医学検査
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原著
静脈血栓塞栓症患者における血栓検出部位と性状およびD-dimer値の関連
岡村 優樹梅橋 功征宮﨑 いずみ波野 真伍宮﨑 明信古野 浩
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2020 年 69 巻 4 号 p. 539-545

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Abstract

背景:肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism; PTE)と深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)は一連の病態であり,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism; VTE)と総称される。D-dimerと血栓検出部位および血栓性状,PTE発症との関連は報告が少ない。本研究はVTE患者での下肢静脈超音波検査の血栓検出部位および血栓性状,PTE発症とD-dimerの関連について研究した。方法,結果:対象はVTE患者66名(平均年齢71.1 ± 14.6歳,男性31名,女性35名),D-dimerの中央値は8.78 μg/mLであった。D-dimerは血栓検出部位で中枢型は末梢型より有意に高く(12.40 μg/mL vs 4.59 μg/mL, p < 0.01),血栓性状で新鮮血栓は器質化血栓より有意に高かった(13.74 μg/mL vs 4.74 μg/mL, p < 0.01)。ROC解析による新鮮血栓と器質化血栓のD-dimerの最適カットオフ値は8.04 μg/mL,陽性的中率83.3%であった。PTE発症群のD-dimerは非発症群と比較して有意に高く(p = 0.01),PTE発症群と非発症群のD-dimerの最適カットオフ値は8.07 μg/mLであった。結論:VTE患者のD-dimer高値は中枢型かつ新鮮血栓の可能性が高く,PTE発症の可能性が高いことが示唆された。

Translated Abstract

Background—Pulmonary thromboembolism (PTE) and deep vein thrombosis (DVT) are generally associated with VTE. The plasma D-dimer has been used for the exclusive diagnosis of DVT, but little is known about its clinical significance in the association between the site of thrombus detected by lower limb vein sonography and the thrombotic property in VTE patients and PTE onset. Methods and Results—Sixty-six patients with VTE (mean age, 71.1 ± 14.6 years; male, 31; female, 35) were included in this study. The D-dimer level in the VTE patients with the thrombus of the central type was higher than that of the peripheral type (12.40 (7.89–25.30) μg/mL vs 4.59 (2.43–7.58) μg/mL, p < 0.01), and the thrombotic property of the acute thrombus was higher than that of the chronic thrombus (13.74 (8.29–28.05) μg/mL vs 4.74 (3.09–8.40) μg/mL, p < 0.01). Additionally, patients in the PTE group showed higher D-dimer levels than non-PTE group (16.32 (8.53–26.94) μg/mL vs 7.83 (4.10–13.57) μg/mL, p = 0.01). Receiver operating characteristic curve analysis showed that the cut-off of the D-dimer level was 8.04 μg/mL in VTE patients with PTE onset. Conclusion—It is suggested that the high plasma D-dimer level is related to the PTE onset and the high possibility of central type and acute thrombus in patients with VTE.

I  序文

肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism; PTE)と深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)は一連の病態であることから,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism; VTE)と総称される。PTEの90%は,下肢あるいは骨盤内で形成された血栓が塞栓源となり,急性PTEは,新鮮血栓が塞栓子となり肺動脈を閉塞する1),2)。さらに,PTE重症例は膝窩静脈から中枢側に血栓検出が多いとされている2)

下肢静脈超音波検査は,DVTが疑われる患者に対し血栓の検出に有用な検査であり,血栓の範囲および性状が確認できる。D-dimerは血栓形成時に上昇するとされており3),DVTにおいて除外診断に利用されている1),4)。近年,D-dimerが高値なほどPTE発症率も高くなるとの報告がある5)

今回,我々はVTE患者における下肢静脈超音波検査での血栓検出部位および血栓性状,PTE発症とD-dimerの関連について比較検討した。

II  方法

1. 対象

当院にて2013年3月から2017年4月の間に下肢静脈超音波検査にてDVTを検出したVTE患者66名を対象として,PTE発症群と非発症群に分類し,後方視的に検討した。本研究において,下肢静脈超音波検査にて血栓描出が困難な患者,血液検査結果のない患者は対象から除外した。

2. DVT・PTEの診断

DVTの確定診断は,下肢静脈超音波検査において血栓を認めた患者を,循環器医にて診断した。PTEの確定診断は,放射線科医による造影CTにおける肺動脈内造影欠損または肺血流シンチグラフィにおける陰影欠損を読影にて診断した。

3. 下肢静脈超音波検査

下肢静脈超音波検査に使用した機器は,PHILIPS社製「iE-33」,プローブはL11-3(4.0~8.0 MHz)を用いた。血栓の評価は,日本超音波医学会認定超音波検査士2名で,下肢深部静脈血栓症の標準的超音波診断法6)に準じて行った。血栓性状は,内部超音波と輝度により新鮮血栓と器質化血栓に分類した。新鮮血栓は,内部が均一・不均一で,輝度は低輝度~等輝度とした。器質化血栓は,内部が不均一で,輝度は高輝度とした(Figure 1)。

Figure 1 Thrombotic property and echogenicity in the acute period and the chronic period by lower limbs vein sonography

また,肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン1)に基づき,膝窩静脈から中枢側を中枢型,末梢側を末梢型に分類した。

4. 血液検査

血液検査は,下肢静脈超音波検査と同日に採取された検体を用いた。生化学・血球数算定検査の測定機器は,日本電子社製「BM-6050」,シスメックス社製「XN-2000」を使用した。凝固・線溶検査は,3.2%クエン酸ナトリウム加血液を,2,000 g,10分の遠心条件で分離して得られた血漿を用いて測定した。測定機器は,LSIメディエンス社製「STACIA」,測定試薬はD-dimer「エルピアエースD-DダイマーII」,PT「ヒーモスアイエル リコンビプラスチン」を使用した。

5. 統計学的解析

統計解析には統計解析ソフト「EZR(Ver. 1.33)」7)を使用し,2群間の比較にはWilcoxon符号付順位和検定を用いた。ROC解析により,D-dimerの最適カットオフ値および感度,特異度を算出した。危険率5%未満を統計学的有意差とした。

なお,本研究は国立病院機構鹿児島医療センター倫理審査委員会の承認を得て行った(No.29-11)。

III  結果

1. 患者背景

対象患者の患者背景を示す(Table 1)。VTE患者66名中,がん患者は12名,1名は腹部大動脈瘤の患者であった。対象患者の平均年齢は71.1 ± 14.6歳,女性35名,D-dimer(中央値)は8.78(4.59–18.24)μg/mLであった。

Table 1  Patient Characteristics
Gender (M/F) 31/35
Age (yrs) 71.1 ± 14.6
BMI 22.35 (20.57–24.62)
AST (U/L) 22.0 (19.0–27.0)
ALT (U/L) 17.0 (13.0–24.0)
CRP (mg/dL) 0.94 (0.27–2.21)
WBC (×109/L) 68.85 (52.92–82.40)
PT (sec) 12.15 (11.60–13.50)
PT% (%) 99.45 (85.65–108.70)
PT-INR 1.00 (0.96–1.01)
D-dimer (μg/mL) 8.78 (4.59–18.24)
Part of onset, n (%)
 right leg 20 (30)
 left leg 26 (39)
 bilateral 19 (29)
cancer, n (%) 12 (18)
AAA, n (%) 1 (2)

Value are Mean ± SD , Median (25th–75th) and frequency (percentages).

BMI; Body Mass Index. AAA; abdominal aortic aneurysm.

2. VTE患者の下肢静脈超音波検査における血栓検出部位と血栓性状

VTE患者における血栓検出部位と血栓性状の比較を示す(Figure 2)。末梢型は71%が器質化血栓であったのに対し,中枢型は新鮮血栓の割合が84%と高かった。さらに,PTE発症群と非発症群での血栓検出部位と血栓性状の比較では,PTE発症群は非発症群と比較して血栓検出部位は中枢型の割合が高く,血栓性状は新鮮血栓の割合が79%と高かった(Figure 3)。

Figure 2 Comparison with frequency of occurrence and thrombotic property in patients with VTE by lower limbs vein sonography
Figure 3 Comparison with frequency of occurrence and property of thrombus in patients with PTE and non-PTE by lower limbs vein sonography

(A) The detection part of thrombus, (B) the property of thrombus.

3. 下肢静脈超音波検査所見とD-dimer

血栓検出部位と血栓性状のD-dimerを比較した(Table 2)。D-dimerは中枢型および新鮮血栓において有意に高かった(p < 0.01)。さらに,血栓検出部位および血栓性状でD-dimerに差があるか確認するため,VTE患者のD-dimerの四分位範囲と血栓検出部位と血栓性状を比較した(Figure 4)。D-dimerが高値になるほど,中枢型の検出割合が増加し,新鮮血栓の割合も増加する傾向にあった。

Table 2  Comparison of D-dimer value with frequency of occurrence and thrombotic property in patients with VTE
central type peripheral type p-value acute thrombus chronic thrombus p-value
D-dimer (μg/mL) 12.40 (7.89–25.30) 4.59 (2.43–7.58) < 0.01 13.74 (8.29–28.0) 4.74 (3.09–8.40) < 0.01

Value are Median (25th–75th).

VTE; venous thromboembolism.

Figure 4 Quartile range of D-dimer

(A) The detection part ratio of thrombus, (B) the property ratio of thrombus.

4. PTE発症群とD-dimer

各検査項目をPTE発症群と非発症群で比較した(Table 3)。対象患者66名中,PTE発症群は19名だった。PTE発症群は非発症群と比較して,D-dimerは有意に高値であり(16.32 vs 7.83 μg/mL, p = 0.01),浮遊血栓の検出も多かった。さらに,PTE発症群におけるD-dimerとの関連を確認するため,D-dimerの四分位範囲とPTE発生数を比較した(Figure 5)。D-dimerが高値になるほど,PTE発生数も増加傾向にあった。

Table 3  Comparison with PTE group and non-PTE group in patients with VTE
PTE group (n = 19) non-PTE group (n = 47) p-value
​Gender (M/F) 10/9 21/26 0.476
​Age (yrs) 70.5 ± 13.7 71.1 ± 15.0 0.457
​BMI 22.70 (21.15–24.35) 22.20 (20.45–24.75) 0.527
​AST (U/L) 25.0 (21.0–27.0) 21.0 (19.0–27.0) 0.542
​ALT (U/L) 14.0 (12.5–16.5) 18.0 (15.0–26.5) 0.04
​CRP (mg/dL) 1.96 (0.59–4.35) 0.68 (0.25–2.02) 0.07
​WBC (×109/L) 87.60 (76.06–110.70) 58.40 (50.35–73.65) < 0.01
​PT (sec) 12.50 (11.15–13.65) 12.0 (10.20–13.15) 0.761
​PT% (%) 98.70 (84.50–109.60) 100.2 (86.70–108.40) 0.657
​PT-INR 1.01 (0.95–1.08) 1.00 (0.96–1.08) 0.643
​D-dimer (μg/mL) 16.32 (8.53–26.94) 7.83 (4.10–13.57) 0.01
​Thrombotic property echogenicity, n (%)
​ Free float 5 (26) 2 (4)
​Part of onset, n (%)
​ right leg 8 (42) 12 (26)
​ left leg 8 (42) 19 (40)
​ bilateral 3 (16) 16 (34)
​cancer, n (%) 5 (26) 7 (15)
​AAA, n (%) 1 (5) 0 (0)

Value are Mean ± SD , Median (25th–75th) and frequency (percentages).

PTE; Pulmonary thromboembolism. BMI; Body Mass Index. AAA; abdominal aortic aneurysm.

Figure 5 Quartile range and PTE incidence rate of D-dimer

5. D-dimerの新鮮血栓と器質化血栓およびPTE発症群と非発症群の最適カットオフ値の検討

D-dimerにおける新鮮血栓と器質化血栓のROC解析結果を図に示す(Figure 6A)。ROC曲線から得られたD-dimerの最適カットオフ値は,8.04 μg/mL,AUC 0.806(95%CI 0.702–0.911),感度73.1%,特異度77.5%,陽性的中率(positive predictive value; PPV)83.3%,陰性的中率(negative predictive value; NPV)68.0%であった。D-dimerにおけるPTE発症群と非発症群のROC解析結果を図に示す(Figure 6B)。ROC曲線から得られたD-dimerの最適カットオフ値は,8.07 μg/mL,AUC 0.695(95%CI 0.554–0.837),感度84.2%,特異度53.2%,PPV 81.3%,NPV 33.3%であった。

Figure 6 Receiver-operating characteristics (ROC) curve of calculation of optimal cut-off value of D-dimer in VTE patients

(A) The acute thrombus, (B) The PTE onset.

IV  考察

本研究ではVTE患者における血栓検出部位および血栓性状,PTE発症とD-dimerの関連について以下のことがわかった。①下肢静脈超音波検査において,末梢型に器質化血栓が多く,中枢型に新鮮血栓が多かった。②下肢静脈超音波検査でPTE発症群の血栓検出部位は中枢側に多く,新鮮血栓の割合が高かった。③下肢静脈超音波検査とD-dimerにおいては,D-dimerが高値なほど中枢型かつ,新鮮血栓が有意に多く,PTE発症も有意に多かった。

本研究において,VTE患者における下肢静脈超音波検査では,末梢型に器質化血栓が多く,中枢型に新鮮血栓が多かった。血栓の成因としてVirchowの三徴があり,血流の停滞,血管内皮障害,血液凝固亢進が挙げられる1)。末梢側における血栓は,運動制限や長期臥床により発生する1)。本研究の対象患者の平均年齢は71.1 ± 14.6歳と高齢であり,下肢筋力低下および運動量低下も考えられる。また,下腿部静脈は大腿部に比べ求心性側副血行路が発達しやすいため,筋ポンプ作用の低下や解剖学的特徴から血栓の長期停滞を生じ,器質化する傾向にあったと推測される。中枢側における血栓は,末梢側血栓の中枢進展,あるいは内膜肥厚により静脈還流障害を生じるMay-Thurner症候群や静脈圧迫によるうっ滞により形成されると知られている1),8)。中枢側は,末梢側に比較して筋ポンプ作用に乏しいため,静脈灌流障害やうっ滞は急激な血栓形成に繋がると推測される。よって,末梢側では器質化血栓の検出が多く,中枢側では新鮮血栓の検出が多かったと考えられる。

下肢静脈超音波検査でPTE発症群は,中枢側での血栓検出が多く,新鮮血栓の割合が高かった。以前の報告よりPTEの発症は中枢型DVTの割合が高いことが知られており9),10),我々の以前の研究においても,PTE発症群は中枢側でのDVT検出が多く,新鮮血栓が多かった11)。また,本研究においてPTE発症群は非発症群と比較して,浮遊血栓の検出率が6倍と高かった。Berryら12)の報告によると,浮遊血栓は腸骨大腿静脈に多く,急性DVTの約10~20%に認めるとされている。新鮮血栓は静脈壁に固着されていないことから,新鮮血栓辺縁に生じる還流血流によって浮遊血栓が遊離しやすい状態となる。さらに,骨盤内静脈には静脈弁が存在しない。したがって,中枢側における新鮮血栓の存在は,PTE発症率を上昇させる要因であると考えられる。

本研究では,下肢静脈超音波検査とD-dimerにおいて,D-dimerが高値なほど中枢型かつ,新鮮血栓が有意に多く,PTE発症も有意に多かった。D-dimerの増加は血栓形成の結果と二次線溶を反映している3)。中枢側での血栓形成の促進は静脈径が拡張しやすく11),13),血栓量の多い広範囲な血栓形成を生じる。そのため,線溶系が亢進状態となり,D-dimerはより高値を呈すると考えられる。末梢型に多い器質化血栓は,赤血球やフィブリンが消失しているため,二次線溶が亢進しにくく,D-dimerが低値を示したと考えられる。よって,D-dimerは血栓検出部位と血栓性状を反映する可能性が高いと考えられる。

ROC解析による新鮮血栓と器質化血栓 のD-dimerの最適カットオフ値は8.04 μg/mLとなった。D-dimerによるVTE検出の検討はいくつか報告がある。阿部ら14)の報告によると,VTEのカットオフ値としてD-dimer ≥ 3.0 μg/mLとの報告がある。この報告ではVTEの検出を重要視しており,感度91.7%でVTEを検出できるとしている。一方で,VTE患者における血栓検出部位や血栓性状でのD-dimerの検討は少ない。今回の我々の研究結果から,D-dimerはVTE検出だけでなく,血栓性状などの予測にも有用であることが示唆された。実際に,VTE患者に対し,本研究で求めたカットオフ値でみると,PPVは83.3%と高かった。PPVは発症リスクを示すため,VTE患者におけるPTE発症リスクとなる血栓の新鮮度検出を鋭敏に捉えられる可能性が示唆された。また,PTE発症群と非発症群のD-dimerの最適カットオフ値は8.07 μg/mLとなった。実際に,D-dimer 8.07 μg/mL以上では,70%以上PTEを発症している。Tickらは5),D-dimerの上昇がPTEの可能性を高めると報告している。我々の結果でも同様にD-dimerが高値になるほど,PTE発症が増加しており,D-dimerはPTE発症と関連することを示した。

本研究において,D-dimerの上昇は,VTE患者における下肢静脈超音波検査での血栓検出部位および血栓性状を反映しており,VTE患者でのPTE発症リスクを予測していることが示唆された。

V  結語

VTE患者においてD-dimer高値は中枢型かつ新鮮血栓である可能性が高く,PTEを発症する可能性が高いことが示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
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