血流感染症や血液培養陽性菌の季節変動に関する研究は少ない。本研究は血液培養陽性菌の季節変動と気候との関連を明らかにすることを目的とした。当院で2005年1月から2014年12月までの10年間に行われた血液培養30,945検体を対象とした。延べ入院患者1,000人日あたりの血液培養陽性件数を血液培養陽性率(blood culture positive rate; BCPR)とし,月,季節に分けて検討し,さらに気候との関連を調査した。BCPRは春と比較して夏に高く,気温,湿度と有意な関連を認めた。これはグラム陰性桿菌(gram-negative rods; GNR),Bacillus属が主因であった。Coaglase-negative Staphylococci,Bacillus属,Enterococcus属のBCPRは気温と正の相関を認めた。一方,GNR,Candida属のBCPRは湿度と正の相関を,Staphylococcus aureusのBCPRは湿度と負の相関を認めた。血液培養陽性菌は菌種によって季節変動があり,気温,湿度と関連する。
There have been a few studies on the seasonal variation of bloodstream infections or microorganisms isolated from blood cultures. The aim of this study was to clarify the seasonal variation of microorganisms isolated from blood cultures and their relationship with the climate. A total of 30,945 blood cultures over 10 years between January 2005 and December 2014 were included in this study. Blood culture positivity rate (BCPR) was defined as the number of infection- or microorganism-positive blood cultures per 1,000 person-days of hospital admissions, which were analyzed monthly or seasonally. The BCPR was significantly higher in the summer than in the spring, and positively correlated with temperature or humidity, primarily owing to the seasonal variation of gram-negative rods (GNRs) and Bacillus spp. The BCPRs of coagulase-negative staphylococci, Bacillus spp., and Enterococcus spp. positively correlated with temperature, while the BCPRs of GNRs and Candida spp. positively correlated with humidity; however, the BCPR of Staphylococcus aureus negatively correlated with humidity. Overall, the BCPR showed seasonal variations and was associated with temperature and humidity depending on the bacterial strain.
脳卒中,心血管疾患,消化管疾患などでは季節変動があることが知られている1)~5)。血流感染症や血液培養陽性菌の季節性変動に関しては様々な議論があり,グラム陰性桿菌(gram-negative rods; GNR)による血流感染症が夏に多いことがこれまで報告されてきた6)~15)。本邦における血流感染症や血液培養陽性菌の季節性変動に関する報告は少ないが12),15),血液培養陽性菌の季節性変動を知ることは診断,治療,感染対策,疫学研究などの観点から意義がある。本研究は当院における血液培養陽性菌の季節性変動,気候との関連を明らかにすることを目的とした。
当院は名古屋市西部に位置する病床数852の急性期の地域医療支援病院である。当院で2005年1月から2014年12月までの10年間に行われた血液培養(以下,血培)71,966セットのうち30,945検体を対象とした。同一患者から同月内に採取した血培は,セット数にかかわらず1検体とし,同一菌種が同月内に複数回検出された場合は1件として集計した。1検体から複数の菌種が検出された場合はそれぞれの菌を集計した。培養には全自動血液培養装置BacT/ALERT3D(Sysmex bioMérieux)を使用した。2005年1月から2013年8月は培養ボトルとしてSA培養ボトル,FA培養ボトル(それぞれ好気用),SN培養ボトル,FN培養ボトル(それぞれ嫌気用),PF培養ボトル(小児用)を使用し,2013年9月から2014年12月はFA Plus培養ボトル(好気用),FN Plus培養ボトル(嫌気用),PF Plus培養ボトル(小児用)を使用した。細菌の同定には,2005年1月から2012年6月は用手法(同定検査キットや確認培養による生化学性状の鑑別)またはMicroScan WalkAway(Beckman Coulter)を使用し,2012年7月から2014年12月はVITEK MS(Sysmex bioMérieux)を使用した。
血培陽性率は入院患者数,病床利用率など病院の活動度に影響を受けるため,延べ入院患者1,000人日あたりの血培陽性件数を血培陽性率(blood culture positive rate; BCPR)とし,月,季節(春:3,4,5月,夏:6,7,8月,秋:9,10,11月,冬:12,1,2月)でその変動を検討した。またBCPRと当院の位置する名古屋市の気候(気温,湿度,気圧,降水量,雨天日数,日照時間)との関連を検討し,さらに菌種別にこれを検討した。2005年から2014年の名古屋市の気候に関する情報は,気象庁ホームページから入手した。
BCPRの周期性変動をスペクトル分析(Fisher’s kappa test, Bartlett Kolmogorov-Smirnov test)で解析し,群間の比較,関連性を一元配置分散分析,多重解析(Bonferroni-Dunn),Spearman順位相関係数を用いて検討した。p < 0.05を統計学的に有意とし,統計的解析はJMP, version 11(SAS Institute, Japan)を用いた。
本研究は当院の臨床研究審査委員会の承認を受けている(登録番号:2017-110)。
対象期間10年間の血培陽性率(陽性セット数/総セット数)は10.2%(7,313セット/71,966セット),複数セット採取率((総セット数-1セット採取数)/総セット数)は34.0%(24,492セット/71,996セット)であった。複数セット採取率は2005年:5.2%,2014年:63.6%と漸増していた。BCPRは1.84(件/1,000人日)であった。検出菌はGNR(嫌気性菌を除く),Staphylococcus属,Streptococcus属,Bacillus属,Enterococcus属,Candida属の順に多かった。GNRはEscherichia coli,Klebsiella pneumoniae,Pseudomonas aeruginosa,Enterobacter属の順に多かった(Table 1)。
陽性件数 (%) |
BCPR (件/1,000人日) |
|
---|---|---|
Gram-negative rod(GNR) | 1,895(35.4%) | 0.69 |
Esherichia coli | 731(13.7%) | 0.27 |
Klebsiella pneumoniae | 320(6.0%) | 0.12 |
Pseudomonas aeruginosa | 228(4.3%) | 0.08 |
Enterobacter属 | 109(2.0%) | 0.04 |
Staphylococcus属 | 1,600(29.9%) | 0.58 |
Coaglase-negative Staphylococci | 1,056(19.7%) | 0.38 |
Staphylococcus aureus | 544(10.2%) | 0.20 |
Streptococcus属 | 567(10.6%) | 0.21 |
Bacillus属 | 387(7.2%) | 0.14 |
Enterococcus属 | 258(4.8%) | 0.09 |
Candida属 | 136(2.5%) | 0.05 |
その他 | 511(9.5%) | 0.19 |
全菌種 | 5,354(100.0%) | 1.84 |
Figure 1に10年間の月別のBCPRの変動を示す。月別のBCPRに周期性変動を認めた(Fisher’s kappa = 35.89, Bartlett Kolmogorov-Smirnov statistic = 0.8217, p < 0.001)。Figure 2に月別のBCPRを示す。3月,4月が低く,8月が最も高かった(一元配置分散分析,p = 0.014)。3月と比較して8月のBCPRは1.50倍(95%信頼区間(CI):1.11–1.88)であった。Figure 3にGNRの月別BCPRを示す。GNRのBCPRにも同様な月別変動を認め,3月,4月が低く,7月に最も高かった(一元配置分散分析,p < 0.001)。4月と比較して7月のGNRのBCPRは1.90倍(95%CI: 1.40–2.40)であった。図には示していないが,GNRの中ではK. pneumoniaeのBCPRに有意な月別変動を認め,3月が低く,10月が最も高かった(一元配置分散分析,p = 0.017)。GNR以外の菌種のBCPRに有意な月別変動を認めなかった。
月別のBCPRに周期性変動を認める。
BCPRに有意な月別変動を認める。3月,4月のBCPRが低く,8月のBCPRが最も高い。
GNRのBCPRに有意な月別変動を認める。3月,4月のBCPRが低く,7月のBCPRが最も高い。
Figure 4に季節別BCPRを示す。BCPRに有意な季節別変動を認め,春が低く,夏が最も高かった(一元配置分散分析,p < 0.001)。春と比較して夏のBCPRは1.27倍(95%CI: 1.08–1.47)であった。菌種別ではGNR,Bacillus属のBCPRに有意な季節別変動を認め(一元配置分散分析,それぞれp < 0.001,p = 0.043),GNRのBCPRは春に低く,夏に最も高く,夏のBCPRは春と比較して1.28倍(95%CI: 1.08–1.47)であった(Figure 5)。図には示していないが,GNRの中ではE. coliにこの傾向が顕著であった(p = 0.019)。またK. pneumoniaeのBCPRは春に低く,秋に高かった(p = 0.029)。Bacillus属のBCPRは冬に低く,夏に最も高く,冬と比較した夏のBCPRは2.03倍(95%CI: 0.93–3.12)であった(Figure 5)。
BCPRに有意な季節別変動を認める。春のBCPRが低く,夏のBCPRが高い。
GNR,Bacillus属のBCPRに有意な季節別変動を認める。GNRのBCPRは春に低く,夏に高い。Bacillus属のBCPRは冬に低く,夏に高い。
名古屋市の気温・湿度とBCPRとの関係をFigure 6, 7に示す。月別のBCPRと名古屋市の月別平均気温,平均湿度には弱い有意な正の相関を認めたが(それぞれR = 0.276,p = 0.0026,R = 0.198,p = 0.031),気圧,降水量,雨天日数,日照時間との間には有意な相関を認めなかった。
BCPRと気温に弱い有意な正の相関を認める。
BCPRと湿度に弱い有意な正の相関を認める。
菌種別のBCPRと気温・湿度との相関をTable 2に示す。GNR,CNS,Bacillus属,Enterococcus属のBCPRは気温との間に弱い有意な正の相関を認め,GNR(特にK. pneumoniae),Candida属のBCPRは湿度との間に弱い有意な正の相関を認めた。一方,S. aureusのBCPRと湿度の間には弱い有意な負の相関を認めた(Figure 8)。Table 3に菌種別にBCPRの月別変動,季節別変動,気温・湿度との相関をまとめた。
気温との相関 | 湿度との相関 | |||
---|---|---|---|---|
R | p-value | R | p-value | |
Gram-negative rod(GNR) | 0.299 | 0.0011 | 0.383 | < 0.001 |
Esherichia coli | 0.119 | 0.20 | 0.171 | 0.063 |
Klebsiella pneumoniae | 0.157 | 0.086 | 0.313 | < 0.001 |
Pseudomonas aeruginosa | 0.147 | 0.11 | 0.161 | 0.080 |
Enterobacter属 | 0.097 | 0.29 | 0.161 | 0.080 |
Staphylococcus属 | 0.088 | 0.34 | 0.007 | 0.94 |
Coaglase-negative Staphylococci | 0.187 | 0.042 | 0.106 | 0.25 |
Staphylococcus aureus | −0.129 | 0.16 | −0.201 | 0.028 |
Streptococcus属 | −0.160 | 0.080 | −0.074 | 0.42 |
Bacillus属 | 0.365 | < 0.001 | 0.131 | 0.15 |
Enterococcus属 | 0.208 | 0.023 | 0.076 | 0.41 |
Candida属 | 0.085 | 0.35 | 0.204 | 0.026 |
全菌種 | 0.276 | 0.0026 | 0.198 | 0.031 |
月別変動 | 季節別変動 | 気温との相関 | 湿度との相関 | |
---|---|---|---|---|
Gram-negative rod(GNR) | 7月に高い | 夏に高い | 正 | 正 |
Esherichia coli | ― | 夏に高い | ― | ― |
Klebsiella pneumoniae | 10月に高い | 秋に高い | ― | 正 |
Pseudomonas aeruginosa | ― | ― | ― | ― |
Enterobacter属 | ― | ― | ― | ― |
Staphylococcus属 | ― | ― | ― | ― |
Coaglase-negative Staphylococci | ― | ― | 正 | ― |
Staphylococcus aureus | ― | ― | ― | 負 |
Streptococcus属 | ― | ― | ― | ― |
Bacillus属 | ― | 夏に高い | 正 | ― |
Enterococcus属 | ― | ― | 正 | ― |
Candida属 | ― | ― | ― | 正 |
全菌種 | 8月に高い 3,4月に低い |
夏に高い 春に低い |
正 | 正 |
―:変動なし,もしくは有意な相関なし
S. aureusのBCPRと湿度の間に弱い有意な負の相関を認める。
本研究は10年間にわたって血培陽性菌を調査し,血培陽性率には季節性変動があり,これは主にGNR,Bacillus属が主因であること,また血培陽性率は菌種によって気温,湿度と関連があることを明らかにした。
我々が検索しえた限りでは(医学中央雑誌(1977年-2017年)およびPubMed(1950年-2017年),キーワード:「血流感染/bloodstream infection」,「血液培養/blood culture」,「季節/season」(会議録を除く)),血流感染症あるいは血培陽性菌の季節性変動に関するこれまでの報告は9編であった(Table 4)6)~14)。E. coliやK. pneumoniaeなどのGNRによる血流感染症の季節性変動が複数の論文で報告されている6)~9),11),13)~14)。本邦からは,加藤ら12)によってBacillus cereusによる血流感染症が夏に多いことが報告されている。これらの結果は,本研究結果とおおむね一致している。
No. | 年 | 著者 | 地域,国 | 緯度 | 気候 | 血液培養検体数 | 菌種 | 頻度の高い時期 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2008 | Anderson DJ6) | Northcarolaina, USA | 35°59'N | 温帯 | 1,189 | K. pneumoniae | warm months |
Marseille, France | 43°18'N | |||||||
Melbourne, Australia | 37°49'N | |||||||
Taipei, Taiwan | 25°01'N | |||||||
2 | 2009 | Al-Hasan MN7) | Kentucky, USA | 38°01'N | 温帯 | 461 | E. coli | warm months (June–September) |
3 | 2011 | Chazan B8) | Jezreel Valley, Israel | 32°37'N | 温帯 | 983 | E. coli | Summer (May–October) |
4 | 2011 | Eber MR9) | 132 hospitals in USA | 亜熱帯 | 211,697 | E. coli | Summer | |
K. pneumoniae | ||||||||
P. aeruginosa | ||||||||
Acinetobacter sp. | ||||||||
5 | 2011 | Al-Hasan MN10) | Kentucky, USA | 38°01'N | 温帯 | 38 | Enterobacter sp. | 変動なし |
6 | 2013 | Alcorn K12) | Queensland, Australia | 27°57'S | 温帯 | 841 | GNB | Summer (December–February) |
7 | 2014 | Kato K12) | Kyoto, Japan | 35°00'N | 温帯 | 51 | B. cereus | Summer (June–September) |
8 | 2015 | Deeny SR13) | London, UK | 51°30'N | 温帯 | 79,155 | E. coli | Summer |
9 | 2015 | Caldeira SM14) | Brazil | 22°53'S | 温帯 | 1,417 | GNB | season with high temperature |
A. baumannii | ||||||||
10 | Oya | Nagoya, Japan | 35°10'N | 温帯 | 30,945 | GNR | Summer (June–August) | |
Bacillus sp. |
GNB: Gram-negative bacilli, GNR: Gram-negative rods
本研究では菌種によって血培陽性率と気温,湿度との間に有意な相関を認めた。これはヒト(宿主)の環境,菌種による至適発育条件が異なるためであろう。血液培養が陽性となる原因として,一般にGNRによる尿路感染症が多いことと関連があると報告されてきた16),17)。Falagasら18)は尿路感染症は気温と正の相関があるとし,Rossignolら19)は尿路感染症は夏に多いと報告している。一方,Trentら20),Raetzら21)は,気温の上昇はGNRの病原性増強と関連すると報告している。
GNRとCandida属の血培陽性率は湿度と正の相関を認めた。これらの菌は一般に湿潤環境を好み,湿度が高い時期は菌の定着,増殖に有利であるからであろう。また名古屋市では気温の高い夏には湿度も高いため,GNRの血培陽性率は気温と湿度の両者に有意な相関を示したと考えられる。
Enterococcus属はGNRと同様,尿路感染症や胆道感染症の原因菌となる。Hosseiniら22)は胆嚢炎は夏に多いと指摘し,Liuら23)は胆嚢摘出術件数と気温との正の相関を報告している。これらの報告はEnterococcus属の血培陽性率と気温に正の相関を認めた本研究結果を支持している。
CNSやBacillus属は皮膚や環境中に生息する。気温の高い時期には皮膚の衛生状態が悪化し,環境中の菌が増殖しやすくなるため,カテーテル関連の血流感染症,血培陽性率が高くなると考えられる。また夏は衛生状態が悪化しやすいため,血液採取時のコンタミネーション増加と関連している可能性がある。一方,乾燥はこれらの細菌の不活化に関連するため,本研究では湿度の低い3,4月(春)に血液培養陽性率が低かったと考えられる。
興味深いことに,本研究ではS. aureusの血培陽性率は湿度との間に負の相関を認めた。我々が検索しえた限りでは,同様の報告はない。S. aureusは乾燥ストレスに耐性をもち,湿度の低い環境では他の菌よりも増殖しやすいこと24),25),あるいは肺炎などの気道感染症が湿度の低い時期に多いことと関連している可能性がある26)。
この研究にはいくつかの考慮すべき制限がある。第一に,血培陽性例において市中発症と院内発症を区別していない。空調設備の整った院内環境でもBCPRに季節性が認められるかを今後,検討すべきであろう。第二に,年齢,性別,基礎疾患などの患者背景や,血培陽性に至った原因疾患,感染症を調査していない。どのような患者・病態に血培陽性率が高いかを明らかにすることで,血培陽性率の季節性変動の原因がより明らかとなるだろう。第三に,本研究は血培陽性率を検討項目としており,コンタミネーション・血流感染症を区別していない。両者の判別のためには複数セットでの血培採取結果,血培採取状況,臨床所見などの情報が必要だが,本研究では考慮していないからである。これらの制限はあるが,本研究は10年間の3万件を超える血液培養検体を対象として,血培陽性菌の季節性変動を明らかにした。加えて,本研究は菌種によって気温,湿度と関連があることを示した数少ない研究の1つである。血培陽性率,陽性菌の季節性変動を理解することは,診断,治療,感染対策などの観点から意義がある。季節により特定の細菌による血培陽性率が上昇するとの認識があれば,感染対策やエンピリック治療の向上につながる可能性があるからである。
季節や気候の変化は細菌と宿主の両方に影響を及ぼすため,血培陽性率の季節性変動には様々な要因が関連している。血培陽性率の季節性変動をより理解するためには,患者背景,原因疾患,病態,環境,細菌の病原性の観点から,さらなる研究が必要である。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。