医学検査
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技術論文
液体クロマトグラフタンデム質量分析装置を用いた尿中メタネフリン並びにノルメタネフリンの測定法の基礎的検討
水村 千恵難波 わさ村上 朋輝町田 聡木戸 誠二郎坪井 五三美
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2019 年 68 巻 2 号 p. 276-280

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Abstract

液体クロマトグラフタンデム質量分析装置を用いて尿中メタネフリン並びにノルメタネフリンの濃度測定法の基礎的評価を行った。同時再現性と日差再現性は4%未満で希釈直線性も良好な結果であった。尿マトリックス効果の影響も認められなかった。ポストカラム誘導体化法による高速液体クロマトグラフィーとの相関性は,良好であった(メタネフリン:y = 1.000x + 0.004,r = 0.994,n = 220;ノルメタネフリン:y = 1.014x + 0.017,r = 0 .992,n = 220)。この研究で,液体クロマトグラフタンデム質量分析装置を用いた測定法はルーチン検査において有効な方法であることが実証された。

Translated Abstract

We performed basic evaluation studies of urinary metanephrine and normetanephrine measurements using a liquid chromatograph-tandem mass spectrometer. This method showed CVs of within-run and between-day precisions of less than 4.0%, and the dilution linearity was also good. No matrix effect was also detected. In addition, the correlation with high-performance liquid chromatograph for postcolumn derivatization and LC-MS/MS method was good (metanephrine: y = 1.000x + 0.004, r = 0.994, n = 220; normetanephrine: y = 1.014x + 0.017, r = 0.992, n = 220). This study revealed that this method using a liquid chromatograph-tandem mass spectrometer is acceptable in routine tests.

I  緒言

メタネフリン(以下,MNと略す。)はアドレナリンが,ノルメタネフリン(以下,NMNと略す。)はノルアドレナリンがカテコール-o-メチル転換酵素によって代謝された中間代謝産物である1)。MNとNMNの総和はカテコールアミンの合成代謝を反映している。臨床的にはカテコールアミン産生腫瘍である褐色細胞腫,傍神経節腫と神経芽(細胞)腫のスクリーニングテストとして最も信頼できる検査項目として知られており,褐色細胞腫,傍神経節腫,神経芽(細胞)腫を疑ったとき,副腎の偶発腫瘤を精査するときに本検査を行う2),3)

尿中MN並びにNMNの測定は,特に褐色細胞腫と神経芽(細胞)腫の診断,治療効果判定,あるいは経過観察に有用である。これまでに尿中MN並びにNM分画は,高速液体クロマトグラフ(以下,HPLCと略す。)によるポストカラム誘導体化の蛍光検出法(以下,HPLC/FLと略す。)で測定していた。従来法は1検体あたり31分の分析時間を要していた。

そこで,分析処理を向上させるため,液体クロマトグラフタンデム質量分析装置を用いた尿中メタネフリン分画の測定法(以下,LC-MS/MSと略す。)の検討を行った。

II  前処理と分析条件

1. 前処理

検体(尿)2 mLに対して6 mol/L HCl 100 μLを加え,攪拌する。サンプルは100℃,40分間で加水分解し,冷却後,遠心分離を行う。LC-MS/MS法は,上清50 μLに内部標準溶液600 μLを加え攪拌後,試料の測定を行った。内部標準液は濃度100 ng/mLで,溶媒は50%メタノール溶液で調製した。HPLC/FLは,加水分解後の上清50 μLを測定した。

2. 分析条件

Table 1はLC-MS/MS,Table 2はHPLC/FLの分析条件を示す。

Table 1  Operating condition (LC-MS/MS)
測定機器 LC-MS-8060(島津製作所社)
分析カラム Shimpack GISS C18 3 μm 100 × 2.1 mm I.D.
移動相 (A)20 mM酢酸アンモニウム含有0.5%酢酸
(B)100%メタノール
イオン化法 エレクトロスプレーイオン化
極性 正イオン検出モード
ピーク同定 多重反応モニタリング法4)
(Multiple Reaction Monitoring)
MN: m/Z 180.0 → m/Z 165.10
MN-IS: m/Z 183.0 → m/Z 168.10
NMN: m/Z 166.0 → m/Z 79.0
NMN-IS: m/Z 169.0 → m/Z 137.10
内部標準物質 (±)Metanephrine-α, β, β-d3 HCL
(±)Normetanephrine-α, β, β-d3 HCL
Table 2  Operating condition (HPLC/FL)
測定機器 HPLCポンプ:L-2130(日立ハイテクノロジー社)
蛍光検出器:L-2485(日立ハイテクノロジー社)
カラムオーブン(日立ハイテクノロジー社)
前処理液 50 mM ホウ砂塩酸緩衝液
溶離液 80 mM クエン酸緩衝液
蛍光反応液 トリヒドロキシインドール液
・1%フェリシアン化カリウム溶液
・0.0068%塩化第二銅溶液
・3%メルカプトエタノール溶液
・6N水酸化ナトリウム溶液
蛍光 Ex. 415 nm Em. 510 nm
前処理カラム 日立特殊仕様カラム#3011-C 4φ × 35 nm
分析カラム 日立パックドカラム#3013-C 4φ × 150 nm
分析カラム温度 38~45℃
前処理カラム温度 室温
反応ユニット温度 80℃

LC-MS/MSはリニアグラジエントで2.5分間で移動相Bを5%まで上げてMNとNMNを分離した。

HPLC/FLは試料を前処理カラムに注入後,5分後バルブを切替,MNとNMN分画を分析カラムで分離後,反応ユニット内でトリヒドロキシインドール液で蛍光発色させた後,各ピークを検出した。

III  検討項目

1. 同時再現性

自社管理尿検体(低濃度L,中濃度M,高濃度H)をそれぞれ12回測定して,変動係数(CV%)を算出した。

2. 日差再現性

自社管理尿検体(低濃度L,中濃度M,高濃度H)をそれぞれ6回測定して,5日間の変動係数(CV%)を算出した。

3. 希釈直線性

NMとNMNを10 mg/L前後の濃度で調製して,10倍希釈して相対誤差と相関係数を算出した。

4. 添加回収試験(マトリックス効果)

10検体の尿に対して,7 mg/Lと0.7 mg/L前後のNMとNMN標準液を添加して理論値を算出した。

5. 相関性

相関性試験は当社へ依頼された測定済みの検体で連結不可能な220例を使用した。

IV  結果

1. 同時再現性

管理尿検体L,M,HともにCV5%未満と良好な結果であった(Table 3)。

Table 3  Within-run precision
MN L M H
平均値(mg/L) 0.03 0.797 6.643
SD(mg/L) 0.00 0.03 0.313
CV(%) 0.0 3.7 4.7
NMN L M H
平均値(mg/L) 0.03 0.795 6.318
SD(mg/L) 0.00 0.011 0.103
CV(%) 0.0 1.4 1.6

2. 日差再現性

管理尿検体L,M,HともにCV4%未満と良好な結果であった(Table 4)。

Table 4  Between day precision
MN L M H
平均値(mg/L) 0.03 0.809 6.739
SD(mg/L) 0.00 0.027 0.177
CV(%) 0.0 3.3 2.6
NMN L M H
平均値(mg/L) 0.03 0.793 6.368
SD(mg/L) 0.01 0.01 0.128
CV(%) 2.8 1.3 2.0

3. 希釈直製性

NMとNMNは共に10 mg/Lまで直線性を示し,相対誤差は10%未満で,相関係数はNMがr = 0.999,NMNがr = 0.999であった。

4. 添加回収試験(マトリックス効果)

10検体の尿に対して,7 mg/Lと0.7 mg/L前後のNMとNMN標準液を尿9容に標準液1容を添加して添加回収率(%)を算出した。2濃度の回収率は104.1,99.7,110.1,107.9%であった(Table 5)。

Table 5  Effect of urinary matrix
No. MN濃度(mg/L) ①ブランク(mg/L) ②定量値(mg/L) ①-②(mg/L) 平均値(mg/L) SD(mg/L) CV(%)
1 0.73 0.05 0.84 0.79 0.76 0.02 3.0
2 0.21 0.97 0.76
3 0.13 0.87 0.74
4 0.04 0.80 0.76
5 0.19 0.95 0.76
6 0.06 0.87 0.81
7 0.03 0.80 0.77
8 0.05 0.78 0.73
9 0.17 0.92 0.75
10 0.10 0.87 0.77
1 7.24 0.09 7.71 7.62 7.22 0.23 3.1
2 0.46 7.37 6.91
3 0.15 7.23 7.08
4 0.16 7.39 7.23
5 0.32 7.41 7.09
6 0.18 7.74 7.56
7 0.12 7.26 7.14
8 0.09 7.46 7.37
9 0.31 7.44 7.13
10 0.27 7.35 7.08
No. NMN濃度(mg/L) ①ブランク(mg/L) ②定量値(mg/L) ①-②(mg/L) 平均値(mg/L) SD(mg/L) CV(%)
1 0.69 0.09 0.84 0.75 0.76 0.04 5.3
2 0.46 1.24 0.78
3 0.15 0.86 0.71
4 0.16 0.91 0.75
5 0.32 1.09 0.77
6 0.18 0.95 0.77
7 0.12 0.85 0.73
8 0.09 0.80 0.71
9 0.31 1.16 0.85
10 0.27 1.03 0.76
1 6.94 0.09 7.67 7.58 7.49 0.12 1.7
2 0.46 7.99 7.53
3 0.15 7.42 7.27
4 0.16 7.61 7.45
5 0.32 7.97 7.65
6 0.18 7.73 7.55
7 0.12 7.58 7.46
8 0.09 7.38 7.29
9 0.31 7.86 7.55
10 0.27 7.84 7.57

5. 相関性試験

新法(LC-MS/MS法)と従来法(HPLC/FL法)との相関式と相関係数に関して,MNはy = 1.000x + 0.004,r = 0.994,NMNはy = 1.014x + 0.017,r = 0.992と良好な結果が得られた(Figure 1)。

Figure 1 Correlation

Correlation of a conventional method (HPLC/FL) and a new method (LC-MS/MS)

V  考察

尿中NM及びNMNの測定法として,比色法5),蛍光法6),ガスクロマトグラフィー・マススペクトロメトリー法7)及びHPLC法8)などが開発されてきた。しかし,いずれの方法も検体の前処理に長時間を要することや操作が煩雑であることが課題であった。前処理を必要とせず,簡便で尿中NM並びにNMNに対して特異性の高い抗体を用いたラジオイムノアッセイ法(以下,RIA法と略す。)が開発され,臨床的に広く普及することになった9)。RIA法によって,褐色性細胞腫などの疾患に対する有用性が確認された。

特に褐色細胞腫と神経芽(細胞)腫の診断,治療効果の判定や経過観察に欠かせないマーカーとなった。RIA法は体外診断用医薬品として認可されるが,約20年前に製造販売が中止となった。その後,HPLCのポストカラム誘導化法によって8),10),尿中NM並びにNMの測定が臨床的な主流となった。しかし,従来法(HPLC/FL法)は分離用に2試薬,誘導体化用に4試薬を使用するため,試薬数とその使用量が多く,さらに1検体当たり31分測定にかかっていた。そこで,簡便な操作で2種類の試薬で測定可能なLC-MS/MS法の測定条件の検討を行った11)。その結果,分析時間は3.5分と大幅に短縮でき,従来法との相関性も良好な測定条件を見出した。

現在,当社では,尿中メタネフリン分画は従来法(HPLC/FL法)より処理能力に優れた新法(LC-MS/MS法)でルーチン検査を行っている。

VI  結語

液体クロマトグラフタンデム質量分析装置を用いた尿中MNとNMNの濃度測定法の基礎的評価は良好な成績であり,日常検査に有効な方法であることが実証された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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