医学検査
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症例報告
腕頭動脈,右鎖骨下動脈に認めた可動性プラークの1例
宮元 祥平平井 裕加石田 真依上田 彩未青地 千亜紀清遠 由美谷内 亮水
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2021 年 70 巻 1 号 p. 160-166

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Abstract

症例は70歳代,男性。ふらつきと頭重感を認め,近医を受診され,頸動脈エコーで右鎖骨下動脈に可動性プラークを指摘され,当院に紹介となった。心電図は洞調律で,ホルター心電図でも心房細動は指摘されず,経胸壁心エコー図検査でも心臓内に血栓や疣腫を疑う異常構造物は指摘できなかった。頸動脈エコーでは前医の指摘どおり,右鎖骨下動脈起始部に可動性プラークを認めたが,さらに中枢側を観察したところ,腕頭動脈にも可動性プラークを認めた。造影CTでは腕頭動脈から右鎖骨下動脈内に石灰化を認め,右鎖骨下動脈は狭小化していたが,可動性プラークは評価できなかった。可動性プラークはまれな病態であり,腕頭動脈や鎖骨下動脈内に可動性プラークを認めた報告はきわめてまれである。本症例は超音波検査にて注意深く観察したところ,腕頭動脈と右鎖骨下動脈内に可動性プラークを検出することができた。超音波検査は簡便で,非侵襲的に血管内プラークの有無や性状,可動性の評価が可能である。腕頭動脈や右鎖骨下動脈は超音波検査でも十分に観察できることが多く,これらの血管の評価に超音波検査が有用であった。一般的にCTやMRIでは可動性病変を検出することが困難であり,可動性プラークの評価にはリアルタイムでプラークの観察ができる超音波検査が最も有用であると思われた。

Translated Abstract

The patient was a male in his 70s. He felt lightheadedness and heaviness in the head. A mobile plaque was found in the right subclavian artery in a previous hospital, and he was referred to our hospital. Electrocardiogram (ECG) revealed a sinus rhythm, Holter ECG did not indicate atrial fibrillation, and transthoracic echocardiography did not indicate any abnormal structures in the heart that could be suspected of thrombus or vegetation. Carotid echo showed a mobile plaque at the origin of the right subclavian artery, as pointed out by his previous physician, but further observation of the central side revealed a mobile plaque in the brachiocephalic artery. Contrast-enhanced CT showed calcification from the brachiocephalic artery to the right subclavian artery, and the latter was narrowed, but the mobile plaque could not be evaluated. Mobile plaque is a rare condition, and there have been very few reports on mobile plaques in the brachiocephalic or subclavian arteries. In this patient, a careful observation by ultrasonography showed that mobile plaques could be detected in the brachiocephalic artery and right subclavian artery. Ultrasonography is simple and noninvasive and can be used to evaluate the presence, properties, and mobility of intravascular plaques. The brachiocephalic artery and right subclavian artery can often be adequately observed and evaluated by ultrasonography. In general, mobile lesions are difficult to detect by CT or MRI; however, ultrasonography enables the real-time observation of plaques and appears to be the most useful for evaluating mobile plaques.

I  はじめに

脳梗塞の原因のひとつに可動性プラークがあるが,比較的まれな病態である。可動性プラークは頸動脈分岐部に好発するといわれており,頸動脈内の可動性プラークの報告が散見されているが,腕頭動脈や鎖骨下動脈内に認めた症例はまれである1)~4)。今回,腕頭動脈,右鎖骨下動脈内に可動性プラークを認め,評価に超音波検査が有用であった症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

II  症例

患者:70歳代,男性。

既往歴:高血圧,一過性脳虚血発作(transient ischemic attack; TIA)を数年間にわたり5~6回程度認めた。

現病歴:ふらつきと頭重感を認め,近医を受診された。頭部MRIでは異常はなかったが,頸動脈エコーで右鎖骨下動脈に可動性プラークを指摘され,CTで右鎖骨下動脈に狭窄を認めたため,精査加療のため当院心臓血管外科に紹介となった。

生活歴:喫煙はなく,ビール700 mL,焼酎2合を毎日摂取。

来院時現症:血圧130/72 mmHg,脈拍108回/分,両上肢の橈骨動脈,上腕動脈は触知良好。

血液検査:中性脂肪は213 mg/dLと高値であったが,その他明らかな異常所見はなかった。

12誘導心電図:洞調律で心拍数は99回/分,電気軸は52°で正常軸,ホルター心電図でも心房細動は指摘されなかった(Figure 1)。

Figure 1 12誘導心電図波形

洞調律で,明らかな心房細動は指摘されなかった。

足関節上腕血圧比(ankle brachial index; ABI):右上肢の血圧が138/88 mmHg,左上肢の血圧が148/86 mmHgと左右差を認め,右上肢の波形は左上肢と比べ,緩やかな立ち上がりであった(Figure 2)。また,ABIは両側ともに正常範囲内であった。

Figure 2 ABI波形

上肢の血圧に左右差を認め,右上肢の波形は左上肢と比べ,緩やかな立ち上がりであった。

心エコー図検査:明らかな壁運動異常や弁膜症はなく,心臓内に血栓や疣腫を疑う異常構造物は指摘できなかった。

頸動脈エコー:前医の指摘通り,右鎖骨下動脈起始部に可動性プラークを認めた(Figure 3)。さらに中枢側を観察したところ,腕頭動脈にも可動性プラークを認めた(Figure 4, Movie 1)。いずれの可動性プラークも高輝度で,有茎性であった。また,腕頭動脈から右鎖骨下動脈にかけて高輝度プラークを認め,カラードプラ法では右鎖骨下動脈起始部にモザイクシグナルを認め,最大流速は2.7 m/secと上昇し,狭窄が疑われた(Figure 5)。続けて頸動脈を観察したところ,左右に高輝度プラークを認めたが,有意な狭窄は指摘できなかった。両側椎骨動脈の血流は順行性であったが,右椎骨動脈の血流波形は2相性で,左椎骨動脈と比べ最大流速は低下していた(Figure 6)。

Figure 3 右鎖骨下動脈エコー画像

右鎖骨下動脈内に可動性プラーク(矢印)を認めた(BCA:腕頭動脈,SCA:鎖骨下動脈,CCA:総頸動脈)。

Figure 4 腕頭動脈エコー画像とシェーマ画像

腕頭動脈内にも可動性プラーク(矢印)を認めた(A~G:エコー画像,H:画像D~Gのシェーマ画像)。

II Movie 1 腕頭動脈,右鎖骨下動脈エコー画像

腕頭動脈と右鎖骨下動脈に可動性プラークを認めた。

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Figure 5 腕頭動脈,右鎖骨下動脈エコー画像

カラードプラ法では右鎖骨下動脈起始部にモザイクシグナル(A)を認め,最大流速は2.7 m/secと上昇していた(B)。

Figure 6 椎骨動脈血流波形

両側椎骨動脈の血流は順行性,右椎骨動脈の血流波形(A)は2相性で,左椎骨動脈(B)と比べ最大流速は低下していた。

造影CT:腕頭動脈から右鎖骨下動脈内に石灰化を認め,右鎖骨下動脈は狭小化していた(Figure 7)。

Figure 7 造影CT画像

腕頭動脈(A, B)から右鎖骨下動脈(C, D)内に石灰化(矢印)を認め,右鎖骨下動脈は狭小化していた。

頭部MRI:脳内に明らかな梗塞巣はなく,脳動脈に狭窄や動脈瘤は指摘されなかった(Figure 8)。

Figure 8 頭部MRI画像

脳内に明らかな梗塞巣はなく,脳動脈に狭窄や動脈瘤は指摘されなかった。

検査の結果,腕頭動脈,右鎖骨下動脈可動性プラークと診断され,約1か月後に再検査したが,著変はなかった。外科的治療も検討されたが,内科的治療を希望されたため,現在他院にて経過観察中である。

III  考察

可動性プラークはまれな病態であり,脳梗塞症例における検出率は0.4~1.5%といわれている5),6)。可動性プラークが生じる原因として,もともと血管壁に存在する動脈硬化性病変が自壊し,そこに血栓が形成されて可動性が生じる場合と,中枢側から遊離した血栓が付着して可動性をきたす場合があると推察されている4),7)。本症例は経食道心エコー図検査を実施していないが,心房細動はなく,経胸壁心エコー図検査で明らかな異常構造物は指摘されず,中枢側から遊離した血栓が腕頭動脈や右鎖骨下動脈に付着した可能性は低いと考えた。腕頭動脈や鎖骨下動脈病変のなかで可動性プラークを認めた報告はきわめてまれで,なかには腕頭動脈瘤内に可動性血栓を認めた症例や,上行大動脈から腕頭動脈起始部に連続する粥腫の一部に可動性を認めた症例などの報告もある3),4),8)~10)。森らは腕頭動脈内の血栓やプラークによる脳塞栓症の頻度は不明ではあるが,大動脈弓部や頸動脈の可動性病変による脳塞栓症の報告が散見されていることから,腕頭動脈の可動性病変が塞栓源となる症例も少なからずあると推定している3)。本症例は過去にTIAを数回繰り返しており,腕頭動脈,右鎖骨下動脈の可動性プラークがTIAを引き起こした可能性が高いと考えた。腕頭動脈の可動性プラークの報告は少ないが,実際には腕頭動脈や鎖骨下動脈を観察しておらず,プラークの検出ができていないといった症例もあるのかもしれない。今回のようにTIAを繰り返す症例には,総頸動脈より中枢側にも塞栓源があると推測し,エコーにて鎖骨下動脈や腕頭動脈も評価する必要があると思われた。TIAを繰り返す症例で経頭蓋エコーを行うと,微小栓子シグナル(microembolic signal; MES)を検出することがある11)。MESが存在すると脳梗塞の危険性が高まり,TIAや脳梗塞発症直後ほどMES検出の頻度は高く,本症例もエコーを行っていればMESを検出できていた可能性がある12),13)。Markusら14)はMES陽性が脳梗塞再発の予測因子になると報告しており,今後は脳梗塞やTIA症例において経頭蓋エコーでのMES検出の重要性が増していくと思われる。

今回,頸動脈エコーにて右鎖骨下動脈起始部に可動性プラークを検出したが,中枢側を注意深く観察したところ,腕頭動脈にも可動性プラークを検出することができた。腕頭動脈や鎖骨下動脈の評価には超音波検査,造影CT,MRI,血管造影検査(digital subtraction angiography; DSA)など種々のモダリティがある。造影CTは短時間で血管全体の評価が可能で,血管の走行が理解しやすく,術前,術後の評価に用いられることが多い。しかし,被曝や腎機能が低下している患者には,造影剤を使用できないといった問題点も生じる。MRIでは被曝はないが,撮像時間が長く,安静が保てない患者においては,体動によるアーチファクトの影響が避けがたく,正確な評価ができない場合がある。また,ペースメーカーを装着している患者は検査ができないこともある。DSAは侵襲的で,被曝し,造影剤を使用するため,ルーチン検査には現実的ではない。超音波検査は簡便で,非侵襲的に血管内プラークの有無や性状を観察することができる。また,カラードプラ法やパルスドプラ法を用いて,任意に血流方向や流速,狭窄や閉塞の評価が可能である。腕頭動脈と右鎖骨下動脈は超音波検査でも十分に観察できることが多く,これらの血管内の評価に超音波検査が有用であった。また,一般的にCTやMRIでは動脈硬化の有無や狭窄の程度は評価できたとしても,可動性病変を検出することが困難である。可動性プラークの評価にはリアルタイムでプラークの観察ができる超音波検査が最も有用であると思われた。

IV  結語

きわめてまれな腕頭動脈,右鎖骨下動脈可動性プラークの1例を経験した。腕頭動脈,右鎖骨下動脈の評価に超音波検査が有用であり,なかでも可動性プラークの評価には超音波検査の有用性は高い。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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