医学検査
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症例報告
免疫チェックポイント阻害剤投与後に褐色尿を認めた一症例
山口 高明星 雅人長嶌 和子櫻井 昌代水野 元貴仲本 賢太郎藤田 孝石川 隆志
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2019 年 68 巻 2 号 p. 388-394

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Abstract

肉眼的に褐色尿を呈した患者検体を,メラニン尿と同定した症例を報告する。通常,褐色尿の場合には血尿,ビリルビン尿,ウロビリン尿を疑うが,本症例では,尿潜血反応(±)であること,イクトテストの結果が陰性であることから上記の可能性は否定された。臨床診断よりメラニン尿の可能性を考え,Thormählen反応を実施したところ陽性であり,さらに,高速液体クロマトグラフィーによりメラニンマーカー(5-S-CD, PTCA, PDCA, 4-AHP)が検出され,褐色尿の原因はメラニンであると確定した。褐色尿は免疫チェックポイント阻害剤投与後数日間継続し,その後に淡黄色になった。悪性黒色腫患者の褐色尿は常に認められるわけではなく,病態の進行および治療に伴って出現する所見であると考えられた。すなわち,褐色尿の程度やThormählen反応の実施は,すでに悪性黒色腫の診断がついていても,病態の進行や治療効果の判定に有用である可能性が示唆された。

Translated Abstract

We report a case of melanuria with dark-yellow urine. Dark-yellow urine normally indicates blood in urine, bilirubinuria, or urobilinuria. In this case, because no abnormal values for red blood cells, bilirubin, and urobilinogen were detected by a semiqualitative urine test, we suspected melanuria on the basis of clinical diagnosis. Then, the urine sample was found positive for melanin using the Thormählen test. To confirm melanuria, we quantified melanin marker by high-performance liquid chromatography (HPLC). The result showed that 4 melanin markers, namely, 5-S-CD, PTCA, PDCA, and 4-AHP, were detected by HPLC. Importantly, melanuria did not always appear in the urine. The dark-yellow color changed to yellow or straw-colored a few days after the treatment with the immune checkpoint inhibitor. The intermittent appearance of melanuria may reflect the progression of melanoma or the destruction of melanoma cells by the anti-cancer treatment, especially the immune checkpoint inhibitor. Thus, these results suggest that the detection of melanin in dark-yellow urine by performing the Thormählen test could be useful for determining the progression of melanoma and the response to treatment.

Ⅰ  はじめに

日常臨床において,尿検査を実施する前に尿の外観・性状を目視確認する。その際,褐色調の尿が認められた場合には,血尿やビリルビン尿,ウロビリノーゲン尿などの含有が予想される。しかし,尿の外観・性状と尿定性結果との乖離を経験することがあり,その場合稀な疾患や薬物による影響などを疑うが,原因不明であることも多い。尿が褐色調を示す稀な疾患の一つとして,進行した悪性黒色腫(主に肝転移など)では,尿中にメラノゲンが大量に排泄され,排尿直後は黄褐色調を呈することが知られている1)

今回我々は,肉眼的に褐色尿を呈した患者検体を,メラニン尿と同定するに至った症例を経験したので報告する。

II  症例

50歳代,女性。2016年3月頭頂部の皮疹に気づき近医を受診し,同年5月,頭部腫瘍切除が施行され悪性黒色腫と診断された。

同年6月,PET-CTにて両肺に多発結節および肝右葉に巨大腫瘤が認められ,放射線療法及び抗癌剤治療のため当院紹介入院となった。入院時の検査データをTable 1に示す。

Table 1  入院時検査データ
TP 6.7 g/dL RBC 440 × 104/uL
Alb 3.5 g/dL HGB 14.5 g/dL
CRP 1.11 mg/dL HCT 42.8%
T-Bil 1.2 mg/dL MCV 97 fL
AST 41 U/L MCH 33.0 pg
ALT 78 U/L MCHC 33.9%
LD 375 U/L PLT 23.7 × 104/uL
γ-GT 370 U/L 尿pH 5.5
ChE 345 U/L 尿比重 1.025
T-C 308 mg/dL 尿蛋白半定量 (−)
BUN 14.6 mg/dL 尿糖半定量 (−)
UA 5.9 mg/dL 尿潜血反応 (−)
CRE 0.50 mg/dL 尿ウロビリノーゲン半定量 (1+)
eGFR 95.4 mL/min/1.73 m2 尿ケトン体半定量 (1+)
Na 136 mEq/L 尿沈渣
K 4.1 mEq/L  赤血球 1–4/HPF
Cl 99 mEq/L  白血球 1 >/HPF
WBC 6.4 × 103/uL  尿細管上皮 5–9/HPF
 Neutro 72%  尿路上皮 1–4/HPF
 Eosino 1%  粘液糸 (2+)
 Baso 0%  硝子円柱 (1+)
 Mono 5%  上皮円柱 (1+)
 Lymph 23%

臨床経過:入院3日目より放射線治療が開始され,16日目より免疫チェックポイント阻害剤であるイピリムマブ(抗CTLA-4抗体,小野薬品工場)の投与が開始された。しかし,胸部-骨盤部CTで転移巣の増大を認め,イピリムマブの投与は中止された。入院62日目,同じく免疫チェックポイント阻害剤であるペムブロリズマブ(抗PD-1抗体,メルクUSA)の投与が開始された。初回投与後より褐色尿を認めたため,治療に伴う膀胱炎による血尿疑いで尿検査が実施された。

III  方法

1. 尿定性・尿沈渣検査

スイング型遠心機を用いて500 gで5分間遠心した尿の上清を検体とし,ウロヘマコンビスティックス(SIEMENS)及び,ウロペーパーIII(栄研)を用いて尿定性検査を実施した。検体に試験紙を浸し,測定項目毎の反応時間が経過した後,色調表と比較し近似値法にて判定した。尿沈渣検査は,尿沈渣検査法2010(GP-1 P4)に従って実施した。

2. イクトテスト

ビリルビンの確認試験として,尿中ビリルビン定性検査用試薬であるイクトテスト(SIEMENS)を使用した。試験用マットをペーパータオルの上に置き尿を10滴滴下し,その上に試薬の錠剤を置き精製水を1滴滴下し5秒待ち,その後もう1滴精製水を滴下し60秒間錠剤の周辺の色調を観察し判定した。2滴目の精製水滴下後,60秒以内に青色もしくは紫色を呈した場合に陽性と判定した。

3. Thormählen反応

本反応はインドールの非置換ピロール核の反応で,メラノゲンのうちインドールメラノゲンに対して陽性になる。類似するインドール化合物は尿中にはほとんど存在しないため,実際上メラノゲンに特異的な反応と考えられている2),3)。方法は,尿0.5 mLに1%ニトロプルシッドナトリウム溶液(用時調製)を0.5 mL加えよく混合し,10%水酸化ナトリウム溶液を2 mLおよび30%酢酸を2 mL加え混和する。陽性は青色を呈する。この呈色は時間とともに徐々に退色するため,30秒以内に判定した。

4. 尿中メラニンマーカー(5-S-CD,PTCA,PDCA,4-AHP)の測定

メラニン関連代謝をFigure 1に示す。尿中排泄量が転移巣の早期発見に有用であるとして,生化学的腫瘍マーカーとして利用されている5-S-システイニルドーパ(5-S-CD)4),5)とメラニンの化学分解反応における分解産物である,

Figure 1 メラニン代謝図

メラニン代謝産物及び分解産物のうち,5-S-CD,PTCA,PDCA,4-AHPをメラニンマーカーとして用いた。

PTCA:pyrrole-2,3,5-tricarboxylic acid,

PDCA:pyrrole-2,3-dicarboxylic acid,

4-AHP:4-amino-3-hydroxypheylalanineをメラニンマーカーとし,高速液体クロマトグラフィー(HPLC;Jasco 880-PU,日本分光)を用いて分析した6)

HPLCの条件を下記に示す。

HPLC条件

移動相:リン酸,メタンスルホン酸,0.1 mmol Na2EDTA(pH 3.10)

温度:35℃

流速:0.7 mL/min

検出器:ECD(600 mV)

分析カラム:Catecholpakカラム(4.6 × 150 mm, 7 um)

IV  結果

尿検査施行時の尿検査データをTable 2に示す。提出された尿検体は褐色を呈しており(Figure 2),外観上血尿を疑った。尿潜血反応は検体の褐色の影響で判定が困難であったが,非溶血(±)時の緑色斑点の呈色が確認できたため,潜血反応(±)と判定し,かつ尿沈渣赤血球数が1–4個/HPFであったため,血尿を否定した(Figure 3A)。次にビリルビン尿の可能性を考えたが,尿定性試験紙では異常呈色により判定不能であったため,イクトテストによる確認試験を実施したところ陰性であった(Figure 3B)。血中のビリルビンも高値でなかったことからビリルビン尿の可能性を否定した。さらに,尿ウロビリノーゲンが(1+)であったことからウロビリノーゲン尿の可能性も低いと判断した(Figure 3A)。

Table 2  褐色尿出現時検査データ
尿pH 5.5
尿比重 1.030
尿蛋白半定量 (1+)
尿糖半定量 (−)
尿潜血反応 (±)
尿ウロビリノーゲン半定量 (1+)
尿ビリルビン半定量 判定不能
尿亜硝酸塩定性 (+)
尿白血球試験紙 (1+)
尿沈渣
 赤血球 1–4/HPF
 白血球 30–49/HPF
 扁平上皮 1–4/HPF
 尿細管上皮 1–4/HPF
 粘液糸 (1+)
 細菌 (2+)
 粘液糸 (2+)
 シュウ酸Ca結晶 (1+)
 尿蛋白定量(随時尿) 21 mg/dL
 尿蛋白定量Cr補正 307 mg/g·Cr
Figure 2 メラニン尿外観

提出された尿検体は褐色を呈していた。

Figure 3 (A)尿定性試験紙結果(B)イクトテスト結果

尿定性試験紙とイクトテストの結果より,血尿とビリルビン尿,ウロビリノーゲン尿の可能性は低いと判断した。

尿定性検査の結果より,血尿やビリルビン尿による褐色色調が否定されたため,臨床診断よりメラニン尿の可能性を考えた。メラノゲンの検出法であるThormählen反応を実施したところ,患者検体(Figure 4D)は反応後に青い色調を呈し,陰性コントロールでは呈色しなかったため(Figure 4B),褐色尿の原因はメラニンであると推定した。

Figure 4 Thormählen反応

左:陰性コントロール(A;反応前,B;反応後)

右:患者検体(C;反応前,D;反応後)

V  経過

褐色尿出現時からの経過と,尿中メラニンマーカーおよびThormählen反応の結果の推移を示す(Figure 5)。入院62日目のペムブロリズマブの初回投与後から褐色尿が出現し,それに伴い尿中メラニンマーカーとなるPDCA,PTCA,4-AHPが検出された(Figure 5)。また,83日目のペムブロリズマブ2回目投与後も同様に褐色尿が出現し,Thormählen反応の陽性(Figure 6)およびメラニンマーカーの増加をみとめた。しかし,ペムブロリズマブ2回目投与後から患者の体調が不良となったため,ペムブロリズマブ3回目の投与が延期された。その後115日目の時点では尿の外観は淡黄色となりThormählen反応は陰性,尿中メラニンマーカーも検出感度以下であった。

Figure 5 臨床経過と尿中におけるメラニンマーカーおよび5-S-CDの推移

免疫チェックポイント阻害剤投与後にメラニンマーカーが上昇しているのが分かる。

Figure 6 ペムブロリズマブ2回目投与後

ペムブロリズマブ2回目投与後も同様に褐色尿が出現し,Thormählen反応も陽性を示した。

入院121日目の胸部-骨盤部CTで多発肝転移腫瘍の増大を認め,さらに全身状態の憎悪が認められた。126日目に提出された尿検体は褐色調を呈しており,Thormählen反応陽性および尿中メラニンマーカー高値であった。

VI  考察

本症例から,褐色尿を確認し,血尿やビリルビン尿が否定された場合にはメラニン尿を考慮することにより,患者の病態把握に有用である可能性を示した。また,ニトロプルシドナトリウム溶液,水酸化ナトリウム溶液,および酢酸で簡便にメラニン尿の確認が可能となるThormählen反応は,HPLC定量法との相関も良く判定に有用であることを示した。

本症例において,尿定性検査で潜血反応およびウロビリノーゲン反応は判定可能であったが,ビリルビン反応では異常呈色により判定不能であった。褐色尿でビリルビン試験紙が異常呈色により判定不能となったのは,ウロペーパーIIIでは,各項目の陽性色に似た,強度の着色尿では試験紙が異常呈色し判定に影響を及ぼすことが知られている7),8)。つまり,褐色尿がビリルビン試験紙の陽性色に似た,着色尿であることによる異常呈色だと考えられた。

メラニン尿は,悪性黒色腫細胞が広範囲に転移している場合(特に肝臓)にしばしば認められる1)。ヒトの細胞内でメラニンは顆粒として存在しており,この顆粒が血管壁を通過することは考えにくく,悪性黒色腫細胞が生成するドーパからメラニンになるまでの中間生成物の一部が血液に漏出し,さらに肝などでメチル化(catechol-O-methyltransferase; COMT)などの代謝を受けた後,尿中へと排泄されると考えられる9)~11)。5-S-CDは,その中間生成物の1つであり,尿中5-S-CD値(基準値:10.0 µmol/L未満)は悪性黒色腫の病勢と相関して変動し,予後や病勢判定のマーカーとして有用であることが知られている12)~14)。近年,厚生省研究班よりStage II~IVの悪性黒色腫患者における免疫療法の効果判定に尿中5-S-CDの有用性について報告されている15)。本症例においても,免疫チェックポイント阻害剤のペムブロリズマブ投与後に出現した尿中メラニンマーカーであるPDCAは高値を示した。入院64~86日まで5-S-CD値が低値を示した原因として,検体が非酸性化で冷蔵保存されていたため,保存過程で中間生成物である5-S-CDが非酵素反応によりメラニンに変化したためであると考えられた。Thormählen反応は入院64~94日目まで陽性を示し,ペムブロリズマブ3回目の投与延期後,尿はしだいに褐色が薄くなり,淡黄色となりThormählen反応は陰性となった。したがって,ペムブロリズマブ投与後,抗腫瘍免疫効果が増大した結果,腫瘍細胞が破壊され,大量の細胞内メラノゲンが血液に放出され褐色尿が出現したと考えられた。Ghussenら16)によると,臨床病期Ⅰ~IV期の悪性黒色腫患者44人について尿中インドールメラノゲンを定量したところ,これらの平均値は健常人(3.8 ± 1.3 μg/mL,1日排泄量は5.41 ± 1.94 μg/day)と差がなかった。しかし,病変が全身に及んだ患者の尿中インドールメラノゲンは,健常人より有意に高値(平均濃度7.76 μg/mL,1日排泄量は6.85 ± 1.94 μg/day)であった。これらのことより,悪性黒色腫患者のメラニン尿は常に認められるわけではなく,治療により腫瘍細胞が破壊された場合や,腫瘍の全身転移など病態が進行した場合に出現する所見であると考えられた。本症例においても,入院126日目に提出された尿検体で再度褐色色調を示した際は,尿中5-S-CD値及びメラニンマーカーは高値を示し,Thormählen反応も陽性であった。その際に,多発肝転移腫瘍の増大や全身状態の憎悪が認められたことから,悪性黒色腫の進行に伴ってメラニン尿が出現したと考えられた。

VII  結語

今回,褐色尿からメラニン尿を同定した症例を報告した。通常,褐色尿が提出された場合は,血尿やビリルビン尿が考えられる。しかし,本症例のように尿定性と尿沈渣の結果から血尿やビリルビン尿を否定した際は,メラニン尿を疑い,インドールメラノゲンに特異的であるThormählen反応を追加検査することは有用であると考えられた。褐色尿は免疫チェックポイント阻害剤の投与後数日間継続し,その後に淡黄色になった。さらに腫瘍巣の増大により再度褐色尿を認めことから,病態の進行および治療に伴って出現する所見であると考えられた。すなわち,Thormählen反応を実施することで,すでに悪性黒色腫の診断がついていても,病態の進行や治療効果の判定に有用である可能性が示唆された。

 

本論文は当院倫理委員会の審査非該当項目のため,倫理委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

尿中5-S-CD値及びメラニンマーカーを測定していただいた藤田保健衛生大学医療科学部,若松一雅先生に深謝します。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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