医学検査
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症例報告
IgM型Human anti-mouse antibody(HAMA)によりCK-MB蛋白量が異常高値を呈した1例
田中 真輝人梅森 祥央髙橋 祐輔前田 瑛真遠藤 輝夫淺沼 康一髙橋 聡
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2020 年 69 巻 3 号 p. 468-473

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Abstract

クレアチンキナーゼMB分画(creatinine kinase MB; CK-MB)蛋白量が偽高値を呈した1例を,経験した。総クレアチンキナーゼ(creatine kinase; CK)活性が14 U/Lと低値にもかかわらず,CK-MB蛋白量が177.2 ng/mLと高値であった。しかし,同様の心筋傷害マーカーであるトロポニンTはカットオフ値未満であった。本症例のCKアイソザイムおよびCK-MB蛋白量測定における反応タイムコースに,異常はみられなかった。CK-MB蛋白量測定において希釈直線性がなく,IgMが高値であること,加温試験後でもCK-MB蛋白量に変化がなかったことから,IgMによる非特異反応を疑った。そこで,Dithiothreitol処理およびHuman anti-mouse antibody(HAMA)吸収試験を行ったところ,本症例血清の測定値は著明に低下した。以上の結果より,本症例におけるCK-MB蛋白量の異常高値は,IgM型HAMAが原因の非特異反応であることが明らかとなった。

Translated Abstract

We encountered a patient with a false high concentration of creatine kinase-MB (CK-MB) protein. In this patient, despite a low total CK activity of 14 U/L, the CK-MB protein concentration was as high as 177.2 ng/mL. However, the troponin T concentration was lower than the cut-off value. Also, there were no abnormalities in the CK isozyme pattern and reaction time course in this patient as determined by the CK-MB mass assay. Furthermore, no dilution linearity was confirmed. In this patient, the IgM concentration was high and the CK-MB protein concentration did not decrease after the heat inactivation test. In the dithiothreitol treatment and human anti-mouse antibody (HAMA) absorption test, the measured values in this patient’s serum were significantly reduced. In conclusion, the abnormally high CK-MB protein concentration in this patient was revealed to be due to a nonspecific reaction caused by IgM-HAMA.

I  緒言

クレアチンキナーゼ(creatine kinase; CK)は,細胞質において,骨格筋型(Muscle; M)および脳型(Brain; B)のサブユニットからなる2量体として構成され,その組み合わせによりMM,MBおよびBBの3つのアイソザイムが存在する。そのうち,クレアチンキナーゼMB分画(creatinine kinase MB; CK-MB)は心筋特異性が高く,心筋傷害を反映するバイオマーカーとして知られている1),2)。従来,CK-MBの測定は,CK-M活性阻害抗体を用いてCK-MB活性を求める免疫阻害法が主流であったが,CK-BBやマクロCK(免疫グロブリン結合型:Type 1,ミトコンドリアCK:Type 2)の存在下で偽高値となることが問題であった3)。一方,CK-MB蛋白量測定は,CK-MBに対する特異性が高く,近年,抗CK-MBマウスモノクローナル抗体を用いたラテックス免疫比濁法試薬が開発され,当院では2017年5月から院内検査に導入している。しかし,今回,明確な心筋傷害が認められないにもかかわらず,CK-MB蛋白量がカットオフ値を大幅に超える症例に遭遇し,その要因がIgM型human anti-mouse antibody(HAMA)であると解析し得たため報告する。

II  対象と方法

1. 症例

70代,男性。本症例患者は,札幌医科大学附属病院腫瘍血液内科にて悪性リンパ腫のフォロー中であり,これまで明確な心筋傷害のイベントはなかった。フォロー通院時の生化学検査所見を示す(Table 1)。総CK活性が14 U/Lと当院基準範囲(71~220 U/L)下限未満であるにもかかわらず,CK-MB蛋白量がカットオフ値である5 ng/mLを大幅に上回る177.2 ng/mLであった。さらに,確認のため,特異的心筋傷害マーカーであるトロポニンTを測定したところ,カットオフ値0.1 ng/mL未満であり,CK-MB蛋白量の偽高値が疑われた。また,免疫グロブリンの中でも特にIgMが2,696 mg/dLと高値であり,精査の結果,IgM-κ型M蛋白の存在が確認された。

Table 1  Laboratory data of chemistry
Measured value Reference range (our hospital)
​Total protein (g/dL) 8.3 6.5–8.0
​Albumin (g/dL) 1.3 3.7–5.2
​Total bilirubin (mg/dL) 0.6 0.2–1.2
​Direct bilirubin (mg/dL) 0.2 0.0–0.3
Creatine kinase (U/L) 14 71–220
Creatine kinase-MB (ng/mL) 177.2 0.0–4.9
​Aspartate aminotransferase (U/L) 24 11–39
​Alanine aminotransferase (U/L) 25 5–40
​Lactate dehydrogenase (U/L) 93 119–229
​Alkaline phosphatase (U/L) 446 110–370
​Creatinine (mg/dL) 0.98 0.55–1.04
​Uric acid (mg/dL) 3.6 2.5–7.0
​Urea nitrogen (mg/dL) 27 6–20
​Sodium (mEq/L) 136 135–150
​Potassium (mEq/L) 4.2 3.5–5.3
​Chloride (mEq/L) 105 95–108
​Calcium (mg/dL) 7.7 8.4–10.4
​C-reactive protein (mg/dL) 7.88 0.00–0.30
​Immunoglobulin G (mg/dL) 2,408 815–1,800
​Immunoglobulin A (mg/dL) 487 110–390
Immunoglobulin M (mg/dL) 2,696 32–190

2. 測定機器および試薬

CK-MB蛋白量の測定は「LタイプワコーCK-MB mass」(富士フィルム和光純薬株式会社)を用い,「LABOSPECT 008」(株式会社日立ハイテクノロジーズ)にて測定した。CKアイソザイム分析は,「タイタンジェルCK(QG)」および「クイックジェルCK」を用い,「Quick Scan」にて行った(いずれも,株式会社ヘレナ研究所)。その他,精査用試薬として,「(±)-Dithiothreitol」(富士フィルム和光純薬株式会社,以下DTT)と「Immunoglobulin Inhibiting Reagent」(BioIVT社,以下IIR)を使用した。

3. CKアイソザイム分析

添付文書の記載に従い,本症例血清のCKアイソザイム分析を行った。

4. 反応タイムコースの比較

本症例血清と対照血清(本症例血清と同程度のCK-MB蛋白量)のCK-MB蛋白量測定における反応タイムコースを比較した。

5. 希釈直線性の確認

本症例血清をCK-MB蛋白陰性血清で2,4,8倍に希釈後,CK-MB蛋白量を測定し,希釈直線性を確認した。

6. 加温試験

本症例血清と対照血清(本症例血清と同程度のCK-MB蛋白量)を55℃ 4分加温後,それぞれのCK-MB蛋白量を測定した。その後,両者の加温前後の測定値を比較した。

7. DTT処理

本症例血清および対照血清(本症例血清と同程度のCK-MB蛋白量)と0.01 Mに調製したDTTを,7:3の比率で混合し,37℃ 30分間反応させ,13,000 rpm 10分間遠心した上清のCK-MB蛋白量を測定した。その後,測定値に希釈倍率を乗じて,CK-MB蛋白量を算出した(DTT処理)。また,DTTの代わりに生理食塩水を用い同様の操作を行った(DTT未処理)。本症例血清および対照血清のDTT処理後のCK-MB蛋白量を,DTT未処理のそれと比較した4),5)

8. HAMA吸収試験

マウス血清由来のHAMA吸収剤であるIIRを用いて,HAMAの吸収試験を実施した。Phosphate buffered solution(pH 7.4)にて2 mg/mLに調整したIIRを,本症例血清と等量混合し,4℃で1晩放置後,13,000 rpmで5分遠心し,上清中のCK-MB蛋白量を測定した。対照として,IIRの代わりに生理食塩水を用いて同様の操作を行った6)~8)

III  結果

1. CKアイソザイム分析

CK-MM分画が大部分を占め,異常分画像は認められなかった(Figure 1)。

Figure 1 Result of creatine kinase (CK) isozyme pattern and the ratio in this case serum

No abnormal pattern was found.

2. 反応タイムコースの比較

対照血清と比較して,本症例血清の反応タイムコースに問題はなかった(Figure 2)。

Figure 2 Reaction time-course of this case and control serum on creatine kinase-MB (CK-MB) mass assay

There was no problem in the reaction time-course of this case serum.

3. 希釈直線性の確認

本症例血清をCK-MB蛋白陰性血清で2,4,8倍希釈したところ,明らかに希釈直線性を認めなかった(Figure 3)。

Figure 3 Dilution linearity test

There was no dilution linearity.

4. 加温試験

対照血清は加温によりCK-MB蛋白量が大幅に低下した。一方,本症例血清では低下がほぼ認められなかった(Table 2)。

Table 2  The change of creatine kinase-MB (CK-MB) measured value by heat inactivation test
Sample Before heating (ng/mL) After heating (ng/mL)
This case serum 177.2 174.2
Control serum 180.3 20.2

5. DTT処理

本症例血清のCK-MB蛋白量はDTT処理により未処理時の1.0%の値となり,対照血清と比較し著明に低下した(Table 3)。

Table 3  The change of CK-MB measured value by DTT treatment
Sample DTT untreated (ng/mL) DTT treated (ng/mL) DTT treated/untreated ratio (%)
This case serum 40.6 0.4 1.0
Control serum 180.3 176.3 97.8

DTT: Dithiothreitol

6. HAMA吸収試験

IIRによるHAMA吸収後のCK-MB蛋白量は,吸収前の177.2 ng/mLに対して8.4 ng/mLであり,対照の28.2 ng/mLと比較し著明に低下した。

IV  考察

HAMAは,測定系に用いられるマウスモノクローナル抗体に結合し干渉を及ぼす内因性異好抗体として知られている。HAMAは,動物との接触,輸血,臓器移植,妊娠,手術,サプリメントの長期服用,過去のワクチン接種,薬剤投与,感染症,癌の免疫細胞療法など多彩な要因で獲得され,正常人においても数~数10%の頻度で血中に存在する9)。そのため,HAMAによる偽高値あるいは偽低値はしばしば問題となる7),8),10)。今回我々は,マウスモノクローナル抗体を用いたラテックス免疫比濁法試薬「LタイプワコーCK-MB mass」において,CK-MB蛋白量の異常高値を経験し,その原因がIgM型HAMAによる非特異反応であったことを初めて明らかにした。

異常高値を疑う契機は,本症例患者の総CK活性が14 U/Lと基準範囲下限未満であるにもかかわらずCK-MB蛋白量が177.2 ng/mLと大幅に高値を呈したことであった。さらに,カルテにて本症例患者に心筋傷害の既往がないことを確認でき,他の心筋傷害マーカーであるトロポニンTを追加測定したところカットオフ値未満であったことから,CK-MB蛋白量の偽高値を疑った。

酵素項目が偽高値を示す要因の一つに,酵素結合性免疫グロブリンが挙げられ,その存在はCKアイソザイムの異常分画像として反映される11)。そこで,CKアイソザイム分析を実施したが異常分画像はみられず,酵素結合性免疫グロブリンの関与は否定された。また,本症例のCK-MB蛋白量測定における反応タイムコースは比較対照と同様であり,M蛋白やクリオグロブリンなどの異常蛋白の存在時に稀にみられる特異的な反応タイムコース12)はみられなかった。これは,本症例における偽高値の機序として,当該HAMAが検体中のCK-MB蛋白と同様の役割を果たし,第2試薬中のラテックス感作抗体と反応したためと推察される。

一般的に,非特異反応を呈する検体では,希釈により原因物質濃度が減少するため,直線性を認めないことが多い7),8)。そこで,CK-MB蛋白量測定における本検体の直線性を検討したところ,直線性はみられず,非特異反応を呈していることが明らかとなった。また,本症例ではIgMが2,696 mg/dLと高値であったことから,免疫グロブリンによる非特異反応を疑った。熱安定性が不良なCK-MBは加温により容易に変性し測定値が低下する13)が,免疫グロブリンは一般的な血清非働化処理(56℃,30分間)では失活・変性しない。そこで,本血清と対照血清における加温(55℃,4分間)前後のCK-MB蛋白量を調べた。対照では加温後に測定値が著減したのに対し,本症例血清では加温前後の測定値に変動はみられず,免疫グロブリンによる非特異反応が強く示唆された。さらに,本症例で特に高値であったIgMの関与を疑い,IgMを不活化するDTTを用いた精査4),5)を行ったところ,対照ではDTT処理による測定値の変化はなかった。一方,本症例血清では,DTT処理後に測定値が低下したことから,IgMが関与した非特異反応であることが明らかとなった。また,本試薬は測定系に抗CK-MBマウスIgGモノクローナル抗体が採用されていることから,HAMAの吸収剤であるIIRを用いて吸収試験を行った6)~8)。その結果,本血清でのみIIRの添加により測定値が著しく低下した。以上より,本症例血清中のIgM型HAMAが,試薬中の抗CK-MBマウスIgGモノクローナル抗体に結合し,偽高値を引き起こしたことが明らかとなった。

本検討の限界は,検体量不足により,さらなる検討ができなかった点である。本症例患者は,その後1度しか来院していない。今後検体を確保できた際には,既報に従い,当該HAMAが結合するエピトープの解析14),15)や,HPLC法による血清中のCK-MB蛋白と免疫グロブリン分子量分布の確認7),8)を行いたい。

CK-MBの測定法は,従来の免疫阻害法による活性測定から,特異性の高いラテックス免疫比濁法による蛋白量測定に移行しつつある。新規項目や測定法の変更時には,各測定原理に関連した異常反応とその解析法について,改めて理解しなければならない。臨床症状や他の検査値と整合性の無い測定値において,特に本法のような免疫測定法ではHAMAを含めた非特異反応を積極的に疑う必要がある。また,非特異反応が原因の異常値は臨床からの指摘による判明が多いが,本症例では臨床症状や他の検査値から総合的に判断し,検査室側で発見することができた1例であった。

V  結語

本症例におけるCK-MB蛋白量の異常高値は,IgM型HAMAによる非特異反応が原因であった。

 

本研究は当院での臨床研究審査委員会の対象とならないため,臨床研究審査委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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