,IgM定量値が,血清蛋白分画のMピーク蛋白値からの想定よりかなりの低値であった。

Figure 1 Protein fraction pattern of the patient serum

M protein detected in the γ fraction area (M protein: 2.86 g/dL).

Figure 2 Immunofixation electrophoresis pattern of the patient serum

SP: protein staining, G: anti-human γ heavy chain antibodies, A: anti-human α heavy chain antibodies, M: anti-human μ heavy chain antibodies, K: anti-human κ light chain antibodies, λ: anti-human λ light chain antibodies.

IgM-κ type M protein detected at the γ area (indicated by arrows).

III  材料および方法

1. 材料および測定機器

インフォームドコンセントが得られている当該患者血清と,対照としてTIA法で通常通りエラーコードが付く他のIgM-κ型M蛋白患者血清(IgG: 1,149 mg/dL, IgA: 46 mg/dL, IgM: 4,150 mg/dL)を用いた。なお,対照検体は検査終了後の残余検体の使用の承諾を得ている。大阪南医療センターにおける測定機器は,ロシュダイアグノスティクス(株)(以下ロシュ)のロシュ モジュラーアナリティクスであり,測定試薬は,「N-アッセイ TIA IgM-SHニットーボー」(ニットーボーメディカル(株):以下N社)を使用していた。当検査室では,同じくロシュのcobas 8000のC702モジュールであり,測定試薬は「オートワコーIgM・N」(富士フィルム和光純薬(株):以下W社)であった。なお,他の測定機器として,BM8030(日本電子(株))を使用して,N社製試薬を用いて測定した。さらにネフェロメトリー法であるBN ProSpec(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティックス(株):以下シーメンス)の測定機器にて「N-抗血清 IgM(シーメンス)を用いて測定した。血清蛋白分画およびIFEはエパライザ2ジュニア(ヘレナ研究所)を用いた。

2. 方法

1) 希釈整合性の確認

患者血清を生理食塩水(生食)にて,5倍希釈,10倍希釈,20倍希釈および40倍希釈しIgG,IgAおよびIgMの測定値を比較した。それぞれの反応曲線を観察した。

2) 希釈直線性とエラーコード付加の確認

患者血清および対照患者血清を生理食塩水で10段階希釈し,測定値と反応曲線を観察した。なお,今回のエラーコードとは,ある一定以上の吸光度に達した際に付加される高濃度(希釈再検の必要性を示す)であることを示すエラーコードであり,プロゾーンを示すものではない。

3) 他測定機器での測定

TIA法を原理とする他機種BM8030でN社試薬にて測定した。またネフェロメトリーを原理とするBN ProSpecによる測定も行った。

IV  結果

1. 希釈整合性の確認

原倍測定と希釈倍率の違いによる測定値の変化をTable 1に示した。測定値の生データの下段が希釈倍率を乗じた値である。原倍でのIgG,IgAおよびIgMの反応曲線を確認すると,検体が添加される第一反応において,濁りの影響が観察された。種々の希釈倍数をかけて測定してみたが,反応曲線からみて濁りの影響がなくなるのはIgMでは20倍から40倍希釈の値であった(Figure 3)。なお,図には示さないが,IgGおよびIgAの反応曲線も観察したが,原倍から5倍希釈では濁りの影響を認めた。

Table 1  Results of immunoglobulins by different dilution (cobas 8000)
dilution IgG (mg/dL) IgA (mg/dL) IgM (mg/dL)
×1 650 44 420
×5 163
815
17
85
378
1,890
×10 66
660
13
130
218
2,180
×20 39
780
9
180
133
2,660
×40 26
1,040
5
130
76
3,040
Figure 3 Reaction time course of the patient IgM by different dilution in cobas 8000

2. 希釈直線性とエラーコード付加の確認

対照検体では,2/10~10/10希釈まで高値を示すエラーコードが付いたが,患者検体では1/10~10/10希釈すべてにおいてエラーコードが付かなかった(Figure 4)。

Figure 4 Dilution linearity and appearance of error code in cobas 8000

3. 他測定装置での測定

TIA法を原理とする他機種BM8030でN社試薬にて測定した結果,我々の測定機器と同様にIgM測定では原倍ではエラーコードが付かず,また,IgA測定ではマイナス打ちをしてきた。IgG,IgA,IgM全てにおいて偽低値もしくは異常値であった。Table 2に測定値を示した。またネフェロメトリーを原理とするBN ProSpec による測定では,IgG 819 mg/dL,IgA 73 mg/dL,IgM 2,990 mg/dLであった。

Table 2  Results of immunoglobulins by different dilution (BM8030)
dilution IgG (mg/dL) IgA (mg/dL) IgM (mg/dL)
×1 561 −7 318
×5 139
695
20
100
295
1,475
×10 auto
754
auto
174
auto
2,047
×20 31
620
8
160
127
2,540
×40 20 <
800 <
5 <
200 <
68
2,720

V  考察

今回,TIA法のIgM測定においてエラーコードが付かず,測定結果が偽低値に打ち出されたIgM-κ型M蛋白の解析例を報告した。我々が昨年度に経験したIgM偽低値例1)では,患者IgMの真値は3,838 mg/dLであったが,測定結果が228 mg/dLと打ち出された。その例ではIgGが3,257 mg/dLと高値であり,第一反応では異常は認められないが,第二反応で吸光度が上がらないことや,γグロブリン添加実験結果から,抗体が添加された時,患者IgMの異常により自身のIgGと非共有結合し抗IgM抗体との反応を阻害している可能性が示唆されている。追加検討により患者IgMの疎水性に異常があることが推定され現在追究している。今回の症例は,第一反応で希釈用緩衝液中の反応増強剤であるポリエチレングリコール(polyethylene glycol; PEG)等の成分と反応して白濁した可能性が高い。この濁りにより,IgMだけではなく,IgAやIgGも偽低値であった。この現象は試験管内で目視でも確認することができた。しかしsiaテストは陰性であった。今回の症例のように第一反応試薬と白濁を起こすM蛋白については,笹川が日本臨床検査自動化学会会誌の免疫学的反応の異常反応各論において,解析例を挙げている。原倍測定で600 mg/dL,希釈整合性からIgMの真値は4,000 mg/dLであった2)。測定機器,試薬,エラーコードの有無については記載されていないが,我々の症例と類似している。

以前からTIA法では,PEGの種類や濃度,さらに界面活性剤の濃度が測定値に影響を及ぼすことが知られておりIgM型M蛋白やIgA型M蛋白例の中でもとくに,リウマトイド因子が高力価の検体,クリオグロブリン陽性の検体,IgG4が極高値の検体,他項目で非特異反応が見られた検体などで,非特異反応が生じそれぞれの定量値が偽低値または偽高値になることが報告されている3),4)。さらにpHの影響やイオン強度による影響も報告されている5)。それらの検討結果から,市販されている免疫グロブリン測定試薬は,非特異反応が出現しにくい条件を見出し,異常反応を極力抑える工夫がなされている。しかし,今回の場合のように濁りによる異常反応でエラーコードが付かなかった場合は,毎測定ごとに反応曲線をチェックするわけではないため,検査の現場では見逃してしまう可能性が高い。

今回のように測定機器がBM8030,測定試薬がN社製で,IgAがマイナス打ちとなる場合は,反応曲線を確認することで第一反応での濁りによる異常反応であることに気づくことができるが,その場合,IgAだけ希釈再検するのではなく,IgG,IgMともに希釈再検することが必須である。

エラーの付かないM蛋白の見逃し防止対策としては,検査システムで総蛋白(total protein; TP)からアルブミンを引いた蛋白量と,免疫グロブリンIgG,IgAおよびIgMの総和の蛋白量を比べ乖離が大きい検体は希釈再検する,高TP検体は,血清蛋白分画を実施する6),などの対処方法が考えられる。そしてさらに測定試薬の改良と,測定機器に第一反応で濁りが生じた場合,測定値が測定範囲内に測定されてもフラグが立つような異常反応チェック機構を設置することが望まれる。

VI  結語

今回TIA法の免疫グロブリン測定でエラーコードが付かず,測定結果が偽低値に打ち出された症例について報告した。我々が経験した2例目の症例であり,他にもこのような偽低値例が存在することが推定されるため,検査室および機器,試薬メーカーの適切な対応が望まれる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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