医学検査
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シカベータテストによる血液培養陽性ボトルからの直接extended-spectrum β-lactamase検出法の検討
田中 真輝人品川 雅明髙橋 聡
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2021 年 70 巻 1 号 p. 128-131

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Abstract

血液培養陽性液から作製した菌濃縮液を試料とする直接extended-spectrum β-lactamase(ESBL)検出法について検討した。当院の血液培養検査にて検出されたEscherichia coliKlebsiella pneumoniaeKlebsiella oxytocaおよびProteus mirabilisの4菌種68株を対象とした。方法は,血液培養陽性液から作製した菌濃縮液を試料としシカベータテストを実施した(シカベータ直接法)。確認試験法として,サブカルチャーで得られたコロニーを用いて,Clinical and Laboratory Standards Instituteに準拠した薬剤感受性試験によるスクリーニングおよびディスク法による確認試験を実施し,シカベータ直接法の結果と比較した。シカベータ直接法において68株中17株がESBL産生,51株がESBL非産生菌と判定され確認試験法の結果と一致した。シカベータ直接法は,コロニーを用いた従来のシカベータテストとほぼ同等の性能を有しており,血液培養陽性ボトルから迅速に直接ESBLを検出できる方法である可能性が示されたが,今後更なる検討を要する。

Translated Abstract

The rapid detection of extended-spectrum β-lactamase (ESBL) is important for appropriate antimicrobial selection and healthcare-associated infection control, because bloodstream infections caused by gram-negative bacilli are associated with a high mortality rate. In this study, a rapid method of detecting ESBL by the chromogenic Cica-β test using the culture fluid of positive blood culture bottles (Cica-β direct method) was compared with a conventional confirmation test. The tests were compared using 68 isolates with positive blood culture at Sapporo Medical University Hospital. As a result, the finding of 17/51 isolates judged to be ESBL-producing bacteria/nonproducing bacteria by the Cica-β direct method was completely consistent with that by the conventional confirmation test. Results suggest that the Cica-β direct method is useful as a rapid and simple test.

I  緒言

血液培養からextended-spectrum β-lactamase(ESBL)を産生するグラム陰性桿菌が検出された場合,奏効する抗菌薬が限られるため治療上問題となる。ESBL産生菌による血流感染症の死亡率は非産生菌のそれと比較し有意に増加するため,迅速かつ適切な抗菌薬治療が患者の予後に直結する1),2)。すなわち,血液培養にてグラム陰性桿菌が検出された際,ESBL産生菌か否か迅速に鑑別することは重要である。

しかし,Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)に準拠した薬剤感受性試験によるスクリーニングおよび確認試験3)では,ESBL産生菌か判定するまでに数日を要し迅速性に課題がある。また,近年では,迅速性を確保するため血液培養陽性液から直接遺伝子を検出し菌種同定や抗菌薬耐性因子を決定する方法も報告されているが,実施できる施設は限られる。一方,血液培養陽性後のサブカルチャーで得られたコロニーを用いる方法として,Hanakiら4)によって開発された発色性セファロスポリンHMRZ-86を利用したシカベータテスト(関東化学株式会社)が知られている。既報5)~9)においてその有用性が報告されているが,サブカルチャーのコロニーを用いることから結果報告まで時間を要する。そこで本研究では,血液培養陽性液から作製した菌濃縮液を用いてシカベータテストを行う(以下,シカベータ直接法)ことでより迅速にESBLが検出可能であるか検討した。

II  対象と方法

1. 対象

札幌医科大学附属病院において2016年5月~2017年3月までに血液培養陽性となり,質量分析装置 MALDI Biotyper(ブルカージャパン株式会社)により直接同定されたグラム陰性桿菌のうち,CLSIでESBLのスクリーニング基準が定められている4菌種68株(Escherichia coli:42株,Klebsiella pneumoniae:17株,Klebsiella oxytoca:6株,Proteus mirabilis:3株)を対象とした。なお,対象菌種はすべて,血液培養陽性液からの直接同定後,サブカルチャーで得られたコロニーをMALDI Biotyperによって再度同定し同一菌種であることを確認した。

2. 試料,菌濃縮液作製法

対象血液培養陽性液から菌濃縮液を作製し,それを試料としてシカベータテストを行った。菌濃縮液の作製法は,まず10 mL容量の滅菌スピッツ2本に血液培養陽性液を5 mLずつ採取し,それぞれ1,500 rpm,5分間遠心した。次に,遠心上清を新たな滅菌スピッツ2本に移し,そこに溶血剤としてsodium dodecyl sulfate(SDS: 1.7 g/L)を500 μL加え混和した。さらに,滅菌精製水で10 mLまでメスアップし,3,000 rpm,5分間遠心後の上清をきれいに取り除き,得られた沈渣を菌濃縮液とした。なお,得られた菌濃縮液に目視で明らかな血液成分の混入(赤色)が認められた場合,再度SDS添加以降の工程を実施した。

3. シカベータ直接法

本検討では,テストストリップ濾紙部に阻害剤を含有していないシカベータテストI,また,clavulanic acid(CVA),sodium mercaptoacetate(SMA)をそれぞれ含有するシカベータテストCVAおよびシカベータテストMBLのテストストリップを用いた。添付文書に従い,それぞれのテストストリップ濾紙部に,拡張性β-ラクタマーゼによって特異的に分解され赤変するHMRZ-86を含んだ発色基質液を1滴滴下した。そこに,菌濃縮液をスポイトにて1滴ずつ滴下し,白金耳で強くこすりつけなじませるように塗布した。塗布後,室温で15分反応させたのち判定を実施した。判定は基質液の色調変化とし,シカベータテストIおよびMBLにおいて基質液が分解され赤変し,シカベータテストCVAで色調変化が認められない場合,ESBLがCVAにより阻害を受けたと判断しESBL産生菌と判定した(Figure 1a)。すべてのストリップで赤変がみられないものをESBL非産生菌とした。

Figure 1 Result of Cica-β direct method

a. ESBL positive

Upper strip: Cica-β test I

Middle strip: Cica-β test CVA

Lower strip: Cica-β test MBL

b. False positive due to blood components

4. 確認試験法

対象血液培養陽性液のサブカルチャーで得られたコロニーを用いて,CLSIに準拠した薬剤感受性試験(微量液体希釈法)によるESBLスクリーニングを実施した3)。微量液体希釈法におけるMIC値測定には,微生物同定感受性分析装置「マイクロスキャンWalkAway 96 plus」および測定パネル「マイクロスキャンNeg EN MIC 2J」(いずれもベックマン・コールター株式会社)を使用した。すなわち,E. coliK. pneumoniaeおよびK. oxytocaはcefpodoxime(CPDX):≥ 8 μg/mL,ceftazidime(CAZ):≥ 2 μg/mL,aztreonam:≥ 2 μg/mL,cefotaxime(CTX):≥ 2 μg/mL,ceftriaxone:≥ 2 μg/mL,P. mirabilisに関してはCPDX:≥ 2 μg/mL,CAZ:≥ 2 μg/mL,CTX:≥ 2 μg/mLのいずれか1つでも満たした場合をスクリーニング陽性とした。スクリーニング陽性株は,CTX:30 μgあるいはCAZ:30 μgを含んだセンシ・ディスク(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)およびESBL確認用ディスク「ESBLs-CTX/CVA‘栄研’」,「ESBLs-CAZ/CVA‘栄研’」(いずれも栄研化学株式会社)を用いたディスク法による確認試験を行い,ESBL産生の有無を決定した。

III  結果

1. 成績

シカベータ直接法では,対象菌68株のうち,17株(E. coli:14株,K. pneumoniae:3株)がESBL産生菌,51株が非産生菌であった。確認試験法においても同様の結果が得られ,両試験の結果は一致した(Table 1)。

Table 1  The result of extended-spectrum β-lactamase (ESBL) judgement by the Cica-β direct method and the confirmatory tests
confirmatory tests*
ESBL non ESBL
Cica-β direct method ESBL 17 0
non ESBL 0 51

(n = 68)

*: Broth microdilution method and Disc method.

IV  考察

本研究では,シカベータ直接法により血液培養陽性ボトルからESBLを迅速に検出可能か検討した。

シカベータテストの基質である発色性セファロスポリンHMRZ-86は,ESBLによって加水分解される一方,基質特異性の拡張を認めないβ-ラクタマーゼとは反応しない4)。発育コロニーから拡張性β-ラクタマーゼを簡便かつ迅速に検出できるシカベータテストは,既報においてその有用性が報告されてきた5)~9)。既報におけるESBL検出感度は76.5~100%である。本研究におけるシカベータ直接法のそれは100%であり,コロニーを用いた既報5)~9)と同等であった。すなわち,シカベータ直接法は,補助的な指標とはなるものの,血液培養陽性ボトルから直接ESBLを検出できる方法である可能性が示された。

しかし,シカベータ直接法にはいくつかの注意点が存在する。本法は,血液培養陽性液由来の菌濃縮液を試料として基質溶液の赤変を判定するため,菌濃縮液に血液成分が残存する場合に色調判定が困難になる。Jainら10)も,血液成分の存在が色調判定に影響を与える可能性について言及しており,SDSによる溶血処理後の菌濃縮液に目視で確認できるほどの血液成分が残存していた際には再度溶血処理を行う必要があると考えられる。本研究においても,血液成分が残存した菌濃縮液では,陽性例の赤変と同程度の色調となった(Figure 1b)。また,試料とHMRZ-86を規定時間以上反応させると偽陽性,試料量が少ない場合は菌量不足による偽陰性をもたらすことが指摘されている4),9)。加えて,シカベータテストでは染色体性のK1β-ラクタマーゼの過剰産生株や複数酵素の同時産生株では誤判定のおそれがあり5),8),9),これはシカベータ直接法でも同様である。

本研究では,対象菌種をCLSIでスクリーニング基準が定められている4菌種に限定した。しかし,ESBLを産生する菌種は他にも存在することや,質量分析装置を保有しない施設では菌種同定前にシカベータ直接法が実施されうることを考慮すると,本法の有用性を論じるためには,今後,対象菌種の範囲を広げた更なる検証が望まれる。また,菌量不足では偽陰性の可能性があることから,感度試験も実施する必要がある。さらに,ESBLのみならずmetallo β-lactamaseやAmpCの検出能についても今後の課題である。

V  結語

シカベータ直接法は血液培養陽性ボトルから迅速に直接ESBLを検出可能な方法であることが示されたが,今後症例を蓄積した更なる検討を要する。

 

本研究は札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得て施行した(整理番号;292-241)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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