医学検査
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原著
Cold snare polypectomy検体の濾紙貼付けによる病理学的水平断端評価改善効果
池田 卓也𠮷﨑 哲也岡村 拓越智 麻衣子山根 大希福岡 慶丈川西 澄子衣笠 宏
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2020 年 69 巻 1 号 p. 25-29

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Abstract

大腸ポリープの治療において最近では通電を行わないcold snare polypectomy(CSP)の安全性,有効性が示され,広く行われるようになってきた。しかし,CSP検体の水平断端が不明となることも多く,断端評価を改善することはCSPの課題のひとつである。CSP検体は小さくピンでの貼付けが困難なため,今までは回収されたままの状態でホルマリン固定されていた。そこで我々は濾紙を使用し検体を伸展固定する方法を考案した。今回CSP検体を濾紙へ伸展させ貼付けることでの水平断端評価に対する効果について検討した。2018年1月から2018年6月までに当院でCSPを行った腺腫1,040病変(貼付群470病変,既存群570病変)の比較検討を行った。貼付群では回収した検体を爪楊枝を用いてプラスチック板の上で伸展させたのち濾紙に貼付け,ホルマリン固定した。結果,年齢中央値は貼付群で70歳,既存群で72歳(p = 0.08),腫瘍径中央値は両群とも4 mmであった。既存群で水平断端評価不明は326検体(57.2%)に対し,貼付群では167検体(35.5%)であり貼付群で有意に水平断端の評価が可能であった(p < 0.01)。CSP検体を濾紙に伸展し貼付けることで有意に水平断端評価不明症例を減少させることができた。本研究より適切な病理評価のためには切除検体を伸展し固定する重要性が示唆された。

Translated Abstract

The removal of colon polyps can reduce the risk of colon cancer. Recently, cold snare polypectomy (CSP), which does not use electricity, has become a widely accepted treatment for colon polyps. However, the horizontal margin of specimens resected by CSP is often unclear. CSP specimens are small and difficult to paste with a pin. Therefore, they are formalin-fixed without pasting. We devised a method to extend and fix the specimens on filter paper. In this study, we investigated the effect of horizontal margin on evaluation by pasting CSP lesion specimens on filter paper. We compared 1,040 colorectal adenoma specimens obtained by CSP (470 lesion specimens in the pasting group, 570 lesion specimens in the conventional group) from January to June 2018. In the pasting group, the specimens were extended with a toothpick and affixed to filter paper and then fixed in formalin. In the conventional group, they were formalin-fixed without pasting. Results showed that the median ages in the pasting and conventional groups were 70 and 72 years, respectively, and the median lesion size was 4 mm in both groups. The area of the unclear horizontal margin was significantly smaller in 167 specimens (35.5%) in the pasting group than in 326 specimens (57.2%) in the conventional group (p < 0.01). In conclusion, pasting CSP lesion specimens on paper significantly reduced the number of the specimens with an unclear horizontal margin.

I  序文

大腸ポリープを切除することは大腸癌のリスクを低減させると報告されており1),2),大腸腺腫や癌などが疑われる病変には積極的な内視鏡治療が行われている。大腸ポリープの切除方法は内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection; EMR)やpolypectomyなど,切除時に通電を行うことが主流である。しかし,最近では通電することなく切除するcold snare polypectomy(CSP)の安全性,有効性が示され3)~9),日本でも広く行われるようになってきた。特に10 mm以下の大腸ポリープで術前に腺腫と診断された場合,治療時間の短縮や術後出血が少ないこと9),10)からもCSPが選択される機会は多い3)。一方で,CSP検体の水平断端評価が不明となることが多く,切除断端評価を改善することはCSPの課題のひとつであった。

CSP検体は通常,内視鏡の鉗子チャンネルから吸引により吸引管に連結されたトラップ内に回収する。そのため,回収時に検体が丸まり,そのままの状態でホルマリン固定されていた。大腸ESD/EMRガイドライン11)では内視鏡切除検体の取り扱いについてピンで貼付けることが推奨されているがCSP検体のほとんどが10 mm以下と小さく,ピンによる貼付けが困難である。そこで我々は濾紙を使用し検体を伸展貼付けする方法を考案した。今回CSP検体を濾紙へ伸展させ貼付けることで水平断端評価が改善されるかについて検討した。

II  対象および方法

1. 対象

当院で2018年1月から6月までに下部消化管内視鏡検査でCSPを行った1,219病変のうち腺腫と病理診断された1,040病変を対象とした。2018年4月から6月までに切除された470病変は伸展してから濾紙に貼付けて10%中性緩衝ホルマリン(武藤化学)で固定した(貼付群)。2018年1月から3月の期間に切除された570病変はそのまま10%中性緩衝ホルマリンで固定した(既存群)。全症例において検査前にポリープ切除についてのリスク等を説明し同意を得た。

2. 対象症例選定方法

病変は内視鏡検査時に通常観察,狭帯域光観察(narrow band imaging; NBI)や色素散布観察により腺腫と診断し,大きさが10 mm以下のものをCSPの適応とした。CSPはCF-H290I・CF-HQ290I(オリンパス)もしくはEC-L590ZP(富士フィルム)の内視鏡を用い,スネアは全例でCAPTIVATORTM II 10 mm(Boston Scientific)を使用した。

3. 検体の取り扱い

切除された検体は内視鏡の鉗子チャンネルを通して吸引管に連結されたトラップ(サクションポリープトラップ,オリンパス)に回収した。貼付群では検体を貼付けるためにまず20 mm × 20 mmの大きさにカットした濾紙(FILTER PAPER No2,アドバンテック東洋)を用意した。直接検体を濾紙に貼付けるのではなく,定規などの表面がなめらかな物の上で爪楊枝を用い,ねじれや丸まりが無くなるように慎重に検体を伸展させたのち,病変の切除面が濾紙側になるように濾紙を覆いかぶせ,写し取るように貼付けた(Figure 1)。貼付けた検体は濾紙ごと10%中性緩衝ホルマリンで固定した。また,既存群はそのまま10%中性緩衝ホルマリンで固定した。両群とも面出しを容易にするためにTissue-Tek VIP6(サクラファインテックジャパン)にて脱水脱脂・パラフィン浸透操作を行った後,病変部が最大割面になるように割を入れ,2 mm間隔で切り出し,パラフィン包埋を行った。染色は,ベンタナ HE 600(ロシュ・ダイアグノスティック)によりヘマトキシリン・エオシン染色(hematoxylin-eosin; HE)を行い,一人の病理専門医によって病理診断した。

Figure 1 貼付け方法

(a)CSP切除後トラップに回収された検体。(b)トラップで回収され丸まったままの状態。(c)ねじれや丸まりが無くなるように慎重に検体を伸展させた。(d)伸展後,濾紙に写し取るように貼付けた検体。

4. 検証方法

第9版大腸癌取扱い規約12)に準じ,水平断端に腫瘍の有無が不明なものを水平断端評価不明とし,水平断端に腫瘍を認める,もしくは認めないものを水平断端評価可能と定義した。また,肉眼型は0-Ip・0-Isp・0-Isを隆起型,0-IIaを表面型と定義した。患者背景,内視鏡所見,病理学的診断について診療録をもとに後向きに検討した。

2群間の比較にはFisherの正確検定とMann-Whitney U検定を用い,有意水準はp < 0.05とした。統計解析にはJMP version 11(SAS)を使用した。

III  結果

貼付群で水平断端評価不明であった症例は167検体(35.5%)に対し,既存群では326検体(57.2%)であり,貼付群で有意に水平断端評価可能となった(p < 0.01)(Figure 2)。年齢中央値(四分位範囲,interquartile range; IQR)は貼付群で70歳(65–77),既存群で72歳(66–78)(p = 0.08)であり,男女比は貼付群296:174で,既存群424:146であった。

Figure 2 CSP検体における水平断端評価

貼付群で有意に水平断端評価可能となった(p < 0.01)。

内視鏡診断による病変の大きさの中央値(IQR)は,貼付群4 mm(3–5),既存群4 mm(3–5)であった。また,病変部位(上行結腸/横行結腸/下行結腸/S状結腸/直腸)は貼付群で147/147/62/90/24,既存群で163/203/50/115/39であり,肉眼型(隆起型/表面型)は,貼付群342/128,既存群364/206であった。

また,これらの臨床的特徴における水平断端評価不明率は,年齢,性別,大きさ(1–5 mm),部位(上行結腸,横行結腸,直腸),肉眼型において貼付群で有意に低率であった(p < 0.01)(Table 1)。

Table 1  臨床的特徴における水平断端評価不明率
既存群 貼付群 p
​年齢,n/N(%)
​ 75歳以上 126/237(53) 58/155(37) < 0.01
​ 75歳未満 200/333(60) 109/315(35) < 0.01
​性別,n/N(%)
​ 男性 244/424(58) 102/296(34) < 0.01
​ 女性 82/146(56) 65/174(37) < 0.01
​大きさ,n/N(%)
​ 1–5 305/530(58) 151/427(35) < 0.01
​ 6–10 21/40(53) 16/43(37) 0.19
​部位,n/N(%)
​ 上行結腸 110/163(67) 55/147(37) < 0.01
​ 横行結腸 114/203(56) 46/147(31) < 0.01
​ 下行結腸 19/50(38) 22/62(35) 0.84
​ S状結腸 61/115(53) 39/90(43) 0.20
​ 直腸 22/39(56) 5/24(21) < 0.01
​肉眼型,n/N(%)
​ 隆起型 221/364(61) 127/342(37) < 0.01
​ 表面型 105/206(51) 40/128(31) < 0.01

IV  考察

近年,消化器内視鏡の画質の向上やNBIなどの画像強調観察技術の進歩により10 mm以下の小さな大腸腺腫の発見・治療する機会が増加してきた。そのような小さな大腸ポリープを内視鏡的に切除する方法としてスネアや鉗子を用いて高周波の通電により摘除するEMRやpolypectomyなどの手技が一般的である。最近では通電をすることなく機械的に摘除するCSPの有用性が報告され3)~9),積極的に行われるようになってきた。CSPの利点は従来の通電を行う方法と比べ,短時間で施行できること9),10),術後の腹部症状が少ないこと6),抗血栓薬内服症例でも後出血が少ないこと5),8)があり日本でも広く普及するようになってきた。

一方で,CSPによる切除検体の水平断端評価がしばしば問題とされている。今までの報告によるとCSP検体の40~67%で水平断端評価が不明となると報告されている4),13)。このことは腫瘍遺残の危険性があり慎重な経過観察や追加治療を余儀なくされることとなる。しかし,Matsuuraら13)はCSP切除後の外側をEMRすることでCSP後の遺残の有無を確認したところ,不完全切除は3.9%しかなかったと報告している。また,Kawamuraら10)はCSP後に残存病変確認のため周囲を生検した結果,遺残は1.8%しかなかった。これら両者の報告より,慎重なCSP検体の病理学的な切除断端の評価が必要であることが示唆される。

CSP検体はEMR検体と比べて辺縁が丸まりやすく,そのままホルマリン固定すると切り出し時に腫瘍部と非腫瘍部の粘膜面が肉眼で観察しにくい。大腸ESD/EMRガイドライン11)では適切な病理学的評価のため切除検体を伸展してピンで貼付けることが推奨されているがCSP検体のほとんどが10 mm以下であり,小さいポリープをピンで貼付けることが困難で,さらに粘膜面を損失するため,そのままホルマリン固定されていた。そこでピンを使用することなく検体を伸展しホルマリン固定する方法として,我々は濾紙に貼付けることを考案した。この方法で検体の丸まりをなくすことにより既存群では57.2%であった水平断端評価不明率を35.5%まで改善することができた。しかし,依然として水平断端評価不明となる検体が存在する。これは内視鏡の鉗子チャンネルを通じ吸引によりトラップ内に回収する過程で,検体が損傷した可能性がある。また,CSPは通電による焼灼を行わず,ポリープを機械的に切除するため検体の辺縁を損傷した可能性も考えられる。

サブグループ解析を行った結果,臨床的特徴における水平断端評価不明率は大きさ(6–10 mm)部位(下行結腸,S状結腸)について既存群と貼付群で有意差がみられなかった。大きさが6–10 mmの水平断端評価不明率は既存群で53%,貼付群で37%と貼付群で低率である傾向がみられるものの,少数の検討であり有意差がみられなかった。また,部位について下行結腸は後腹膜に固定されており内視鏡の操作性が安定する一方で,S状結腸は腸間膜を有し可動性に富むため,内視鏡の操作性が安定せず,ポリープ切除が難化する傾向にある。このことによって水平断端評価不明率は下行結腸の既存群で低く,逆にS状結腸の貼付群で高くなった可能性がある。

本研究は濾紙と爪楊枝を用いてホルマリン固定前に十分に検体を伸展させることが重要である。しかし,回収した検体を直接濾紙にのせてしまうと検体の水分が吸収されてしまい,病変を伸展させることが困難となる。そこで濾紙にのせる前に水分を吸収しない定規のようなプラスチック板の上にのせることで検体をきれいに伸展させることができる。伸展させた検体は写し取るように濾紙に貼付けることで伸展した状態でホルマリン固定することができた。

本研究にはいくつかの問題点が存在する。一つはポリープの治療方法の選択は術者の判断に依存している点である。術前診断やポリープの存在部位,内視鏡の操作性などを考慮し総合的に治療方法を判断しており,同じようなポリープであったとしてもこのような条件の違いによってEMRやCSPなどの異なった治療法が選択される可能性がある。もう一つは後向きの非ランダム化研究であることである。そのため,今後我々は前向きランダム化比較試験も検討している。

V  結論

CSP検体を濾紙に伸展し貼付けることで,水平断端評価率を改善することができた。本研究より適切な病理評価のためには切除検体を伸展し固定する重要性が示唆された。

 

本論文の一部は第82回日本消化器内視鏡技師学会(2019年)において口頭発表した。

倫理的配慮/承認番号:当院の倫理委員会において承認を得た(H30-52)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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