医学検査
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症例報告
ツツガムシ病患者の末梢血中に認めた異型リンパ球の性状解析
竹田 光山田 尚弘長谷川 毅鈴木 裕田中 喜和森谷 美香植木 哲也田嶋 克史
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2021 年 70 巻 1 号 p. 176-181

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Abstract

発熱性疾患のツツガムシ病は,臨床上他の急性感染症との見分けがつかない場合がある。患者は75歳女性,めまいと寒気でibuprofenを内服した後,全身に紅斑様皮疹が出現した。翌日,皮疹は増悪傾向を示し,意識障害を伴ったため治療精査目的に当院に紹介となった。入院時,末梢血液像で異型リンパ球を認めたこと以外,リンパ節腫脹や明らかな痂皮形成は認めなかった。第4病日,播種性血管内凝固症候群(DIC)および血球貪食症候群(HPS)を発症した。ツツガムシ病接触歴を含んだ病歴を繰り返し聴取した結果,ツツガムシ病が疑われた。血清学的検査では,Orientia tsutsugamushiに最近暴露されたことが判明した。ミノサイクリン投与によって症状は速やかに改善した。検査所見では,異型リンパ球は第3病日に10%まで増加し,DICおよびHPSを発症する以前に減少した。発症時と回復時のリンパ球の性状解析を行い比較した。発症時,大多数の異型リンパ球はCD8陽性,リンパ球全体のCD4+/CD8+比は0.5であった。一方,回復時にその比は1.2であった。これらの所見は,本症例では伝染性単核症様症候群を発症したこと,特に刺し口や痂皮形成が全身の皮疹に紛れて容易に同定されない場合,異型リンパ球の存在がツツガムシ病診断予知因子になりうることを示唆する。

Translated Abstract

Tsutsugamushi disease, a febrile disease, is sometimes clinically indistinguishable from other acute infectious diseases. A 75-year-old woman developed systemic erythematous eruptions after treatment with ibuprofen for dizziness and chill. However, on the following day, her eruptions were exacerbated with consciousness disturbance; thus, she was transferred to our hospital for further treatments and evaluations. On admission, she exhibited no lymphadenopathy or distinct eschar formation, except for the presence of atypical lymphocytes in her peripheral smear. After four days of hospitalization, she developed disseminated intravascular coagulation (DIC) and hemophagocytic syndrome (HPS). After carefully checking several times her medical history including a tsutsugamushi-relevant contact history, it was suggested that she had tsutsugamushi disease. A serology test showed her recent exposure to Orientia tsutsugamushi. Administration of minocycline rapidly improved her symptoms. Regarding laboratory findings, the atypical lymphocytes increased in number up to 10% of her white blood cells after three days of hospital and thereafter decreased before the onset of DIC and HPS. We compared the characteristics of her lymphocytes between the time of onset and recovery. At the time of onset, most of the atypical lymphocytes were positive for CD8, and the CD4+/CD8+ ratio of all her lymphocytes was 0.5, whereas the ratio was 1.2 at the time of recovery. These findings suggest an infectious mononucleosis development in this patient, and that the presence of atypical lymphocytes may be a diagnostic predictor for tsutsugamushi disease, especially when bite marks or their eschar is not easily detected in systemic eruptions.

I  はじめに

ツツガムシ病は,グラム陰性の偏性細胞内寄生細菌であるOrientia tsutsugamushiを起因菌とするリケッチア症で,ダニの一種であるツツガムシ幼虫の刺咬によって媒介される1)。感染症法では4類感染症に指定され,診断時には保健所に届け出が必要である。主要3徴候は,発熱・皮疹・刺し口であり2),なかでも特徴的な刺し口はツツガムシ病診断に不可欠で重要な所見である。検査所見では,肝逸脱酵素やCRP等の上昇が一般的に認められるが3),末梢血液像に関する報告は少ない4)。今回,我々は末梢血中に異型リンパ球を認めたツツガムシ病の症例を経験し,異型リンパ球の性状解析を行ったので報告する。

II  症例

患者:75歳女性。

現病歴:発熱,全身の皮疹。

既往歴:シェーグレン症候群(無治療経過観察中),高血圧症(降圧剤内服中)。

20XX年4月,めまいと全身の震えを主訴に近医耳鼻科を受診,内服薬(ibuprofen)を処方された。翌日から38.6℃の発熱と全身の皮疹が出現したため,近医皮膚科を受診した。血液検査では肝機能正常であり,炎症反応も認めなかった。耳鼻科受診から3日後,皮疹は増悪傾向を示し,軽度の意識障害も認められたことから,当院救急外来を受診した。

III  臨床経過

当院受診時,全身に紅斑様皮疹を認めた(Figure 1A)。リンパ節腫脹は認めなかった。入院時の血液検査(Table 1)では,肝逸脱酵素の軽度上昇,CRPおよびFDPの上昇,血小板数の低下を認めた。また,軽度の低ナトリウム血症も認めた。末梢血中には,小型で形質細胞様の異型リンパ球(Figure 2A)を4%認めた。頭部CT検査では器質的疾患は同定されず,意識障害の原因は特定できなかった。薬疹やウイルス感染が疑われ,経過観察目的で入院となった。皮疹は近医処方のibuprofenによる薬疹が疑われ,第1病日からmethylprednisolone(mPSL)125 mg/dayが開始された。ウイルス感染に対しては,抗Epstein-Barr virus(EBV)抗体および抗cytomegalovirus(CMV)抗体検査が施行された。抗EBV抗体はIgM 0.3,IgG 7.9であり,EBV既往感染が確認された。一方,抗CMV抗体はIgM 1.8,IgG 25.0であり,CMV初感染を否定できない結果であった。また,抗核抗体陽性および抗SS-A抗体陽性であった。

Figure 1 Erythema and eschar suspected of the bite

A: Erythema

B: Eschar (magnified)

Table 1  Laboratory findings on admission
​AST 111 U/L ​WBC 3.98 × 109/L ​PT-INR 1.23
​ALT 94 U/L ​ Band 2.0% ​APTT 31.6 sec
​LD 492 U/L ​ Seg 85.0% ​FDP 12.9 μg/mL
​ALP 228 U/L ​ Lymph 7.0%
​γ-GTP 52 U/L ​ Mono 2.0% ​Anti-NA ×80
​T-BIL 0.9 mg/dL ​ Eosino 0.0% ​Anti-SS-A ×338
​TP 6.0 g/dL ​ Baso 0.0%
​ALB 3.0 g/dL ​ Atypical lymph 4.0% ​Na 127 mmol/L
​BUN 18.4 mg/dL ​RBC 4.07 × 1012/L ​K 4.2 mmol/L
​CRE 0.59 mg/dL ​HGB 12.2 g/dL ​Cl 97 mmol/L
​UA 2.9 mg/dL ​HCT 34.9%
​CRP 9.286 mg/dL ​PLT 56 × 109/L
Figure 2 Flow-cytometry analyses and atypical lymphocytes

A: Atypical lymphocyte on 3-hospital days (May-Grünwald Giemsa staining, ×1,000)

B: Phenotypes of atypical lymphocytes on 3-hospital days

C, D: Phenotypes of lymphocytes on 3- and 11-hospital days

第4病日にJapan Coma Scale 100まで意識レベルが低下,酸素飽和度87%まで低下したため,高度集中治療室管理となった。血液検査では,PT比 1.16と正常であったが,FDP 48.4 μg/mLおよびD-dimer 27.3 μg/mLと上昇,Fib 137 mg/dLおよびAT III 57%と低下を認めた。血小板数も31 × 109/Lまで低下しており,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; DIC)を併発した。また,汎血球減少を認めたことに加え,フェリチン9,104 ng/mLと異常高値であることから,血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome; HPS)の合併が示唆された。腫瘍性疾患は否定的であったことから,骨髄穿刺は施行されなかった。

第5病日に病態の改善がみられないため,再度詳細な行動歴を確認したところ,当院受診10日前に山菜取りに山に入ったこと,その際に腹部を虫に刺された自覚があることが判明した。同部を詳細に再観察したところ,全身の皮疹に混在し,刺し口と推察された痂皮が観察された(Figure 1B)。

以上の経過から,ツツガムシ病および重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS)が疑われた。血清抗ツツガムシ抗体価検査(Karp型・Kato型・Gilliam型)では,3血清型に対するIgMおよびGilliam型IgGの上昇を認めた。SFTSは陰性であった。以上の結果からツツガムシ病と確定診断され,同日からminocycline 200 mg/dayが投与された。DICおよびHPSは速やかに改善(Figure 3),皮疹も徐々に消退,第20病日に退院となった。

Figure 3 Changes in laboratory results

mPSL: methylprednisolone, MINO: minocycline

末梢血におけるリンパ球数の推移では,入院時に280/μLと低下を認めた(Figure 3)。正常リンパ球は,第5病日まで4~7%の間で推移し,minocycline投与後の第6病日には39%まで回復を認めた。一方,第1病日に4%認めた異型リンパ球は,第3病日に10%まで増加し,その後は第6病日まで観察された(Figure 3)。リンパ球サブセット検査による表面抗原解析では,正常リンパ球集団に比べて側方散乱光(side scatter; SSC)が強く,かつCD45の発現が強い異型リンパ球分画と思われる細胞集団に対してゲーティングを行った。そのうち85%以上がCD3陽性のT細胞であり,CD4+/CD8+比は0.1(CD4+ 11%,CD8+ 75%)とCD8陽性である細胞障害性T細胞が大多数を示した(Figure 2B)。第3病日の全リンパ球の約70%がCD3陽性のT細胞であり,CD4+/CD8+比は0.5(CD4+ 29%,CD8+ 55%)であった(Figure 2C)。症状回復後の第10病日のリンパ球数は2,100/μL,約75%はCD3陽性のT細胞,CD4+/CD8+比は1.2(CD4+ 38%,CD8+ 31%)となった(Figure 2D)。

血清抗ツツガムシ抗体価の推移は,初回検査はGilliam型IgGが最も高値であったが,ペア血清によるその後の抗体価の推移では,IgG・IgMともKarp型が最も有意な上昇を認めた。以上の所見から,本症例はKarp型ツツガムシ病と診断された。

IV  考察

ツツガムシ病は,主要3徴候である発熱・皮疹・刺し口が約90%の患者に認められるとされる2)。しかし,刺し口以外の臨床症状,発熱・皮疹・リンパ節腫脹・CRP高値・肝逸脱酵素の上昇などは,他の急性感染症でも非特異的に認められる所見である。血清学的にツツガムシ病の確定診断がついた400例以上の症例のうち,約10%に刺し口を確認できなかったという報告もある2)。刺し口を同定できない場合,ツツガムシ病を疑って検査することは容易ではない。一方,診断・治療が遅れると,約5%の症例でDICを併発し重症化することがあり2),早期診断・治療は非常に重要である。本症例の場合,薬疹も否定できない皮疹が前医受診時から全身に認められ,刺し口が皮疹と区別しにくかったため,診断・治療までに時間を要した。さらに,初発症状がめまいであり,発症早期に意識障害等の非典型的な臨床所見があったため,入院当初にツツガムシ病を疑うのは困難であった。改めて詳細な生活歴・行動歴の把握が重要であることが示唆された。

本症例で認めた異型リンパ球は小型で形質細胞様の形態であり,一般的に伝染性単核症で認められるCD8陽性の大型細胞とは形態的に異なる特徴を持つ。SFTSなどの感染症において,末梢血中に形質芽細胞を認めた報告もあるが5),本症例でゲーティングしたリンパ球集団は大部分がCD3陽性およびCD19陰性のT細胞であった。CD38やCD79aについての抗原検索を行っていないため,形質芽細胞を完全に否定することはできないが,表面抗原解析の結果から総合的に判断すると,小型で形質細胞様の異型リンパ球がCD8陽性の異型リンパ球分画と思われる細胞集団に一致すると考えられた。

ツツガムシ病では,発症初期にリンパ球数が減少し,回復期に増加するとされている6)。本症例でも同様のリンパ球数の推移が確認された。ツツガムシ病患者における末梢血液像,特に異型リンパ球についていくつかの報告がある。Chenら7)は28例のリケッチア症解析で臨床的予測指標として,痂皮の存在,痂皮形成と関連した行動と異型リンパ球の存在を抽出している。志智ら6)は5例中3例に異型リンパ球の出現を報告している。本症例では,詳細に異型リンパ球の推移を調べた結果,発病早期に多く出現し,DICおよびHPS併発前に減少に転じ,minocycline投与後消失した。さらに,我々の解析により異型リンパ球の大多数はCD8陽性T細胞であること,CD4+/CD8+比は発症早期に低値を示し,回復期にはリンパ球増加とともに正常化することが初めて明らかになった。これらの知見は,ツツガムシ病が伝染性単核症様症候群を誘導しうることを示唆した過去の報告8)を支持する結果であった。したがって,本症例でも発症早期の異型リンパ球の存在がツツガムシ病を疑う臨床予測指標になりうること,さらにこれらの異型リンパ球の性状解析はツツガムシ病の病態を理解するうえで有用な情報となりうる可能性が示唆された。ツツガムシ病と異型リンパ球については,刺し口皮膚生検を病理組織学的に検討した12例の検討で,真皮層における異型リンパ球浸潤が90%以上の症例で認められたとの報告もある9)

一方,異型リンパ球の出現からツツガムシ病を疑う場合,同所見が高頻度に認められるいくつかのウイルス感染症の除外や重複感染の有無を調べる必要がある。本症例では,抗EBV IgM抗体が陰性であり,EBV初感染は否定的であった。抗CMV IgM抗体は低力価ながら陽性であった。しかし,CMVは潜伏感染し,ウイルスの再活性化や再感染の際にIgM抗体価の上昇を認める場合があること,感染後に抗IgM抗体が長期間持続するpersistent IgMの報告10),11)や,我が国の70代の99%以上が既往感染しているという報告12)からもCMV初感染は否定的であった。したがって,本症例の異型リンパ球の出現はツツガムシ病による可能性が高いと推察された。

本症例における血清抗ツツガムシ抗体価検査では,初回検査時にGilliam型IgG抗体価が最も高値を示した。しかし,ペア血清ではKarp型が有意な上昇を示したため,Karp型ツツガムシ病の確定診断に至った。これは,血清型の各抗原に対する抗体の特異性が必ずしも高くはなく,交差反応が生じたためだと考えられた13),14)。一方で,本症例は基礎疾患にシェーグレン症候群があり,自己抗体も認められた。患者の特異的な体質が交差反応を増強した可能性も否定できなかった。

本症例の場合,病状が悪化した第4病日からFDPおよびフェリチンが急激に上昇,血小板数が低下した。DICによる凝固異常とHPSによる汎血球減少が進行したためと考えられた。本症例では,既往歴に自己免疫性疾患であるシェーグレン症候群が含まれるため,ツツガムシ病を契機にHPSを発症した可能性も考えられた。ツツガムシ病に合併するHPSの報告は少ないが8),15),合併する場合は重症化することが知られている。重症化の危険因子として,ツツガムシ株の遺伝子型の違いが示唆され,Karp型はKawasaki型に比べて重症化するとする報告がある16)。また,重症化する予測因子として,89研究,19,644例を対象に解析したメタ解析の結果,年齢のみが死亡率と関連したという報告がある17)。本症例は,Karp型および75歳高齢と重症化の両因子を保有していた。

V  結語

本症例では,ツツガムシ病発症の比較的早期から異型リンパ球の割合が増加したが,DICやHPSを併発して重症化すると減少に転じた。本症例のように,ツツガムシ病に特徴的な刺し口が同定できない場合,末梢血中への異型リンパ球の出現がツツガムシ病を早期に疑う有用な指標になりうることが示唆された。

 

本論文の要旨は,第8回北日本支部医学検査(2019年,山形市)において発表を行った。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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