2019 年 68 巻 3 号 p. 589-595
先天的に血液中にフィブリノゲン(fibrinogen; Fbg)が存在しない無Fbg血症は約1/100万人の頻度でみられ,Aα鎖・Bβ鎖・γ鎖をコードするFGA・FGB・FGG遺伝子の変異が原因とされている。無Fbg血症患者にみられるFGA del c.364+86_c.510+45(FGA Δ1238 bp)は日本(三重,岡山,福岡,岐阜,埼玉)と中国(上海)で報告されているが地域性に関する検討報告はない。今回,三重で2例目の新規FGA Δ1238 bpを有する無Fbg血症を経験し,ハプロタイプ解析により過去に報告した三重と岡山の2家系と比較を行い,臨床所見についても既報症例と比較した。4番染色体のFbg遺伝子近傍の7種のshort tandem repeat(STR)領域を使用し,polymerase chain reaction(PCR)で増幅後にフラグメント解析を行った。3家系でD4S3021-FGA-i3 (intron 3 of FGA)-D4S2631-D4S1629(230-del-212-146 bp)の少なくとも3領域が共通であり,FGA Δ1238 bpを有する対立遺伝子が共通先祖由来である可能性が示唆された。FGA Δ1238 bpを有する無Fbg血症は西日本に発端者が分布していることから,今後もシークエンス解析に加えてハプロタイプ解析によるデータ蓄積を継続することで,遺伝的背景を明らかにする一端になると考える。