医学検査
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原著
肺炎予防を目的としたin vitroにおける洗口剤有効成分の効果検討
刈田 綾美眞野 容子神作 一実古谷 信彦
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2021 年 70 巻 1 号 p. 32-39

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Abstract

洗口剤を使用した口腔ケアにより,肺炎の発症リスクが低下したとの報告が海外で為されている。しかし,洗口剤は主に口腔疾患予防を目的としており,肺炎予防を目的としていないため,洗口剤の一部有効成分は既報の有効濃度よりも,日本における上限濃度は低くなっている。本研究では,洗口剤で使用されるさまざまな有効成分が肺炎を引き起こす病原体に対して十分な殺菌効果を提供できるかどうかを調査した。実験は欧州標準規格EN 1040に軽微な変更を加えて実施した。グルコン酸クロルヘキシジン(CHG),塩化セチルピリジニウム(CPC),及び1,8-シネオールを用い洗口剤で一般的に用いられる濃度を中心に調整した。各菌を18時間培養後,菌懸濁液を収集,PBSで洗浄し,細菌濃度を108 CFU/mLに調整,OD 660 nmで標準化した。菌懸濁液を洗口剤有効成分と10,20,30,および60秒間反応させた後,中和および希釈した各混合物を寒天プレートに広げ,35℃で18時間培養し,菌数算定を実施した。本研究の結果,洗口剤に用いられる濃度では,CPCは肺炎起炎菌に効果的であり,洗口剤で用いられるよりも低濃度で十分な殺菌効果を発揮することが明らかとなった。CHGは,いくつかの肺炎起炎菌に対して効果的であり,既報濃度(0.12–0.20%)よりも低濃度において有効であることが判明した。

Translated Abstract

It has been reported overseas that oral care using mouthwash reduces the risk of developing pneumonia. However, the concentrations of some active ingredients in mouthwashes in Japan are lower than those reported overseas owing to Japanese regulations, because mouthwashes are primarily intended to prevent oral diseases and not to protect against pneumonia-causing pathogens. In this study, we determined whether the different active ingredients used in mouthwashes could have a sufficient bactericidal effect against pneumonia-causing pathogens. The experiments were performed with slight modifications of the European standard EN 1040. Chlorhexidine gluconate (CHG), cetylpyridinium chloride (CPC), and 1,8-cineole were adjusted to concentrations commonly found in commercially available mouthwashes in Japan. After each bacterial pathogen was cultured for 18 h in suspensions, bacterial cells were harvested and washed with PBS. Subsequently, the bacterial cell concentrations were adjusted to 108 CFU/mL and standardized at OD 660 nm. The bacterial cell suspensions were then reacted with mouthwash ingredients for 10, 20, 30, and 60 s. Thereafter, each neutralized and diluted mixture was spread onto an agar plate and incubated for 18 h at 35°C. Later, the number of bacterial cells was counted. At the concentration used in mouthwashes, CPC was effective against pneumonia-causing pathogens. Furthermore, it was found that CPC exerted sufficient bactericidal effect at concentrations lower than that used in mouthwash. CHG was effective against some pneumonia-causing pathogens. It was also found to be effective even at concentrations lower than the previously reported concentrations (0.12–0.20%).

I  緒言

肺炎は日本国内における総死因の第5位であり,特に85歳以上の高齢者(5歳階級)においては概ね三大死因の一つに数えられる1)。したがって,高齢化社会を迎える日本において,肺炎予防は大きな課題の一つと考えられる。現在,医療介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia; NHCAP)を始め,誤嚥性肺炎,さらには人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia; VAP)予防策としても口腔ケアの重要性が唱えられており2),実際に歯科医師,歯科衛生士らが専門器具を用いた口腔ケアを行った介入研究では,肺炎発症数及び死亡者数が減少したという報告が為されている3),4)。一方で,費用面を始めとする理由から,全ての医療・介護施設で専門的口腔ケアを導入することは難しいとも考えられている。

昨今,洗口剤を始めとする口腔ケア剤を用いた口腔ケアは,安価かつ簡便な点から,人手不足が問題となる医療現場においても導入しやすい口腔ケア法と考えられている。実際,国内看護師へのアンケート調査において,薬液・洗口剤を用いた口腔ケアを実施しているとの回答は約9割に,「必要である」との認識を示した回答者の割合は8割以上に及んだ5)。また,米国医療改善研究所(Institute for Healthcare Improvement; IHI)が発表した「人工呼吸器バンドル」において,口腔ケア剤有効成分として頻用されるクロルヘキシジン(0.12%)を用いた毎日の口腔ケア実施が提唱されている6)

しかしながら,「洗口剤」と言えども,国内流通品では各製品によって有効成分,及びその濃度が異なる。加えて,洗口剤は手軽に利用できる反面,利用者が各企業の推奨含嗽時間を守らずに使用する危うさを抱えている。また,口腔ケア剤有効成分の多くは粘膜適用可能濃度まで薄めた消毒薬であり,消毒薬はその効力・抵抗性が菌種に依存することが報告されている7)。口腔ケア剤本来の用途はあくまで虫歯や歯周病といった口腔疾患予防であり,肺炎起炎菌に対してはその効果が言及されていない。そこで本研究では,各種洗口剤に用いられる低濃度においても洗口剤有効成分が肺炎起炎菌に有効か,及び,有効成分,曝露時間の差異によりその効果に大きな差が認められるかを検討した。

II  対象と方法

1. 使用菌株と培養条件

本研究では既報に基づき8),9),誤嚥性肺炎,及びNHCAPとして検出頻度の高いStreptococcus pneumoniaeS. pneumoniae, BGU1),methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA, M21),Pseudomonas aeruginosaP. aeruginosa, S1),Klebsiella pneumoniaeK. pneumoniae, K9),Haemophilus influenzaeH. influenzae, BGUP1)の以上5菌種の喀痰由来臨床分離株を用いた。S. pneumoniaeはブレインハートインヒュージョン寒天培地(brain heart infusion agar; BHIA,日水製薬,東京)にて炭酸ガス条件下,35℃,18時間培養を行った後,実験に用いた。MRSA,P. aeruginosaK. pneumoniaeはミュラーヒントン寒天培地(Muller-Hinton Agar; MHA,日本ベクトンディッキンソン,東京)にて好気条件下,35℃,18時間培養を行った後,実験に用いた。H. influenzaeは5%ウマ溶血液添加MHA(以下チョコレート寒天培地)にて炭酸ガス条件下,35℃,18時間培養を行った後,実験に用いた。

2. 使用薬剤

口腔ケア剤有効成分として,一般製品に頻用されるグルコン酸クロルヘキシジン(chlorhexidine gluconate; CHG,20%グルコン酸クロルヘキシジン溶液,富士フィルム和光純薬株式会社,大阪),塩化セチルピリジニウム(cetylpyridinium chloride; CPC,1-ヘキサデカンピリジニウムクロリド,富士フィルム和光純薬株式会社,大阪)及び1,8-シネオール(富士フィルム和光純薬株式会社,大阪)を用いた。尚,薬液濃度は国内流通製品に用いられる設定濃度10)(0.01% CHG,0.004% CPC,0.1% 1,8-シネオール)に加え,CHGにおいては粘膜使用時における国内上限濃度(0.05%)についても検討を行った。

3. 短時間殺菌効果の検討

European Standard EN 104011)に軽微な変更を加えて実施した。前培養したS. pneumoniaeをブレインハートインヒュージョンブロス(Brain Heart Infusion Broth; BHIB,日水製薬,東京)5 mLに接種し,炭酸ガス条件下にて18時間増菌培養を行った。MRSA,P. aeruginosaK. pneumoniaeはミュラーヒントンブロス(Muller-Hinton Broth; MHB,BD,東京)5 mLに各々接種し,好気条件下にて18時間増菌培養を行った。H. influenzaeは直接懸濁法にて菌液を調整するため,チョコレート寒天培地にて炭酸ガス条件下,18時間純培養を行った。増菌培養後,3,000 rpm/5分条件下で菌を遠心分離した後,滅菌リン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline; PBS)を用いて3回洗浄した。純培養したH. influenzaeはPBSにて菌懸濁液を作製した後,同様の条件で洗浄を行った。洗浄後,Thermo ScientificTM MultislkanTM FC(池田理化,東京)を用い,660 nmの波長(OD 660)にて菌液を1–1.5 × 108 CFU/mL相当に調整した。試験菌懸濁液(100 μL)を,薬液(900 μL)添加チューブに加え,ボルテックスミキサーを用いて混和した。10,20,30及び60秒間反応させた後,反応液(10 μL)を中和剤[10% Tween80 (v/v), 3% Lecithin (w/v), 0.5% Sodium thiosulfate, PBS (pH 7.4)]12)(90 μL)と混和した。中和処理後の反応液をPBSを用いて希釈した後,希釈後検体各10 μLを,S. pneumoniaeはBHIAに,MRSA,P. aeruginosa及びK. pneumoniaeはMHAに,H. influenzaeはチョコレート寒天培地に滴下し,コンラージ棒を用いて塗抹した。18時間培養後発育が認められた場合,薬液処理後に発育した菌数をカウントし,PBS処理後(Control)に発育した菌数で除算することで洗口剤有効成分の有用性を評価した。EN 1040に基づき,生菌数が5 log10以上低下した場合,「十分な殺菌効果を有している」すなわち「有効である」とした11)

4. 短時間殺菌効果の検討二次試験

Hayashiらの方法13)を一部改変して行った。国内流通洗口剤における推奨含嗽時間に準じ,短時間殺菌効果の検討において,反応時間20及び30秒の双方において発育が認められなかった薬液及び薬液濃度を対象として実施した。前述の方法にて菌懸濁液と薬液を20及び30秒間反応させた。中和処理を行った後,中和後検体50 μLを各培地に滴下し,コンラージ棒を用いて塗抹,18時間培養した。菌の発育を認めない場合,生菌数は検出限界を超えているとし,薬液を1/2倍,1/4倍と順次希釈し,同様の検討を繰り返した。

III  結果

国内流通製品に用いられる濃度について,対象5菌種,いずれの反応時間においても有効であると認められた洗口剤有効成分はCPC(0.004%)のみであった(Figure 1)。また,CHG(0.01%)はP. aeruginosaK. pneumoniae及びH. influenzaeにおいてはいずれの反応時間であっても有効性を示した。しかし,S. pneumoniaeでは細菌生存率を少なくとも35%以下に,MRSAでは少なくとも13%以下にまで減少させたものの,有効性は示さなかった。1,8-シネオールは対象5菌種,いずれの反応時間においても有効性が認められなかった。最大の細菌生存率減少が認められたのはH. influenzaeであったが,10,20秒と比べて30秒以上の曝露によって逆に生存率が増加する結果となった。

Figure 1 The survival rate of the pneumonia-causing pathogens affected by active ingredients concentrations commonly found in mouthwashes

The graph shows the survival rate of pneumonia-pathogens when exposed to CHG (0.01%), CPC (0.004%) and 1,8-cineole (0.1%) when the number of viable bacteria obtained by exposure to PBS is 100%, and the bar displays mean ± SE of three independent experiments.

Based on EN 1040 activity requirements, a bactericidal effect is considered sufficient if the bacterial survival rate is 0.000001% or less.

0.05%(国内粘膜適用上限濃度)CHGについて,P. aeruginosaK. pneumoniae及びH. influenzaeにおいては,いずれの反応時間においても有効性を示した(Figure 2)。S. pneumoniaeにおいては,30秒以上の曝露により有効性を示した。また,MRSAにおいては60秒間の曝露でのみ有効性を示した。

Figure 2 The survival rate of the pneumonia-causing pathogens affected by upper limit concentration CHG

The graph shows the survival rate of pneumonia-pathogens when exposed to upper limit concentration of CHG (0.05%) in Japan. The number of viable bacteria obtained by exposure to PBS is 100%, and the bar displays mean ± SE of three independent experiments.

Based on EN 1040 activity requirements, a bactericidal effect is considered sufficient if the bacterial survival rate is 0.000001% or less.

国内流通製品濃度未満における有効成分の殺菌効果について,CHGは0.01%における有効性が示されたP. aeruginosaK. pneumoniae及びH. influenzaeを対象に0.005%濃度における有用性検討も行った(Figure 3)。K. pneumoniae及びH. influenzaeについては30秒間以上の曝露で有効性を示した。P. aeruginosaは60秒間以上の曝露で有効性を示した。3菌種とも,いずれの反応時間においても生存率を1%未満にまで減少させたが,10秒及び20秒間の曝露においてはEN 1040の活性要求基準には及ばなかった。CPCについて,0.001%濃度ではS. pneumoniaeを除く4菌種において,いずれの反応時間でも有効性を示した(図に示していない)。S. pneumoniaeの生存率は少なくとも13%未満にまで減少させたが,いずれの反応時間においても有効性は示さなかった(Figure 4)。0.0005%濃度の検討はS. pneumoniaeを除く4菌種を対象に行ったが,4菌種共にいずれの反応時間においても有効性が認められなかった。また,細菌生存率は菌種によって大きな差が生じた(Figure 4)。

Figure 3 The survival rate of the pneumonia-causing pathogens affected by CHG lower concentrations than commonly used in mouthwashes

The graph shows the survival rate of pneumonia-pathogens exposed lower concentration than commonly used in mouthwash of CHG (0.005%). The number of viable bacteria obtained by exposure to PBS is 100%, and the bar displays mean ± SE of three independent experiments.

Based on EN 1040 activity requirements, a bactericidal effect is considered sufficient if the bacterial survival rate is 0.000001% or less.

Figure 4 The survival rate of the pneumonia-causing pathogens affected by CPC lower concentrations than commonly used in mouthwashes

The graph shows the survival rate of pneumonia-pathogens exposed lower concentration than commonly found in mouthwash of CPC (0.001% or 0.0005%). The number of viable bacteria obtained by exposure to PBS is 100%, and the bar displays mean ± SE of three independent experiments.

Based on EN 1040 activity requirements, a bactericidal effect is considered sufficient if the bacterial survival rate is 0.000001% or less.

IV  考察

本研究は,齲歯や歯周病といった口腔疾患の予防を目的とする口腔ケア剤において,原因菌の異なる肺炎予防を対象とした際の有用性をin vitroにて調査するものである。本研究結果より,洗口剤有効成分は肺炎起炎菌に対しても十分な殺菌効果を示すが,その効果は有効成分の種類及び反応時間,さらには対象菌種に大きく依存することが明らかとなった。

洗口剤を始めとした口腔ケア剤の有効成分は,主として粘膜適用可能濃度まで薄めた消毒薬である。このことから,本研究における洗口剤有効成分の殺菌力評価には消毒薬評価試験法の一つであるEN 1040を用いた。EN 1040で求められる活性要求基準は5 log10 CFU/mL以上の殺菌であり,ヒト唾液中の細菌数は凡そ109 CFU/mLであるとの報告が為されている14)ことから,この基準を満たすことは理論上唾液中の細菌を半数以下にまで減少させることを意味するため,妥当であると考えられる。

CHGについて,人工呼吸器バンドルにて推奨される0.12%や,既報にて効果が示される0.2–2.0%15)といった高濃度の粘膜適用について,日本国内では過去のアナフィラキシーショック発生を理由に認められていない。しかし本研究の結果より,国内で定められる上限濃度(0.05%)以下の低濃度においても,推奨含嗽時間を遵守することで,菌種によっては十分な殺菌効果を示す結果が得られた。一般製品に含まれる0.01%濃度において,グラム陰性桿菌であるP. aeruginosaK. pneumoniae及びH. influenzaeの三菌種は,いずれの反応時間においても十分に殺菌された。また,0.005% CHGにおいても,K. pneumoniae及びH. influenzaeは30秒間以上の曝露によって十分に殺菌された。逆に,グラム陽性球菌であるS. pneumoniae及びMRSAについては,日本における粘膜適応上限濃度に当たる0.05%においても,20秒以下の曝露ではその殺菌効果が「十分」であるとは認められなかった。このことから,CHGの有用性はグラム染色性に依存する可能性が示唆された。また,興味深いことに,既報においてもグラム染色性の差異によるCHG感受性の違いについて報告されている7)が,既報において 低感受性とされるのはグラム陰性桿菌であり,本研究の結果とは乖離があった。本研究で用いられたのはグラム陰性菌3菌種及びグラム陽性菌2菌種であるため,今後この推論を確証づけるためには菌種数をさらに増やして検討を行う必要があると考えられる。

CPCについて,口腔ケア剤にて一般的に用いられる濃度(0.004%),及びその1/2濃度(0.002%)にて,5菌種,いずれの反応時間においても十分な殺菌効果が認められた。また,S. pneumoniaeを除く4菌種に関しては0.001%という極めて低濃度(国内流通製品の1/4濃度)においても検討した全ての反応時間において十分な殺菌効果が認められた。このことから,既存のCPC含有洗口剤による肺炎起炎菌への高い殺菌効果が見込まれることは勿論,さらなる低濃度においても殺菌効果が期待できるという可能性が示唆された。CPCは,その副作用として過敏症や刺激感が報告されているため10),より低濃度における有用性が認められることは,粘膜が脆弱していく高齢者においても抵抗感のない使用に繋がると考えられる。

1,8-シネオールについて,その効果は他2剤と比較して低く,既存製品含有濃度における十分な殺菌性は5菌種共,いずれの反応時間においても認められなかった。このことから,1,8-シネオール単剤による肺炎起炎菌の抑制は難しいと考えられる。しかしながら,1,8-シネオールは抗炎症作用に優れているとされる上に16),CHGとの併用において相乗効果が得られたとの報告も為されている17)。また,1,8-シネオールは他2剤と異なり,化学製品ではなく植物由来の天然成分であることから,化学製品に対して過敏性を示す利用者において,口腔ケア補助的ツールとして利用することが有効であると考えられる。

本研究は口腔ケア剤の一種である洗口剤利用を想定したため,反応時間における殺菌効果の差異についても注目した。本研究の結果より,H. influenzaeの1,8-シネオールを除き,有効成分の全濃度,全菌種において反応時間依存的な殺菌効果が示された。また,反応時間10–20秒間を比較した場合,CHG(0.05%)では最大,MRSAにおける生存率が約17%,CPC(0.0005%)では最大,K. pneumoniaeにおける生存率が約18%,1,8-シネオール(0.1%)では最大,K. pneumoniaeにおける生存率が約5%変化した。さらに,反応時間10–30秒間を比較した場合,CHG(0.01%)では最大,S. pneumoniaeにおける生存率が約23%,CPC(0.0005%)では最大,K. pneumoniaeにおける生存率が約19%,1,8-シネオール(0.1%)では最大,P. aeruginosaにおける生存率が約32%変化した。洗口剤はそもそも製品ごとに推奨含嗽時間が定められているが,実生活,及び実際の医療・介護現場においては,厳密に時間を計るより,体感に基づいて利用されることも少なくないと考えられる。また,口周辺の筋肉が衰える高齢者においては,疲労感を理由に含嗽時間が短くなる可能性が示唆される。しかし,本研究の結果より,最低限の殺菌効果を確保するためにも,製品毎の含嗽推奨時間に基づいて洗口剤を利用することが重要と考えられる。

本研究で用いられた5菌種において,洗口剤有効成分の殺菌効果は,対象とする菌種に大きく依存する可能性が示唆された。これは消毒薬本来の性質と一致する7)。したがって,使用者のリスク因子から対象となる菌が特定可能な場合,その菌種に応じて口腔ケア剤を選択することがより効率的な口腔ケアへと繋がる可能性が考えられる。また,ヒトの免疫機能の一環となる正常口腔細菌叢への影響を極力抑え,病原菌を効率的に洗浄するためにも,さらなる検討が必要であると考えられる。

近年,口腔ケアによる肺炎予防効果を検討する介入研究が医療及び介護施設において複数行われているが,介入研究において,口腔ケア実施群と非実施群との比較検討を行うことは実質不可能である。口腔ケア実施両群における口腔ケア剤使用・非使用の比較では,使用群における肺炎発症数,死亡率の減少は見られるものの,統計的な有意差が認められず,その効果が過小評価されるものも存在する18)。本研究はin vitroであることから,単に洗口剤有効成分使用,非使用時における肺炎起炎菌への影響を評価することができ,結果として肺炎起炎菌への有効性が示唆された。人体には唾液によるクリアランスがあるため,in vivo研究においても同等の有効性が示されるとは限らない。しかしながら,今後in vivo研究へと発展させるための基礎検討として,本研究は有用であると考えられる。

V  結語

本報において,口腔ケア剤有効成分は肺炎起炎菌として検出頻度の高い5菌種に対して効果を示すことが明らかとなった。このことから,口腔ケア剤を用いた安価かつ簡便な口腔ケアが,効率的な肺炎予防策に繋がる可能性が示唆された。しかしながら,その効果は有効成分の種類,反応時間,さらには菌種に依存するため,より効率的な肺炎予防に繋げるためには使用者のリスク因子から適切な洗口剤を選択する必要性が示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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