医学検査
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技術論文
スポットケムFLORA SF-5520を用いた機器判定システムによるインフルエンザ迅速検査の有用性の検討
山口 俊梅橋 功征波野 真伍宮﨑 いずみ原田 美里古野 浩
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2020 年 69 巻 4 号 p. 584-589

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Abstract

インフルエンザウイルス感染症の診断方法として目視判定による迅速診断キットが広く普及しているが,感染初期の偽陰性や人為的ミス等による誤差判定が発生している。本研究では,当院でインフルエンザ迅速検査として新規導入した機器判定の移動式免疫蛍光分析装置スポットケムFLORA SF-5520(スポットケムFLORA),専用試薬のスポットケムFLORA FluABと目視判定を比較し検査室での機器判定の有用性について検討した。当院に所属する17名(平均年齢:33 ± 16歳)の臨床検査技師を対象に実施した。不活化インフルエンザウイルスを用いて,各希釈系列を調整し,検出感度と結果判定のばらつき及び結果に対する自信の有無について比較した。さらに,使用感アンケートを実施した。検出感度はイムノエース16倍,スポットケムFLORAは64倍だった。結果判定のばらつき及び結果に対する自信の有無について比較したところ,スポットケムFLORAは判定に統一性があったのに対し,イムノエースは16倍希釈検体での陽性判定率はA型で23.5%(4/17名),B型では64.7%(11/17名)でばらつきが認められた。使用感アンケートによりスポットケムFLORAは,入力ミスの軽減,オンライン運用の導入で他業務との並行実施,検査の高感度化や判定基準の統一等のメリットが確認された。

Translated Abstract

Rapid diagnostic kits are widely used as diagnostic tools for influenza virus infections, but false negatives are also obtained in the initial stage of infection and because of human errors. The aim of this study was to evaluate the usefulness of SPOTCHEM FLORA SF-5520 (SPOTCHEM FLORA) in the laboratory. The subjects were evaluated by 17 (33 ± 16 years of age) medical technicians of Kagoshima Medical Center. Immunoace FluAB (Towns) was used for visual judgment, and SPOTCHEM FLORA (Arkray) was used for densitometry judgment. Each dilution series was prepared from inactivated virus samples. The detection sensitivity, variation in the result judgment, and responses to the questionnaire were compared. Positive detection was achieved with 16-fold dilution for Immunoace and 64-fold dilution for SPOTCHEM FLORA. SPOTCHEM FLORA showed no variation in the judgment, whereas Immunoace showed positive judgment rates of 23.5% for type A (0% confident) and 64.7% for type B (47.1% confident). The results of analysis of the responses to the questionnaire confirmed the merits of SPOTCHEM FLORA, such as confident judgment, reduction of input errors, and examination in parallel with other work. The introduction of SPOTCHEM FLORA not only increased sensitivity and standardized criteria for influenza tests, but also improved work efficiency, such as parallel execution with other work.

I  序文

インフルエンザは毎年冬場に流行する急性呼吸器感染症である。流行期は,毎年11月下旬から始まり翌年の1~3月頃に患者数が増加する。臨床症状は,A型またはB型インフルエンザウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどの潜伏期間の後に38℃以上の高熱,頭痛,全身倦怠感,筋肉痛・関節痛などが突然現われ,咳,鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き,約1週間の経過で軽快する1)。特に抵抗力の弱い乳幼児や高齢者ではその診断や治療が遅れると重篤な脳症や肺炎を合併するため迅速な診断が必要とされ,このインフルエンザの診断ツールとして迅速診断キットが広く普及している2)。しかし,感染初期ではウイルス量が少なく感度不足による影響が出るため,より高感度な検査が求められる3)。また,結果判定時の誤判定及び結果の転記ミスなど人為的なミスが生じることがある。このことから当院では,移動式免疫蛍光分析装置スポットケムFLORA SF-5520(スポットケムFLORA)及びスポットケムFROLA FluABを導入しインフルエンザ迅速検査を機器判定で行うとともにオンライン化を実施した。スポットケムFLORAは,蛍光寿命が長くウイルスを検出しやすい蛍光波長をもつユーロピウム(Eu)を標識物質として用い,測定時バックグラウンドとなる励起光の影響を最小限に抑えユーロピウムの蛍光のみを測定することで発症初期の段階から高感度検出が可能であるとされている4)。今回我々は,インフルエンザ迅速検査の機器判定の有用性について従来の目視判定による検査法との比較検討を行ったので報告する。

II  対象と方法

1. 使用試薬および機器

検査キットは目視判定としてタウンズのイムノエースFlu(イムノエース),機器判定としてアークレイのスポットケムFLORA,専用試薬としてスポットケムFLORA FluABを用いた。

2. ウイルス抗原

不活化したインフルエンザ抗原は,A抗原Influenza A H1N1pdm(California/07/09)Culture FluidおよびInfluenza A/Kiev/301/94(H3N2)2種類とB抗原Influenza B/Victoria/504/00 1種類で陰性コントロールに生理食塩水を使用した(Table 1)。

Table 1  Influenza antigen used in this study
Type Campany Product name Model number Titer (pfu/mL)
FluA ZeptoMetrix Influenza A H1N1pdm (California/07/09) Culture Fluid 0810165CFHI 3.6.E + 02
Hytest Influenza A/Kiev/301/94 (H3N2) 8IN74-2 1.7.E + 05
FluB Hytest Influenza B/Victoria/504/00 8IN75-3 3.8.E + 06

3. 測定方法

サンプルは,各試薬の抽出液中に50 μL添加後5秒程度混和し,試薬カートリッジに規定量を滴下した。スポットケムFLORA FluABは,スポットケムFLORAに挿入後1.5分~10分で結果判定された。イムノエースは滴下後,最短判定時間である3分と最終判定時間である5分で判定を行った。目視判定時の照度は,957 lx~1,060 lxで行った。

1) 検出感度の比較

インフルエンザ抗原をそれぞれ生理食塩水を用いて1,4,16,64,128倍の希釈系列で作成し検出感度を比較した。各希釈系列における判定は,スポットケムFLORAに挿入後,1.5分~10分で機器判定された結果,イムノエースは滴下後,最終判定時間である5分で目視判定したものを結果とした。なお,検討は2名で行った。

2) 陽性検出までの判定時間の比較

インフルエンザ抗原をそれぞれ生理食塩水を用いて1,4,16,64,128倍の希釈系列で作成し,各希釈系列において陽性と判定されるまでの時間を計測した。スポットケムFLORAは挿入後,機器判定により陽性と判定されるまでの時間,イムノエースにおいては滴下後から目視判定にて陽性ラインを確認できた時間を陽性検出までの時間とした。なお,検討は1名で行った。

3) 判定のばらつきの比較

対象は当院の臨床検査技師17名(平均年齢:33 ± 16歳)で行った。ばらつきの確認には,Influenza A H1N1pdm(Type A),Influenza B/victoria(Type B)の2種類を使用した。検出感度の比較結果を基に4倍及び16倍希釈のサンプルを用いてスポットケムFLORAとイムノエースの判定のばらつきを検討した。判定時間はスポットケムFLORAは挿入後,10分で結果判定された結果,イムノエースは滴下後,3分,5分で結果判定を行った。また,同時に結果判定時における自信の有無をアンケートした。

4) 使用感アンケートの実施

判定のばらつきの比較を行った17名に対して目視判定と機器判定について a.判定に迷うことはあったか b.判定に迷った場合にどのように対処(自分で判定,複数人で判定,時間をおいてから再確認する,再検査する)し結果を報告したか c.インフルエンザ検査にかかる全工程の労力を100%とした場合,各工程(検体採取,検体抽出,検査の時間計測,結果の判定,結果の記載及び報告,その他)にどの程度の労力を要したかを各項目%で回答してもらいアンケートを行った。各項目の17名での平均値をグラフにした。

なお,b.については複数項目選択可能とした。

III  結果

1. 検出感度の比較

イムノエースは,Influenza A H1N1pdm,Influenza A H3N2,Influenza B/victoriaにおいて16倍希釈したサンプルまで陽性検出可能だったが,Influenza A H3N2の16倍希釈したサンプルでは1名が陽性,もう1名は陰性と判定した。それに対してスポットケムFLORAは,64倍希釈したサンプルまで陽性検出が可能であった(Table 2)。

Table 2  Sensitivity of SPOTCHEM FLORA and Immunoace
Influenza antigen Diagnostic kit Dilution factor (fold) Negative
1 4 16 64 128
Influenza A H1N1pdm SPOTCHEM FLORA A+ A+ A+ A+
Immunoace A+ A+ A+
Influenza A H3N2 SPOTCHEM FLORA A+ A+ A+ A+
Immunoace A+ A+ A+/−*
Influenza B/victoria SPOTCHEM FLORA B+ B+ B+ B+
Immunoace B+ B+ B+

* One person is judged as A (+), one person is negative.

2. 陽性検出までの判定時間の比較

インフルエンザ各抗原の1倍希釈サンプルにおいて陽性と判定できるまでの時間は,スポットケムFLORAでは全抗原とも240秒,イムノエースはInfluenza A H1N1pdmで54秒,Influenza A H3N2で61秒,Influenza B/victoriaで47秒でありスポットケムFLORAよりもイムノエースの方が判定時間は短かった。また,その他の希釈倍率ではスポットケムFLORAは最終判定時間の10分で陽性と判定されたのに対しイムノエースでは85秒~300秒で判定可能だった(Figure 1)。

Figure 1 Time required for each kit test show the positive result to each concentrate

3. 判定のばらつきの比較

スポットケムFLORAは4倍希釈及び16倍希釈,Type A,Type Bともに陽性判定率100%であったのに対し,イムノエースは4倍希釈ではType A及びType Bともに陽性判定率100%であったが,16倍希釈はType Aが陽性判定率23.5%(4/17名),Type Bが陽性判定率64.7%(11/17名)と判定結果にばらつきが認められた(Table 3)。また,同時に結果判定時における自信の有無をアンケートしたところ,インフルエンザA抗原,B抗原ともに陽性判定率が100%であった4倍希釈した高濃度のサンプルでは17名全ての検査者が“自信あり(迷い無し)”と結果判定していた。しかし,陽性判定率が23.5%であるインフルエンザA抗原の16倍希釈したサンプルでは,陽性判定者4人中4人とも“自信なし(迷い有り)”で判定していた。陽性判定率が64.7%であるインフルエンザB抗原においても16倍希釈したサンプルでは,陽性判定者11人中8人は“自信あり(迷い無し)”で判定していたが,3人は“自信なし(迷い有り)”で結果判定していた。

Table 3  Agreement rations between visual judgment and densitometry reading
Diagnostic Kit Judgment time Correct answer Type A (n = 17) Type B (n = 17) Negative
4-fold dilution 16-fold dilution 4-fold dilution 16-fold dilution
SPOTCHEM FLORA 10 min Number of legitimate persons 17 17 17 17 17
Positive judgment rate 100% 100% 100% 100% 100%
Immunoace 3 min Number of legitimate persons 17 0 17 1 17
Positive judgment rate 100% 0% 100% 6% 100%
Immunoace 5 min Number of legitimate persons 17 4 17 11 17
Positive judgment rate 100% 23.5% 100% 64.7% 100%

Type A: Influenza A H1N1pdm

Type B: Influenza B/victoria

4. 使用感アンケートの結果

目視判定と機器判定で判定の迷いの有無についてアンケート調査結果は,目視判定では17名中15名が“迷いがある”と回答した。機器判定では17名中1名は“迷いがある”と回答した。次に,目視判定で“迷いがある”と回答した15名に判定に迷った際の対処法を確認したところ12名が“複数人で判定”,4名が“時間をおいてから再確認する”,3名が“再検査する”との回答だった。一方で機器判定で“迷いがある”と回答した1名は対処法として“再検査する”との回答だった。次に,インフルエンザ検査にかかる全工程の労力を100%とした場合,検体採取,検体抽出,検査の時間計測,結果の判定,結果の記載及び報告,その他の項目にどの程度労力を必要としていたかを確認したところ,目視判定時と比較し機器判定導入後は検査の時間計測は20%から13%へ軽減し,結果の判定は25%から8%に労力が軽減した(Figure 2)。

Figure 2 Comparison of examination labor questionnaire study

Assuming that the labor in the all process of influenza test as 100.

IV  考察

インフルエンザ診断において,イムノクロマト法は小型かつ操作が簡易で,短時間での判定が可能であるため臨床現場で広く普及している。しかし,結果判定が目視である為,検出限界付近においてのテストラインの発色が薄く出る傾向があり結果判定に苦慮することがある。インフルエンザウイルスはウイルス量がピークになる48時間前後が最も高熱期であるとされている5)。感染後,爆発的に増殖するインフルエンザウイルスの治療は,発症早期の抗インフルエンザウイルス薬の開始が重要とされている6)。しかし,感染初期の患者においてはインフルエンザウイルスが十分に増殖しておらず,発症から6時間以内における検出感度が問題とされている7)。本研究においてイムノエースとスポットケムFLORAの検出感度を比較した。イムノエースは16倍希釈まで検出できたが,スポットケムFLORAは64倍希釈まで検出が可能でありイムノエースと比較しスポットケムFLORAの方が,検出感度が高かった。したがって,インフルエンザ感染初期の抗原量が比較的少ない時期にスポットケムFROLAは検出可能であることが示唆され,陽性例の見逃しを少なくできると考えられる。また,判定時間の比較においてスポットケムFLORAは1.5分~10分で判定ができる。今回の検討では高濃度は,1倍で5分以内の判定だったが,その他の希釈倍率は最終判定時間の10分での判定だった。一方,イムノエースは3~5分以内で判定ができる。スポットケムFLORAでは4倍希釈以降は陽性判定に10分を要したのに対し,イムノエースは高濃度域では3分で判定ができ,最終判定時間も5分であることからインフルエンザの流行のピーク時で,判定に迅速性が求められる時などは短時間で判定可能なイムノエースの方が効率よく検査できる可能性がある。

次に判定のばらつきについて機器判定であるスポットケムFLORAは判定にばらつきがなかったのに対し,目視判定であるイムノエースは16倍希釈ではType Aで17名中4名,Type Bで17名中11名と陽性判定率にばらつきがみられた。興味深いことに,Type Aにて正答した4名は,全て自信がなく判定しており,Type Bにおいても判定した11名中3名は自信なく判定していた。山口ら8)は目視判定であるイムノクロマト法と機器判定であるBDベリターシステムFluを比較しているが,我々と同様に機器判定は目視判定と比べ感度もさることながら個人差によるばらつきがなかったことを報告している。これらのことより,目視判定は判定の具体的な統一化が難しい。一方でスポットケムFLORAは,機器判定により判定に統一化がなされていると考えられる。

使用感アンケートの結果は,目視判定時と比べスポットケムFLORAは17名中16名で結果判定に迷い無く結果判定が行えていた。一方,目視判定では15名が迷いを生じていた。これらは,スポットケムFLORAにおける機器判定が高感度かつ機器による結果判定によりばらつきが無く,結果判定に統一化がなされ,迷いのない判定が可能になったと考えられる。また,目視判定にて迷いが生じた場合の対処法として12名が複数人で判定,4名が時間をおいてから再確認する,3名が再検査するとの回答であった。目視判定にて迷いが生じた場合,複数人での確認や再検査のため,結果報告時間が遅れる可能性があることが示唆された。一方で,スポットケムFLORAによる機器判定は複数人で確認する必要がないことに加え,1.5~10分での結果報告が可能であり検査の効率化が図れると考えられる。検体採取から結果報告までの労力の比較においてもスポットケムFLORAの機器判定は目視判定と比較し結果判定に用いられる労力も25%から8%と3分の1に軽減しただけでなく,判定時間を計測するための労力も20%から13%とおおよそ半分に軽減した。機器判定であるスポットケムFLORAは時間計測から結果判定までの過程を機器で行えるぶん労力の軽減につながったと考えられる。それに加え当院はスポットケムFLORAと検査システムのオンライン化により測定結果が自動で検査システムへ転送される。これは,結果入力時のストレスや誤入力も改善され,ルーチン帯だけでなく,技師数が少なくなる当直帯においても他の業務と並行して行えることは有用な点であると考える。しかしながら,実臨床への影響は流行状況にも左右されるため今後,臨床検体を用いたPCR法との感度比較も必要であると考えられる。

V  結語

インフルエンザ診断検査においてスポットケムFLORAは,高感度化,結果判定のばらつきの改善及び検査への労力軽減により業務効率の改善に繋がった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
  • 1)  国立感染所研究所情報センター:インフルエンザとは.Retrieved from https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/219-about-flu.html(2019年11月18日アクセス)
  • 2)   徳野  治,他:「各種インフルエンザ迅速診断キットの評価検出感度の比較検討」,感染症誌,2009; 83: 525–533.
  • 3)  三田村 敬子:「インフルエンザ迅速診断キットの有用性と留意点 簡便で有用性が高いが検査には限界があることを認識」,クリニックマガジン,16–17,ドラッグマガジン,東京,2015.
  • 4)   三田村  敬子,他:「ユーロピウム蛍光ラテックスを用いた時間分解蛍光検出法によるインフルエンザウイルス抗原迅速診断システムの性能評価」,医学と薬学,2018; 75: 1097–1103.
  • 5)  加地 正郎:インフルエンザとかぜ症候群,31–35,南山堂,東京,1998.
  • 6)  一般社団法人日本感染症学会:一般社団法人日本感染症学会提言~抗インフルエンザ薬の使用について~.Retrieved from http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/191024_teigen.pdf(2020年2月13日アクセス)
  • 7)  三田村 敬子:「Q2迅速診断キットは発症後12時間以内の感度が低いので,検査まで12時間以上待つべきでしょうか?」インフルエンザ診療ガイド2017–18,181–186,菅谷 憲夫(編),日本医事新報社,東京,2017.
  • 8)   山口  育男,他:「イムノクロマト法インフルエンザウイルス抗原検出キットBDベリターシステムFluにおける機器判定の感度とその目視判定に対する優越性の検討」,日本臨床微生物学誌,2013; 23: 39–44.
 
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